魔法のあくせられーた   作:sfilo

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ある程度時間が経った。ほのかが気絶し黒沢が目を覚まさない二人だけの空間には言葉が飛び交う。今の時代はどのようなものなのか、超能力とは一体どんな能力なのか等。

一方通行はこれからどうすればいいのか全くわからなかった。自分がここに入って来れて話を聞いてくれたのは不幸中の幸いだろう。

暴力的なものを振るったのは不可抗力とする。

雫がある提案をしてきた。

 

 

「一方通行はこれからどうするつもり?」

 

 

「そォだな、ここに置いてくれるなら助かるが無理なら別にいい。この世界の情報を集めながら旅するしかねェだろ」

 

 

「わかった、黒沢さんに話しておく。部屋は後で教えるから。それよりベクトル操作って何?」

 

 

一方通行からしてみれば日常の中の一部であるものを説明するのにさほどの苦労はない。それよりも彼が不思議に思ったことは、別世界に飛んだと思われてもミサカネットワークに接続できることだった。いくら彼女らが数多くいようとも流石に世界を超えたネットワークなどありえるはずもない。

彼はそこに自分が元の世界へ帰る手掛かりがあるのだろうと確信している。

 

 

「あァ、少し待て。それよりもいいのか?どこの誰か知らン人間を連れ込ンで不安じゃねェのか」

 

 

「別に。だって人工衛星から降りてきた人なんて世界に何人といないし、移動手段もないでしょ?なら困ってる人は助けてあげるべき」

 

 

(そォじゃねェよ...まァいいか)

 

 

思っていたことと別のことの心配をされていた一方通行は額に手を当てて項垂れた。

チョーカーに手を当てて現在の電源の残量を調べる。能力活動時間は約20分。雫に能力を説明するのには十分なほどだった。

 

 

「よし、浜出ろ」

 

 

***

 

 

二人をベッドに寝かせてから浜辺へと向かっていく。

 

 

「一方通行は足が悪いの?」

 

 

「足っつゥより脳ミソだな。鉛玉ぶち込まれてからは杖なしじゃ歩けねェな」

 

 

杖をつきながら歩く一方通行に疑問を持った雫が質問する。返ってきた答えは想像もしていないようなものだった。

なんだかんだで浜に着き一方通行は砂の上にストンと座った。

そこで彼は雫の魔法を初めて見た。見せてくれと頼んだわけではないがこの世界の魔法というものを体験させてくれるらしい。一方通行は魔法と呼ばれる現象を解析するために首筋に手を当てる。

浜に転がっていた石ころが振動しパキリと音を立てて割れていた。

 

 

「これが振動系の魔法。一方通行ってこれよりもすごいことできるの?」

 

 

「まァそンな地味なことは普通やンねェけどな。リクエストでもあンなら聞いてやるよ」

 

 

彼はこの世界の魔法の仕組みを見ただけで半分ほど理解してしまった。結局学園都市製の超能力に似たことをやっていた。自分だけの現実のようなものをリアルな世界に出力する装置がCADに変わっているだけ。

だが半分はわからない。世界の何に作用し物理的現象に結びつけているのかが見当もつかない。

 

 

「じゃあ砂の城作ってみてよ、私振動の固定が上手く出来ないんだ」

 

 

「ほらよ」

 

 

一方通行は砂浜に手を突っ込み軽く腕を振る。 この腕の振りによるベクトルを操作し周囲の砂をも操っていく。彼は脳内に絵本に出てくるような普通の城を想像し現実世界へと引っ張って来る。

ほんの数秒で50センチ程の砂の城が完成した。

 

 

「出来たぞ、ってなんで俺の顔見てンだよ。なンか付いてンのか?」

 

 

「ううん、別に。でも凄いね。一方通行の能力は多分BS魔法に分類されると思う」

 

 

「そンなンどォでもいい。俺ァ疲れた。部屋に戻って寝させてもらうぜ。二人の説得頼ンだ」

 

 

一人で別荘に帰っていく一方通行を雫は虚ろな瞳で眺めることしか出来なかった。

 

 

***

 

 

雫が部屋に眠っていたほのかと黒沢をどうにか説得し一方通行の一時的な滞在の許可を得ることに成功した。ほのかはブルブル震えながら首を縦に振り、黒沢はやや反抗気味ながらも雫お嬢様の言うことならばと言うことで納得してもらった。

 

 

「雫、叔父様にこのこと話したの?そろそろこっちに向かって来るって昨日電話にあったよね」

 

 

完全に忘れていた。仕事の合間を縫ってやって来るということは昨日の電話で言われたばかりだった。

キッチンの向こうで料理をしている黒沢に聞いてみると

 

 

「雫お嬢様が匿ったのですからそれなりの責任を果たさなければなりませんよ」

 

