魔法のあくせられーた   作:sfilo

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事情があって遅くなりました
月2に頑張ってしたいです


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「超可愛い、これだけは言わせて欲しい」

 

 

大人しくソファに座り女性3人と対面する形になったセカンドと華恋だが彼女の暴走は収まる余地はない。なので彼が進行役を務め華恋を大人しくさせながらリーナ達に状況を説明する。

 

 

「あー、なんだ、まぁこの人は須藤華恋。俺の知り合いでその......仲良くしてくれるとありがたい」

 

 

みょーんみょーんと体を左右に揺らしながらお辞儀をして挨拶する華恋に対してリーナは疑惑の目を向けざるを得なかった。日本にやって来る際セカンドが使った能力は借物であると知っている彼女、そして形状が似た能力を目にし本体が華恋であることを即座に見抜いたからである。

 

 

「それで仲良くしろって言われても具体的にどうすればいいのかしら。貴方の知り合いとなると学園都市絡みで間違いないのは確かなんでしょうけど」

 

 

口を開いたリーナは華恋を直視し状況を判断する。見た目年齢は自分より少し低い辺りだろうか、髪の毛の量が尋常じゃないことを除けば可愛らしい銀髪少女に見える。そんな少女がソファから身を下ろし素足で小走りでリーナの所へとやってくる。

 

 

「アンジェリーナ・クドウ・シールズ、貴方に会えて光栄です。先程紹介に預かりました須藤華恋と申します」

 

 

人が変わったかのように丁寧な口調になる華恋にリーナは目をパチパチさせて微妙な反応になる。しかしセカンドの方はこの少女の癖を知っているため何の驚きもしない。須藤華恋は美少女に直接会うと緊張してしまい、何故か話し方が丁寧過ぎるほどになってしまう癖があった。おそらく緊張からくるものなのだろう、だが盗撮盗聴監視などカメラや写真越しでは変態のような性格になってしまうのでこれはこれでありである。

 

 

「正式な立場で発言した方がいいでしょうか、私須藤華恋は学園都市統括理事会からこちらの世界の全てを担当している者です。政治、軍事あらゆる権限を持ち行使することが出来ます。言ってみれば私の判断一つで学園都市の動向を左右するのです」

 

 

挨拶し終わるとすぐにソファの元へと帰る華恋にシルヴィアは疑問に思ったことをぶつける。

 

 

「何故貴女は今この瞬間私たちに接触してきたのですか?学園都市におけるこの世界の情報を全て管理なさっているのならセカンドを通じて私たちのこともわかっているはずですが」

 

 

「それはリーナ、貴方個人と繋がりを必要としたからです。私の能力は強大過ぎる余り強い制約と認可コードが必要です。まあ異空間を繋げる場合の時の話ですが、それで個人的にアメリカとの繋がりを必要としまして...」

 

 

話の方向性がわからなくなっていたリーナにセカンドは裏から口添えする。

 

 

「要するに今のアメリカと学園都市の関係性は大統領と木原脳幹という須藤華恋を通じない同盟関係にある。そこでコイツは自分とアメリカ国防軍という新しいパイプを繋げようとしている訳だ。互いにメリットはある、木原一族に気付かれるのは時間の問題だがそっちの方はさほど大事じゃない」

 

 

理解しているのが場の半数にも及ばない中、華恋はメモ用紙に自分のアドレスを書き付けセカンドを伝いリーナに渡す。

 

 

「これは私の個人的なアドレスです。貴女に私に協力する意思があるのなら連絡下さい、では」

 

 

そう言った銀髪の少女は右手を軽く振る。すると空間を割いたように白い穴が開く。その中に無言のまま入っていくがセカンドは頬が真っ赤に染まった様子を見逃さなかった。

華恋が帰った後マンションの一室は緊張が解れたのか緩くなった空間になっていた。ミアは隣の部屋に帰りリーナはシルヴィアが煎れるミルクティーを待っていた。

 

 

「どう思った、リーナ?あの須藤華恋という女」

 

 

自分で用意したコーヒーを飲みながら話しかけるセカンドは随分と嬉しそうな表情をしていた。何がそんなに面白かったのかわからない彼女は素直に感想を述べる。

 

 

「この世界の貴方達をまとめているのが彼女だとすれば個人的なパイプを持てることは非常に有益だわ。だけど私個人があの人と繋がることを軍は許さないでしょうね。ひとまずアドレスは私が管理しておくことにするわ」

 

 

それを聞いた男は高笑いが止まらない。

 

 

「本気でそう思うのか、まあヤツの性格を知らない初対面だからな。アイツの本性はそこまで考えてない。ただ単にお前とメル友から始めたいだけなんだよ」

 

 

ズズーと音を鳴らしコーヒーを飲み干すとミルクティーを煎れて持ってきたシルヴィアが彼女に関する質問を並べる。

 

 

「本当にそれだけのことで能力を使ってここまで来るのですか?学園都市の行動理念が全く分かりません」

 

 

「学園都市はある人間のためにつくられた組織だからな。行動理念も何も自分のためと思ってやっていることさえ統括理事長の手のひらの上で踊らされてるだけだ。抜け出そうと思っても学園都市が存在している限りヤツの支配からは逃れられんよ。ま、気軽にメールでもしてやれ。その方がこちらにとって多少ありがたい」

 

 

一番風呂を楽しみにしていたセカンドは以降の質問に答えることはなくすぐに寝入ってしまった。

 

 

***

 

 

数日後の夜、セカンドは担当チューターの指示の元ある場所へ出向いていた。

 

 

『これより作戦を開始する。達成目標は七草家に対する学園都市個人の宣戦布告と特殊CADの最終調整のための戦闘だ。万が一にも捕まるなよ、あと肉体変化でその辺の適当な人間に化けておけ』

