「雪乃っち~、ノート見せて下さいっス~。次、数学当たるんスよ~」
「雪ちん、なんかお菓子持ってない~?」
「またか、君らは」
ループする世界の中、クラス割りは毎回同じではなくランダムだった。今回、私は黄瀬君と敦君と同じクラスだ。
しかしながら、二人共なかなかに世話を焼きたくなる体質である。仕方ないなあ、と言いつつ甘やかしてしまう私もいけないのだろうが。でも放っておけない。
「調理実習で作ったカップケーキならあるよ。あげる」
「雪ちん、ありがとう」
自分で食べるのも何だし大輝君にあげようと思っていたのだが、喜んでくれるなら敦君にあげても良いだろう。お礼を言って帰っていく敦君に「どういたしまして」と返して、黄瀬君に向き直る。
「課題は自分でやらなきゃいけないよ」
「そこをなんとか!」
「うーん……」
「雪乃っちー……」
シュンとした顔はまるでお預けを食らった子犬のようだ。くうっ、と揺らいでしまう。わざとか、わざとなのか。
迷う私に黄瀬君は畳み掛けるように、しゃがみこんで、机に顎を乗せた。自然と上目遣いになる。その愛らしい仕草に母性本能が刺激された。
「雪乃っちだけが頼りなんスよー……」
効果音をつけるなら、うるうる。
「……仕方ないなあ。次からは、ちゃんとやってくるんだよ?」
「了解っス!」
ノートを渡すと、パアッと顔を明るくする黄瀬君。黄瀬君の放っておけない弟オーラに負けてしまった。毎回毎回、これで折れてしまう私である。
嬉々として私の机でノートを写す黄瀬君に、私は苦笑した。出来の悪い子ほど可愛いというが、ううむ……黄瀬君は甘え上手だ。この世界に来る前の弟の事を思い出した。
ふと、黄瀬君が目線を上げる。パチリ、と目が合った。
「雪乃っちは……」
「ん?」
「えーっと、青峰っちのこと、どう思うっスか?」
唐突だ。
「どうって、大事な幼馴染みだよ」
そう答えると黄瀬君は何やら窺うような顔で私を見詰める。一体どうしたというのか。
「ホントに、それだけっスか?」
「うん」
頷くと、何故か黄瀬君は満足そうな顔をした。
「そうっスよねー」
「一体どうしたの」
「別に何でもないっスよ。青峰っちには悪いっスけど、俺も本気になってきたんで」
目を細める黄瀬君。「バスケの話?」と訊ねると「さあ、どうっスかね」と、はぐらかされる。分かりにくい年頃だ。
首を傾げると、黄瀬君はにこにこと笑っていた。
「雪乃っちは俺の事、普通に扱ってくれるっスよね」
「普通って?」
「イケメンモデルだからって変にちやほやしたり、避けたりしないじゃないっスか」
「自分でイケメンモデルって言っちゃうのはどうかと思うよ」
一応ツッコミを入れて、次の授業の用意をする。教科書はどこへ仕舞ったかなあと。鞄の中を漁っていると、黄瀬君が口を開いた。
「雪乃っちは、好きな人とかいないんスか?」
珍しく真剣な瞳を向けられて、ドキリとする。真面目な顔をすると黄瀬君は美形だ。さすが現役モデルである。こんな顔で迫られたら、大抵の女子はコロッと落ちるんじゃないだろうか。
サラサラの金髪にスラリとした長身、王子様のような容姿に世の中の女子が夢中になるのも分かるなと思った。
それにしても、唐突な質問である。好きな人、好きな人……。考えて、私は緩く首を横に振った。
「私は、人を好きになれないよ」
緩く笑って答える。今はとにかく自分の事だけで手一杯だ。
死にたくない、その思いだけしか私にはない。それ以外は空っぽで、つまらない人間なのだ。
「私には、人を好きになる資格がないんだよ」
そう告げると、黄瀬君はよく分からないといった顔をした。