魔法のあくせられーた   作:sfilo

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ご注意下さい。


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『さあ、始まりました!第2回戦!今回注目の選手はなんと言っても一高の一方通行。1回戦に見せた魔法とは異なるのか否や!まさに注目の一番です!』

 

 

飛行艇から鳴り響く実況チャンネルの声が一方通行にも届く。そんなことを気にせずCADを展開し始める。

 

 

***

 

 

「来るぞ、こんなCADどこの会社でも開発してないぞ」

 

 

「我々としてはあの技術をどうにか手に入れたいな」

 

 

「最後のパーティー、あれに賭けるしかないな。だが大会本部のCAD検査記録にアクセス出来れば簡単に入手出来そうだがな」

 

 

「馬鹿野郎。大会本部にはあらゆる人間が参加しているのに誰1人としてあのCADの異常性を見抜けなかったんだぞ?その時点で秘匿技術も格段に上だろう」

 

 

レオの後ろの大人はなにやら複雑な話をしていた。

次の瞬間、大量のフラッシュが一方通行に向けて放たれることになった。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「安心しろレオ、カメラのフラッシュだ。それにしてもこれだけの技術者が見に来るなんて...アイツは1回戦の時にどんな魔法を使ったのか気になるな」

 

 

技術者としての達也の心が動き出した。

フラッシュ禁止の指示が出され皆はカメラを取り下げた。そこで見えてきたものは違和感そのものだった。

2つのアタッシュケースからは接合アームが伸び一方通行の左腕に他のケースからCADを取り付けていく。CADと呼べるのだろうか、それら同士をボルトで繋ぎ止めていく。一つ一つのCADがまるで部品のように、左腕全体に備えてある黒い鋼殻の周りを囲んでいく。

たった20秒で完成する。一方通行の体を当然のように超える大きさのライフルのようなCAD、名前は『Hs-model-CAD-14st』

学園都市製であることを示す名前Hsが取り込まれたCADであり性能は1回戦同様らしい。

前方に2つ、後方に1つ三脚が設置されておりバランスがとってある。組み込まれは部品は全てCADで接合アームもCADである。普通に使えば魔法は発現できる。

 

 

『出ましたー!!一方通行選手のCAD!全長は2mを超えるでしょうか、それにしてもCADを会場で組み立てる魔法師なんて見たことがありません。おおっと、情報が入ってまいりました。CAD検査部では彼のCADは九校戦規定に則っているそうです。そして彼が使用申請したCADの数はなんと208!!208個のCADを同時使用出来るというのでしょうか!?ともあれ早速2回戦です!』

 

 

「達也くん、これってすごくない?」

 

 

エリカの純粋な感想が述べられる。恐らく周りにいる生徒や観客にとって初めての出来事だろう。本来ならばCADは魔法師の道具であり魔法を発現させるのにあればいいというもの。しかし一方通行のCADは彼の左腕を喰い尽くしていた。いくら大型のCADがあるとはいえあれは破格である。

 

 

「ああ、俺も純粋に思うぞ。CAD組み立てなんて絶対にしない。そもそも試合場所に持ち込んでいいのがCADとちょっとした物だけだ。組み立てなんてできるはずがない。そんな常識を破ったんだ」

 

 

「でもよぉ、あのアームみたいな奴は組み立て機だろ?持ち込めないはずじゃないのか?」

 

 

「恐らくあれもCADなんだろう。CADを魔法発現のための道具だとばかり考えていた運営本部はこんな事予想していなかったんだろう。いや、俺でもこんなのは見抜けない」

 

 

ピーと青のランプが会場に鳴り響く。そこからクレーが一斉に投げ出される。大会本部も焦ったのだろうかクレーの量が異常に多かった。

それに対し一方通行は冷静に判断する。飛んでくるクレーの優先順位を決め打ち抜く順番を設定する。撃ち抜くルートを確立し規定エリアに最初のクレーが入った瞬間、観客は一斉に耳を塞いだ。

ズガガガガガガ!!と一方通行のライフルが轟音を吐き出す。それと同時にクレーを撃ち落とす範囲全体に魔法陣が何重にも重なり魔法が発現する。それだけではない。魔法陣が現れていたのは規定の範囲だけではなく一方通行のCAD自身にもかけられていた。衝撃を吸収する小さな魔法や三脚と地面を固定する魔法、空気を圧縮して弾丸へと変換させる魔法。そしてそれを音速に近い速度で吐き出す魔法。幾多もの魔法がほぼ同時に展開と終了を繰り返す。その間にもクレーはエリアに入った瞬間撃ち落とされていった。クレーが落ちる度にエリアにかけてある魔法陣が一つずつ溶けていく。それを修正しながらも一方通行のCADはうねりを上げる。