 

 

耳元の端末から男の声が聞こえる。責任感のない荒んだ声が脳に響く。

 

 

「お前さ、前から思ってたんだけど担当に向いてないよ。うんそうだな、向いてない。全く向いてない、と言うわけで俺はお前の言うことには従わない。新しい顧問先見つけたからお役目御免!!」

 

 

ぷつりと途切れた端末を横目にセカンドは返信も聞くことなく踏み潰す。新しい担当は既に彼を見ていた。遥か上空地球という星の引力の小さい場所、宇宙の中から彼を覗く。

指示は受けていない。だが自由にやっていい訳では無い。須藤華恋、アレイスター彼ら上層側の人間の目につくような事はやらない方がいい。

アタッシュケースの中のCADはケース開放と同時に組み上げられる。今回彼が持つのは拳銃型ではなく臨機応変に変わるタイプのモデルだった。この方があらゆる戦闘において万能感を持てる。

新しい担当の天埜郭夜の指示はこうだった。

 

 

『北山邸に潜む学園都市側の人間との接触』

 

 

本人である北山雫は現在アメリカへ留学中でありその家に住んでいるということは勝手に借りているか、もしくは彼女がアメリカへ行く前に何らかの契約をして在留しているかの2つだった。学園都市側の人間と言っても空間転移を利用してここにやってきた向こう側の人間とは限らない。協力機関のように元からこちらの世界の住人がいる場合もある。しかし彼の考えでは学園都市内の人間である可能性は低かった。この世界で長期間生存するためにはある圧力に耐える薬を服用しなければならない。界圧と学園都市は命名したその力はこの世界の中における異物を極力排除しようという力であり、逃れることは出来ない。三矢のように自力で薬を製造するノウハウを持っていたり、一方通行のようにベクトル変換を応用した使い方で防いだりなど様々対策はある。しかしそれはごく稀でセカンドのような耐性を持たない異界からの人間は薬を服用する他ない。

思案するうちに北山邸へとたどり着く。夜の0時を過ぎたこの時間帯、起きている人間は僅か。道中のコインロッカーから取り出したスリムな駆動鎧を身に付ける。暗い夜中でも視界を妨げない暗視ゴーグルが適用され生体反応を感知するサーモグラフィを起動させる。

敷地内へと足を踏み込む、だが流石は富豪の別宅、金属製の駆動鎧をセンサーか何かしらで感知したのか警報が周囲をざわつかせる。気づかれたのならば仕方が無い。そう思ったセカンドは脚力を調節し大股で走り始める。感知された人間が邸宅中をそわそわしている様子が内部カメラに映し出されるがそんなのを確認している余裕はない。

ガラスの窓を突き破り破片が飛び散る廊下で検索をかけようとした瞬間、突き当たりの扉からある人物が目に入った。

御坂美琴、学園都市第三位の電気使いとして名を馳せ常盤台中学に在籍する2年生。この姿を確認した彼はすぐに回避行動に移った。駆動鎧と彼女の能力とでは相性が悪過ぎる。電撃をいくら避けようとも一発でも当たれば故障してしまう可能性があり、一部が止まった駆動鎧など高速戦闘において使い物にならない。

破った窓から異様な体の動きで身体を外の芝生に投げ出す。だが逃げ出した先にも女子中学生の姿が見えた。否、姿形は全くそっくりだが何かしら違う。飛んできた電撃を左手のアタッシュケースで受け止めその威力を利用して距離をとる。

 

 

『成程、超電磁砲に欠陥電気か。学園都市側の人間ではなく学園都市関係者ということか』

 

 

腕、脚、胴に纏わり着く金属パーツを手早く取り外し黒のランナースーツを身に着けているセカンドは知識に植え付けられた記憶を呼び起こす。電撃使いに対して駆動鎧を付けながらの戦闘は危険である。肉体変化を利用した彼独自の戦闘方法の方がやりやすい。

 

 

「あっれ〜、パワー全開の雷撃放ったのに効いてないっぽいよ、おねーたま」

 

 

「んなことどうでもいいわよ。アンタが学園都市から絶対に接触があるって言ってから何ヶ月目かしらねぇ......それまでの間アイツと共同生活しなくちゃいけなかったし...」

 

 

二人集合し姉妹に見える。後半の方をよく聞き取れないゴニョゴニョとした感じで言い放ったがセカンドはすぐに理解出来た。幻想殺しも来ている。彼の右腕を利用すれば界圧への対抗策も出来るだろう。これによりこの世界で長期間の滞在が可能となる。

アタッシュケースを開き大型の鎌状に形態を変化させる。駆動鎧の部分的なパーツはケースにしまい真横へと放り投げる。その間にも彼女らは警戒態勢を解くはずがない。

真っ暗な闇の中に窓からの蛍光だけが庭を照らす。

 

 

「接触しろと言れたが貴様らは別だ。強制送還させてもらうぞ」

 

 

鎌の切れ先からサイオン粒子が蒸れ出る。両手で握り締め構えをとりながら彼女らの後ろの方向に視線を向ける。

 

 

「幻想殺し、それに懐に隠れたオティヌス、お前達は最重要案件に当てはまる」

 

 

2度振った鎌から飛び出す魔法による衝撃波が二人の少女に向かうが、美琴の肩を引き前に出てきたツンツン頭の少年の右腕にぶつかると破裂音と共に衝撃波は消え去る。

 

 

「よくわかんねえけど俺のことを幻想殺しって知ってるなら多分学園都市の人間か魔術師か。だけど今は一方通行のことで手一杯なんだ」

 

 

セカンドの鎌が再び振るわれる。無言のままに。


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