魔法のあくせられーた   作:sfilo

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ここで一つある話をしよう。世界を渡るということはどういう事か、特に難しい問題ではない。ある空間に一定の力を加えつつ軸をねじ曲げてホールを生み出す。この表現が私が最も適切に伝えられる表現であることに違いはない。ではその異空間の先に繋がっているものは一体何なのか、ブラックホール?無?そうではない。
我々と同じ世界が広がっている。
これが世界を渡るということ。初めて完成したこのシステムを利用し似たような世界が幾多もある事を示したのがある研究員だった。彼はある機関に属していた訳でも特別優秀だった理由でもない。偶然、偶然にも出来てしまった。そして成り行きで事を進めとうとう異世界の住人になってしまった。
そんな隠居生活に似た実態の彼が元の世界のために動き出そうとしていた。
三矢元
この世界の日本において力を発揮する十師族の一員であり兵器ブローカーとしての身分を持つ。
そんな彼の仮面を剥ぎ取り真の姿で学園都市統括理事長、アレイスターの前に対面する。


「こんな老いぼれに何用かね、アレイスター」


『プランにお前が渡った世界を組み込む。準備は万端だ、働きに期待してる』


衝突に言われたことだが三矢自身悪い気はしなかった。丁度十師族という肩書きに飽いていたころだった。


「具体的な計画を教えてくれ」


『全国高校生魔法学コンペティション、これに侵攻しようとする中華系のテロリストに便乗する。お前からは様々なバックアップを頼みたい』


「成程、取り敢えず隠蔽工作辺りから始めればいいのか。他には人員確保と機材関連か。学園都市側の装備はどうする」


『今回は任せる。詳しくは後で詳細を知らせる』


その言葉を発した瞬間、三矢元の隣にはフードを被った少年が佇み世界が暗転した。
気が付けば自身の書斎に腰を下ろしている。隣にいた少年の姿も見えない。深呼吸をして自分自身を落ち着かせる。和風の部屋を見回し一人の部下を呼び寄せて秘密裏にある部隊を整えさせる。


「さあ三矢元、三矢家当主として最後の仕事だ」


喝を入れ身が引き締まった。


24

「取り敢えずオマエら生き埋め」

 

 

真由美があずさの梓弓によって静まった環境が一瞬で崩れさる様子を映し出していく。ハスキーな声の主は既に天井付近へ移動していた。

生き埋め、この言葉の意味を理解するのにはそう時間は必要なかった。天井の白い人間は飛行魔法を使っているような感じで悠々と空間を漂いながら力を発揮する。

次の瞬間、天井が吊り下げられた糸が切れたかのように落下した。逃げることも抵抗することも許されない。

彼の宣言通りコンペティションの会場は生き埋め現場となった。だが宣言を聞いている者はおらず一方通行の姿を確認した人間はいなかった。彼は光の屈折率を利用し姿を消していた。

 

 

「抵抗するものを皆殺しにしてきたか、一方通行」

 

 

あァとつまらなそうに返事をする杖をついた男、一方通行は先日まで一緒にいたフレーラに返事をする。2095年10月30日、横浜に中華系テロリストが日本の都市を襲う事を事前に察知した学園都市側はオーストラリアを統治していたフレーラ、魔法科高校に属していた一方通行、それに追加し学園都市製駆動鎧を投入することを決めた。目標はこの世界全体の魔法師と呼べる人材の削減、並びに学園都市の力を誇示し表舞台でもある程度活躍できるようにするため。その理由があって駆動鎧の大規模展開は中華系テロリストが後退し始めた時に投入する予定となっている。日本側と中国側両方の力を削ぐために投入のタイミングが肝となっている。

崩壊したコンペティション会場を見切りフレーラは一方通行を連れある場所へと案内する。

 

 

***

 

 

「深雪、大丈夫か?」

 

 

天井崩落寸前、司波達也は自身の分解魔法で落下してくる瓦礫群を分解しようとした。しかし天井がまるごと落下してきたため分解すれば周囲に被害が及ぶ。そのため身を呈して深雪に覆いかぶさったのだがいつまで経っても衝撃がやって来ない。

顔を上げるとそこは地下世界のように真っ暗だが中腰にならず立って歩けるほど屋根が遠くにあった。実はドーム状の天井構造だったためポッカリと空間ができている様だった。更に幸運なことに地面と接触している部分には人は誰1人としていない様子で血は流れていない。

 

 

「大丈夫です。それよりもこれは一体」

 

 

「原因はともかく敵の襲撃が始まった。今は避難するのが優先だ。取り敢えず外に出よう」

 

 

