魔法のあくせられーた   作:sfilo

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遅くなりました。


19

崩落した瓦礫群から森崎ら3人が担架に乗せられ救急治療室へ運ばれていく。その映像を見ていた一方通行は慌ただしく動いている周りの生徒に目を配る。本部に行くという生徒や情報収集に勤しむ生徒、様々だった。空になった缶コーヒーをゴミ箱に捨て事後の放送が流れているテレビに目をやる。事態は非常に厳しいようだった。その時向こうで話していた雫と深雪が彼の元へとやってくる。

 

 

「一方通行、九校戦にいたんだね。元気にしてた?」

 

 

モノリスの事故と今まで姿を見せなかった一方通行への不満が両方彼にのしかかる。皮肉めいている。しかしそのような子供っぽい態度であっても一方通行は気にしない。

 

 

「あァ、森崎達が事故ったらしィな。運が悪いな」

 

 

心にも思ってない事、とは確定出来ないがあっさりとした言葉がスラスラ出てくる。

彼女らと話していると突然一方通行が呼び止められる。彼を呼んだ相手は十文字克人であった。彼は一方通行に一緒に運営委員本部へと行くように言い、連行していった。能力を使えば容易に振り解ける腕だが一般人に能力の使用は極力避けている(使う時には容赦はしない)ので仕方なくついて行った。

本部と呼ばれるホテルのある階に十文字と一方通行はエレベーターで向かう。その間互いに口を動かすことはしなかった。本部へ着くと運営委員やら重役などが待ち受けていた。

 

 

「失礼します、第一高校の十文字にこちらが一方通行です」

 

 

「わざわざすみません、では早速今後のことを話しましょうか」

 

 

運営委員の中でも若い役員が彼らを席につかせ話し合いが始まった。内容は今後の一高のモノリスチームの事から始まった。マニュアルでは不戦敗にして退場させるのが通例だが、レギュレーション違反が過ぎるのと運営委員の不手際もありどう判断するのか定まっていなかった。

そんな中委員から一つの提案がなされる。

 

 

「十文字君、私は君達に代替チームを編成させ明日にプログラムを移してもいいと思っている。ただその代わりメンバーに一方通行君を入れるのが条件だ」

 

 

何故一方通行が条件なのだろうか。そう思った十文字は委員に尋ねるとその委員は苦笑混じりに理由を話す。

 

 

「いやぁこっちにも少し事情があるんだよ。日本のCAD企業の大半から一方通行のCAD技術の公開を迫られていてね。何時もはそんなこと出来ないって跳ね除けられるんだけど今回は向こうの数が多過ぎる。強引にも盗んでこようとした輩も出てきたわけだしね、昨日に。そこで一方通行君を出場させて企業の人間達を黙らせたいと思ったわけだ」

 

 

自分たちの仕事を増やしたくないと言うことだろう。そんな事を聞いているうち一方通行にどうかという願いが出された。

 

 

「しかしが一方通行を新人戦のモノリス・コードに出場するには身体的障害があります。これを考慮して自分達は出場させなかったんです。そちらの事情も分かりますが一方通行には少し厳しいかと」

 

 

十文字は言い分を上手く回避して自由なメンバーでのチームの再編成を申し込むが相手は強情である。

 

 

「分かってますよ、ルールも少し変えます。ですから何卒お願いできませんかね?」

 

 

これでは交渉にならない。そう考えた十文字は隣で会話をずっと聞いていた一方通行に視線をやる。何一つ変わらないその赤目は何を見据えているのだろう。

 

 

「一方通行、どうする。俺からはもう何も言うことは無い。お前が出るのであればチームを組もう、だが出たくないのであればそれで構わん。新人戦を放棄しても総合優勝は十分に狙える」

 

 

ここに来て一方通行に選択権が渡る。

既に決まっている。

 

 

「俺が出れば目障りな糞共がいなくなるのか」

 

 

「は?あ、君のCADを狙う人間という事か。ああ、努力はするよ。君が出ればそういう輩はいなくなるだろう」

 

 

この一言が欲しかった訳ではないが見合う回答は得られた。彼は十文字に残りのメンバーを決めて来いと命令する。その言葉で十文字は部屋から退出し一方通行は委員とルールの編集を行った。

