魔法のあくせられーた   作:sfilo

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全部EMって奴が悪いんだ

メリークリスマス


29

背中の竜巻を霧散させコンクリートの地面に両足で着陸する。それと同時に首元のチョーカーの電極をオフの状態にして杖を突きながらゆっくりと歩いて来る。

 

 

「いつの間にかいなくなったと思ったらこういう時には現れるのか、一方通行」

 

 

肉片が剥がれ上半身は筋肉よりも機械が表面に表れており、人造人間であることがよりはっきりとわかる。

そんな姿を目の当たりにしても全く動じない一方通行はそれよりも足が固まって動かない一高の集団に目を向ける。向こうは何か言いたそうだったが気にすること無く彼は話し始める。

 

 

「プラン通りか?」

 

 

フッとフレーラの焼け焦げた顔面が笑みを浮かべる。全てを知っているかのような満足げある微笑みだった。

 

 

「分かっているなら話は早い。貴様も分かっているだろうがここから先は守りながら戦うなどと言うふざけた幻想は通用しないぞ?」

 

 

一方通行の左腕が前方へ伸びる。そして指を軽く捻ると先にいたフレーラの体がポート際の海水に突っ込んでいく。

左手を握ったり開いたりする一方通行は自分の能力の状態を確認し、フレーラが飛んでいった方向とは逆にいる一高の集まりと黒夜シルバークロースの学園都市組に向かっていく。

 

 

「テメェから連絡入った時には驚いたがまァ、雫が連れ去られたのは確からしいな」

 

 

彼等が絶対に敵に回したくない凶悪な存在を指先一つで軽く吹き飛ばしてしまう一方通行の強さに全員は驚いている。そんな彼らを気にすること無いにしても一方通行はフレーラの言った通り彼らを守りながら闘うことは出来ない。故に対応策を取り始めた。

杖を突きながらまたも左腕をゆっくりと伸ばし倒れているレオを中心として半球を作り出す。透明で真由美ら囲まれた当人達からは見ることが出来ないが確実に存在する防御膜。一方通行の体中を包んでいる反射膜を応用した能力の産物であり、彼の超能力は魔法と一体化することにより新たな次元へと昇華した。

膜が完成したと同時にフレーラが海水から上がってきた。着地と同時に地面が抉れ彼の総重量の大きさを物語る。わずか10メートル先、一触即発の事態であるがフレーラ自身飛ばされた疑問が解消しきれていない。故にある程度探ることにした。

防御膜の中では気絶していたレオの意識を取り戻そうと応急的な回復魔法が彼にかけられていた。それと同時にシルバークロースの駆動鎧を用いてバイタルの測定なども行っていた。彼が確認した限りこの膜を内側からこじ開けることは出来ない。恐らく一方通行の能力の制約が切れなければ外からも中からも開けることは出来ないだろう。

そうしているうちにガハッと大きく咳をしながらレオの意識が回復する。エリカや幹比古が彼の容態を気にするが真由美や摩利はそれを気にしていられる精神状態ではない。透明な壁で隔たれた向こう側には怪物同士の戦闘が今始まろうとしている。それに目を向けるしかない。

 

 

「いきなり私を吹き飛ばすとはそれほど彼女等の安全を確保したかったのか?一方通行」

 

 

挑発を入れるフレーラに対して一方通行は何も言わない。冷静に判断しいつ攻撃を仕掛けるか迷っている。

 

 

「しかしそこのNo.7の七草真由美に一つ聞きたいことがあってな。どうしてそこまで一方通行を信用することが出来るのかね。私には理解出来ない」

 

 

突然話題を振られた真由美は一瞬焦ったが一方通行が学校の一員である事などを理由に上げた。

それを聞いたフレーラは鼻で笑う。下らないと小声で呟き一方通行を指差し続ける。

 

 

「学生であれば無条件で信用していいのか?一方通行のことを良くも知らないでよく言えるな。コイツが行ってきたあらゆる非道を目の当たりにすれば話は変わるかもしれんがな」

 

 

事態を察した一方通行は先程同様フレーラを吹き飛ばそうとしたが高速移動で回避されてしまう。

 

 

「一方通行はこれまでに約1万人もの人間を殺してきたのだ。それでも無条件に信じると言うのかね?」

 

 

最悪に近い事態が一方通行を襲う。フレーラ単体での戦闘は何とかなりそうだった。しかしこのように仲を割いていき身内からの妨害が始まるとどうしようもない。そしてここで彼らを殺しフレーラに専念しようとすると北山雫の周りの世界を壊してしまうことになる。

やるべき事はひとつ、プラン通りであろうと無かろうとフレーラを叩く。

 

 

「時間稼ぎは済ンだか?テメェの話にウソはねェがそれがどうした。屑鉄の塊になる予定のアンティークなンざ今更用もねェよ」

 

 

首元のチョーカーの電極をオンにする。残電量は能力使用であれば12分、学園都市特製CADと樹形図の設計者からの支援を最大限利用することが出来れば戦闘可能時間はもっと延びる。しかし学園都市本部から電波支援を止められれば戦力は遥かに劣ることになる。幸いフレーラと衛星が繋がっていないことを鑑みるとある程度の時間は最大戦力で戦うことが出来るだろう。

目的は北山雫を確保した学園都市との交渉権利をもぎ取ること。

科学製の天使と宗教製の天使がぶつかり合うのに時間は必要ない。

 

 

***

 

 

