魔法のあくせられーた   作:sfilo

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控え室は達也らにそわそわした幹比古は一言言えない環境であった。そこに一方通行の姿はない。彼は缶コーヒーを買いに行ったきり戻ってこないのである。そこに入って来た真由美らは一方通行が戻るまで試合会場を言うのを待っていた。

数分の後にやってきた一方通行の姿を確認し試合会場が市街地ステージであることを伝える。その旨を聞いた一方通行はある判断を下した。

 

 

「オイ、司波、幹比古、作戦変更だ」

 

 

その言葉は何を意味するのか。丁寧な判断が出来ない達也はその言葉を丸呑みする。

 

 

「俺がオフェンス、お前ら2人はディフェンスだ」

 

 

「市街地でお前がオフェンスをする理由を聞きたいんだが」

 

 

達也は頭に血を巡らせる。一方通行の思惑は一体何なのか。

 

 

「この地形なら俺の力を十分に出し尽くせる」

 

 

手元にあるCADをカチャカチャと弄りながら理由を説明する。力を十分に出せると言ってもレギュレーションに違反するような事は出来ない。廃ビルをすべて倒壊させるというようなことは絶対にやってはいけない。

そんなことも知らない達也は別に一方通行の提案を無視する理由もないのでその案を採用する。

 

 

***

 

 

一高対二高の試合が始まった。中継を見ている試合会場の人間は先程の対八高戦よりも多くなっていた。もちろん理由は一方通行と司波達也、両人の活躍を見るためである。新人戦のデバイス関係で他校を圧倒した司波達也。本戦スピード・シューティングにおいて固定概念を崩壊させた一方通行。

しかし試合が始まったのにも関わらず一高モノリス付近にはチーム全員が集まっていた。

 

 

「次の作戦は一方通行がオフェンスのはずだけど動きは全くないわね」

 

 

深雪が兄と一高の行く末を心配する。一方通行がオフェンスという情報は控え室にいた彼女が知っていたわけであり、隣にいた雫、ほのかは一瞬青ざめた様な顔つきをしてしまう。それを見逃さなかった深雪はどうかしたのか尋ねる。

 

 

「え、何でもないよ。ただオフェンスが一方通行なら二高の人が心配だと思っただけ」

 

 

ほのかも似たようなことを言うので不思議に思った深雪だがパネルに進展が見られた。

一高モノリスに接近してきた二高のオフェンスがオフェンスなのにモノリス付近で待機していた一方通行に捕まった。暴れる二高の選手を構うことなく首を掴み軽々と持ち上げる。

 

 

『モノリスは何処だ?』

 

 

相手チームの人間を捕まえてモノリスの場所を尋ねるというようなことは今まで無かった。なぜなら尋ねても答えるわけがないし尋問をやればルール違反で終了である。

しかし一方通行は尋問に近いある種の方法で情報を引き出す。

 

 

『答えねェンならそれでいい。無反応でも構わねェ。俺の言葉を聞いているだけでいい。脳が勝手に判断してくれンだからなァ』

 

 

ニタリと笑った一方通行は演算量を大幅に増量させるためにCADと共にチョーカーのスイッチを入れる。

この瞬間CADの開発者が言っていたことを思い出した。能力発現と共に使えば本当の力を手に入れることが出来る。全盛期に及ぶ演算能力を手にした一方通行はロシアで身に付けた技術を披露する。

人間の生体電気とホルモン量様々な情報を質問時と質問後で比べ脳から直接情報を読み取る。ベクトルを操る能力が本領ではない。観測、再算出し限りなく本物に近い値を叩きだすのが本当の能力。番外個体が電気的信号を読み取った時と同様一方通行もその真似をする。

そして場所がわかった一方通行は空中で気絶していた相手選手のヘルメットを脱がせ、自身の電極を切り当ビルの屋上へ上がる。

目標位置まで6棟程ビルが連なっていた。しかし屋上の一方通行はそんなことを無視して飛び上がる。走り幅跳びでもしたのだろうか、それほど軽い感覚で一方通行はビルを通り越していく。

観客の大勢は一方通行の足元に展開された起動式に頭を悩ませていた。あれ程小さな魔法式で何故あんな跳躍力が身に付くのだろう。それに着陸した一方通行には傷一つない。魔法でいくら衝撃力を吸収できたとしても、体を屈めるということぐらいする筈である。しかし彼はそんなことはしない。いつの間にか出した杖で体を支えているだけ。勿論屋上には下の階へと至る階段などない。彼は自身を支えていた杖を収縮させ邪魔にならないように収納する。

次の瞬間彼の足下に魔法式が展開されコンクリートが崩壊する。このような小さな破壊はレギュレーションに違反しない。

CADを片手に握りながらゆっくりと歩きモノリスを探していく。

その様子を三高陣地で見ていた2人は予想されなかった展開に酷く驚いていた。

 

 

「ジョージ!ここ1年の魔法実験を調べ上げるんだ。俺は古式魔法関連を当たってみる」

 

 

彼らのサポートをする生徒もずっと検索端末とにらめっこをしている。検索対象は勿論一方通行。しかし出身中学や一高における情報など基本パラメータしか浮かび上がってこない。一高対八高の試合を見て司波達也を意識していたが、二高との戦闘において注目すべき対象は移った。

魔法の根幹的な部分が欠如している。将輝が一方通行の魔法を見て初めに思った感想はこれに尽きる。反射魔法は現代魔法においても適用される機会はあるが、それは向かってくる術式が分かっている場合のみ。