 

 

***

 

 

ルール改正(一方通行用)を終えた一方通行は部屋から出てコーヒーで一息つく。彼がモノリスに出場しようと思ったきっかけはいくつかあるがその中でも有力なのは自らの新CADの調整。オーストラリアでは自分の能力だけで掃討していたが、いつ学園都市に樹形図の設計者を止められるかわからない。そのためいつでも魔法が使える状態にしておかなければならない。

次に有力なのは彼に突っかかって来た司波達也、一条将輝、吉祥寺真紅郎、この3人の能力を見ておきたかったという事。この世界に来て未元物質の様に能力の隙を突かれるということはまだ無いが、いつそれが起きてもおかしくはないと思っている。一方通行が見立てたこの3人には多少の可能性が残っている。今の一校が一年で司波達也を出さない訳がない。心配事の芽は早めに摘むべきである。

缶コーヒーをゴミ箱に放り投げ運営本部のホテルを後にする。

時刻は既に午後3時を過ぎていた。CADの動作を確認するためホテルに戻る。

そして数時間後、調整に時間をかけ首のチョーカーとの接続も確認した一方通行に連絡が入る。内容はメンバーの決定と作戦会議をするため集まれということだった。彼は部屋の扉を開け指定された部屋に移動する。

杖を利用して移動した後彼は部屋へと入る。そこには同じ一年という枠組みの人間がいる。しかし一科生は誰もいなかった。

 

 

「意外と早かったんだな、一方通行」

 

 

部屋に入った途端達也に嫌味?を言われる。彼の周りにはいつしか見た生徒がいる。

一方通行は記憶の片隅を再生させる。入学当初の真由美に連行された時に一緒にいた二科生だ。

 

 

「で、残りのメンバーはどっちだ。モノリスは3人で一チームだろ」

 

 

一方通行の目の前には男性が2人いて片方は先程思い出した人間達に含まれる。

 

 

「吉田幹比古という名前だ。安心しろ、実力は保証する」

 

 

達也が紹介すると紹介された人物が一方通行に握手を求めてくる。一方通行は無下にすることもなく杖を利用していない左手で応答する。その他にもレオ、エリカ、美月という人間を紹介された。

 

 

「早速で悪いんだがある程度の作戦は考えておいたんだが問題はあるか?幹比古には説明したが一方通行、お前はディフェンスの役割を担ってもらう。オフェンスは俺、幹比古は遊撃だ」

 

 

一方通行に向けられた達也の言葉、一方通行自身が考えていたよりよっぽど頭が切れるようだった。彼は適当に頷き部屋に備わっている椅子に腰を下ろす。

 

 

「アンタって結構面倒見がいいのね、雫から聞いたけどあの子の世話係なんでしょ」

 

 

エリカが一方通行に話しかけてくる。どうやら彼は雫の目に見えない攻撃を受けているらしい。何かした覚えはないが確実に被害はある。

エリカの声をあっさりと受け流し達也に自身の役割を再度確認する。

 

 

「それじゃ俺はもう寝る。別にここにいても意味ねェ」

 

 

残りのメンバーの確認が出来ただけで十分に感じていた一方通行はやる気のなさそうな顔をしながら扉に手をかける。

 

 

「CADの準備はいいのか?スピード・シューティングで使ったCADを使うなら再調整するぞ」

 

 

達也にCADを見せるように促された一方通行だがそれを断り一人退出する。

その直後あらゆる道具を持ち込んであずさが部屋に入ってくる。

 

 

「これがウェアに防護服です。ってあれ?一方通行さんはどこに行ったんですか?彼の分も用意したんですが」

 

 

達也は彼女に礼を言い一方通行は既に部屋を出ていった事を伝える。その言葉を聞いた彼女は残念そうに肩を落とす。

 

 

「そうですか...初日のようなCADが見れると思ったんですが残念です。それじゃあ一方通行さんは何のCADを使うんでしょうか」

 

 

疑問を頭に浮かべるあずさに達也は大人のように優しく教える。

 

 

「準備は出来ているらしいですよ。それよりも幹比古、CADの調整をするぞ」

 

 

あずさが持って来た機材が揃ったことにより調整が始められる。慌ただしく動く部屋の中であずさは一人不安を抱えていた。

 

 

(一方通行さんの作業車って無くなってるよね。結構前から見当たらないし、どうするんだろう...)

