魔法のあくせられーた   作:sfilo

22 / 40
21

決勝戦へと進んだのは一高と三高の2校だった。対戦する場所は草原ステージ。その場所へと両選手は入場する。司波達也の2丁拳銃を当たり前のように感じる観客だが、未だに一方通行の特異な魔法には違和感を感じている。

ブザーが鳴り試合開始の合図が観衆に響き渡る。その時点から砲撃戦が始まった。だが一方通行は身動き一つしない。砲撃戦を行っている張本人、司波達也の魔法を吟味しながらモノリスを守る。

今回の作戦はオフェンスが達也、ディフェンスが一方通行、幹比古というフォーメーションだった。もしも達也が戦闘不能になったら一方通行が出るという立ち位置である。そのため今動く必要は無い。

対する三高も初めは将輝が達也と対峙しているがある事に疑問に思っていた。

 

 

(どうして一方通行が出て来ないんだ。ディフェンスに奴が居るならジョージでは無理だ。早くコイツを倒して援護に行かないと)

 

 

空気弾の魔法が発動されるが達也の術式解体で防がれてしまう。

そんな様子を傍から眺めていた一方通行。彼はサイオンを視覚的に認識する術は無いので何が起こっているかは魔法的には分からない。しかしCADを起動させている今、周囲のベクトルを感知して二人の攻防の様子を調べる。そんな流暢に構えていると向こう20メートル先に以前見かけた背の小さい方の生徒が立っていた。両者が戦闘を開始する。

吉祥寺の作戦は単純だった。彼の予見では一方通行がどんな魔法を使っているか分からない。しかし先程の試合で放たれた魔法をすべて返しているとは思わなかった。

 

 

(大質量かつ多角的な攻撃、これが僕の作戦だ!)

 

 

吉祥寺の魔法、『不可視の弾丸』が一方通行を囲むように展開される。計32発、レギュレーション無視だが一方通行に対しては関係がない。土埃が彼の体の周りを囲む。

観客は将輝対達也を見ている者と一方通行対吉祥寺を見ている者に分かれていた。その内の一部、真由美は煙が晴れた一方通行の姿を確認し唖然としていた。

無傷、傷一つつかない白い体の一方通行を見て一高本部にいた幹部らは驚きを顔に示す。向かってきた魔法が全て同じと言っても方向が異なるので防御しづらいし、『不可視の弾丸』と言う目に見えない攻撃魔法をいとも簡単に凌いで見せた。

 

 

「これでまだあの時に見せた白翼を見せていないでしょう?一体何者なの?」

 

 

真由美の言葉はすぐに映像にかき消された。達也が将輝の空気弾の直撃を受けたのだ。しかし彼は倒れない、すぐさま腕を伸ばし指を鳴らす。空気の振動が会場を支配する。

一条将輝が倒れた。三高の軸となる人間が負けた。これは達也達にとって大きな利点となる。だがそれと引き換えに達也は暫く動けない状態になっていた。それを見た幹比古は吉祥寺への反抗を開始する。

ある観客席、そこには白衣を着た研究者らしい女性とそのペットだろうかゴールデンレトリバーが佇んでいた。

 

 

「いやー先生、あれが魔法ですか。エイドスやらイデアやら凄いことになってますね」

 

 

双眼鏡を装備し試合会場を見つめながら女性は虚空に呟く。それに対応したのか、人口音声がゴールデンレトリバーの方から発せられた。

 

 

『まあ学園都市に無いものが存在する世界だからこちらの物理法則が適用するとも限らない。学園都市のDD社は既に魔法関連の報告書を上げているようだし解析もまもなく一段落つくだろう』

 

 

「私の発言は無視ですか、そうですか」

 

 

夏の日差しを気にすることもなく日照化の中ある犬からの講義は続く。

 

 

『一方通行にはこの世界の役割が確立している。アレイスターは連れ戻せと言ったが不可能だろう。それよりも私が気にしているのはあの司波達也という男だ。君も見ただろう、一瞬で体の傷を回復する能力。あれも魔法だというのならこの世界の人間は全員不死身か?』

 

 

「それはないと思いますよー。対戦相手の一条将輝って人は普通に倒れてますし特殊な能力なんじゃないですかね。」

 

 

それもそうか、と言葉を吐き出す。周りの人間は驚いている様子はない。

そのペットの飼い主である木原唯一は双眼鏡を外し手元に置いてあった飲み物に口をつける。

 

 

「先生もどうです?」

 

 

結構、と言い試合を見ている。吉祥寺が一方通行を突破出来ず幹比古が攻撃するという2対1の構成になっていた。

 

 

『勝負ありと言ったところかね。一方通行の能力にを打開する手立てがないと見える。それに一高のもう一人の生徒もなかなかの魔法使いじゃないか。さあ唯一君、こちらの世界の『木原』を集めるまでもう少しだ、急ごうか』

 

 

満足したように席から離れる2人。彼らは一方通行を回収せずにゲートを抜けるとワーッという歓声が湧き立つ。

その音に紛れある人物が接近してきた。

 

 

『我々からのメッセージは届いたかね?九島烈』

 

 

何かしらの擬態魔法を使っているのか周りの人間は彼が九島烈だとは認識出来ていない。木原唯一は興味が湧いた木原脳幹の邪魔をしないよう一歩手前に下がり彼らについていく。

 

 

「ああ、勿論。君達の世界の事もこっちで出来る限り調べているよ。アレイスターは元気かね?」

 

 