一方通行の認めた大量殺戮に言葉も出なかったエリカらは彼女らを守るシールドから二人の戦闘を見ていた。

別次元、今までやってきた事が余りにも粗末に感じる位2人の激突は想像を超えていた。フレーラと呼ばれている大男の背中からは8本の液体の様な翼が飛び出ており、一方通行からは両肩から飛び出る白翼。そして極めつけはなんと言っても彼の頭上から浮かび上がっている天使の輪。

互いの体は接触しないものの翼と翼の叩きつけ合いや引きちぎったり根こそぎ奪っていく。そうして失われた翼は補充されると共に残骸は儚く霧散していく。互いに触れた部分を削っていくため周囲の地形は変形していく。

 

 

「何よ...これ、私達は何も出来ないって言うの?」

 

 

戦闘光景を唯なる眼差しで見つめていた真由美は思わず口に出してしまった。自分は十師族の一員であるのにも関わらずこの騒乱を和らげることは出来ない。そして安全地帯で見ているだけの自分に腹が立っている。他のメンバーもほとんど同じ気持ちだった。目の前の状況をどうにかする力が欲しかった。

 

 

「真由美、今はそんなことを考える必要は無い。一方通行が作ってくれた空間で万全の準備をすることだけを考えろ。いつこの膜が破れてもいいようにな」

 

 

肩に置かれた手は微かに震えている。摩利も悔しいに違いない。

グシャアアアアアアア!!

安全地帯のすぐ傍を何かが地面を抉りながら滑っていく。それは既に人間的なタンパク質を半分ほど失った人造人間、フレーラであった。彼の体は精密機械やバイオテクノロジーに対応した構造になっている。そのためある程度タンパク質は必要だが無くても十分に戦えるらしい。

 

 

「テメェ、第三次大戦の時の馬鹿げた天使の力使ってるな」

 

 

一方通行の観察眼は素晴らしいの一言に尽きる。数十秒の戦闘において敵の発する力やその起源までも推測する。対するフレーラも馬鹿ではない。彼ほどではないが体内のコンピュータとネットワークで調べることが出来る。

 

 

「そう言う貴様も面白い使い方をするではないか」

 

 

安全地帯に寄ってきたフレーラは真由美らに聞こえる距離で判断した内容をぶつける。

 

 

「賢者の石を体内に寄生させ能力を向上するか。貴様が横浜の惨劇から姿を消した理由は金沢まで飛んでいったと。白翼の維持は学園都市内でも確認されているがしかし、賢者の石の効力で座標のベクトル操作まで可能となるとは。第二プランに留めておくには勿体ないほどの力だな」

 

 

彼の上空から1本の白翼が叩きつけられるが液体の翼で相殺させダメージを防ぐ。そこに接近してきた一方通行に対し液翼を振るい場を凌ぐ。

 

 

「いくら大戦後にある程度魔術の知識を得たからと言ってそう安々と対抗策を練られるわけが無いだろう。十分な反射が機能しない以上貴様には魔術が一番良く効く」

 

 

賢者の石、フレーラがオーストラリアで一方通行に預けた物。この世界ではレリックと呼ばれ魔法への転用が期待されている品物。

次の瞬間、勝負が決まった。魔法協会の入口から出てきた司波深雪の姿を捉えた一方通行の行動は誰よりも速かった。白翼に加えて竜巻の翼を背中から放出し加速しながら深雪の元へと突っ込む。そして彼女の体を掴みつつフレーラの触手のように伸び縮みする液体を掻い潜り安全地帯へとぶつかっていく。中に深雪を手放して侵入させ自らは加速した勢いを減速させるため垂直に飛行し、その後上空へ滞空する。

 

 

「深雪さん、大丈夫?」

 

 

突然入ってきた彼女の様子を確かめるため真由美は形式的な質問をする。

 

 

「ええ、大丈夫ですけど。これは一体何なのですか?」

 

 

敵の参謀の中枢にあたる人物を対処し協会から出てきた彼女は突然のことで事態を把握出来ていなかった。

 

 

「私たちにも分からないけどアッくんが戦っているの」

 

 

深雪は一方通行に対していい印象を持っていない。兄と少し諍いがあるらしくあまりいい話は聞かない。しかし今は違う。過程がどうあろうと彼女のために一応は行動していた。

 

 

「一高生徒は助けるか、貴様が抱える物が両手に収まれば可能だがそんな事が可能か?」

 

 

神の力(ガブリエル)の力を純粋な魔術で発現させ水の翼を振るうフレーラは手加減などしない。その翼、次の瞬間全てが固体の氷へと変化してしまった。氷になってしまったことに疑問を抱いていられる状況ではなかった。一方通行の操る白翼を回避するために機械の力を用いて横に飛ぶ。

対する一方通行は上空からゆっくりと降下し先程連れた深雪の方を見る。彼女のCADが青白く光っているのが確認出来た。恐らく得意とする氷系の魔法を発動させたのだろう。ちらりとこちらを見られた。その表情は仲間として頼れる誇りのようなものが現れているように感じられた。

横に飛んだフレーラの態勢が崩れている今チャンスはここしかない。彼の体内に光る赤い宝石と左手のCADを演算機器として扱い白翼を靡かせながら爆速していく。

 

 

「フレーラァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

咆哮と共に人一人分の質量が機械で構成された人造人間に突き進んでいく。

 

 

ピー

 

 

小さな警報が鳴ると同時に一方通行が失速し彼の産物であった一高を守る膜が消え去った。


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