1-01 また新しい世界と私
私、は見知らぬ森に立っていた。十歳ぐらいだろうか、小さな体に白いワンピース姿で立ち尽くしている。
今回は法則がずれたのだろうか。ここはどこなのだろう、とまず思う。何故か体は擦り傷だらけで、右足はジンジンと痛んだ。
しばらくボーッと緑を眺め、ここが元の世界だったらいいのにと淡い期待を抱く。何度も何度もループを繰り返し、私の精神は疲弊していた。
異世界なんて真っ平ゴメンだ。私は元の世界に帰りたい。帰って、大好きな家族や友達に会いたい。いつか絶対に帰るのだ。その願いだけが私を、死の運命から回避すべく突き動かしていた。
初めは死んだら元の世界へ帰れるかもしれないと思った。しかし現実はそう甘くはなかったらしい。
私は命が尽きると、この世界でまた変わらぬポジションのまま生を受ける。周りの人間や環境が何一つ変わらないのだから、よく言う輪廻転生などではないようだ。
一から、また『世界』が始まる。青峰大輝と桃井さつきの幼馴染みとして、再び『
「雪乃ー!」
何度も聞いた、聞き慣れた声が木々の向こうから聞こえてきた。案の定、ここはいつも通りの世界だったようだ。「はーい」と返事をすると誰かがガサガサと茂みを掻き分け、こちらへやってくる気配がした。
「雪乃、こんなところにいやがった!」
「心配したんだからね、雪乃!」
大輝君と、さつきだ。顔立ちも体付きも幼くて、私達はまだ小学生なのだと分かった。
二人とも焦った顔をして私の側まで駆け寄ってくる。確か以前、こんなこともあった気がするが――思い出せない。
私が繰り返している人生は死因もランダムだが、次に目が覚める時間もランダムだ。いきなり中学生から始まったり、こうやって幼少時から始まったり。決まっていることは『私が必ず死ぬ』という事と、『二人の幼馴染み』という事だけ。それ以外は安定していない。
「ここ、どこ?」
訊ねると二人は不思議そうに顔を見合わせる。
「俺とさつきと、雪乃の家族でキャンプに来てんじゃねーか。探検してたらお前だけ崖から落っこちて、皆で探してたんだぜ!」
「……そっか、ごめん」
そんな事もあった気がする。私は「頭でも打ったんか!?」と喚く大輝君を放置して、さつきの方に顔を向けた。
「で、今日は何月何日だっけ?」
「八月二十八日だけど……雪乃、大丈夫?」
心配そうな顔をするさつきに「大丈夫」と微笑んでみせる。そうだ、小さい頃は三家族でよく出掛けていた。何度か繰り返し経験しているが、崖下で目覚めるのは初めてだ。
「おじさん達も心配してるよ。戻ろう!」
さつきが私の手をとる。けれど私は動かなかった、というよりも動けなかったという方が正しい。右足に走る激痛に顔を歪ませる。
「雪乃、どうしたの!?」
心配そうにオロオロするさつきに対して大輝君は落ち着いた様子で、少し腫れた私の足に触れた。痛みに足を引っ込めようとする私に大輝君は、「捻挫みてえだな。折れてはないと思うけどよ」と言う。
「痛い……」
情けないけれど、痛いものは痛い。
「仕方ねぇなー」
大輝君は私に背中を向け、おぶされと視線だけで促した。御言葉に甘えて大輝君の背中にのし掛かる。
遠慮するとかいう間柄ではないし、大輝君なら私を背負うぐらい何て事もない。案の定、大輝君は私を軽々と背負うと、さつきに「行くぞ」と言った。
「ホント、雪乃は俺とさつきがいねえとダメだな!」
「そうよ、雪乃は目を離すと危ないんだから!」
そう言って笑う大輝君とさつきに、私は「そうだね」と笑みを返した。