魔法のあくせられーた   作:sfilo

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オリキャラ出ます。


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異空間のような場所へと転移した一方通行。彼が見た光景はすぐ様日常のようなものに移り変わる。だがこれを日常と言っていいのだろうか。

巨大なビーカーに揺れている人間の姿を見たことは無かった。一方通行の顔が歪む。

 

 

『はじめまして、一方通行。私は学園都市統括理事長のアレイスター・クロウリーだ』

 

 

その言葉を聞いた瞬間一方通行は首元にあるチョーカー型電極の電源を入れたが反応がなかった。カチカチと何度も入れ直すが能力が解放されない。

 

 

『悪いが君の能力は取り上げているよ。ベクトル操作は厄介だからね。それで本題に入るが君に新しい仕事を与えたい。何、そう警戒することは無い』

 

 

一方通行は信じようとしなかった。苦い汗が滴り落ちる。

それに対し男にも女にも見えるアレイスターは淡々と命令する。

 

 

『今回君にやってもらいたいことはオーストラリアの事実的占拠。鎖国状態に近いあそこは我々の拠点になり得る。そこで反学園都市勢の力を削ぎ落として欲しい』

 

 

一方通行は不可解に思う。学園都市の力があれば軽く一都市位は瞬時に制圧できる。それなのに自分を動かす必要性があるのだろうか、それ程厄介な事案があるのだろうか。左手の人差し指を唇に当てじっくり考えるが検討もつかない。

 

 

『安心したまえ、行くのは君だけじゃない。君を援護する者も一緒について行く。君の隣に既にいるだろ?』

 

 

一方通行が知らない間に既に立っている大男を発見した。能力が使えないとはいえ周囲のベクトルをある程度感知できている一方通行が気付かなかった。

男は青系のゴルフウェアを連想させるような長袖の服を着ていて見る限り筋肉隆々である。

 

 

『男の名はフレーラ、学園都市の技術を用いて造られた魔術人間だ』

 

 

魔術人間だと?と一方通行は不可解な言葉に理解が追い付かない。一応魔術という単語の意味とどういうプロセスを踏んで発動させるのかはわかっている。しかし能力者に魔術は使えない。特異な能力を持たない人間が特別な人間に憧れ自分達もそうなりたいと願い努力した証が魔術である。

 

 

『男について詳しく説明するとするか。彼の体は特殊合金で出来た骨組みにタンパク性の表皮に筋肉、そして君と同様樹形図の設計者とネットワークを繋いでいる。後方のアックアと言っても分からないだろうがフレーラはその男を完全に模倣した存在だ。作戦が開始される頃には後方のアックアのデータを君に渡しておこう。模倣人間だから自我のようなものは後方のアックアをベースにしている。向こうの世界と渡り合うためには能力だけでは不足だと思ってね。なにか質問はあるか?』

 

 

一方通行は隣にいる男に目をやる。そこにはっきりした意思はなくでくの坊が立っているような気がした。暗い部屋の中では細かい表情までは見えないが強ばっている様な気がした。

 

 

「能力者は魔術が使えねェはずだぞ」

 

 

細かな場所にケチをつけるような口調で話す一方通行の様子を予知していたかのように、薄く口を曲げながらアレイスターは話しかける。

 

 

『誰も能力者とは言っていない。機械の体に機械の脳を埋め込み特定の環境下で育てたサイボーグに似たような物だ。しっかりと聖人としての力も使えるし聖母の能力も受け継がせた。まあ、データは当時の物だからある程度力に不足気味なところはあるかもしれんが問題ないだろう。アスカロンも理論値を再算出しこちらの技術で再現したからな。不足はない』

 

 

一方通行にとって訳の分からない言葉が飛び交うが既に遅い。

こちらに一緒に来たフードを被った男が一方通行の体に触れ一瞬で目の前の光景が塗り潰される。

 

 

***

 

 

飛んだ先は何処か平坦な土地だった。辺りにはぽつぽつと家が建っている位の田舎だった。

 

 

「で、俺は何も聞いていないンだがオマエはなにか聞いているのか?」

 

 

どこへ行けばいいのか分からない一方通行は立ち止まりフレーラの様子を伺う。

 

 

「今は午前1時であるな。貴様は人間だろう、その家で休んだ方がいいだろう。朝になったらやることをすべて話すのである」

 

 

そう言うとフレーラは一番近くにあった一戸建ての住宅に押し入り無造作にドアを開ける。その後ろを着いていく一方通行は少し罪悪感があったが眠気が強く半分どうでもよくなっていた。中に押し入ったフレーラはすぐ目の前にあったソファを力技で平にし一方通行のためのベッドを作る。

 

 

「休みたまえ、周囲の警護は私に任せるのである」

 

 

サンキュと意図しないが一方通行の口が回る。しかしそんなことを気にしておらずすぐに睡魔に襲われた。

翌朝、一方通行は美味そうな匂いに釣られて目を覚ます。すると食用のテーブルにフレーラと年老いた老夫婦が談笑しながら朝食を口にしていた。一方通行の目覚めに気づいたフレーラは顔を洗ってくるよう洗面所へ案内する。

帰ってきた一方通行をテーブルへ連れてフレーラは老夫婦に向かってきちんとした挨拶をする。

 

 

「私の名はフレーラ、そしてコイツの名は一方通行である。勝手な振る舞いを許して欲しい」

 

 

その言葉を聞いて白に染まった髪の毛の老男は気さくな笑みを浮かべながら話す。

 

 

「別にいいよ、こんな辺鄙な所に外人さんは来ないからね。旅の話でも聞かせてくれりゃ立派な宿泊料だ」

 

 

