IS 空を翔る白き翼【更新停止】   作:カンチラ

9 / 19
08 訓練、墜落、就任パーティ

四月ももうすぐ終わりそうな時期、そろそろIS学園にも慣れてきた。

とは言っても授業には全くと言って良いくらい付いていけないけれども…

 

でも、ISを使って動かす訓練をするのは楽しくて少しずつだけど覚えていった。

最近では明お姉ちゃんや美香お姉さんだけでなく、セシリアお姉さんも一緒に教えてくれる。

代表候補生だからなのか、解説とかは説明口調でちょっと解りにくかったけども、

一緒に戦っていると、どうやって動けばいいのかをはっきりと教えてくれた。

 

今日は個人での練習じゃなくて、授業でISの訓練を受けていた。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらおう。

 織斑、オルコット、天野、野々原、稗田。試しに飛んでみろ」

 

前にも言ったけど、明お姉ちゃんと美香お姉さんは専用機を持っている。

けれども、二人は代表候補生じゃないし、あまり自慢げに言ったりしてないから、

二人が専用機を持っているという事実を知らない人たちもいた。

知らない人たちはなぜ二人の名前が呼ばれたのかわからずボソボソと喋っていた。

 

織斑先生に言われ、セシリアお姉さんと明お姉ちゃんと美香お姉さんは専用機を展開した。

 

 

明お姉ちゃんの専用機、音時雨(おとしぐれ)の外見はスマートな感じで、

脚部に特殊なスラスターを装備していて、背中にも大きいブースターが装備されている。

 

素早い動きで敵を翻弄する、いわゆるスピードタイプのISだ。

ちなみにカラーリングは藍色で、ちょっと黒い青色みたいな感じの色をしている。

 

 

美香お姉さんの専用機は戦女(いくさめ)・弐型《にがた》の外見はとても大きい。

普通のISの2倍ほどある手足で、そこには無数のミサイルの発射口が隠されている。

 

スピード重視の音時雨とは対なる存在で、戦女・弐型は攻撃力と防御力が高い。

あまり素早く移動することができないのが弱点だけれども、

とても強力な武装もたくさん入ってて、どれもこれも威力が大きいものばかり。

重厚的の外見のとおりで、量産型を使って攻撃してもエネルギーはあまり減らなかった。

 

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」

 

織斑先生に早くしろと言われ、ボクは急ぐようにISを展開しようとした。

……けれども、ISは展開されなかった。

 

「集中しろ」

 

織斑先生の声も怖くなってくる。早くしなくちゃ……

ボクは胸元にあるアクセサリーを両手で握って、神様に祈るようなポーズをとった。

 

(来て、天翔……!)

 

心の中で、天翔に展開するように願った。

胸元にある待機状態の天翔は白い光が放ってボクの体を包み込んでいく。

 

これがISの展開で、一瞬で天翔の装甲がボクの体を包み込んだ。

天翔を展開して、地面からちょっとだけ宙に浮いていた。

一夏お兄ちゃんもさっきまではISを展開してなかったけれども、

ボクと同じくらいのタイミングで白式を展開していた。

 

「よし、飛べ」

 

先生に命令されて、セシリアお姉さんが一番最初に飛んだ。

 

「二人とも、先に行くねー!」

 

「お先に失礼しますね」

 

その次に明お姉ちゃんと美香お姉さんがほぼ同時に飛んだ。

 

「あう、待ってよ~……」

 

その姿を見てボクも後を追うように飛んだ。

一夏お兄ちゃんぼけっとしていたが、はっと我に返って最後に飛んできた。

あまり飛ぶのに慣れていないのか、性能上では白式はこの中で二番目に速いはずなのに、

明らかにこの中では一番遅いし、少しだけグラグラと身体が揺れているようだった。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。

 自分がやりやすい方法を模索するの方が建設的でしてよ」

 

セシリアお姉さんは一夏お兄ちゃんが飛び方に苦労してるのを察して、

自身に合った飛び方を学んだほうがいいと説明していた。

 

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体あやふやなんだよ。

 そもそもこれ、なんで浮いているんだ?」

 

「説明しても構いませんが、長いですわよ?

