魔法のあくせられーた   作:sfilo

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この時期はいろいろと忙しいですよね


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暗い夜中には光が差し込む場所が少ないため人影も出来にくい。セカンドの正体がバレていないのはこのためだろう。そもそも彼の本当の顔を知っているのか定かではない。

地面を裂きながら飛んでいく魔法を利用した衝撃波は庭の芝生を根こそぎ奪っていく。2人の姉妹は磁力を利用し避け、幻想殺しは出来るだけ敏感な反応を便りに避けてセカンドに近づき危険な時は右腕をかざしている。同時にセカンドも三人との距離を保ちながら鎌を振って逃げる。

衝撃波には魔法の属性が付与していない。そのため外から高熱にさせたり冷却させることにより炎を纏ったり冷刃とすることが出来る。

帯電させた斬撃を幻想殺しに放ったセカンドはようやく幻想殺しの対象の悪さに気がついた。この鎌状のCADは現在衝撃波を生み出す魔法式しか導入されていない。追加プログラムとして補助効果を得られるがメインとなるのは一本のみ。刃を繰り出すスピードも調節できるが幻想殺しは容易く対処し近づこうとする。更に2人の姉妹から繰り出されるミニ超電磁砲と電撃は駆動鎧を仕舞ったアタッシュケースでギリギリ防いでいる。高度な電子機器を扱うために開発されたケースは対電気性に優れているため盾としても機能した。しかし耐久値は高くはない。

彼は屋敷の外に出ることにした。監視カメラが敷き詰められた町中を逃走するリスクの方が彼らに捕まるリスクよりは軽い。セカンドが一高での姿で逃げると厄介であるためストックしてあった適当に見つけた人間の姿に変身し道路へ飛び出る。魔法による斬撃を利用して吹き飛ばした体は隣の家に駐車されていた車に飛び込まれる。

ガシャン!と鳴り響く破壊音により住民の睡眠を無理矢理中止させる。北山家のアラームで覚めなかった住民も何かの事故が起こったのだろうかと思いカーテンを開け始める。

車の持ち主は自分のものが破壊されたとあって慌てて2階から駆け下りていく。

それに気づいたセカンド、衝撃を吸収した車体を再度踏み台にし道路の方向へと足を進める。脚部のみを肉体変化で筋肉を増強させながら衝撃波を振り撒き番外個体と超電磁砲を振り切ろうとする。

 

 

「おねーさま、そこ左!」

 

 

「そこか!」

 

 

セカンドの後方から放たれた電撃に一瞬で気づき衝撃波で車を地面から浮かし直撃させなんとか防ぐ。電磁波を利用したソナー効果や、磁力を応用したビル壁を使い立体的な追跡をしてくる二人の電撃使いから避けるのには限界があった。幸いなことに幻想殺しを振り切れたのはいいとするが何時まで保つかわからない。脳に埋め込まれた通信機器であらゆる協力機関に連絡するが何一つ返ってこない。

 

 

「ックソ!強制送還なんぞニの次だ、振り切れる気がしない!」

 

 

超能力者の電撃使いがこれ程にまで厄介とは思ってもみなかった。戦闘訓練を学習装置でのみ行ってきたのが仇となったのかどうかは知らないが、実践経験のある超電磁砲は思いのほか強い。

セカンドの前方の大道路には深夜にも関わらず程々の車が走っている。信号がない場所を彼は車の進行に関係なく横切る。大鎌を振り回し衝撃波で道路を陥没させ後方の道路を断つ。急ブレーキによるスリップした車が相次いで事故を起こすが、セカンドや電撃姉妹はそれを無視するかのように大道路を通り抜ける。

ビル群が並ぶ都心の方へ逃げていくなか、彼は後方の追っ手よりも厄介なものを感じた。上空にヘリコプターが飛んでいたのである。恐らく軍または警察のものだろう、セカンドは飛行進路を予測し電撃刃を投げ飛ばす。しかし旋回性能が高いのかギリギリの所で回避されてしまった。遥か前方、何かが大群で動いているのが視力のあまり良くないセカンドにも見える。

急に立ち止まる彼に御坂と番外個体は不信感を募らせる。するといきなりだった。

 

 

「そこの2人!鬼ごっこは終いにしてちょっとこの先考えようぜ」

 

 

彼が指さした前方を彼女らも確認する。恐らく御坂美琴単体で突破することも容易だろう。しかしセカンドは学園都市がこの騒動で表に出ることは避けたい。それに誰の許可も得ずに侵入してきた御坂らもここで騒ぎを起こしたのが自分だと判明すると、北山家に在留するのが難しくなるのは明確だった。

そして一番の原因、それは番外個体の様子がいつもと違いおかしいことだった。

セカンドに歩み寄った彼女らの違和感にすぐさま気付いた。

 

 

「番外個体と言ったな、薬は全部使い切って幻想殺しの庇護下で影響を免れていたのか?」

 

 

元気が無いように御坂に肩を抱かれ軽く頷く。気力でセカンドを追っていたのだろうか、それとも姉の御坂美琴に迷惑をかけまいと踏ん張ったのだろうか。超電磁砲が丈夫なところを見ると恐らく自分の分の薬まで与えていたのだろう。

ひとまずポケットにしまっていた錠剤をセカンドは番外個体に手渡す。

 

 

「取り敢えず体の崩壊は一時的に鎮まる。だがクローン体であるお前が長期間調整を受けていない、すぐにあの医者に見てもらうのがいいだろう」

 

 

「ちょ、ちょっと、何でアンタそこまで知ってる訳?」

 

 

「なんでって学園都市から送られてきた人間が暗部であることは確実だろ。善良な人間がこんなところに潜入する必要は無い。それに...」

 

 

