魔法のあくせられーた   作:sfilo

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少し無理矢理感あります。
すみません。


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一方通行達グループは一高から少し逸れた脇道に入っていた。海原は一定期間ブランシュに潜入していたため彼らの行動マニュアルはすべて手の内にある。

 

 

「ええと、現在は廃棄されていた工場に本部があるようです。どうします?」

 

 

海原は端末を弄り情報を釣り上げてくる。それを聞いた土御門はある作戦を立てた。作戦と言ってもグループが対テロリスト用の何時もの対処法だった。それは結標の座標移動で戦場のど真ん中に一方通行を送り込み敵を一掃する。零れた者たちは土御門で対処する。

グループ全員はその案に乗った。実際一方通行のバッテリーが残っている現段階でこれ以上の良案は浮かばないだろう。

断続的な座標移動で3人は廃工場へと飛び立つ。

 

 

***

 

 

保健室に壬生が横になっている場所で達也はテロリストの本拠地へ攻め込む作戦を皆に提示していた。風紀委員長の摩利と生徒会長の真由美は当校の安全が確実に確保出来るまで待機となり突入する生徒は決まった。

扉を開け外に出ようとする達也がドアノブに触る前に勝手に扉がスライドした。そこに立っていたのはスーツ姿の青年、海原光貴だった。その姿を見た瞬間摩利と十文字は警戒体勢に入る。

 

 

「申し訳ありません。私、海原光貴という者です。少しお話よろしいでしょうか?」

 

 

柔らかな物腰で説明口調な態度に全員は不信感を覚える。

 

 

「俺達は少し急いでるんで会長に伝えてくれませんか?それにここに侵入できる辺り貴方はテロリストだと思われていても仕方ないと思いますよ?」

 

 

では、と言って廊下に出ようとする達也だが海原の一言でその場の全員が驚愕する。

 

 

「テロリストですか。本日ここにやって来た彼らの本拠地ははずれのバイオ工場で名前はブランシュ、リーダーの名前は司一でしたね」

 

 

「どうしてそこまで知っている?」

 

 

十文字は海原に詰め寄る。巨体の彼が青年に近づくと大きな威圧感を海原にもたらす。それでも彼は決して態度を変えない。

 

 

「いえ、調べたらそう記されてあったので。それより私の話聞いて頂けませんか?それに私はテロリストではありません。当局が発行したIDカードも持っていますし」

 

 

ほら、と胸ポケットからパスポートのようなものに挟まったカードを提示する。ドアから出ようとした達也達は素早く戻ってくる。

 

 

「理解が早くて助かります。では初めに貴方達が廃工場に行く必要はありません」

 

 

「それはどういうことだ」

 

 

達也の言葉が部屋に突き刺さる。

 

 

「私たちの特殊部隊が既に乗り込んでいます。今頃行っても時間の無駄でしょう。それにこちらの部隊の姿を見せたくありません」

 

 

「成程、高度な軍事機密に関わるほどの特殊部隊が既に乗り込んでいるという事か。だが我々とてこの事態に深く関わってる者として終末を見なければならん。行くぞ」

 

 

十文字の後に続き幾人の生徒が保健室から出て行く。その様子を眺め終わった海原はやれやれと手首を振った。

そこへ残っている摩利はCADをいきなり向ける。

 

 

「悪いがお前の話を信用出来ない。ブランシュが襲ってきた時お前と一方通行、その他2人が同時に私達を牽制した。十文字は廃工場に行かなければならなかったからお前を見逃したが、私はお前から詳しい事情を聞かねばならん」

 

 

グループが本拠地へ襲撃を行う前、一方通行を回収する時にばったり出会ったことを海原は思い出した。彼は結標の座標移動を利用しその場から立ち去ったのだが、彼女からして見れば敵対行動だったのだろう。

海原は学園都市から潜入してきた時に持って来た拳銃が腰ポケットにあるのを確認しながら摩利に答える。

 

 

「信用出来ないですか。では我々の目的をお話します。私達はグループという組織に属しております」

 

 

「そのグループというのの目的は何ですか?」

 

 

摩利の隣にいた真由美が会話に混ざり込む。

 

 

「グループは基本上層部から送られてくる任務をこなしていきます。今回の私の目的は戦争激化の阻止、それと貴方たちとのラインを繋ぎたいと考えています。ですがこの二つの目的は我々の上層部の意向に反していてそう簡単にこなせるものではありません」

 

 

「戦争の激化を阻止するだと?今の世界に小さい紛争はあるがそれほど大きな戦争は起こっていないぞ。どこも停戦状態だ」

 

