スピード・シューティング優勝の肩書きを手に入れた一方通行だったが自陣に戻るとあずさに質問攻めされた。これまでまともに話してこなかった人間にいきなり話しかけられ、更にとても勢いが付いている彼女を誰も止めることが出来なかったらしい。一方通行は面倒そうに答える、殆ど適当にだ。
「一方通行さん、一生のお願いです。CADを見せてくれませんか?」
「テメェはアホか、こンな所に一生のお願いなンか使うンじゃねェよ」
一方通行のダルそうな態度が体中から発せられる。あずさの取り巻き達が何とか抑えようとするが止まらない。仕方ないので一方通行は条件付きで見せることにした。こうでもしないと夜寝られなくなると真由美に助言を貰ったからである。
「解析しようとしたら殺す、これが守れたら見せてやる」
「わかりました!絶対に解析なんかしません。と言うか見せてもらえるだけで満足です」
そォかい、とだけ呟いた一方通行は自分の作業車に案内する。あずさだけでなく真由美や他の生徒もついて来た。
「ンで、何でお前らもついて来ンだよ」
「ええー、アッくん私にも見せてくれないの?あーちゃんにしか見せないなんてずるいじゃない」
「解析なんかしないから私たちにも見せろ。あんな技術を見せられてじっとしている人間の方がおかしいだろ」
一方通行は作業車の鍵を開ける。するとそこには2回戦の時のCADと決勝で使用したCAD、それにどちらの試合にも使用した一方通行本人に着用されていた黒甲殻のCADが並べてある。黒甲殻CAD以外はアタッシュケースの状態で仕舞われており現段階では何も見えない。一方通行はそれを雑にあずさに投げつける。一瞬で反応した彼女は胸に沈めるようにアタッシュケースを抱える。それを彼女はいきなり開けようとした。その様子を見て一方通行はウンザリしたようにあずさに近寄る。
「オイ、誰も開けていいなンか言ってねェだろ」
そう言うと彼はアタッシュケースの表面をトントンと指で叩く。すると何かを感知したのかケースは勝手に開く。中に入っていたのは一方通行が基本的な操作をする拳銃型のCAD。表面は黒の塗料でコーティングされており墨のような黒々さを醸し出す。
それを手で触ろうとするあずさをまたも一方通行が止める。
「少しはじっとしてろ。CADは逃げねェよ」
一方通行は拳銃型CADを左手で掴みある部分に意識を集中して触れる。するとCADからコンピュータの基盤のような薄い板状の物が飛び出す。それをキャッチしCADとしての機能を失ったものをあずさに渡す。
それを受け取った彼女はあらゆる角度からCADを眺める。
「わぁ、これどこの会社のものですか?マクシミリアンでもないしFLTでもないですよね。やっぱり拳銃型なので特化型ですよね?」
「作ったのは会社でも何でもねェよ。それに俺から言わせてもらうと特化型やら汎用型やら区分けしてるようだがそンなのに価値はねェ。その固定概念が発想を縮めてンだよ」
作業車に積まれていた缶コーヒーの蓋を一つ開け飲みながら反応する。
「その話詳しく聞かせてもらってもいいか?」
一方通行の反応に司波達也が入ってくる。
「そもそもオマエらが開発したCAD、こりゃダメだ、欠陥品だ。汎用型は99の起動式をインストール出来て特化型は9。お前達はこの数にこだわり過ぎてンだよ。第一に汎用型と特化型に分けるの...」
「前置きはいい。本題に入ってくれて構わない」
いつの間にか一方通行の話に全員が聞き入っている。
彼は缶コーヒーを空にして作業車に腰を下ろして話を始める。
「いいか?CADの元々の役割は起動式を保存するだけの代物だ。それを魔法の高速発動の為に色々な機能を付け足してきたみたいだが、ハッキリ言って無駄だ」
「良くわからないけどCADは起動式保存に特化すればアッくんみたいなものになるの?」
「アホ、誰もそンな事言ってねェだろ。話は最後まで聞け。もう少し簡単に言うぞ。CADに役割分担させりゃいいンだよ。起動式保存用、起動式を引っ張り出す用、それぞれに特化させりゃいい。そのための複数CADだ」
飛躍した理論に着いていける人間は限られていた。大半は何を言っているの変わらない様子でいる。
「だがCADを繋げると一つのCADとして機能するんじゃないのか?それだとCADの役割分担なんて限りなく無理に近い」
「分かってねェな、繋ぐと言っても本当に繋ぐ訳じゃねェ。ネットワークを構築して機能の部分だけを繋ぐ。俺のCADのコンセプトは『人間の負荷を極限まで下げる』だからな。あらゆる計算、判断は機械任せでいい。駆動鎧の技術の応用だな」
ここで全員の頭にハテナマークが浮かんだ。駆動鎧とは学園都市の技術を集結させたものでこの世界には存在しない。一方通行はあずさの持っていたCADを返してもらうと乱雑に放り投げ作業車の鍵を締める。
***
夜の10時頃、一方通行はホテルの一階のフロントでコーヒーを飲んでいた。ある人物と待ち合わせをしていたのである。ロビーで働いている人間もいたが誰も一方通行に注意したりはしない。あくまで客なので無意味に干渉しないのが鉄則である。
「いやぁ、お待たせしました。このホテルまでのバスが終わっていたので歩いて来ちゃいましたよ」