追加で話そうとしたセカンドだが群れの動きが頻繁になってきたので二人の脱出を優先した。手元の通信端末はピクリとも反応しない。仕方なく彼は御坂の旧タイプの携帯を借りてある番号を打ち込む。

 

 

「緊急コードを発令させた。お前達2人は今から出現するワープホールで学園都市に戻れ。俺はその事後処理に色々する」

 

 

須藤華恋が生成するワープホールには残存情報がある。測定する方法は学園都市が握っているがその他の勢力が把握しているかもしれない。この可能性が薄いがこれだけ貴重な超能力を学園都市以外から解析されるのはあってはならない。これまでも使う場合は人気のない場所やあっても問題をクリアした場合に限られていた。しかし今この状況、残った情報を周りに囲まれた警官や軍人らに触れさせることすら危険である。

突然空間上に出現した白い波紋を描いた穴を見た電撃姉妹は驚いているようだったがセカンドは何度も通った過程なのでなんとも思わない。

 

 

「何も聞かず着いた場所にいる女に事情を説明しろ。すべてその女がなんとかしてくれる。番外個体はすぐに医者に見せるべきでお前もこの世界に戻ってこない方がいい。この世界は俺達にとって不都合すぎる」

 

 

「待って!アイツ、上条当麻はどうなるの?」

 

 

「こちらで対処する。そもそも無断でこっちにやって来て何の罰則もなく帰れるだけでありがたいと思え。早くいけ、面倒だ」

 

 

2人の背を押し波紋を打ち消すように空間の異常が収まる。それと同時に彼はCADを仕舞っていたスーツケースに入っている駆動鎧を体に装備する。眼前にはデータ化された敵情報がディスプレイに映る。大鎌を肩にかけワープホールの情報が消えるまでの時間を計算させる。

約15分

その夜は眠りを妨げる爆音が都内のある場所に鳴り響いた。

 

 

***

 

 

『おはようございます、朝6時のニュースをお伝えします。初めについ先程まで都内に出現した凶悪犯についてお伝えします。深夜0時頃都内の住宅街に現れた犯人は街を破壊しながら警察からの追撃を回避し、今なお逃走中とのことで街は緊張の最中にあります。逃走途中人質をとり危険な状況にありましたが今現在病院に搬送され治療を受けています。我々メディアにはつい先程情報規制が解かれ混乱しておりますが、犯人確保のため情報を拡散させていきたいと思っております。犯人の特徴をお伝えします。身長は180cm前後で体を何かしらの機械で覆っており顔などは把握出来ておりません。もし見かけた場合にはすぐに通報しその場から逃げて下さい。警察官32名が死亡し関係者ら50名近くが負傷しており大変危険です。あっ、ただ今新しい情報が入りました!人質とされていた方は体内の血液を多量に抜かれていた模様です。先日から起こっている猟奇的殺人事件との関連があるとみていいのでしょうか...』

 

 

ニュースが流れるテレビを目にしながらセカンドは歯磨きをする。この世界にばらまいた滞空回線で集められる範囲だけある情報を集める。それは本物の吸血鬼に関するものだった。御坂らが使ったワープホールの後始末が終わって逃げる際、カモフラージュとして通りすがりの人間から血液を奪っていったのだ。だが報道では騙せていても見破られるのは時間の問題でもある。何故なら傷跡がはっきりと残っており本物の吸血鬼とはタイプが異なる。

さらに悪いことが重なり本物の吸血鬼が同じ日の夜に動いたのだ。さらにそこにはリーナ率いるアメリカ軍の部隊と一高の生徒、西条レオンハルトが居合わせていた。

だがこの犯人がセカンドの正体へと繋がることはないと確信していた。学園都市の存在にはたどり着く人間がいるかもしれないが彼の持つ肉体変化は並大抵の眼力では見抜けない。

今日のやるべき事はレオの容態を確かめ吸血鬼の性能をある程度予測し対抗策を考えること。アメリカと協力関係にある今彼らが日本に来る原因を調べることは早期解決に繋がるに違いない。

深夜の活動をしていたリーナ達のために朝食を用意する準備をしようと洗面台を離れて行った鏡にはセカンドの残像が残っていた。

 

 

***

 

 

液体に包まれた学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリーはプランの手順の再構築を行っていた。灼熱のハロウィンで手に入れた個体『一方通行』を利用し省くことの出来るところは迷わず省いていく。

 

 

『封印が解けつつある、か』

 

 

報告書に記されたある文章を読み終え最後の文を復唱する。

 

 

『だが利用すれば......フフッ』

 

 

謎の笑みを浮かべ逆さまの人間に付属する人口生命維持装置は激しく点滅する。それに呼応したかのようにある画面がアレイスターの目の前に映し出される。料理をするセカンドの姿、町中を走り回る上条当麻の姿、そしてアレイスターと同じように液体に浸され何の反応もない白髪の青年一方通行の姿。

だがその映像に物理的に割り込むようにある人間が窓のないビル内に入ってきた。

 

 

「覗きが趣味のアンタなのはわかってるんだけどさ、うちのおもちゃに手を出すのやめてくれるかな?」

 

 

『亜空転移、君のおもちゃは手に余る。そもそもあれを内蔵するために学習装置の使用を繰り返してるのであって好きな性格、好きな記憶にするために使ってるわけじゃない』

 

 

須藤華恋は一仕事終えたついでに訪れたのだがいつまで経ってもこの空気に慣れない。すべてを飲み込みそうな奥に潜む圧倒的な力。

 

 

「でも封印が解けそうなんでしょ?私に任せてよ」

 

 

それ以上何も答えなかった。ビル内は生命維持装置の機械的な点滅を残し光を消し去った。

同じ窓のないビルの住人同士意識の繋がりがあるのかもしれない。




感想返せなくてすみません
少しずつ返していきます

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