魔法のあくせられーた   作:sfilo

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部下を連れ去られた藤林に彼を救う暇は与えられない。まずは真由美ら一高の生徒を安全に避難所へ移すこと、これが最優先となる。だが駅前広場に驚くべき光景が映っていた。

中華系テロリストの直立戦車がある機械を取り囲んでいた。中央に潜んでいたのは直立戦車と同じくらいの大きさだが構造が明らかに違う。直立戦車の場合あくまで人間が操縦することを前提にした構築だが中央にある機械はどうだ、カマキリのような構造で人が乗るスペースなど考えられていない。

 

 

「ひとまず隠れましょう」

 

 

大所帯だがビル影に隠れることは可能である。なるべく見つからないように移動している最中広場で戦闘が始まった。今までは相手の様子を見ていたようだが直立戦車が本格的に動き出す。重火器をカマキリのような機械に向かって吐き出す。爆音が広場を中心に響き渡り土煙が辺りを覆う。だが中心には何も無く取り囲んだ味方の直立戦車に砲撃が直撃していた。カマキリのような機体はどこへ行ったのか、周囲を見渡す戦車は気付かないうちに撃破されてしまう。

それは連立するビルの屋上、相手の座標をコンピュータ処理し風向き、風速など様々な条件を計算に入れ爆撃が始まった。先程の重火器よりも音というより衝撃波がものすごい勢いで広場近くの建物のガラスを粉砕していく。

生徒集団の悲鳴はその衝撃波にかき消された。声にならない。空気が掻き乱され音を伝える振動が他人まで届かないのだ。

広場には地面が抉れた形跡と円形の砲撃痕が残され稼働している装置はどこにも無い。対するビルの屋上のカマキリは機体の周囲に取り付けられたレンズや電磁気を利用したセンサーで周辺を見渡す。そして生命反応が感じられないと判断するとカマキリは飛び立って行った。

衝撃波から体勢を立て直すのにはそう時間はかからないが一般生徒は泣き崩れる生徒もいた。

 

 

「真由美さん、ここは今すぐにでも野毛山の陣内に避難した方がよろしいかと。今やテロリストよりも学園都市の兵器に注視すべきです。直立戦車をいとも簡単に粉砕できる兵器、連射された砲撃を人間に向けられればどうしようもできません」

 

 

「そうですね、ですが私はここに残って逃げ遅れた人のために輸送ヘリを呼ぶつもりなのでここに残ります。普通の生徒を野毛山に避難させてください」

 

 

それに対しいくつかの生徒も残ると言い出し聞かない様子だったので、それ以外の生徒を避難させるように真由美は言った。

そこにある人物がやってきた。千葉寿和、千葉エリカの兄であり現役警部の立派な立場を持つ。彼がエリカに声をかけようとした時、空が唸る。

黒い巨体が空を走り抜ける。空気を掻き分け時速7000kmを超えた速度で横浜上空を駆け巡った。それと同時に黒い巨体、HsB-02から落下物が東京湾に飛来する。あまりにも速すぎる飛行に対応できる者がほとんど居なかった。制空権は今の所学園都市にあるようだ。

巨体の騒音に邪魔された兄弟間の会話が継続される。

 

 

「エリカ、お前に渡したいものがあるんだ」

 

 

「何よ」

 

 

ぶっきらぼうな態度にも和寿は気にしない。

 

 

「大蛇丸、使い手がこういう時に使ってやらなきゃ可哀想ってもんだろ。ほら」

 

 

ズシリとした重量感が彼女の両手を占める。千葉家の最終兵器と言っても過言ではない武装デバイス、彼女の愛刀が手元にあることで頬の筋肉が緩む。自らの筋肉の緩みに気付いたのか、彼女は大蛇丸を受け取る前の表情に戻り適当な礼を言う。

視点は移り光景は広場に移る。

 

 

「これは酷いな、直立戦車に乗っている人間が生きているのか?」

 

 

摩利の呟きにその場にいた残った一高生は完全に同意した。円形に刳り貫かれた戦車が呆然と立っている。抵抗する暇もなかったのだろうか機銃には発射された跡がない機体も存在していた。

彼らはくまなく探したが生存者はいなかった。搭乗者の遺体も刳り貫かれているものが多く酷い有様だった。

力のある生徒は直立戦車の残骸を片付け他の生徒は市民の誘導や情報の把握に努めていた。

そんな中雫は状況が安定してきたので、一方通行に教わった特定のコードを端末に入力する。緊急時に伝わるように設定された番号だったがいつまで経ってもコールは途切れない。それもそのはず、現在この地域は一般回線はすべて遮断されているため普通の連絡手段は通用しない。だがずっと鳴り続けたコールは終わりを迎える。

 

 

『北山雫さんですね、こちらは一方通行を以前まで雇っていたグループ、という集団の連絡係をしていた者です。1度だけこの回線を使用でき応えられる範囲で要望をお聞きしますが、いかが致しましょう』

 

 

一方通行とは異なる男の声が聞こえてきたのでびっくりした雫だが以下のように要求した。

 

 

「市民が逃げ遅れてます。何か安全に移動させる手段はありませんか?」

 

 

取り敢えずは人命が最優先である。駅前の広場では怪我をしている人もいる。それに対し少し悩んだような時間が空き返答がやってきた。

 

 

『わかりました、そちらへこちらのヘリを貴女に貸しましょう。現在位置はこちらで把握しております。ヘリが到着したら行き先を指定して下さい。市民の避難が終了次第返却してもらいます』

