魔法のあくせられーた   作:sfilo

6 / 40
総合評価1000達成ありがとうございます。


6

路上を走行していたのは萬屋と風祭という一高を卒業したバイアスロン部のOGである。彼らは新入生を勧誘する時期にこの学校に遊びに来ていた。そこで後輩の摩利にいたずらしようとして今に至る。

しかしいたずらで済めば良かったものが一方通行の琴線に触れる。

走行中の2人は背後にいる摩利のことなど既にどうでも良かった。それよりも摩利の上空を飛行する生徒に目がいってしまう。一般人よりも遥かに強力な魔法の資質を持っている彼女らであってもあんな真似は出来る筈がない。

 

 

「颯季!あの化け物から逃げれる!?」

 

 

空を舞う白い翼の一方通行との差は徐々に詰まってきている。

一方通行は彼ら以上の速度を出して飛ぶことが出来るが、旋回による学校の施設破壊を防ぐため速度を落としている。

 

 

「無理!2手に別れるのが一番!」

 

 

そう言うと目の前のT字路で左右に別れる。萬屋が左へ風祭が右へ、それに次いで一方通行が左へ、摩利が右へと進路を変える。

萬屋はハズレくじを引いたと思った。摩利ならば地上に干渉する魔法でいくらでも妨害が可能だが、空の追っ手は違う。こちらから仕掛けることは出来ず、向こうを振り抜く事しか出来ない。

一方通行の飛行速度が上昇していく。だが萬屋は一寸手前で進路を変更する。一方通行はこれに対応出来ずそのまま突き進む。

 

 

(何よあれ!?空を飛べるBS魔法師だとしてもあんなに速度がでるの?でも、いい機会だし練習相手になってもらうわ)

 

 

一方ほのかと風祭は摩利と魔法の攻防を繰り返していた。だが風祭が摩利に捕まりそうになる場面が増えてきており、直に捕まるだろうと予測される。

本来風祭は萬屋とのコンビネーションが得意であるため、一人きりだとどうしても本来の実力を発揮出来ない。

すると前方から萬屋が走ってくるのが見える。その背後には先程追ってきている白い翼は見当たらない。萬屋がCADを取り出し摩利の進行を妨害する魔法の起動式を読み込ませる。

その時、既に一方通行の罠に掛かっていた。

起動式を読み込ませながら走行し萬屋と風祭が一方向へ逃げようとするが彼らの足元からボードが離れている。

一方通行が彼らの体を掴み空へと駆けて行こうとしていた。

能力発現時の彼に重力、摩擦力、抵抗などのあらゆる物理法則は適用されない。2人の体を両手で抱き先程までの空というフィールドへ連れていく。

 

 

「ちょっと、勧誘してただけじゃない。なんでそんな...ひっ」

 

 

萬屋は自らの下に映る景色を見て驚愕する。魔法科高校が非常に小さく見える。

 

 

「心配すンな、酸素やら必要な空気は圧力を無視して下から運んできてる。テメェらはそこの2人が落ちねェようにしっかり捕まえておくことだな」

 

 

「お願い、降ろして。私高いところダメなの...」

 

 

風祭の弱々しい声が一方通行の耳に入るが基本的に無視する。さらに彼は留まっている状態からまた飛行を始める。

 

 

「もうダメ...あっ...」

 

 

風祭は空を自由に飛びまわる一方通行の腕からすり抜けそうになるが彼はがっちりと掴む。だが風祭が抱き抱えていた雫は重力に逆らえない。

腕からすり抜け地面に落下していく中一方通行は舌打ちをしながら彼女の元へと駆け抜ける。

雫は一方通行の体に抱きつき身の安全を確保する。

数秒後、一方通行達は一高の敷地内に戻ってくる。非常に大きな速度で落下してきていたが彼の能力、ベクトル操作により抱き抱えている彼女らに身体的ダメージはない。

そこへ先程まで鬼ごっこを続けていた摩利がやって来る。

 

 

「風祭、萬屋!観念して新入生を離せ」

 

 

「わかった、わかった、あんな事されたらもう何にもしない」

 

 

一方通行は呆然としているほのかと珍しく顔を赤らめている雫を近くのベンチに座らせる。ほのかは、お星様綺麗などと意味の不明な事を呟いていた。

 