脳幹の歩くペースに少しの戸惑いも見せない老師だがそんなことを気にしている状態ではない。

 

 

『元気にやっているさ。最近は体の3分の1を削られて帰ってきたが何とかなっているよ。勿論君の知るアレイスターではないがね。二十年戦争、第三次世界大戦、これらにカモフラージュしてこの世界のアレイスターを殺したなんて魔法師は信じるのだろうか』

 

 

九島は答えない。彼が活躍した大戦はたった一人の人間を殺すためだけに用意された舞台であることも、20年に渡り追い詰め死体も確認したこと。頷くこともしない。

それに関係なくどんどん饒舌になっていく脳幹の口の動きは止まらない。

 

 

『魔法、君達は科学力の結晶のように扱っているが本質は未だに分かっていない。まあ我々も調査し始めてすぐだから同じだがね。だがその力の代償を払っているということに気づいているのだろう?』

 

 

ピクリと九島の眉が動いた。それを見逃す程脳幹は甘くは無い。

 

 

『迎えがすぐそこまで来ている。今日はこれでサヨナラだな、九島老師。またいずれ会うだろうが、その時はこんな穏やかな状況ではないだろう』

 

 

そう言うと彼は助手の唯一に合図し一緒に九島から離れていく。それを見送った九島は口にする事が出来ない焦りと不安に悩まされる。

 

 

***

 

 

試合の結果として優勝したのは一高だった。怪我を負いながらも健闘したので治療が必要な生徒が2人ほどいたが、取り敢えず勝ててよかったというのが一高全体の考えだった。その中でも唯一怪我をしていない一方通行、彼は試合が終わってせかせかと動く周りの様子を眺めていた。達也の怪我の治療や幹比古の治療などが一時的にではあるが控え室で行われる。すると彼の隣に生徒会長、七草真由美が座ってくる。

 

 

「何だよ、怪我人の世話でもしてこいってオイ聞いてンのか?オマエ、オイやめろ...やめろって言ってンだろ!!」

 

 

いきなり体をペタペタと触られ真由美の体をどかそうとするが能力を使用していない現在、若干年上の女性よりも筋力が劣っている彼に思った以上の力はなかった。彼女のような一般に近い人間に対して反射を適用するのは彼の考えに些か反する。そのまま真由美は触りながら一方通行に質問する。

 

 

「怪我は無いみたいだけど魔法痕も全くないわね。三高のカーテナル・ジョージからあれだけ『不可視の弾丸』を受けたのにどうして何も無いのかしら」

 

 

それを確かめるだけなら別に触らなくても、と2人の小さい争いを遠目で見ていたあずさ。

一方通行は真由美の悪手が緩まった一瞬を見計らいその場から逃げ出す。

 

 

「会長、一方通行に構い過ぎです。彼も嫌がっているでしょう、控えて下さい」

 

 

冷たい目線と睨み付けるような厳しい視線で生徒会会計かつ九校戦の作戦の担当でもある鈴音は真由美を叱る。それに彼女は無茶苦茶な理論で反論しようとした。

 

 

「だって」

 

 

「言い訳は聞きたくありません」

 

 

バッサリと意見を切り鈴音は去っていった。

この光景を控え室にいた生徒は皆当然だと感じていた。

 

 

***

 

 

丁度同じ時間帯、場所は違うといえどもこの試合結果に悩まされる集団がいた。

 

 

「クソッ、一高が優勝しただと?ふざけるんじゃない。これでは総合優勝も一高だぞ」

 

 

円卓を囲んだある1人の中華系の男が机を叩きながら暴言を吐く。それに呼応するかのようにリーダー格の男は一つの提案をした。

 

 

「こうなっては仕方が無い、これから先の事を考えよう。私はプランδ、プランγの同時実行を提案する」

 

 

周りの人間からは驚きとそれしかないのかという呟きが聞こえる。誰も異を唱える者はいなかった。というよりもうこれしかないという諦めの意思もあるのだろうか。

 

 

「我々の損失を上回る価値のある人間を確保し本部に持ち帰り我々の活躍をそれで隠す。対象は一方通行、現代魔法史上初となる反射魔法を随時展開出来る人間だ」

 

 

彼らは一方通行を利用し自らの命を長らえさせるつもりだった。

 

 

「それがプランδ、プランγは大会自体を中止させることだ。一方通行を捕らえた後そのジェネレーターを再利用し大会を進行不可能な状態までに破壊させる。これで我々が支払う金額は最小限になる。我々が生き残るにはこれしかない」

 

 

焦ったように額に一つの滴を垂らしながら早口に説明する。周囲の人間は頷いたり額を手で抑え半ば諦めているように思われる。

 

 

「実行は明日、こちらのジェネレーターを殆ど投入する。我々の護衛に少し残し他は全て一方通行確保に稼働させる。いいな?」

 

 

そこに1人の幹部らしき人間が意見を上げる。

 

 

「一方通行は反射魔法を随時展開出来るはずではなかったか?それなら対抗策はしっかりあるんだろうな」

 

 

苦汁を舐めたような顔をするリーダーは苦し紛れに返答した。

 

 

「分からない、反射魔法がどの程度の範囲まで及ぶのかは全く予想がつかない。では一体は大会を崩壊させるのに専念させる」

 

 

まともな返答では無かったが質問者は安心してしまった。それほどに彼らは追い詰められていたが、彼らは明日理解してしまうだろう。

手を出した人間は人間と呼べるに相応しいかどうかを。




ルビ振りってした方がいいでしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。