 

 

取り敢えずヘリの用意は出来た。

 

 

『...は?わかりました...、すみません、非常に申し訳ないのですが輸送用のヘリが稼働中ということだったので他のヘリになりました。乗員制限は多少厳しいですが往復させれば問題ないかと思います。後、その場にチームリーダーも同時に搭乗させておきますので何かあればご連絡下さい』

 

 

そう言うと通話は切れ彼女の端末は使い物にならなくなっていた。

ヘリの用意ができたことを真由美らに知らせている内にすぐに次の部隊がやって来ていた。やって来たのはテロリスト側の直立戦車、対峙する3人、深雪、レオ、エリカは3輛の戦車に怯えることなど一切なく戦闘を始めていた。

 

 

***

 

 

「おっ、久しぶりだな。なんだ?また軌道上防衛兵站輸送システムでも使いたいのか?駄目だよダメダメ、カーゴに入れる物体を見たところじゃ完全な兵器だし、一方通行の時とは状況が全く違うんだよ」

 

 

地球での環境に耐えられなくなる代わりにこの世とは思えない美貌を手に入れた天埜郭夜。少女は学園都市で極めて珍しいブレインという立場にある。立場は学園都市にあっても住んでいる場所は地球外、ひこぼしⅡ号の無重力生体影響実験室に閉じ込められ暮らしている。そんな彼女はある人物と会話をしていた。

 

 

「それにさこの前使って行き先が異世界でした、なんて報告聞いた時は心底驚いたよ。どうせそれも計画通りとか言うんだろ?はいはい、そりゃよかったですねー、んで何回も言わせんよ。使用は無理、内容物はこっちで預かっておく。こりゃ駄目だね、学園都市に置いてたらそのうち誰か使っちまうだろ?」

 

 

そんなことを言いながら彼女はある提案でことを済ませる。

 

 

「そんな君達に大サービスだ、監視してやるよ。今の横浜を宙から監視してやる」

 

 

ブレインの脳は酷く冴えていた。

 

 

***

 

 

その頃駅前広場では迎撃チームが小休憩をとっていた。直立戦車を退治しある程度は安全を確保できている。しかし油断ならない状況、2機の直立戦車が再びやって来た。

 

 

「また来たか!やってやるぜ」

 

 

意気込むレオだが彼らの目の前で直立戦車は攻撃対象をレオ達ではなく後方のある物体に向けていた。

バラバラというようなヘリの音ではない。一般航空機クラスの速度を保って移動できる怪物ヘリコプター、HsAFH-11通称『六枚羽』がヘリコプターとは思えない速度でビル間を駆け回る。あまりの速度に直立戦車は対応出来ていない。しかし六枚羽の方は的確に戦車を敵因子と判断し、両翼付近に付随している関節付きの羽で一斉に掃射する。

爆撃と言っても過言ではなかった。道路の片隅に止まっていた乗用車などはボコボコと膨れ上がり燃料に引火し爆発する。ある程度の弾丸に耐えうる設計の直立戦車は歯が立たなかった。六枚羽が使用する弾丸は摩擦弾頭と呼ばれる物で、それは弾丸に特殊な刻みを入れることで空気摩擦を利用し着弾した場所から焼き尽くすと言う恐ろしい兵器。

レオ達が出る出番はない。比喩ではなく直立戦車が一瞬にして溶けた。

六枚羽は2機あったが攻撃していたのは1機だけ、もう1機の方は未だガラクタが残る駅前広場に着陸しようとしていた。地上では手信号も何もしていない、だが六枚羽にそのようなものは必要ない。周囲の障害物を自動的に判断し着陸するのが難しい場合にはジャイロを利用し超低空飛行状態のまま滞空することが可能である。

着陸してきた戦闘ヘリに驚いたのは1人や2人ではない。一高の生徒も驚いている。

 

 

「これテロリストのヘリじゃないわね。かと言ってうちのヘリでもないし少し様子を見る必要があるわね」

 

 

真由美の判断に従いプロペラが止まったヘリコプターに近づく者は誰も居なかった。

黒い隔壁が開かれると中からは1人の少女が降りてきた。彼女はこの世界の衣装感とは全く異なる対極に位置する。パンクな服装に白いコートをフード部分だけ被り手にはビニールのイルカの人形を携えている。高校生よりも1回り小さい。

 

 

「あァ?警戒され過ぎだろ。せっかく来てやったのによォ」

 

 

黒夜海鳥、12歳の少女であるが学園都市では『新入生』という立ち位置から『卒業生』への仕返しを考え実行した。今はアイテムの管理下に置かれているが今回の作戦で招集されたらしい。

雫は少女の前に躍り出る。

 

 

「あの、学園都市の方ですか?」

 

 

深雪やエリカはビクッと肩が震えた。先の脚部の太い駆動鎧も学園都市側、ならば同じ学園都市と言うことは敵対しているのだろうか。そのような不安が駆け巡る。それに対し黒夜はあっさりと認め次のように指示する。

 

 

「でオマエの要望だと一般市民の避難だっけ?ッたく暗部もクソッタレだな、自分らはテロリスト共とは違い市民を助け平和維持に貢献しますって、ハンッやることが見え見えなンだよ」

 

 

訳も分からず狼狽えていた雫だったがそれを無視し取り囲んでいた一高集団に命令する。

 

 

「オラ、久々の人道的作戦だ!さっさと市民を詰め込め詰め込め!コッチは早く殴り合いに行きてェンだよ!」


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