 

「OGだからって迷惑かけるんじゃない。風祭を連れてさっさと帰れ」

 

 

摩利に促され風祭に肩を貸しながら萬屋はバイアスロン部の後輩の元へと歩いていく。その様子を確認した後摩利は一方通行に近寄る。

 

 

「おい、過度な新入生勧誘を止めたのには感謝するがあれはやりすぎだ。それに何だその魔法、翼を生やして空を飛ぶなんて真似誰にでもできる物じゃないぞ」

 

 

一方通行は首元に手をかけ杖をつき始める。能力制限状態になり今までの感覚が嘘のように消え去る。

 

 

「うるせェ、誰がどんな魔法使おうが関係ねェだろ」

 

 

彼の先輩に対する悪態は未だに治っておらず摩利はそうか、と首を左右に振りながら自分の乗っていたボードを片付けようとする。

 

 

「その言葉遣いは治らんようだな。まあいい、今回は萬屋と風祭を止めたことに免じて風紀委員委員長として罰はなしにしてやる。私のいないとこでやったら確実に懲罰委員会行きだからな、これに懲りたらあんなに派手な魔法は使うなよ」

 

 

そう言ってその場を離れていく。一方通行はフンと鼻を鳴らし放心状態の二人の元へと足を進める。

 

 

「オマエら、あンまり俺の手煩わせンじゃねェよ。こっちだってそんンに暇じゃねェ」

 

 

「ただの勧誘だし大丈夫だった。それよりもあんな高い所から落とされた方が怖い」

 

 

「ハッ、なかなか出来ねェ体験だろ。それよりほのかを起こせ、そこの部員共に話あンだろ」

 

 

バイアスロン部の後輩たちは一方通行に近寄れない。自分たちもあんな真似されてしまうかもしれないという考えに陥っている。

一方通行はチョーカーの残存電力を確認しバイアスロン部がほのかと雫に話しかけやすいように離れた場所へ移動する。

缶コーヒーを買いに行き彼が戻った時には既に話が終わっていた。彼女らはバイアスロン部に入ることになっていた。一方通行も誘われたが、杖をつかなければならない体に鞭打ってまでやる事ではないと遠慮した。

彼はすぐに帰ろうとしたがバイアスロン部が次のデモンストレーションが始まるというので雫に連れられる。その途中狩猟部の手助けなどをほのかと雫はしていたが、一方通行は興味が無いように無視してデモを見ていた。

翌日、一方通行は眠い瞳を開いて学校へ行く。今日は用事があるため雫達よりも早めに家を出る。

学校に着き彼が立ち寄るのは図書館だった。彼の図書館に寄る目的は現代魔法の標準を知ることだった。彼がこの世界に来てから魔法の理論や基礎部分は学んだが、何が流行りで何が普通の魔法なのかはいまいち確認できない。彼の能力によるこの世界での擬似魔法は先日体験したように、あまりにも異質で多くの組織に狙われると判断した。彼自身が狙われるのは問題ないが、周囲の人間に被害が及ぶのは最悪である。

図書館に存在しているデータ書籍を自らの端末へインポートする。持ち出し禁止でデータの移行が出来ないデータであっても彼は自らを変換器にして端末へと流し込む。それが終わるとちょうど授業開始前のチャイムが鳴る。

 

 

「おい、一方通行少し来てくれ」

 

 

昼休み前の授業が終わってのんびり窓の外を眺めていた一方通行に教室に入ってきた摩利が話しかける。当の一方通行は窓の景色を堪能するため能力によって音を完全に遮っており摩利の声は届かない。そこで彼の肩に手をかけようとした摩利だが、寸前にこちらを振り向きものすごい形相で睨みつける一方通行に戸惑う。

 

「真由美がお前に用事があるそうだ」

 

 

空気の振動の反射を解除した彼は素直に従う。内心抗ってもどうせ放課後辺りに彼女の餌になるなら早めの方がいいと考えている。

廊下を歩いていると摩利が話題を振ってくる。

 

 

「君はどうして呼ばれたと思っているんだ?」

 

 

「さァな、どうせ気まぐれだろ」

 

 

杖をついている彼に合わせる摩利は口元に手を当ててフフっと笑う。

 

 