 

 

***

 

 

新人戦5日目、モノリスの試合会場は大いに荒れていた。一高の特例措置のせいでもあるが問題は中身。本戦のスピード・シューティングに出場しそれ以降全く姿を現さなかった一方通行が出場するとあり、席はまだ会場前なのに満席になっている。さらに観客を驚かせたのは対一方通行用ルールである。事前に公表されているらしくパンフレットを片手に持つ観客が数多見られる。

一高対八高の試合が始まる。

ディフェンスの一方通行はモノリスの付近に棒立ちしている。プロテクションスーツなど着ていないしヘルメットも付けていない。彼の能力の前ではどんな防護服も敵わない。

それをモニター越しに見る大勢の人間はいくらルール変更でも無茶だと思った。さらにパンフレットには一方通行に対する殺傷ランクは無視されており、どんな攻撃が来るのか分からない。

 

 

「彼が出るって聞いたけどこんな無茶苦茶ルールじゃないと出ないっていう神経はおかしいわ」

 

 

雫の隣に座っていた深雪は一方通行に対し多少の心配を寄せる。それを雫は余り心配視していない。

 

 

「大丈夫だよ、深雪。一方通行は絶対に負けない」

 

 

頑なに持つその意志はどこからやって来るのか聞きたかった深雪だが、モニターでは彼の兄がモノリスにコードを撃ち込んだ。

試合が続くにつれ八高のオフェンスが一高のモノリスに辿り着く。一高の専用席からは直視できる場所にモノリスと一方通行が存在している。

次の瞬間オフェンスからモノリスへ鍵となる術式が飛んできた。それを見て一方通行は何もしない。モノリスが鍵を読み込み開かれる。

 

 

「やる気あるのか!真面目にやれ!」

 

 

他の一高の応援団からヤジが飛ぶ。それと同時に一方通行に対し彼の行動を止めるべく圧縮空気弾を何発も飛ばす。その術式が展開されてるのを流し目で確認した一方通行はやはり何もしない。展開された魔法を応援席にいる大勢の人間は確認できる。誰もが一方通行のやる気の無さにイライラし飛んできた魔法も当たるだろうと確信していた。

事実一方通行に空気弾は直撃した。否、彼の反射膜に直撃した。固定位置から魔法を発動し空気弾を撃っても移動しなかったオフェンスは空気弾をもろに喰らう。

観客席にいるCADの技術者や他に魔法に精通する玄人も目を疑った。飛んでくる魔法を対処する魔法はいくらでもある。しかしそのまま魔法を跳ね返すとなると術式は限られるし、何より相手の魔法を逐一解析して反射魔法を構築しなければならないので現実味が無い。しかし目の前で起きた事は何で証明できるのだろう。

そんな観客の様子をやっと気づいた一方通行。

 

 

「やっぱり音切るのはハンデが過ぎるな。結局人間狙ってくるのかよ」

 

 

寝起きのように魔法を発現したことすら記憶が定かでは無い。無意識下の出来事である。

しかし彼のチョーカーは作動していない。だが反射が適用されている。その理由は彼の完成形CADのおかげだった。CADを適用している限り一方通行のベクトル変換能力を元来の10分の1だがチョーカーの電極を使わずに発動することが出来る。ただし制約として魔法としてこの世界にベクトル変換能力を出現させるため、サイオンが常に放出されている状態にあり枯渇が心配される。そして本来の力を十分に発揮できるわけではないので、大質量やエネルギーが大きくなったものなどは対応出来るかどうか不明である。

だがそれでも今はこれでいい。

自らの空気弾を喰らい痛みを我慢していたオフェンスに一方通行が触れたモノリスが飛んで来る。その直後被害者の視界は真っ黒になった。

応援席、そこは驚きと恐怖の渦に巻き込まれていた。飛んで来た魔法を無効化したことはまだ認めよう。だが一方通行が触れたモノリスが飛んでいくことをどう説明しよう。式は展開された、だが余りにも異常過ぎる。視線が一方通行に移っているうちに達也がコードを入力し勝利する。

喜びよりも不安の方が大きかったのは言うまでもない。




このペースかと

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