壁を部分的に分解し日差しが暗い空間に入り込む。天井崩落が一瞬だったため、梓弓の効力が発揮したままパニック状態に陥ることなく順に外に出ていく生徒達。他の魔法科高校の生徒達も壁を壊して外へ出ていく。そこから生徒らは先程の七草の指令通り各自シェルターや輸送船に向かって行く。

その中で一高の生徒はある一画に集まり今後の動向を話し合う。

 

 

「会場自体を爆破してくる下劣なテロリストですがそんな事を言っていられる余裕はありません。ここは一刻も早く避難するべきかと」

 

 

鈴音は自分らが作り上げた作品のことをスッパリ諦め人員を優先する。

 

 

「ここからならシェルターが1番安全だと思うんだがどうだろう」

 

 

摩利は誰もが思っていることを口にする。ここは地上を渡りシェルターに避難するのが一番安全だろう。点呼し人数を確認して避難を始めようとする集団だったが達也は皆にある事実を突きつける。

 

 

「聞いてください、この会場を破壊した人間の事をここで言っておかなければなりません」

 

 

「外部からの爆発で崩落したんじゃないの?」

 

 

足を止めたエリカはテロリストの工作で会場が沈んだと思っている。そんな中、真由美は苦痛の表情をしていた。達也は彼女の能力範囲に犯人がいたことは知らない。だがもし知っていたとしても彼の行動に変更はない。

 

 

「いや違う。もし奴らが破壊しようとするならあれ程綺麗に天井は落ちてこない。それに崩壊寸前俺は見たんだ......一方通行、アイツが天井を叩いていた。飛行魔法を使っていないし破壊する時にも魔法が発動した様な気配はなかった。だがこんなことが出来るのはアイツしかいないし現に今ここにいない」

 

 

達也の特殊な眼から逃れることは出来ない。いくら体を透過させ他人の視線をくぐり抜けても情報という存在を隠すことは出来ない。

驚く周りの人間を他所に達也は話し続ける。

 

 

「ですからもし一方通行を発見した場合迂闊に近づかないで下さい。あくまで推測ですが学園都市の介入が見られます」

 

 

驚きの連続であったが更なる驚きが待っていた。一高集団付近に軍用車両が並ばれる。警戒心を持った人間もいたが降りてくる人を見て真由美はこの警戒心を解いた。

 

 

「響子さん?どうして」

 

 

「お久しぶりね、真由美さん」

 

 

2人は古くからの知り合いであるが今はそんな状況ではない。そしてその背後からは風間玄信がやって来て早速命令を下す。

 

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。所属は置いておくとしてでは早速特尉、国防軍規則により貴官に出撃命令が出ている。任務に当たってもらう」

 

 

周囲の人間は彼の真実に唖然としていたが風間は立て続けに言葉を繰り出す。

 

 

「本任務において貴官がやるべき事はテロリストの鎮圧であるがそれだけではない。藤林君、説明して上げなさい。それと特尉の地位には守秘義務が付随する。国家機密法に属すことを理解して欲しい」

 

 

「では伝えますね。主な作戦内容は中華系テロリストの鎮圧ですが、特尉にはこの特殊な状況を鑑みてテロリストの鎮圧において大型機械兵器の対処を任務とします」

 

 

達也は何も言わずにその任務を受け友人らを残し軍と共に行動を開始する。それに合わせるかのように深雪は彼の枷を外す。

残った一高の生徒等は大所帯である。しかしその場に留まっては敵の格好の的となり得る。仕方が無いのでこの大人数を2つに分け行動することとなる。周囲には魔法師としての能力が高いものを中心とし中央には一般生徒を囲うような陣を張る。しかし事態はそう安々と進んではくれない。

何か来る気配を感じた真由美が声を上げようとしたが時は既に遅い。この集団の周りを機械兵器が取り囲んでいた。

しかし明らかにこの世界の物とは異なる。人間に着せる機械などこの国で発達していない。

それでは目の前にあるのは一体なんだ。真由美は自身で判断出来はしない。

人間サイズの機械の塊に見えるが脚部が異常に太い。上半身のスリムな姿は一体どうしたのか。ジリジリと近づいてくる訳では無い、かと言ってこちらとの距離を遠ざけるわけでもない。ある一定の距離感を保っている。

その均衡を一つの機械、駆動鎧が打ち砕く。彼らの集団の目の前に配置されてあった脚部の太い駆動鎧はゆっくりと近づいてくる。それを警戒し集団の前衛はCADを取り出しいつでも魔法を発現出来る状態にするが、それと同時に駆動鎧が両腕を上げてある音声を発する。

 

 