 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

 

「わかった。説明はしなくていい」

 

一夏お兄ちゃんはとっさに断った。

多分、聞いてもよく分からないと感じたんだと思う。

 

「そう、残念ですわ。ふふっ」

 

セシリアお姉さんは楽しそうに微笑んだ。

学校に入学したばっかりの時は凄く怖かったけれども、

あの時戦ってからなぜか優しくなってボクにとってはお姉さんみたいな感じで接してくれた。

 

「ISが浮いてるのって重力を自分で作って浮いてるからねー。

 私のブースターも浮くためじゃなくて加速する為にあるんだよね」

 

「そう。通常の兵器と違って『自力で推進力を造っている』から必要ないのよ」

 

明お姉ちゃんと美香お姉さんも会話に入ってくる。

あまり難しい話でよくわからないけど、美香お姉さんが簡単に教えてくれたことを言う。

 

「えっと、確か自分で移動できるように重力を作っているんだっけ?」

 

「そう、かなり大雑把に言えばそれで合ってるのよ」

 

ふふふっ、と嬉しそうに笑う美香お姉さん。

その笑顔につられてボクもにこり、と笑っていた。

 

「それでですね、一夏さんと翔さん。

 よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。そのときは三人だけで―――」

 

「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りて来い!」

 

突然、篠ノ之さんの怒鳴り声が通信回線に流れた。

いきなり言われたから少しだけ驚いてしまった。

 

下を見てみると、そこには山田先生のインカムが篠ノ之さんに奪われてて、

相変わらず山田先生がオロオロとしている様子が見えた。

 

「ISは元々宇宙での活動を元に作られたものですからね……

 何万キロ先の星の光を見ることができるのですから、この距離なら見えて当然ですね」

 

美香お姉さんは調度いい感じに説明をしてくれた。

けれどもその口調はどこか悲しげで、寂しそうな感じがしたような…

 

「よし、急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から十センチだ」

 

「了解です。では皆さん、お先に」

 

と言ってセシリアお姉さんはすぐに地上に向かって行った。

地上にぶつかる寸前、というところで機体を回転させ、見事地面に着陸した。

散々自慢しているイギリスの代表候補生の称号は伊達じゃないというワケだ。

 

「じゃ、次は私たちだね」

 

と、続くように明お姉ちゃんと美香お姉さんも地上へと落下していく。

そして二人もセシリアさんと同じように地面の寸前で機体を回転し、着陸した。

 

「一夏お兄ちゃん、先に行ってるね」

 

と、一夏お兄ちゃんに断りを言っておき、ボクも地上へと移動した。

9メートル、8メートルと地上がボクの目の前にどんどん近づいていって……

 

「ひゃっ…」

 

ボクは怖くなって途中で移動するのを止めて、地上に降りてしまった。

 

「何をしている、地表より二メートルは離れているぞ」

 

織斑先生が背後に鬼を見せるように迫って来た。正直に言えば怖い。

 

「あ…うぅ、その、急に地面が近づいてきたら、怖くなって……ごめんなさい」

 

ボクは頭を殴られると思って頭を抑えるように隠したけど、

いつもやってる織斑先生のゲンコツは飛んでこなかった。

 

「いいか、専用機を持っている以上、地面に墜落するという事が少なからずともある。

 そういった状況にも耐えられるよう、今から訓練を―――」

 

織斑先生が話している途中で、突然空から何かが降ってきて、大きな衝撃と土埃が舞った。

多分、降って来た…いや、墜落したのは多分一夏お兄ちゃんだろうけど、問題は……!

 

「明お姉ちゃん! 美香お姉さん!」

 

一夏兄ちゃんの墜落してきた場所に明お姉ちゃんと美香お姉さんがいた事だ。

大きく開いたクレーターにボクは急いで向かって、土埃が晴れてボクが見たのは…

 

「…………」

 

明お姉さんはISを展開してて無事だったけれども、上半身が地面に埋まっていた。

まるでギャグ漫画みたいな光景に思わず絶句してしまった。

 

…いや、明お姉ちゃんの埋まり方もおかしいっていうのもあるけど、

問題は……一夏お兄ちゃんが美香お姉さんの胸に顔を埋めているということだ。

 

「―――ッ!」

 

「あ……」

 

美香お姉さんは顔を真っ赤にしてぷるぷると身体を震わせている。

一夏お兄ちゃんは事故とはいえやってしまった行為に対して顔を真っ青にした。

 

「織斑くんの……ヘンタイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一夏お兄ちゃんは半ば叫ぶように謝り、その場からとっさに離れた。

刹那、美香お姉さんの専用機である戦女・弐型の全身にあるミサイルハッチがカパッと開き、

70近い全ての発射口からミサイルが一夏お兄ちゃんに向けて放たれた。

 

「ぎゃあああああああっ!」

 

一夏お兄ちゃんは空中へ逃げるも、ミサイルの追尾性能が非常に強く、

最終的には全弾命中、再び落下するハメになった。

 

「ほぎゃああ! な、なんか勝手にシールドエネルギーが減っていくんですけど!」

 

なぜか一部のミサイルが地面に埋まった明お姉ちゃんにも向かっていった。

その攻撃は無慈悲にも明お姉ちゃんを襲うが、それでも地面からは抜けない。

 

「全く、面倒なことをしおって……

 織斑、武装を展開しろ。そのくらいは自在にできるようになっただろう」

 

