魔法のあくせられーた   作:sfilo

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少し遅くなりました。


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グチャグチャとは言わないが身体機能を失った体を越えて一方通行は立ち上がる。それを警戒し臨時の戦闘体制を整えた3人だったがあまりにも遅過ぎた。

恐るべき速度で一方通行は捕まっている17号に突き進み指を食い込ませる。抵抗する手段のないジェネレーターは体をピクピク動かすだけ、ベクトル操作の力によりその男の体内を流れる血液が反転した。

その動作にいち早く反応した真田だったがその場を離れるので精一杯だった。それに続き柳と藤林も一方通行と距離をとる。

傍から光景を見た彼らは異常な事態を再確認する。空中から水滴を垂らし地面に着地した時のような水の拡散、それに似たことが赤い血液で起きたのだ。その中心にいた一方通行は依然として白いまま。食い込ませた指を肉塊から離し白い悪魔は辺りを見渡す。襲ってきた大男とは異なるところに属していると思われる3人がこちらを窺っていた。

一方通行は襲って来ない3人を見て彼を襲った人間側ではないことを確信する。ピリピリとした空気感が彼らを包むが、それを無視して彼はチョーカーの電源を切り杖をつき始める。遺体の事など一切気にせず自分がいた観客席へと足を進める。

それに対し足が棒のように固く動かなくなっている3人は驚きのあまり話すことも出来なかった。一方通行の姿が消え去り体を圧迫していた何かがスッと下りるように体が軽くなる。

 

 

「あれが一方通行か......」

 

 

柳は彼の後を追ったりはしない。今の彼では手も足も出ないだろう、そのことを完全に自覚しているのでやるべき事をやる。

周囲に封鎖線を敷きこの一画に立ち入り出来ないようにする。その間彼らは一方通行のことを調べていた。

 

 

「野放しにしておいていいのか?殺人であることに変わりはないだろう。彼から事情を聞くことは出来るはずでは?」

 

 

真田は一方通行のプロフィール情報を端末で眺めながら2人に言うが藤林から意外な事実を知らされる。

 

 

「無理ですね、警察が介入する手段を持ち合わせていません。政府高官から抑えられています」

 

 

驚くべき情報、一方通行が国の上層部から支援を受けている事。だがこれだと納得がいく。一般プロフィールしか情報が流されていないことやこれだけ暴れても公安がいち早く動かない。軍用基地で行っているということで後者はいまいち説得に欠けるが。

続けて藤林はさらなる分析結果を伝える。

 

 

「それに独立魔装部隊の権限を用いても不可能だと思います。こちらの秘匿主義もありますが彼にかかっているプロテクトが異常です。一見したところ普通のセキュリティに思われますが、私個人の観点からすると彼の情報は常に改変が行われています。考えられません」

 

 

機械情報に疎い真田と柳は詳しく聞くことにした。

 

 

「わかるように言いましょうか、ハッキリ言って彼の情報を操作している何かしらの機構は資産をドブに捨てているようなものです。情報を常に改変するということはそれだけ高性能なコンピュータ或いは電子系魔法を常時働かせなければなりません。逐一情報を発するのであれば何も問題はありませんが人間の発する情報など予測できません。ですから運用費が尋常じゃない、よって彼を匿う組織は政府高官とは別の国家規模相当であると考えた方が妥当です」

 

 

呪文のように繰り返された藤林の言葉に頷くだけで2人はジェネレーターの操作に移った。

所変わって一方通行、彼は彼を襲った男を殺した後自席に戻ろうとしていた。試合会場内は既に人が疎らになっていた。それもそのはず試合は終わり、試合が終わってある程度時間が経ったのだ。一方通行は歩く速度が一般人よりも早いとは言えないため時間もかかる。

ではなぜ一方通行が試合を鑑賞する席へと戻ってきたのか、それはCADを置いてきてしまっていたからだ。腰に挿していたが空へと駆け上がった拍子に落としてしまっていた。

入口のゲートから階段を上り一段落つき手すりに寄り自分がいた席を確認する。そこには未だ1年生の集団が存在していた。

席の近くに来るとエリカがいち早く気付き一方通行を心配する。

 

 

「アンタさっき襲われたみたいだけど大丈夫だったの?急に空飛んでっちゃうからビックリしたわ」

 

 

「別に心配いらねェ」

 

 

他の心配する声や視線を無視し彼はCADを拾い席から離れる。決勝戦は夜に近い時刻に行われるためここにいても仕方ない。

一足早く自室に戻り昼食を済ませようとしたが雫とほのかに捕まって完全な自由行動をすることが出来なくなってしまった。

 

 

***

 

 

同時刻、ジェネレーターを送り込んだテロ行為を企む集団は全員が席についたまま息をしていなかった。一方通行の驚くべき戦闘力への畏怖や独立魔装部隊に確保され悔しがっている様子では無い。

生命として息をしていないのだ。

同ビルから出てきた1人の女性、木原唯一は現代ではあまり見られなくなったスマートフォンと呼ばれる携帯端末を耳に当てる。

 

 

「先生の言う通り一方通行にちょっかいを出した人間は皆殺しにしておきました。増援部隊の方もそろそろ処理される模様です」

 

 

『御苦労、こちらも見込みのある木原は全員確保したつもりだ。ではここで解散としよう、君はジェネレーターの始末が確認され次第帰還してくれ』

 

 