 

こう言って取り合ってくれなかった。恐らく一方通行の反射を体験し関わりを持たないようにでもしているのだろう。

料理が完成し雫は一方通行を食卓に呼んだ。彼は気だるそうに杖をつきながらスッと指定された椅子に座った。

 

 

「「いただきます」」

 

 

「ッチ、いたァだきます...」

 

 

何も言わずに食べようとした一方通行をじっと見る雫の視線に耐えられなくなった一方通行は小声で呟く。視線なんぞにベクトルは存在しない。

 

 

「その...一方通行さんの髪の毛と眼って生まれつきなんですか?」

 

 

「いや、能力の副作用ってとこだな。余分な紫外線やらいろンなもンを反射してたらこうなった」

 

 

ほのかの箸が止まる。紫外線を反射出来ると言ったらこの夏、そして一方通行の目の前には女性がいる。結構羨ましがられた。

一方通行の語りは少しばかり続く。

 

 

「そうは言っても面倒なもんだぞ。一度こうなったら自分の意志で元に戻すことは出来ねェ。反射が半永久的に作用するから普通の生活にも戻れねェ」

 

 

出された食事を全て食べ今まで休んでいた部屋に戻ろうとする一方通行にまたもほのかが話しかけてくる。

 

 

「あの、その服暑くないんですか?今日はそんなに暑くなかったみたいですけど明日からはもっと暑くなりますよ」

 

 

「そうだね、一方通行にも合う服探しておくから心配しないで」

 

 

雫の優しさを無下にするように一方通行は背中から伝える。

 

 

「別に心配いらねェ。能力である程度は調節出来る。それにてめェらに飯に寝床に色々やらせてもらってる以上要求するもンだなンざァねェよ」

 

 

そしてゆっくりと部屋から出ていった。

食事中の彼女らは手早く食べ終え食後のゆったりとした時間を過ごしている。

 

 

「どうして雫は一方通行さんを家に泊めることにしたの?」

 

 

「なんか可哀想だったから。ほのかが気絶して色々話してるうちに話し方からわかった」

 

 

「そうなんだ、私はまだ怖いかな。睨まれた時なんか殺されるんじゃないかってぐらい」

 

 

「それよりお父さんになんて伝えればいいか一緒に考えてよ。そろそろ来るって言ってたから明後日ぐらいには来そうだし」

 

 

2人は休憩後に勉強しその後風呂に入った。一方通行とあったストレスやら心配事がありいつも以上の入浴になっていた。

風呂からあがった雫は一方通行に入浴していいという事を言おうと彼の居る部屋に行きノックする。返事が返ってこない。それ故ドアノブに手をかけ扉を開くとそこにはベッドの上で横になる一方通行の姿があった。

雫は忍び足で一方通行のところへ寄り寝顔を拝見する。

口調や不機嫌そうな表情がない今の一方通行は男と判断するには十分な証がないほど顔が整っている。

 

 

(真っ直ぐ泊めてくださいって言えればいいのに。素直じゃないなあ)

 

 

そんなことを思っていると一方通行は目をパチりと開き雫の顔をじっと見つめる。

対する雫も一方通行の顔を見ながら焦った内心を隠すように丁寧に言う。

 

 

「お風呂空いた。入っていいよ」

 

 

夏で月光が窓から差し込んでいる部屋に独特の空気が流れる。

しかしそんな空気を無視し一方通行は首元のチョーカーのスイッチを入れてこう言った。

 

 

「すまねェ、もう一回言ってくれ。なんつってるか聞こえねェ」

 

 

雰囲気ぶち壊しである。

 

 

***

 

 

翌朝、一方通行は少し遅い時間に目覚めた。覚醒前の脳を揺さぶり窓から外の景色を眺める。学園都市には人工の湖など色々な自然が存在したが、やはり天然のものには敵わない。

ゆっくりと体を起こしベッドの脇に掛けておいた杖をつき顔を洗いに行く。洗面所の場所は昨日トイレに行ったので分かっており雫に聞く必要はない。

洗面所で顔を洗い終えリビングルームに向かっていると朝から騒がしいほどの会話が聞こえた。

 

 

(朝っぱらからうっせェな。少しは黙って動けねェのかよ)

 

 

そう思案しながら扉を押すと一方通行の知らない男性がそこにはいた。彼は一方通行を見るとすぐさま駆け寄って来る。

赤い目や白い髪を軽く視界に入れ、その後は服や杖に目を向けている。

 

 

「君が一方通行だね。今さっき雫に聞いたばかりだよ。突然で申し訳ないんだけれど、君が乗ってきた宇宙船について詳しく話してくれるかい?」

 

 

雫の父親、北山潮は一方通行に友好的とは言い難い話し方であった。


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