魔法のあくせられーた   作:sfilo

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学園都市の統括理事長の姿を一方通行は見たことがないがこの世界に自分を飛ばした以上、その人物にも世界を移動する方法が存在するのだろうか。

しかしそんな思案をする時間はなかった。

手元の時計に映った時間を考えると学校に行かなければならない。

一方通行は1年A組に在籍している。学校にはアクセラレータとい名前で登録しているので席は一番前だった。

ほのかと雫は登校までは一緒だがその後はほとんど別々の行動だった。一方通行にとって彼女ら2人は保護対象者であるが流石にずっと見てやるほど過保護ではない。

学園都市では過保護になり過ぎていたのではあるが。

昼食も一方通行はトレーの上に乗った定食など食べることは出来ずサンドイッチのような軽食で済ませる。

しかしどこに行っても彼の容貌は目立つ。同級生だけでなく上級生でさえ廊下ですれ違えば必ず二度見してしまう。しかし彼は既に慣れていた。学園都市にいた頃はほぼ研究所か裏路地しか居なかったが、こちらに来てから普通の人間と同じような生活をしている。そのため見られる事には抵抗がない。

オリエンテーションが全て終わり彼はまた二人を探した。昨日のように先に帰っているという連絡はないので一緒に帰る予定である。これは別に一方通行がこだわっているということではない。潮との契約上彼女らの身の安全を確保しなければならないので半強制的にである。

ほのかと雫は総代の女生徒との何やらゴタゴタに巻き込まれている様だった。一方通行が端末で連絡するも彼女らからの反応はない。

仕方無く騒乱の中心へ一方通行は向かっていく。

 

 

「どうしてそんなに二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」

 

 

一方通行は痴話喧嘩か?と感じた。集まりの 近くによるとその様な雑言が聞こえてくる。

 

 

「僕たちは司波さんに相談することがあるんだ!ウィードごときが僕たちブルームに口出しするんじゃない!」

 

 

何やらとてもヒートアップしていると一方通行は感じる。そして雫の元へと辿り着く。それから痴話喧嘩(?)を邪魔しないように小声で彼女に尋ねる。

 

 

「なァ、ブルームとかウィードとかって何なンだ?それと今日はこのまま帰ンのかそれともどっか寄るのかどうなンだ」

 

 

対する雫も小さな声で一方通行に答える。

 

 

「1科生と2科生の違いを差別的に表現したもの。校内で使うのはあんまり良くないんだけど、あの人はその、頭に血が上ってるみたいだし」

 

 

そォか、と一言頷き事の次第を見届ける。一方通行にとっては彼らの喧嘩などどうでも良く、ほのかと雫を早く帰らせたいという思いが募る。

しかしその思いとは裏腹にもっと事態は悪化していく。

 

 

「そんなに僕達が優れているとが知りたいのなら教えてやるよ!」

 

 

その少年は手元にCADを構える。サイオンが帯び始め起動式が読み込まれる最中彼の手のCADが宙を舞う。

 

 

「この間合いなら身体を動かした方が早いのよね」

 

 

2科生の女性が警棒でCADを吹き飛ばす様を一方通行は観察する。

 

 

(そりゃァそンな距離なら警棒の方がはやェだろ。そもそも魔法なンざかなり突出した才能が無けりゃァ戦闘で使えねェ代物だしな)

 

 

CADを吹き飛ばされた学生を見て続々と自分のCADに手を掛ける1科生をほのかは許せなかった。そこで彼女は自らの魔法でこの場を収めようと起動式をいち早く展開する。

そこに一方通行は外部から飛んでくるサイオン弾のベクトルを感じ取る。その目標座標はちょうどほのかのCAD付近。彼は一瞬で首元の電源を入れ弾丸とほのかの間に移動する。

さらにほのかの手首に触れ、起動式に対し自らのサイオンをほのかの流したサイオンとは逆ベクトルで流し込む。

ほのかの起動式が霧散すると同時に一方通行の左腕に接触したサイオン弾が、ビデオの逆再生のように射出された方向へと同速度で戻っていく。

しかしサイオン弾を射出した場所と射出した人物の座標が異なっているため、その反射された塊の影響を受けることはなかった。

 