クレーが50個ほど飛び出した直後一方通行のCADに異変が起きる。

 

 

「パージ!?」

 

 

どこからか聞こえた言葉。彼の特殊CADの装甲が剥がれた。金属で出来ているCADが宙に舞い、それでも連撃は止まらない。彼の空気弾は規定のエリアにしか飛んでいかず他に逸れることは無いので、クレーは蜂の巣に飛び込んでいくように指定された空間に入った瞬間に砕け散る。

だが彼のCADがどんどん崩壊していく。残り10個と表示された時、彼は腕の黒い鋼殻を脱ぎ捨て元々握っていた拳銃型のCADをクレーに向ける。その瞬間幾重にも重なっていた魔法陣は砕け普通の空間が生み出される。後は丁寧に射撃していくだけである。目視で標準を定め引き金を引いていく。

パーン、と競技終了の合図が競技場内を駆け巡る。一方通行のスコアは100、パーフェクトであった。

 

 

***

 

 

「森崎、破片は全部拾ったか?」

 

 

競技を終えた一方通行は飛び散ったCADを集め回っていた。他人に回収されたところで解析される心配はないが、試作モデルなので学園都市に返さなければならない。森崎は集め終わったようだった。一方通行は森崎に荷物配達役を頼み自分はCADの再調整を行うため車に戻った。

森崎が何故一方通行のサポートをしているかというと新人戦のために学べるものは無いかと思ったからだが、この様子だと学ぶ必要などないようだ。

一方通行が車へ辿り着く間数多くの人間に話しかけられたが殆どを無視した。

 

 

(どォせ学園都市の技術が欲しいだけだろ。この世界ももうちっとは自分で考えろ)

 

 

心の中で唱えるが話しかける人数に変わりはない。

車に着いてからはそんな雑音は一切聞こえない。一人黙々と作業に専念した。

 

 

***

 

 

「会長、優勝おめでとうございます」

 

 

「ありがと、ところでアッくんはどうなの?白い翼使ってどうかしたとか」

 

 

一高の本部で休んでいた真由美はあずさに問いかける。

 

 

「そんなことは無いですよ。それより凄いんですよ!これは現代魔法のCADの根幹を揺るがしかねない事態なんですよ!彼のCADはですね...」

 

 

「はいはい落ち着いてあーちゃん」

 

 

すみません、と項垂れるあずさに真由美は言う。

 

 

「これから決勝でしょ?なら一緒に見に行きましょう。今日の競技は全部終わりだし心配することは無いわ」

 

 

「わあぁ、ありがとうございます会長!生で見れるなんて感激です!」

 

 

そんなにすごいのかしら、と思ってしまう真由美だが会場へついたらあずさの言っていたことが分かった。

九校戦初日最後はスピード・シューティング男子決勝。対戦カードは一高の一方通行と三高の三年生で昨年の優勝者であった。会場の席は満杯で一般観客は座るのに苦労したが、一高と三高には応援席があり余裕を持って座れた。

 

 

「達也くん、これからアッくんの決勝でしょ?」

 

 

達也の隣に座ってきた真由美は確認する。

 

 

「会長、優勝おめでとうございます。そうですね、これから一方通行の試合ですよ」

 

 

「なんだか噂によるとCADが凄いらしいわね。どんな物なの?」

 

 

彼女は自分の試合に集中していたため他の事情はあまり良く知らない。だがこの会場の満員の様子を見ると破格の物なのだろう。

 

 

「見ていればわかりますよ。百聞は一見にしかずですよ」

 

 

三高の選手が入場すると会場が大きく沸き上がる。それと同時に一方通行と森崎が入場する。

 

 

『さあ、本日ラストの試合スピード・シューティング男子決勝!対戦選手は昨年度優勝、三高の藤森隆選手とダークホース一高の一方通行選手です!ここで今一度ルールを確認しましょう。通称早撃ちと称されるこれですが決勝も対戦型で行います。両者は自分の色のクレーを撃ち抜きスコアを競います。魔法による破壊でなければ得点には至らず、規定の範囲の中でなくてはいけません。そして対人攻撃は禁止となります』