『こちらに敵対の意思は無い。北山雫、彼女を探しに来ただけである』

 

 

当の本人は何故自分が探されているのか身に覚えが無かった。その発言を聞いた藤林はゆっくりと近づいていく。

 

 

「響子さん!大丈夫ですか?」

 

 

真由美の制止をほんのりと避けて3mの距離まで接近していく。そこで彼女とその後ろにいた生徒等はテクノロジーの真髄を垣間見る。

目の前の駆動鎧が開いた。胸から鋼殻が剥がれ中身が見えてくる。

そこには何も無かった。本来人間が入るスペースが見えるが完全な無人兵器。そのくせ人間的身体をしているので厄介極まりない。

 

 

「それであなた達はどうして雫さんを探しているの。今は私たちと行動して軍が保護しています。理由を聞かせてください」

 

 

『彼女と光井ほのか、両人の回収を命令されている』

 

 

そう言って胸を閉め始める。藤林には奇妙な申し出にしか思えなかった。容易く信じていい訳では無いが保護している彼女らの意見を聞かなければならない。2人を呼び寄せ対面させる。

 

 

「もしかして学園都市?」

 

 

雫は一方通行から彼の成り立ちなどを彼と初めて会った日に全て聞いている。先程の時司波達也が学園都市の介入が予想されると言うのを聞いて、彼女等を守るために一方通行が派遣してきたのかもしれない。

それを踏まえて更に要求する。

 

 

「私達よりも魔法があまり使えない一般人や生徒を優先して避難させて欲しい。貴方の体内に人間1人は入るんでしょ?なら貴方が率いている部隊で避難させてあげて」

 

 

駆動鎧は固まる。彼に与えられた使命は2人の回収しかない。そこで外部に判断を任せることにした。

 

 

(こちら一方通行関連人員回収班、一般人の避難優先を条件に回収することが可能だが時間が足りない)

 

 

通信環境は既に整っているためすぐに返事が来た。

 

 

(回収は次回に回す。即時撤退して体制を立て)

 

 

指揮官からAIに命令が届く前に現場の駆動鎧は氷漬けにされる。深雪の魔法ではなく藤林の電子制御によりハッキングを受けたのだ。

一高集団を囲っていた20名程の駆動鎧は一斉に飛び立つ。1を犠牲にして多を残す学園都市にしては当たり前の行為ではあるがあまりにも判断が速過ぎる。それだけ学園都市の側は藤林のハッキングスキルを危険視したのだ。

 

 

「ごめんなさいね、外部と通信しているのが分かったからあなたの行動自体を封じさせてもらったわ。まあもう聞こえていないのでしょうけど」

 

 

彼女はほのかと雫を集団の中に帰し部下に駆動鎧の回収を指示する。しかし流石は学園都市と言えばいいのだろうか、情報漏洩を恐れる科学技術の発展はおぞましい。外部との通信が途絶えた駆動鎧は自身の周りを特殊なミストで覆う。

それを抱えようとしたある部下はそのミストに影響され精神を支配される。特殊な化学薬品と濃度を調整した物質により人間の脳を支配する。そして駆動鎧の体内に組み込む。これで通信が途切れても人体に流れる生体電気や血流、バイタルを観測し即座に操縦者に仕立て上げる。

異常な脚部から繰り出される爆発的なジャンプ力でその場を切り抜ける。

 

 

「た、助けてくれ!体が...体が飲み込まれる!!」

 

 

顔面を覆う仮面がある兵士の表情に被さる前に聞こえた悲鳴だがこれに対して藤林はどうすることも出来なかった。相手との距離が非常に大きい、更にあの機動力をどうにかするのが先決である。

 

 

『敵対の意思は無いと言ったのにどうもこの世界は狂っているな』

 

 

体内から兵士の装備していた銃などが吐き出される。着込むのに邪魔なのだろう。一瞬だけ男の姿がちらりと見えたが両腕脚を駆動鎧に拘束され何かが出来る状態では無い。

駆動鎧のAIは続け様にこう言う。

 

 

『この男を貰っていこう。貴様らが我々と敵対した証としてな、そこの女、この世界の日本軍に通達しておけ。我々学園都市はこれからテロリスト、魔法師、日本軍一切差別すること無く殲滅する。悪戯でしたなんて言い訳はもう通用しないぞ』

 

 

機械兵器の駆動鎧はビルを伝って集団の見える位置から遠く離れていく。

その後自らの失態で部下の身を危険に晒した藤林は唇を噛み千切れそうな強い力で怒りを堪えた。




時系列は後で調整していきます

ps.脳幹先生、なんで死んでしまったん

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