 

「今のこの世界での戦争ではありません。私達がやっきた世界とこの世界との戦争です。時間がありません。詳しい事は一方通行に聞いてください、お願いですから信じ」

 

 

海原の体が虚空に消えた。対峙していた摩利や真由美は場景に驚く。現代魔法でテレポーテーションは確立されていない。それゆえ目の前で起こった現象が何を元にしているのかさっぱりわからない。

廊下から出てあらゆる方向を目で探したが見当たらない。

彼女らは十文字からの連絡を待つ以外になかった。

 

 

***

 

 

「オイ、結局海原はどこ行ったンだ?」

 

 

工場での一仕事を終えて缶コーヒーを口にしている一方通行は土御門と結標に尋ねる。山道の中彼らは徒歩で移動している。

 

 

「知らないぜい。上から指令があったんじゃないのか」

 

 

「まあ関係ないわよ。元の世界に帰るのに支障はないわ。それよりもう帰りましょう。長い間ここにいるのは何かと不味いし」

 

 

「そうだにゃー。じゃまたな一方通行、引き続き学校生活楽しんでろこのやろー」

 

 

一方通行はたいへん驚いた。なにせ今日帰るか帰らないかで随分悩んでいた。それが今になってなかったことになる。

 

 

「待てよ、俺を回収するためにオマエラがこっちに来たンじゃねェのか」

 

 

「それがだな、急遽中止になった。取り敢えずオマエの持っていたピンセットの回収だけが俺達の残った仕事になったんだよ。悪いな、引き続きこの世界の調査頼むぜぃ。んじゃ結標、頼む」

 

 

空へ飛んだ彼らが元いた場所に目をやる。そこには何も残っていない。しかし一方通行の心には深い疑心が残る。ここで彼を回収しない理由と海原だけ別行動をとっていたこと。上層部が絡んでいるとすれば、こちらからアクションを起こすしか判断材料を入手する手段はない。

杖をつきながら潮から間借りしている家に戻る。その途中一高の脇を通りかかったが既に騒ぎは収まっており修復作業が進んでいた。雫とほのかにグループのことを聞かれると思いながらトボトボと一人で帰るのであった。

 

 

***

 

 

水槽のような大きな液体の入った筒状のガラス管に入った人間、アレイスター・クロウリー。学園都市統括理事を統べる権力者であり20世紀最大の魔術師でもある人間は新たな世界へと目を向けている。それは別次元、別世界線上に存在するこの世界とは異なる法則を持つ世界。この人間がある世界にレベル5を送り込んだのには確かな理由が存在する。プランの最終行程に必要な鍵が眠っている。

そう、ただそれだけの為に別世界に侵攻しある鍵を確保する。必要予算など考えたことはない。どれだけの命が無駄になるか考えたことはない。学園都市の力を全て放出し鍵を奪う。

アレイスターの口元がつり上がる。それを確認し人間の脳波を感じ取った生命維持装置は指示通りに動く。

するとそこへ一報が入る。

 

 

『なかなか機嫌がいいようだな、アレイスター。目的の物は見つかったのか?』

 

 

人工的に作られた声がアレイスターの耳に入る。

 

 

『いや、見つかりはしないが似たものは見つかった。これで本物へのアクセス権を手に入れる』

 

 

『ふん、この世界に存在しないものを作ろうとせず元々ある世界からとってくるという発想など思いつきもせんよ。それより一方通行を連れてこなくてよかったのか?あちらの世界の技術、魔法と呼ばれるものの数値化は既に済んだのだろう?』

 

 

人工的な声の合間合間にすぱーっという葉巻を吸う音が交じる。アレイスターは別に嫌煙者ではないので全く気にしない。

 

 

『ああ、数値化は済んだ。対抗策も練ってある。一方通行をそこに取り残した理由はある意味保険だ。鍵にアクセスできなかった場合彼に開けてもらう。どうやら我々の世界は向こうで異物として扱われる。だが向こうの時間感覚で1年を超えようとしている彼には異物反応が起きない。これを利用しない手はない』

 

 

『成程、私はそのうち向こうに行くことになるのかね?』

 

 

アレイスターが自らの手を顎に当て、手術服が液体の中を揺れる。

 

 

『必要であればな。可能性はあると考えてくれ』

 

 

通信が切れる。水中で静かに笑うアレイスターは全てを察しているかのように呟く。

 

 

『ふふっ、首を洗って待っていろよ、魔法師共。私を挑発した事を後悔させてやる』




これにて1部終了です。

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