 

 

飛行艇からの長々とした説明が終わり注目は選手に移る。三高の選手は既に準備が終わっているようでCADを構えている。

対する一方通行、彼の周りには予選の時に比べ大型のアタッシュケースが置かれている。

 

 

『おお!?一方通行選手、準決勝では特殊CADではなく通常の拳銃型のCADでしたが、決勝はあの大型CADを使うようです。これを目的に今回見に来て下さった方は随分多いと思います。予選で見られたCADの分解を直して復活です!!』

 

 

観客が沸いた。最後の試合としては盛り上がりは十分。

一方通行が動く。

アタッシュケース3つから伸びたアームは他のケースに備わっていたCADらしきものを取り出し、一方通行の肩口から伸びている黒い装甲に絡みつく。繊維のような細かい機械の糸がCADと連動する。全てのケースが空になりアタッチメントの類いの物は全て備え付けられた。

 

 

『なんということでしょーか!!今回一方通行選手が使用しているCADは2回戦の時に使用したものではなく全くの新しいタイプ。機銃らしいものが、えっと...3つ、あります』

 

 

一方通行の左腕に接続された3つのCAD。CADと言うより機関銃と言った方が正しいのだろうかと思うが、今ここではそんな議論をしている場合ではない。とても細長い糸状のコードが幾束にもなりCADと一方通行を強く結びつけている。

 

 

「何あれ......ルール上問題ないっていうの?」

 

 

真由美の知らない世界が目の前に広がっていた。真由美だけではない。2回戦を見ている生徒や観客ですら唖然としている。ライフルのような形をしていた前回ならばどんな魔法が来るのかある程度予測は出来た。しかし今回の彼のCADの形式は全く異なる。3つの機関砲で何をするというのだろうか。

 

 

「会長、彼がどんな魔法を得意としているのか分かりますか?」

 

 

「テストでは満遍なくいい結果を出してるわよ。何が得意とかは無いんじゃないかしら。それより達也くん、これ本当にCADなの?私にはどう見ても兵器にしか見えないんだけれど」

 

 

「CADも魔法を発現する道具ですから兵器の一部と言っても過言ではないのでしょうか。それより始まりますよ」

 

 

試合開始前の赤いランプが点灯する。1つ、2つ、その間誰にも気付かないほど小さな音で一方通行のCADが音を刻み出す。青のランプが点灯しクレーが飛び出す。

ここで一方通行の作戦が表に出る。

『FIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN”_ver.CAD』

学園都市の駆動鎧の1種を改良しCADに組み直した一方通行のCAD。魔法という科学的な理論を元に再設計され砲弾など無駄な部分は削ぎ落とし、魔法を使用するという前提を元にした兵器。2回戦同様幾多もの魔法式に変数を代入できるCADである。元々複数のCADを組み込み更にCADの根幹部分、感応石を一方通行自身の神経細胞をクローニング技術で新たに生み出し作った。これによりCAD同士による並列ネットワークを構築し一方通行が操作するCADは基本的に一つでいい。さらに駆動鎧の基礎的な部分を引き継ぎ人間を外部又は内部から支える仕組みがあり、代理演算や魔法式の終了などは機械がやる。

一方通行の作戦というものに戻ろう。

クレーが規定の範囲に入る前にガトリングレールガンが空気を揺らす。比喩ではない、超速度の空気弾を一瞬で大量に弾き飛ばしたため、空間内での空気の流れが乱れる。それで発生した風を一方通行は利用する。彼が狙う白いクレーと三高の選手が狙う赤いクレーが空気の流れにより恐ろしい速度で範囲に入ってくる。三高選手は見た事も無いその場の現象と一方通行の恐ろしいCADの威力に動揺したのか序盤から調子に乗れない。対する一方通行は全てを考慮していたので焦ることなく撃ち抜く。

最初の差が最後まで続いた。結果、スコアは一高:三高=100:97

スピード・シューティング男子本戦は一高1年の一方通行が優勝という形に終わった。

一方通行は今回のCADの働きに満足していた。2回戦はCADが過剰負荷により分解を起こしてしまったが、決勝戦で使った物は何も問題は無い。

迫り来る脅威に多少の抵抗が出来るだろう。


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