分かりました、と日本人特有の携帯を用いても礼をする態度をみせ上司との連絡を終わらせる。

この作戦は本来は無かったのだが、一方通行のイレギュラーを極力減らすため追加されたものだった。唯一自身この作戦は既に遅過ぎたと見ている。

 

 

(一方通行関連のイレギュラー阻止って遅すぎるでしょ。この世界に飛ばされた事が判明するまで何日かかったと思ってんのか......それに時間の流れが早いこっち側で事態を考えてる人間が少な過ぎ、こんなんじゃいつまで経っても一方通行をサルベージすることなんて出来ないじゃん)

 

 

彼女の思惑道理にいっていない現状を嘆いてはいないが不満気な様子である。しかし気分を切り替え現在の戦闘地域へ移動する。

その夜に訪れた襲撃者が先に襲撃されていたのに気付くにはまだだいぶ時間があった。

 

 

***

 

 

日付は飛んで九高戦最終日、前日のうちに総合優勝が確定していた一高だが、本戦のモノリス・コードも優勝し自他ともに認める優勝校となった。多くの選手が活躍し多くの名場面が彼らの記憶に刻まれる。

そして夕方からホールで始まる後夜祭、始まる時刻ではないが既に多くの生徒や企業の人間が姿を見せていた。そんな場面にも人が集まる場所は限られている。司波深雪、彼女の周辺には多くの著名人や知る人ぞ知る有名人が連なっていた。

しかしそんな時間はあっという間に過ぎて学生のみのダンスパーティーが催される。このダンスパーティーのために用意された演奏者らが自らの楽器を引き始めると、男女の生徒同士手を取り合い次々に踊っていく。

そんなパーティーが始まった直後に一方通行は部屋の扉を開いて中に入る。その周辺の人間らはいつもと違う彼に対し道を譲った。

その入場に気付いた司波達也は彼の元に近寄る。

 

 

「お前もちゃんと来るんだな」

 

 

皮肉ではないが少し友情のようなものが混ざったような軽い挨拶を繰り出す。一方通行はいつもと違い車椅子を操作し場がゆったりとしていた壁際に移動する。

 

 

「別に来て悪い訳じゃねェからな、それよりテメェは踊らなくていいのか?何の為に此処にいるのか分からねェな」

 

 

お前に言われたくないと心の中で思ったが、今の一方通行を再確認するとそんな心も何処かへ行ってしまった。車椅子の人間に踊れと言うのは酷だろう。

そんな雑談の中一方通行突然話題を変える。

 

 

「今暇だろ、ほのかと踊ってやれ。そこにいるからテメェが誘え」

 

 

それだけ言うと一方通行は手元にあったグラスを手に持ち人混みの中へと消えていく。

この様子をチラチラと見ていたほのかを無下にも出来ず達也は終始一方通行に踊らされたと感じてしまう。

それを片目で眺めた後一方通行はあるテーブルへと向かう。そこには一高とは異なる制服、赤が印象的な三高が集まっていた。その中に他の高校の人間見受けられたが、彼が目的としている人間はすぐに見つかった。

 

 

「ん、一方通行か。なんだその車椅子は」

 

 

吉祥寺は人の塊を掻き分けてこちらへ向かって来た。周りの生徒は一方通行の姿を見るとあまり接触しないよう距離をとる。そんな事は気にせず一方通行は吉祥寺に話しかける。

 

 

「杖の調子が悪くてな、元々踊る気も無かったし別にいいだろう。それより夏の間に1回テメェの研究室を覗いておきたい。暇な日があったら連絡しろ」

 

 

それだけ言うと一高の雫が達也と踊っているのを見た一方通行は帰ろうとした。別に嫉妬という訳ではない、雫に用事があったのだが、ダンスを止めてまで言う必要性のない小さな事だったので諦めたのだ。

しかし魔の手はすぐそこまで迫っていた。

扉を蹴飛ばし開けるが車椅子が前に進まない。レバーで遠隔操作型の車椅子だが人間が取っ手を捕まえている間は無効化される。

 

 

「何帰ろうとしているの?お姉さん寂しいわ」

 

 

捕まってしまった、今の彼は無防備に近い。真由美という一方通行が苦手?としている人間は彼を祝賀会へと運んでいく。

夜はまだまだ騒がしい。

 

 

***

 

 

ほぼ同時期、学園都市のあるマンションで一悶着があった。

 

 

「ずるいずるいずるいー!ってミサカはミサカは番外個体に不正アクセスを試みる!ぎゃー!?反撃されるなんて思いもよらない事実だったり、ってミサカはミサカは意外な事実に驚いてみたり」

 

 

騒がしいというか特徴的な口調の幼女は彼女とそっくりの顔付きをした背の高い女性の足にしがみつく。その対象となった女性は鬱陶しいと思いながらもその監督者、芳川に助言を求める。

 

 

「ミサカだって行きたくて行く訳じゃないんだからさー、それにあの人は仕事でどっかに行ってて今回はそれの確認だけでしょ?別にミサカじゃなくてもいいと思うんだけど」

 

 

キャリーケースを上位個体の生贄に捧げボスッとソファに身を投げる。

 

 

「他の個体は調整が終わってないし最終信号は連れていけない。貴女が適役なのよ」

 

 

仕方ないと呟き生贄に捧げていたキャリーケースを奪い返し玄関に辿り着く番外個体。

 

 

「んじゃいってきまーす、お土産は期待しててね☆」




誤字脱字あったら教えてください。

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