織斑先生は一夏お兄ちゃんが落下した場所へ行き、そして武装を展開するよう命じた。

 

「は、はぁ」

 

「返事は『はい』だ」

 

「は、はいっ」

 

と、織斑先生に言われて一夏お兄ちゃんは武器を展開するように構えた。

そして手に光が集まり、その光は一夏お兄ちゃんの唯一の武器である雪片弐型の形を作った。

 

「遅い。0,5秒で出せるようになれ」

 

しかし織斑先生は厳しい。まだまだ早く展開しろとの事だ。

 

「続いて天野、武装を展開してみろ」

 

「は、はいっ!」

 

ボクはいきなり指名されて、思わず驚くように返事をした。

天翔の唯一の武器である白雪をボクは展開する。

柄を右手で握った瞬間、白いエネルギーの刃が出てくる。

 

「遅い。もっと素早く展開できるようになれ、いいな」

 

「……はい」

 

「次にセシリア、武装を展開しろ」

 

「はい」

 

続いてセシリアお姉さんは武装を展開するポーズをとり、手にはライフルが持っていた。

あれを見てみると、ボク達の武装の展開は遅かったなと実感できた。

 

「さすがだな、代表候補生。――ただし、そのポーズはやめろ。

 横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」

 

「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な――」

 

「直せ。いいな」

 

「――、……はい」

 

織斑先生に強く言われてセシリアお姉さんは何だかしょんぼりとしていた。

いっつも強気なセシリアお姉さんだけど、流石に織斑先生に強気な態度はとれないのだろう。

むしろ、この学園内でそんな行動を取れる人がいたら勇者だと思う。文字通りの意味で。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

織斑先生は無慈悲な感じで一夏お兄ちゃんへと告げる。

 

ボクは一夏お兄ちゃんに(一方的に)任された仕事を手伝いをしようとしたけど、

美香お姉さんに無言の笑顔で連れ去られて、一夏お兄ちゃんと話すこともできなかった。

昔からエッチな話とかは苦手だったみたいだし、あの件で完全に怒っちゃったのかもしれない。

……それにしても、何か忘れているような気がするけど何だったっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い、誰か抜いてくださいよ~」

 

 

 

 

「というわけでっ!織斑くんと天野くんクラス代表おめでとう!」

 

ポン、ポンとクラッカーが鳴る音が食堂に響く。

一年生が使う食堂はお姉さん達で一杯になっていた。

 

壁を見てみると『織斑一夏&天野翔クラス代表就任パーティー』

なんて書かれた紙がおっきく貼られてあったし……

そんなに男子が珍しいのか、それともそれを理由にして騒ぎたいのか…

もしかするとどっちも同じ理由だったりするのかな?

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、

 織斑一夏君と天野翔くんに特別インタビューをしに来ました~!」

 

お~と周りが盛り上がる。なんで盛り上がるのかは知らないけど、

やっぱりIS学園の中では男子が珍しいのからなのかな?

インタビューを受けること自体、この学園にはあまり無いのかもしれない。

 

「あ、私は二年の(まゆずみ) 薫子(かおるこ)。よろしくね。新聞部やってまーす。これ名刺ね」

 

ボクは渡された名刺を受け取る、名刺を受け取る事なんて初めてだ。ちょっと嬉しい。

 

「ではまず織斑君! ずばりクラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

そう言って音を録音する機械みたいなのを一夏お兄ちゃんに向けた。

 

「えーと……」

 

一夏お兄ちゃんはしばらく黙った後、少しだけコメントをした。

 

「まぁ、なんというか、がんばります」

 

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触れるとヤケドするぜ、とか!」

 

新聞部の人はそういう風にコメントを求めていいものだっけ?

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわ、前時代的!」

 

ボクは一夏お兄ちゃんが何を言っているのかちょっとよく分からず、首を傾げる。

 

「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして、

 次に翔君! 同じくクラス代表になった感想をどうぞ!」

 

と言って機械をボクの口元にグイッと近づけてくる。

 

「あ、えっと……ボクはまだ小学生でしかも男性でかなり場違いですけど…

 えっと、その…副代表とは言え、選ばれたからには頑張りますので、お願いします」

 

パチパチパチ、と周りの人が拍手をしてくれた、正直に言うと嬉しい。

 

「ありがとうね、翔くん。これでいい記事が書けるよ」

 

と言って新聞部の先輩はボクの頭をわしゃわしゃとナデナデしてくれた。

ナデナデしてくれるのは嬉しいけれども、先っちょの部分に触れられると……

 

「ひやぁっ!」

 

「えっ? ど、どうしたの?」

 

「あ、あの…この、ぴょんって出てるのに触ると、変な声出ちゃうから……」

 