朝食はフレーラの空想話で盛り上がっていった。

食事を終え後片付けも終わりこの家を出る直前フレーラは老夫婦に忠告をした。

 

 

「都市の中央にはなるべく近づかない方がいい。これから内乱が起こるだろうがすぐに収まる。5日程は家でゆっくりしているのが良いのである。それでは元気で」

 

 

一方通行とフレーラは家を発ちぽつぽつと歩いている。雪は降っていないが彼らの周りの人間はオーバーを羽織っている。対する彼らだが寒さを感じるような機能を停止させているフレーラと薄手のコートの真価を発揮した一方通行の服により体温は保たれている。

 

 

「さて本作戦の内容はオーストラリアの主要都市の戦力壊滅である。現在我々がいるキャンベラの軍部を攻撃し北上していく予定だが問題は無いな」

 

 

キャンベラを北上していくということは最終的にケアンズまで行くのだろう。そう判断した一方通行は問題ないと言った。

 

 

「では手始めにキャンベラを落とすか。飛ばすのである」

 

 

コンクリートで平に均された地面を水面上を滑るかのように走っていくフレーラの動きに合わせて一方通行も能力を開放する。互いに恐るべき速度で街の中心へと突っ込んでいく。

放射状に作られた計画都市を粉々に砕きながら走行し中心部にやって来た2人の前に装甲車が並んでいる。腐っても魔法を操る国家の一つということであろうか、周りの歩兵はライフル銃ではなくCADを構えている。

 

 

「私が装甲車を破壊しよう。貴様は隊列を飛び越え本部を叩いて来い」

 

 

フレーラは自らの影から3,4m程ある大剣を取り出す。彼のトレース元の後方のアックア、別名ウィリアム=オルウェルの手にしていた武装。名はアスカロン。全長50フィートもある大龍を殺すために計算され尽くした霊装である。しかしその霊装は後方のアックアが使用していたものでフレーラが今使っているのはそれを学園都市の技術で再現、改良を加えたものである。

『Hs-Ascalon』

霊装としての最低限の機能を残しながらも現代製の合金や特殊繊維を活用して作られた兵器。HsSSV-01''ドラゴンライダー''に似た構築をしている。大剣を兵器として開発したのではなく、フレーラとアスカロンを一体として考え編み出された兵器。故にアスカロン単体では効力を発揮せずただの鉄の塊になる。

そんな兵器を手に持ちフレーラは既に装甲車を踏み潰していた。歩兵らが対応すること無く薙ぎ倒していく。

それを確認しながら一方通行は戦闘集団を飛び越え大統領府へ突っ込んでいく。何故大統領府と分かるのか、それは事前に情報端末で確認していたからである。それはともかく大統領府はもぬけの殻であり一方通行は舌打ちをする。杖をつきながら外を見ると殆ど制圧し終わっていたようだ。フレーラの働きだけでなく学園都市の駆動鎧もクーデターの中心地で活躍していた。既に学園都市の軍勢はこの地に乗り込んでいるらしい。

 

 

***

 

 

富士で行われている九校戦の3日目。一方通行の不在を気に留める者は多少はいたがそれよりも渡辺摩利のバトル・ボードでのクラッシュが一高に大きく影響していた。明日から新人戦ということもあり出場する1年生は休養を取るよう命じられた。それでも摩利の元へ見舞いに来る人の数は絶えない。達也が事故検証の結果を伝えていると全員の病室に設置された備品のテレビが突然映った。

 

 

「なんだ?こんな事初めてだな」

 

 

全員が画面を見ると世の中の酷さが痛烈に分かる。

 

 

『本日午前10時過ぎ、鎖国状態に近いオーストラリアは緊急声明を発表しました。国内のクーデターが軍事力を上回り対処出来ないと言うことで周辺国に協力を要請した模様です。そしてクーデターを起こした組織は自らの名を学園都市と名乗っており、目的はオーストラリアの制圧のため巻き込まれたくなければ無闇な干渉は控えるべきとこちらも声明を発表しています。続報が入り次第報道していきます』

 

 

どうやらこのテレビは情報必要性を判断し勝手に映すように出来ているのだろう。

オーストラリアでクーデターと言う大きなテロップの下に書かれている文に真由美はしっかり反応した。

『学園都市』

一方通行にピンセットという機械を渡した謎の組織であり現在オーストラリアへ侵攻しているもの。何か関係があるのかと思っていると突然摩利が画面に向かって指さす。

 

 

「誰かこのニュースもう一度見せてくれないか」

 

 

達也は構いませんよ、と言ってテレビに触れいろいろと弄る。

 

 

「ねえ、摩利どうしたの?やっぱり学園都市ってことはアッくんに関係があるのかしら」

 

 

不安そうな顔付きの真由美だが摩利はテレビに夢中になる。

 

 

「これでいいですか?」

 

 

現行のテレビは録画機能というものはなく全て一時的に保存されるようになっている。そのハードディスクから先程のテレビニュースを映し出す。

同じ内容が繰り返されキャスターの背後には地元のジャーナリストが撮ったであろうキャプチャ画像が流れるように出現する。

 

 

「ここだ!止めてくれ」

 

 

摩利は達也に頼むと彼はすぐに画面を止めた。映っているのは装甲車がクシャクシャに潰された様な跡と共に映る一般大衆の画像だった。

 

 

「摩利、一体何が映ってるっていうの?魔法の痕跡なんて見当たらないわよ」

 

 

違う、そうじゃない、摩利と達也の声が重なった。

 

 

「画面の左端を見てみろ。これで全てがはっきりする」

 

 

摩利の一言で部屋にいる人間の半分は気付いた。

見覚えのある物が映し出されている。

一方通行が使用しているであろう杖とそれを利用している人間の白い服と白い腕だった。


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