 

「オイ、サイオンぶっ飛ばすのもいいが目標が違ェだろ。そこの糞ガキ狙え」

 

 

割り込んだ一方通行の低い声がサイオンの飛んできた方向へと響く。その声の先には二人の女生徒がいた。

 

 

「やめなさい、自衛以外の魔法使用は犯罪行為に当たります」

 

 

発言主は七草真由美である。一高生徒会会長でありその発言の重みはその場の全員に伝わる。その場の殆どの人間は会長の重圧に屈す形で動けなくなっている。

 

 

「1-Aと1-Eの生徒ですね。ついて来てください、事情を聞きます」

 

 

それに対し深雪の側に立っていたある男子生徒が軽く一礼し意義を申す。

 

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました。森崎一門のクイックドロウを見学させていただく予定だったのですが、あまりにも過激すぎた為手が出てしまいました」

 

 

すると真由美の隣に立つもう一人の女生徒、渡辺摩利は男子生徒を見て失笑する。

 

 

「ではなぜ1-Aの生徒が攻撃性の魔法を発動しようとしていた?」

 

 

「思わず手が出てしまったんでしょう。反射的に起動式を組み上げるなんて流石1-Aと言ったところでしょう。それに攻撃性の魔法と言ってもただの目くらまし程度の閃光魔法です。それほど大きな被害には至らないと判断しました」

 

 

違和感しか沸かない会話だが矛盾している所は摩利から見ればこれと言ったところはない。彼女は不満げに男子生徒を見つめるが彼の一言で事態は収束する。

 

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

 

凝り固まった場の空気がゆっくりと流れ出そうな時に真由美は緊張感をもう一度高めて白い怪物に向けて発する。

 

 

「わかりました、ですが問題はもう一つあります。攻撃性のある魔法を発現したそこの男子生徒、あなたに弁明はありますか?」

 

 

一斉に一方通行の方へと視線が差し込む。場の緊張により大体の生徒が彼を見つめるだけに留まっている。

 

 

「サイオンぶち込ンで来たお前が何言ってンだ?そもそも俺が魔法を使った証拠はあンのかよ。そこの分析が得意な男にでも聞いてみろ。なァ、俺の周りにサイオンの乱れか起動式の存在が確認できたか?」

 

 

周囲の人間は生徒会長への言葉遣い、いや目上への言葉遣いではない事で驚いていた。質問を投げかけられた男子生徒、司波達也は先程の記憶を蘇らせ真由美に向かって回答する。

 

 

「先程は彼の隣の生徒が魔法を展開しようとしていたためそちらに集中していました。自分には良く分からない事です」

 

 

一方通行の舌打ちは雫にだけ聞こえた。彼はここまで事態が酷くなることを予想していなかった。そのため安易に能力を使ったことを後悔する。

 

 

「わかりました、では他の生徒は解散して下さい。私のサイオン弾に干渉したそこの男子生徒はついて来てください。事情を伺います」

 

 

そう言うと場の雰囲気はガラリと変わり緊張感はほとんど無くなっている。一人の生徒を生贄にして身の安全を確保する高校生など怖いばかりではあるが。

二人の生徒に連れていかれる一方通行は、先程魔法を発動しようとしたが警棒でCADを吹き飛ばされた男子生徒の耳元で彼にしか聞こえない音量で囁く。

 

 

「オマエ、あンまりふざけた真似してると殺すぞ」

 

 

森崎は一方通行が通り過ぎると緊張の糸が切れたかのように地面に崩れた。

一方通行は杖をつきながら真由美の隣を歩く。彼女は一方通行の歩幅になるべく合わせるよう ゆっくりと歩いている。

 

 

「あなたの名前ってあくせられーた?でいいのよね?」

 

 

真由美の自信が無さそうな声で一方通行に質問する。

 

 

「あァ」

 

 

「さっきの魔法の事は生徒会室に行ってからでいいけど、その髪の毛って地髮なの?」

 

