魔法のあくせられーた   作:sfilo

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遅くなりました。


3
23.5


九高戦が終わり生徒らに夏休みが訪れる。九高戦に出場した選手らには課題の減量等の特別措置が施され、残りの夏休みを比較的ゆっくりと過ごせるようになっている。

葉山のマリーナ、夏のある間魔法科高校一年のあるグループは北山雫という少女が所持している小笠原の別荘に厄介になる予定である。集合時間まで少し時間があるがクルーザーには予定の人員はほぼ揃っていた。

 

 

「それでは私はここで失礼するよ、君達も楽しんでいきたまえ」

 

 

北山雫の父親北山潮はポートから乗用車に乗りそそくさと移動する。それと入れ替わるように最後の1組がギリギリではあるが集合時間に間に合った。タクシーから出てくる一人の男の名は一方通行。夏だというのに真っ白な薄手のコートに白いパンツという格好をしていた。この世界では約一年の歳月を過ごした学園都市最強の超能力者。暗部から卒業した身ではあるが一年経っても平穏の味は慣れないらしい。卒業したと言っても完全に離れきってはいないが。

そして後部座席から出てきたもう1人の女性、学園都市第3位の超能力者、御坂美琴のクローンである番外個体。ピンクのアオザイを身に纏いプロポーションの良さが目立つ。元々は一方通行を殺すために製造された個体だったが、複雑な事情があり今はある警備員の元で世話になっている。この世界には一方通行の様子を伺うために少し前の日にやって来た。彼が海へ行くというのを聞いて駄々をこねて着いて来たらしい。そのことを雫には事前に伝えていたので物資に関しては問題は無い。

一方通行は杖をついているためその逆の手に軽い荷物を持ち番外個体はキャリーケースを引きながらやってきた。

 

 

「遅れて悪ィな」

 

 

荷物をクルーザーに乗せ雫へ挨拶する一方通行、その隣に荷物を引っ張ってきた番外個体もいる。

 

 

「ミサカの荷物にアナタの物も入ってるんだから持ってくれてもいいのに」

 

 

「テメェを1人で放っとくと何しでかすか分かンねェから連れてきたンだよ。ッたく勝手にやって来て随分といい身分だな」

 

 

そんな事言うなよー、と番外個体は右腕の肘で一方通行の体をガシガシと突っつく。よろけつつも彼女の攻撃に耐える一方通行に雫は不思議そうに尋ねる。

 

 

「その人が貴方の言ってたもう一人追加するっていう人?」

 

 

「よろしくねー☆ミサカここに来るの初めてだからわからないこと多いかも。あっ、ミサカのことはミサカって呼んでね、この人の事は白モヤシって言うと尻尾振って喜ぶよ」

 

 

そう言って番外個体は自身の能力の象徴である電気を用いて一方通行のチョーカーを操作する。すると彼はその場に倒れ込みなにやらモゾモゾと動き回る。

 

 

「ありゃりゃ、上位個体に教わった秘技がうまく使えないなぁ。初めてだし仕方ないか、それで雫、荷物ってどこに置けばいいわけ?」

 

 

床に這い蹲う一方通行の存在を無視し自らの荷物の置き場を尋ねる番外個体に雫は少々驚きを隠せない様子でいた。数秒したら元に戻していたためいたずらに過ぎないがあまりにも悪質すぎる。

フェリーの上で番外個体は魔法科高校の各々に挨拶をし回った。それが終わると船の上で寝そべっている一方通行の隣にやって来る。手元には2つのアイスコーヒーがグラスに入れられていた。

 

 

「はい、アナタの分。ミルクとか要らなかったでしょ?」

 

 

「ワリィな、って何でテメェ隣に寝転がるンだよ」

 

 

固定されたパラソルの日陰にはもう一つチェアが置かれており番外個体はそこに座り海を眺めていた。学園都市では海を見る機会は全くと言っていいほど存在しないため興味津々であった。一年前の一方通行もそのような気分になった事はあったが、現在ではそれが当たり前となった様な気がしてならない。

 

 

「あの子結構いい子だね。初対面のミサカにも色々誘ってくれる優しい子、悪道に染まったアナタは耐えられたのかな?」

 

 

「何時だったかテメェに話したよな。突っぱねることは簡単だが受け入れる努力をしなくちゃならねェ。俺とオマエじゃ質は違うと言えども表に出るには何とかなるもンだ」

 

 

ストローから黒い液体を口に含みながら隣を見ると彼女は広々とした海に夢中だった。

 

 

「聞いちゃいねェのか」

 

 

「聞いてるよー、まぁ今のアナタは学園都市にいた頃のアナタと全然違うね。ネットワークに繋がらない今の状態が長く続いたらミサカ、どうにかなっちゃうかも☆」

 

 

ウゼェと感じた一方通行だったがその先の思考は停止された。船の揺れが収まりどうやら別荘のある島に着いたらしい。

媒島、一方通行が学園都市から飛来した時に一番近かった島であり雫とほのかと出会った島。浜に降りると美しい砂が敷き渡っていた。他の連中はさっさと着替え海に行くらしい。

 

 

「おうおう兄ちゃん、ミサカの買った水着さっさと出せよ。いつまでも荷物に持ってると変態野郎として歴史に名を残すぜ」

 

 