ボクは新聞部の先輩に言うと、その人は物凄い勢いでメモ帳にペンを走らせていた。

 

「なるほどなるほど…アホ毛が敏感っと……」

 

「…アホじゃないもん……」

 

「え……えっと…それじゃあ、その、毛が敏感っと……」

 

新聞部の先輩はメモ帳に再びペンを走らせた。

 

「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」

 

そして、思い出したかのようにセシリアお姉さんにコメントを求めていた。

 

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

と言いつつも満更でもなさそうだ、なんだか嬉しそうな表情をしてる。

 

「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退しかたというと、それは――」

 

「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい。」

 

「さ、最後まで話を聞きなさい!」

 

自分で聞いておきながら…割と明お姉ちゃん級の自由度を持っているように感じる。

 

「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑くんに惚れたからってことにしよう」

 

「なっ、な、ななっ……!?」

 

セシリアお姉さんは顔を真っ赤にするが、怒っているようには見えなかった。

むしろ、どこか喜んで嬉しそうな……よく分からない。

ボクはセシリアお姉さんが何を思って何を感じてるのか理解できなかった。

惚れた、と言ってるけれどもどういう意味なんだろう?

 

「なにを馬鹿なことを」

 

「そ、そうですわ! 何を持って馬鹿としているのかしら!?」

 

一夏お兄ちゃんに対して怒るセシリアお姉さん。

 

「だ、大体あなたは―――」

 

「はいはい、とりあえず三人で並んでね。写真撮るから」

 

「えっ?」

 

セシリアお姉さんは意外そうな声を出す。

 

「注目の専用機持ちだからねー。スリーショットもらうよ。

 あ。握手とかしてるといいかもね」

 

「そ、そうですか…そうですわね」

 

顔を赤くして、もじもじするセシリアお姉さん。

ちらちらと一夏お兄ちゃんとボクを見てくる。写真を撮られるのを緊張してるのかな?

 

「専用機持ちなのに注目されてない私たちって……」

 

「そんなものよ、明。私たちは代表候補生じゃないからね」

 

明お姉ちゃんはへこんでいて、それを美香お姉さんが慰めていた。

二人とも同じ専用機持ちなのになんでインタビューされないんだろ?

 

「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」

 

「そりゃもちろん」

 

「でしたら今すぐ着替えて―――」

 

「時間かかるからダメ。はい、さっさと並ぶ。ほら、翔くんも早く」

 

そう言って、新聞部の先輩はボクとセシリアお姉さんの手を引っ張った。

ボクは一夏お兄ちゃんとセシリアさんの真ん中に立った。

 

「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」

 

「え?えっと……2?」

 

「な、70くらい?」

 

「ぶー、74.375でしたー」

 

ボクの答えは結構近かった。

というか、気がつけばボクたちの周りにクラスメート全員が写真の中に写るようにいた。

…明お姉ちゃんと美香お姉さんまで写るように入っていた。

美香お姉さんは無理矢理明お姉ちゃんに引っ張られて写ったようだけれども。

 

「なんで全員入ってるんだ?」

 

一夏お兄ちゃんがクラスのお姉さんたち全員が入ってきたことについて尋ねる。

でも、その前にセシリアお姉さんが怒ったように言う。

 

「あ、あなたたちねぇっ!」

 

「まーまーまー」

 

「セシリアだけ抜け駆けはないでしょー」

 

「クラスの思い出になっていいじゃん」

 

「ねー」

 

クラスのお姉さんはセシリアさんを丸め込むようなことを言った。

 

「う、ぐ……」

 

セシリアさんは何かを言いたくても言えないような苦悶の表情をしている。

それをクラスのお姉さんたちはにやにやしながら見つめていた。

 

「よしよし、翔くん。インタビューお疲れ様。

 翔くんが好きそうなケーキ持ってきたけど食べる? ケーキ好きだったよね?」

 

写真を撮り終えた後に、明お姉ちゃんは色々なケーキを乗せたお皿を持って来た。

 

「うんっ、食べるー!」

 

目の前にあるケーキを食べたくて、目をキラキラとして元気よく返事をした。

言ったら笑われるかもしれないけれど、ボクはケーキとか甘いものがとても大好き。

 

「はい、あーん」

 

明お姉ちゃんはフォークで刺したケーキをボクの口元に持ってきた。

 

「あーん♪」

 

ボクは出されたケーキを口で咥え、食べた。

食べたケーキがとても美味しくて、頬を緩ませていた。

 

…このとき、ボクは気づいていなかったけれども、

ボクがケーキを夢中で食べている時の表情でほとんどのお姉さんたちが鼻血を出して倒れ、

その光景を移した写真がかなりの高値で売られていたことに気づくのはかなり後のことだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。