翌日の休み時間、私の教室までやってきた緑間君は私の席までツカツカとやってきた。一体、何なんだろうか。不思議そうな顔をするクラスメイト達の様子を全く気にせず、緑間君は「村瀬」と私の名前を呼んだ。
それから机の上に、何の迷いもなく水色のタオルを置いた。しかも新品である。
「村瀬、これをくれてやるのだよ」
「あ、ありがとう……」
差し出されたので受け取ったものの、何故タオルなのだろうか。緑間君の行動が謎過ぎて曖昧な笑みを浮かべていると、緑間君は「今日の村瀬のラッキーアイテムは、水色のタオルなのだよ」と眼鏡を押し上げながら告げた。
「よく私の星座を知ってたね」
「桃井から聞いた。この間の礼だ、黙って受け取れ」
「わざわざご丁寧に、ありがとう」
よくわからないが厚意は素直に受け取っておく事にする。ラッキーアイテムというくらいだから、持っていれば何か良い事があるんだろうし。
占いなんて当たるも八卦、当たらぬも八卦だ。しかしラッキーアイテム一つで私の死亡フラグが回避出来たのなら、今までの足掻きは何だったんだと、切ない事になる。
緑間君は「借りは返したのだよ」と言うと、用は済んだとばかりにさっさと帰って行った。相変わらずマイペースな人だ。
「雪乃、雪乃!」
緑間君が出て行った途端、友人が話しかけてくる。随分と興奮した様子だ。他のクラスメイト達も興味津々といった感じで、こちらを見ている。
「何?」
「いつの間に緑間君といい感じになったの! ていうか、雪乃って緑間君がタイプだったの!?」
好奇心で目が爛々としている彼女に「そんなんじゃないよ。前にラッキーアイテムをあげたから、そのお返しだって」と答えると、「つまんないなあ」とあからさまに残念な顔をした。
健康的に日に焼けた肌に、茶髪のポニーテール。一年にしてテニス部の一軍らしく、背がスラリと高くスタイルも良い。つり目がちの瞳は気が強そうだが、くるくると変わる表情が親しみやすさを感じる。そんな彼女、
「緑間君ってカッコいいのに……まあ、ちょっと変だけど。雪乃ってどんな人がタイプなの? やっぱり青峰君? それとも赤司様?」
「大輝君はただの幼馴染みだよ。ていうか、赤司様って……」
「マネージャーの間で『赤司様』って広まり始めたんだよ。あとバスケ部じゃないんだけど、隣のクラスの黄瀬君もスッゴいイケメンなんだよねー。どう?」
「どうって……言われても」
勧めてくるトモちゃん。その黄瀬君は一年後にはバスケ部に入るんだよ、と零しそうになって慌てて唇を引き締めた。春だからか最近、どうにも気が緩んできている。
「勧めるくらいならトモちゃんが狙えばいいのに」
「ダメダメ。私、イケメンは好きだけど実際に付き合うなら平凡な人がいいもん」
「はいはい、そうですか」
緑間君から貰ったタオルを鞄に入れる。トモちゃんは、つまらなそうに唇を尖らせた。
「雪乃も恋とかすればいいのに。相談とか乗るよー」
「私は、そういうのはいいよ」
人間、何だかんだ言ったって自分の生死が一番大事だ。
恋だとか何だとかより、私はまず生きたい。私にはそんな余裕はないのだ。
つまりは、私は自分が一番大事だった。