 

「あァ」

 

 

「その目も?」

 

 

「あァ」

 

 

「摩利ー、アッくんがつれなーい」

 

 

その隣を歩いている摩利の腕に抱きつき愚痴を零す。

その様子を見て一方通行は先程の様な緊張感のある空気を懐かしく思った。

摩利はいつものことなのか軽くあしらいながら躾ける。

 

 

「早速あだ名をつけおって、いつもいつも私を困らせるな」

 

 

一方通行には未だに慣れない表側の感覚。ある程度緊張感を持って欲しいと心の中で願いつつ生徒会室へ向かう。

強制的に連れてこられた一方通行は生徒会室のテーブルへと座らせられる。杖をテーブルにかけ首元のチョーカーに触れる。

 

 

(活動限界は16分弱ってとこだな。ここ最近充電する時間も無かったし仕方ねェ)

 

 

真由美の周りには男子生徒1名と女子生徒4人が一方通行と対面に位置している。不機嫌な一方通行のイライラを察している小さな少女は先程から瞳に涙を貯めている。

 

 

「それでは先程の魔法の行使について事情を聞かせてもらいます」

 

 

仕事モードに入った真由美の数々の質問に答えていく。事件の概要をある程度聞いた後、彼女は一方通行をここに呼んだ本当のことを話してくれた。

 

 

「本当はアッくんを呼んだ理由は他にあるの」

 

 

「なら最初からそう言えよ。テメェら頭湧いてんのか?」

 

 

「会長、彼の言動には問題が見られる点が多過ぎます。制服着用義務免除書の撤回をするべきではないでしょうか」

 

 

男子生徒、服部副会長が一方通行を睨みながら真由美に提言する。対する一方通行はそのようなものは気にしない。副会長の指図を受けるような女性には見えなかったからだ。

 

 

「はんぞーくんは少し静かにしてて。で、本題なんだけど今年の風紀委員の人選がまだ済んでいないの。アッくん成績は1年生の中で一番いいからお願いできないかしら」

 

 

一方通行は魔法の筆記試験において全科目満点をとっている。実技では自分の演算領域に制約を抱えているため上限は既に決まっている。

だが問題はそんなところではない。一方通行は雫とほのかの護衛を請け負っているため余計な時間を取られたくなかった。

 

 

「ハンッ、俺の体見てもそンなこと言えンのかよ。杖なしじゃァ歩けねェ、そんな体で風紀委員なんざァ出来っこねェ」

 

 

「それもそうだな、だが我が風紀委員としてその目上への言葉遣いは、些細ではあるが問題だろう」

 

 

一方通行はこれまで敬語というものを使ったことがない。使う必要がなかったし何より使う相手がいなかった。自分から敬意を払いたいという相手もいなかったし、敬語を使えと言ってきたクズ共は全員薙ぎ倒してきた。

だがここではそうも言っていられないだろう。

 

 

「あァわかった、なるべく努力する」

 

 

「それじゃまた風紀委員考えなきゃいけないのー、摩利、私もう疲れた」

 

 

一方通行は話す事も無くなり生徒会室を出ようとするが突然真由美が彼に全体重をかけて抱きつく。いきなりのことで対応することができず杖と体全体で背後から抱き着く真由美に耐える。

 

 

「アッくんって本当に男の子なの?肌すべすべだし髪の毛もすごく綺麗、顔立ちもすごく整ってて女の子みたい」

 

 

「いきなり寄って来ンじゃねェよ!こっちは杖で体支えなきゃならねェのによォ!」

 

 

一方通行の体がグラグラと左右に揺れる。しかしそのことを気にせず真由美は彼の顔にさらりと手を触れる。それを振り払おうと杖をついていない方の手で何とか抵抗するがどうにもならず、とうとう真由美が飽きるまで立っていることにした。

数分経ち、やっと一方通行から魔の手が離れる。するとすぐに生徒会室から立ち去る。

 

 

「アッくんまた遊びに来てね~」

 

 

生徒会室を出た一方通行は2度と行くまいと思い自宅へ向かった。


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