彼は手に持っていた鞄を番外個体の方に投げつけるが彼女は軽い身のこなしでひらりと回避してしまう。落ちた鞄を手で拾い早速別荘に行って着替えるようだ。

一方通行は白い薄手のコートを来たままビーチに陣取る。パラソルが既に立っていたのでそこを利用させてもらった。

初めにやって来たのは男性陣だった。既に寝転んでいた一方通行に驚いた3人だったがその内の2人は早速泳いでいく。

ほぼ同時刻、別荘内では女性陣が着替えに手間取っていた。特に番外個体は初めて着用する水着であり手際が悪かった。しかしそれを着替えが終わった雫は手伝っていた。

 

 

「雫ありがとー。水着って実際には着たことないからよく分からないんだよね」

 

 

豊満なバストに美しく引き締まったくびれが周囲の目を引きつける。腰から下は薄いロングスカートを着用しており御坂家の美脚は見えないのが悔やまれる。

番外個体が一方通行に支払わせたサンダルを履こうとした時エリカに声をかけられた。

 

 

「ねぇミサカ、ミサカって一方通行の彼女とかなの?」

 

 

興味津々なエリカに対比してビクリと肩を震わせた雫を番外個体は見逃さなかった。彼女の頭の中は悪意に染まっている。ミサカネットワークから悪意を特に引き出す個体であるが、ネットワークがなくてもイタズラ好きの少女であることに変わりはない。

 

 

「ミサカとあの人はヤリ合った仲だよ☆」

 

 

空気が凍りつく。別に深雪が冷却魔法を使ったわけではない。意味深な一言を放り投げ番外個体は1人パパッとビーチへ向かう。

青い海が一面に広がる光景は学園都市では見ることが出来ない。騒いでいる番外個体を一方通行は無理矢理落ち着かせる。それに続いて多くの少女らが浜辺に到達する。彼女らはコート姿の一方通行に心底驚いていた。真夏の暑い日に着用する服装ではない。しかし彼女らが驚いたのは1つでは無かった。何時も仏頂面で何を考えているか分からなく、鋭い視線で相手を見つめる赤い瞳を持つ少年が徹底的に弄られていた。番外個体が一方通行をからかう光景は新鮮であり、先ほど番外個体が言っていた特別な関係と言うのは本当かもしれないと思う女性もいた。

 

 

「ヘイヘイヘーイ、ビーチバレーしようぜ。負けたチームは今夜はミサカの奴隷だぜ☆」

 

 

男子陣を他所に女性陣は別荘暮らしを満喫していた。

時は夕食、午後に少しアクシデントがありほのかと達也はいつもと異なる様子であることを一方通行は肌で感じた。別にベクトル操作能力を使ったわけではなく、人並みの感覚でも分かるぐらい明らかであった。

1人バーベキューの肉のみ食していたところに雫がやって来た。別荘に来てから一方通行が1人になることはほとんど無かった。(常に番外個体が嫌がらせや冷やかしをしていたため)杖を利用しながら立って食べるわけにはいかなかったので椅子に座っていた一方通行、そこに雫は昼に番外個体から聞いたある情報の信憑性を確かめる。

 

 

「ねえ一方通行、ミサカとどんな関係なの?ヤリ合ったって?」

 

 

周りにいた人間は一気に咳き込む。その中で番外個体だけはお腹を抱えて爽快な顔をしている。

 

 

「あァ?どうせアイツの事だから適当にヤリ合ったって言ったンだろ。俺の嫌がることが趣味って言っても過言じゃねェからな」

 

 

「えー、ヤリ合った仲じゃん。忘れたのか?このこの〜」

 

 

一方通行と番外個体以外は彼らを直視していない。猥談に似た会話をするには些か夜が更けていない。そんな番外個体の様子から一方通行はあることに気付いた。

 

 

「テメェ、まさかロシアで殺り合ったことについて言ってンのか?紛らわしい」

 

 

ロシア?と雫の頭の上にハテナマークが飛び出るが一方通行は気にせず注意する。

 

 

「適当なコト言ってンじゃねェ。あン時みてェにその腕へし折るぞ」

 

 

「怖い怖い、ミサカも一応妹達の一員なんだぜ?少しぐらい甘めに見ておくれ」

 

 

一方通行の矯正も効かず再び食事モードに入った番外個体は口に食物を咥えながら雫の肩に腕をかける。そして耳元で囁くように唇を動かす。

 

 

「まぁこれも嘘だけどね☆」

 

 

ボスッと言うような擬音が似合う様に顔を赤くした雫を見て番外個体は更に気分が湧き上がっていく。いつもは上位個体を弄って遊んでいた彼女はこの世界の玩具を手に入れたらしい。

このイタズラ娘とエリカは気が合うようで楽しそうに雑談している。美月も雫程ではないが番外個体の餌食になっている。

この日のメインイベントが終了し先に湯を頂いた一方通行は浴衣姿で浜辺を彷徨く。周りには誰もおらず涼し気な波の音が彼の体を包み込む。少し進むとビニールシートを被った金属物体が目に入った。それは一方通行がこの世界にやってきた時の乗り物である輸送弾殻。どうやら潮の研究施設に持っていったのは内部の重要そうなもので外部の骨組みは置きっぱなしにされている。

そこで彼は様々なことを思い出す。この世界に来てから雫やほのかと言った守るべきものをしっかり守れているのだろうか、元の世界に置き去りにした打ち止めのこと、異世界生活に干渉してくる学園都市のこと。この時間軸だと約一年が経っており本当に色々あったものだ。今の暮らしを悪いとは思っていない、しかしいつかはこの世界とも決着をつけ元の世界へ帰らなければならないだろう。

なぜなら彼は学園都市第1位の能力者であるから。

眠気に身を委ね彼の体は別荘へと移動していった。




次は禁書新刊とSPWRのせいで遅くなると思います

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