それに加えありえない程小さな起動式で発現できる魔法の力。サイオン量もそれほど消費しないだろう。

寒気が彼の背中を走り抜ける。

そして三高全体の活動が盛り上がっていく。

相反して静かな一高応援席。ディフェンスの様子も映し出されているが、軽い足取りでモノリスを探す一方通行の姿が映し出された画面の方が大きい。

 

 

「雫、彼の魔法は一体何なの?加重系で括るには余りにも異質だわ」

 

 

その質問を聞いて彼女は頭を悩ませた。一方通行の魔法に関していつかは聞かれると思っていた。しかしそれに対していつもははぐらかしてきたが限界が近い。ほのかの顔を窺ったが画面を見ていてこちらに気付かない。隠しきれなくなったら伝えていいとは一方通行に聞いている。しかしここで一方通行というカードを切るべきなのだろうか。迷っている雫だが一目深雪を見ると気持ちがすぐに傾いた。

 

 

「一方通行の魔法はBS魔法、これは前から言ってたよね」

 

 

「ええ、でも学校では一般的な魔法も使える貴重な能力なんでしょう」

 

 

「うん、一方通行に元々備わってる能力はベクトル操作。自身に触れたベクトルを全て操作する能力」

 

 

現代魔法にもベクトルを操作する魔法は存在する。しかしそれは対象を指定する。だが自身に触れた全てのベクトルを操作するとはどういう事だろうか。

深雪が思案していると後ろからエリカが話に突っ込んでくる。

 

 

「それってさあ絶対無敵ってこと?」

 

 

単純に考えればそういう事。軽く頷いた雫は視線をパネルに移す。

 

 

「ベクトル操作ってそんなにすげぇのか。初めて知ったぜ」

 

 

「バーカ、アンタには出来ないわよ。いい?ベクトル操作って簡単に言うけど演算量が尋常じゃないのよ。分かってる?」

 

 

何故か言い合いになるエリカとレオを片目に深雪は視線を移す。そこにはモノリスを目の前に歩行する一方通行の姿が映っていた。

 

 

『うおおおおおおおおおお!』

 

 

二高のディフェンス2人は真空刃のような飛来物を飛ばし抵抗するが一方通行には敵わない。そっくりそのまま返ってくるので避けるのに精一杯である。

それに対して一方通行はモノリスにコードを打ち込み羅列された文字を審判委員に報告する。その間も攻撃系の魔法が一方通行を襲うが反射の膜の影響を受ける。そのためコードを報告する前に反射された自分の魔法でディフェンスが自滅してしまった。

サイレンが鳴り試合終了の時間となる。

一高の試合が終了した時観客全員は確信していた。一方通行の魔法反射能力は絶対である。背後から狙ったとしても決して破ることは出来ない。この対策をしない限りモノリス・コードは一高が優勝してしまう。先見の眼差しが無いものはここで判断を終えるだろう。しかしある席では先を見据えていた者がいた。

 

 

「藤林、彼はオーストラリア侵攻軍の筆頭だったか?」

 

 

藤林と呼ばれた可憐な女性は端末から必要な情報を抜き取り答える。

 

 

「ええ、オーストラリアの監視カメラに映っている人物とほぼ一致します。先生...これはどういう事でしょうか」

 

 

彼女の端末に映る情報、キャンベラを崩壊する2人の人間。このうちの一人が日本にいる。入国審査が昔よりも驚くほど厳しくなった日本で違法入国などすぐに捕まってしまう。しかもオーストラリアから来たとなれば入国するのは一手間二手間かかるだろう。それなのに日本にいる。

 

 

「我々もオーストラリアから協力を仰がれたが今は手出し出来ん。それにしてもこんな人材が日本の高校に隠れているとは驚いたものだな。それにアイツと同じ高校の1年とはこれは運命の悪戯に思えるな、ん?どうした藤林」

 

 

隣で端末に釘付けになっている女性を見て今まで話していた山中は疑問に思う。

そんな彼女が見ていた映像は恐怖という単語で塗り替えられる、そんな一言で表せた。シドニー、キャンベラとオーストラリアの重要都市が2人の人間によって崩壊されていく様を監視カメラを通して確認する。

 

 

「改めて思いますがやはり彼を確保した方がいいと思います。彼の能力は危険過ぎます」

 

 

地面を割って大量のオーストラリア軍人を地の底へ陥れた光景を山中に見せながら彼女は呟く。

 

 

「そう言うがな、これだけの証拠があるのにも関わらず我々に何の指令が来ないのだ。どうすることも出来ないだろう」

 

 

正体不明の白い人間を分析しながら2人は彼らの部下の話に移った。

そんな外部の様子を気にしない一方通行は試合終了後端末に連絡が入っていることに気付きボタンを押す。

 

 

『一方通行、能力を使うのはいいが既に多くの人間にバレているぞ。お前には重要な作戦が残っているんだ、それまで捕まるような事は避けてくれ』

 

 

何時ぞやの空間移動者の声だった。

 

 

「ハン、お前に連絡が取れれば一瞬で離脱出来るンだから別に構わねェだろ」

 

 

電話口の向こうから溜息が聞こえたがそれを無視する一方通行。

 

 

『まあいい、お前にはまだ仕事が残っているという事を自覚してくれ』

 

 

ここで通話が途切れた。一方通行は試合で消費した電力を補おうと充電できる場所を探し歩き始めた。




20で九校戦終わらせようと思いましたが無理でした

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