白衣を身に纏った20代後半ぐらいの人間が一方通行に話しかけてくる。眼鏡をクイッと調整して一方通行の対面に座る。
「どうでしたか、一方通行さん。うちの技術、結構やるもんでしょ?学園都市でCAD分析して新しい物を作るなんてうちみたいな変態企業しかしませんよ」
「そォだな、ファイブオーバーシリーズはなかなかの出来だったな。アレの本物は持って来てンのか?」
はい勿論、と言って研究者は一緒に持ってきたケースを広げ一方通行に見せる。
これが学園都市の技術を最大限活用したCAD。大会で使ったものはCADの規定に合わせてグレードを下げたため性能は普通だったが今回は違う。兵器として運用できるラインまで仕上げ、一方通行専用にされたCAD。見た目は拳銃型の特化型CADに似ているが中身は全然違う。
「ここまでコンパクトに出来たのか。俺の体を利用してネットワークを構築する手段は確立できたのか」
「ええ、難点だった感応石の微調整も終了しましたし能力制限時でも十分使用できる性能になっていますよ。でもそのCADの力を本当に発動させたいなら能力使用時に使ってみればわかりますよ。あなたの演算能力が戻った時は自動で切り替わるようになっていますので」
「能力使ってる時は別にいらねェンだけどな」
男はセールスマンの様な口調で話を進めていく。
「そう言わずに使ってみてくださいよ。まぁそういう訳で商品はお渡ししました。大会で使っていたものは回収していいですか?データの解析と改良していく筋が見えるかもしれないので」
「持ってけ」
一方通行は受け取ったCADを腰のベルトに挟めながら男に言う。ロビーから出ようとした男は思い出したかのように一方通行の所へ再び戻ってきた。変な口調で話し始める。
「そういや今学園都市結構ヤバイっスよ。すんごい平和なんスよ。元裏稼業のアンタならわかると思いますけど全然ドンパチしてないんスよ。何か溜め込んでるっていうか準備してるっていうか、こっちに戻る時注意した方がイイっスよ。と言っても帰るのに統括理事長のサイン無きゃ無理なんですけどね」
非常に興味深い話を聞いた。第三次世界大戦を短期間で終結させオティヌスという新たなる脅威にも直ぐに攻撃命令を出してきた学園都市が準備をしている。あの都市が準備をしなければ勝てないような敵はいるのだろうか。
一方通行の考えられる範囲だと確実にこの世界。魔法や複雑な世界構造を完璧に把握してから攻撃を仕掛けるつもりである。魔法と類似した能力を使い攻め込もうとするだろう。
そんな風に思案しているとコツコツと足音が一方通行に近づいてくる。
「お前の事は呼んでねェンだけどなァ、土御門」
サングラスをかけたアロハシャツの金髪男、土御門元春は研究者の男と入れ替わるかのように一方通行の対面に座る。
「俺が居なかったらお前のCAD?とかいう兵器も完成しなかったんだぞ?少しは労いの言葉っていう物を知らないのか。あの男だって俺が通過申請したんだぞ」
「そォかよ、つか未だにこの世界への侵入方法が分かんねェ。アレイスターっていう奴の許可が必要らしいな」
一方通行は人工衛星から発射されここにやって来たため、土御門らグループが以前この世界にやってきた時から侵入方法を探っていた。そして研究者の男がこの世界にやってきた事で理解した。この世界へ渡るための方法は既に確立している。
「でだ、上層部からの仕事が舞い込んできた。第三次世界大戦以後俺らの事を切り離す契約を一方通行や浜面がやったようだが無駄らしい。以前と同じ様に脅迫して来たぞ、どうする受けるか受けないか」
「本当に糞野郎で真っ黒だな、断った場合矛先は妹達と打ち止めか?」
土御門にも聞こえるほど強い歯軋りが一方通行の恨みを受け止める。それに対し土御門はアッサリとした表情に軽い手振りで答える。
「そうだ、断ればどうなるか分かっているだろう。一緒に来てもらうぞ」
仕方ねェ、一言呟きホールから出ていく一方通行。彼は少し歩いたところでフードを深くかぶった男に出会った。
「ソイツはアレイスターへの新しい出入口だ。捕まれ」
瞬間移動が発動する。
***
「摩利、あれアッくんじゃない?」
真由美の部屋で本日の反省会を女子だけでしていた真由美らは窓から映る遠い一方通行の姿を確認する。暗くて見づらいがホテルの比較的低い階層にいた彼女らは一方通行の杖で判断し確定させた。
「あれは!真由美、一方通行に連絡取れるか?」
焦った様に真由美に言葉をかける摩利。理由も分からずに突然言われた本人はなんの事だか判断出来なかった。
「ああ、もういい。そのまま一方通行を見張っていてくれ」
「そんなに焦ってどうしたんですか、渡辺先輩」
深雪が不思議そうに摩利に尋ねる。
「隣にサングラスかけた男がいるんだがアイツは四月のブランシュの時にもいたんだ。間違い無い!」
その言葉に反応したのかその場にいる全員は窓から一方通行を凝視する。すると次の瞬間元いた場所には誰もいなかったかのような空間が作り出された。
「やっぱりそうだ、一方通行と一緒にいたあの男。アイツはテレポート出来る」
「テレポートですって!?体ごと移動する魔法なんて無理よ。崩壊してしまうわ」
摩利は真由美に無理と言われても自分の考えを曲げなかった。
不可解な出来事を転とし夜は更に深まる。