「君はほとんどわかっているんだろう?昨日注意した私が君の元へと行った時点でだいたい把握しているはずだ。まあそう言う私もただ呼んで来いと言われただけなんだがな」

 

 

「そォかよ」

 

 

一方通行が生徒会室の扉を空ける。そこには服部以外のこの前の生徒会メンバーに司波兄弟がいた。

 

 

「アッくん、こっちこっち〜」

 

 

真由美がトコトコと小走りで近づき一方通行の手を取って自分の席に座らせる。その光景は他の役員には新鮮なものである。

対する一方通行は怠そうな体を無理やり動かし真由美について行く。

 

 

「今日はなンだよ、さっさと用事言え、じゃなきゃ帰るぞ」

 

 

「今日はちゃんと用事あるの!いいから座って座って」

 

 

渋々座り周りを見て司波達也を発見する。この前の事で疑問に思う一方通行はその隣の少女を見ると納得がいった。

 

 

「オイ、司波。この前オマエが言ってた妹がコイツか。なかなかの上玉じゃねェか」

 

 

「深雪、彼が一方通行というんだ。同じクラスだから深雪の方がわかると思うけど」

 

 

そう言うと深雪は丁寧なお辞儀をして一方通行に挨拶した。

 

 

「それはそうと、アッくんにお届けものが届いているの。本来なら学校への郵送物はチェックが入ってから本人に渡すんだけど、アッくん宛のは見たことのない鍵がかかっているから呼んだってわけ。はいこれ」

 

 

真由美の持ってきた縦30cm横10cmほどの大きさの長方形の金属箱が一方通行の目の前に置かれた。

 

 

「一応生徒会で中身を確認しなきゃいけないからここで開けていってね」

 

 

そういう真由美は一方通行の隣に立ち何が出てくるかワクワクしていた。他のメンバーも昼食を食べながら一方通行の箱を気にしている。

そのうち一方通行が箱に手を乗せるとピーというブザーが鳴る。

 

 

『おはようございます、一方通行様。こちらは学園都市統括理事会からあなた様宛の郵送物です。先程の接触による一方通行様本人の確認がとれましたので開封作業に移ります。離れて下さい』

 

 

一方通行以外の誰もがその光景を疑った。銀色のただの箱がAIを持っているかのように一方通行に話しかけている。

そんなことも知らずに郵送物はカチャカチャと音をたてて中身を出現させる。

 

 

『お待たせしました、一方通行様。今回は現地での特別調査のためこちらをご用意致しました、超微粒物体干渉吸着式マニピュレータでございます。以降ピンセットと称します。では説明に移らせてもらいます。今回は上条当麻殺害を命じましたが途中より任務の変更がございました。それはそちらの世界の構造把握と魔法という現象の解明であります。統括理事長ご自身の命令のため破棄は出来ません。さらに』

 

 

「いちいちうるせェ、要点だけ話せ」

 

 

一方通行のドスの効いた声が箱からの声をかき消す。

 

 

『承知したしました。では肝心な点だけお話いたします。今回の目的は先程言いました。そのため一方通行様には魔法を独自の観点から観察しレポートを提出していただきます。それが確認でき次第、一方通行様を回収しに参ります。回収部隊はグループを再編成したものとなります』

 

 

「打ち止めは安全か?」

 

 

一方通行の気がかりはそこしかない。そもそもこの世界にやって来たのは何らかの偶然だと思っていた彼は学園都市の手の平に踊らされていた事に腹を立てる。

 

 

『勿論でございます。今回の任務は強制ではありません。ですがレポートを提出しない限り回収部隊を送り込めませんので...他にご所望の機材がございましたら伺いますが何かありますか?』

 

 

一方通行は唇に手を当て苛立ちを最低限に押さえ込んでいる。この世界に来て半年以上。接触がなかった学園都市が今更何の用だと思いきや魔法の解析。全てに怒りがこみ上げる。

 

 

『では無いという事でよろしいですね。なお一方通行様の端末に正式な文書とピンセットの詳しい操作内容、学園都市からの連絡の方法などが後に送られますのでそれをご確認下さい。ではさようなら、一方通行様。この箱の処理は能力による粉砕、または圧縮を行ってください』

 

 

銀の箱が停止したと同時に一方通行の心に火がつく。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。