魔法のあくせられーた   作:sfilo

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銀箱の会話が終了すると一方通行は目の前のピンセットを掴み取り右手にはめる。以前土御門が操作していたので彼にも一応扱い方は分かる。ピピッと電子音が響いた直後ピンセットのモニターに空気中の分子などが映し出される。そこに滞空回線は存在しない。彼は少しながら安心した。

 

 

「悪ィな」

 

 

その場を立ち去ろうとする一方通行に達也は立ちふさがる。

 

 

「色々と不可解なことがあるがそのピンセットとやらは一体なんだ?」

 

 

周囲の人間の代弁を行う達也、そんな様子にうんざりし無視して生徒会室を出る。誰もその動きを止めることは出来ない。なぜなら止めれば何が起こるかわからないほど一方通行の怒りは激しいからだ。

彼が去った生徒会室にあまり普通ではない空気が漂う。

 

 

「摩利、さっきの話どう思う?」

 

 

一方通行の隣に座っていて今はその席に座る真由美は摩利に対して話しかけるがほとんど全員に話しかけているのと同じだろう。

 

 

「なんだかぶっ飛び過ぎてよくわからん。だがこの世界の構造把握というワードだけは気になるな」

 

 

うーんと唸る真由美は達也へ言葉の船を渡す。

 

 

「なんとも言えませんね。学園都市とあったので筑波方面の関係者かと思いましたが、今のあそこにあれほどの開発力は残っていません。それに自分の知り得る限り統括理事会など存在しません」

 

 

すると先程出て行った一方通行がまた戻ってきた。銀箱を取りに戻ってきたらしい。その箱にピンセットを収納し箱ごと抱える。

 

 

「アッくん、学園都市って何?」

 

 

真由美はいつも通りのテンションに持っていったが周りの誰もが無理やりだと気付く。対する一方通行はギロリと眼球を動かす。赤の瞳が真由美に突き刺さる。

 

 

「関係ねェ、別にお前らに迷惑かけねェよ」

 

 

彼は未だに落ち着いていない。いくら学園都市の闇に深く関わっていたとしてもここまで予想できる者はなかなかいない。彼の心は揺れ動く。

再度生徒会室を出て廊下をゆっくりと歩く。その間様々なことを思い浮かべる。別に悪い場所じゃなかった。この世界にやって来て打ち止めの事や様々な事が心配だったがこの世界に馴染めている頃だった。いきなり任務を与えられて理不尽だと思う。だが帰る手立ては今の所それしかない。

1-Aに戻り一人でじっくり考える。雫やほのかを見捨てて元の世界へ帰るか、ここに残って彼女らの護衛を続けるか。悩むぐらい彼の中で二人の存在は大きくなっていた。勿論打ち止めのことが最優先であるのは間違いない。しかし出来ればこの二人も守っていきたい。

一方通行の心は揺れる。

そんな中授業開始のチャイムが鳴った。

授業中も教師の言葉は彼をすり抜けていく。どちらを取るか、学園都市かこの世界か。

彼は悩み続ける。

 

 

***

 

 

いつの間にか放課後になる。雫とほのかは帰ろうと思い一方通行を誘う。

 

 

「一方通行さん、今日はもう帰りましょう。特に用事がある訳でもないですし」

 

 

彼は軽く頷き席を立つ。左手には杖が、右手にはケースがあり両手が塞がっている一方通行に雫は疑問を抱く。

 

 

「朝からそんな荷物持ってたっけ?」

 

 

「まァな、それよりどォすンだ。外は昨日みたいに多勢いるぞ」

 

 

入る部活が決まった2人であっても上級生は強引に勧誘してくる。

そこへ赤髪の生徒がほのかに話しかける。

 

 

「アレ?2人とも今帰り?」

 

 

少女の名前は明智英美、正確にはアメリア=英美=明智=ゴールディという名でありクォーターである。彼女は昨日狩猟部の出来事でほのかと雫と出会った彼女らの友人である。友人らからはエイミィと呼ばれる。

 

 

「あっ、エイミィ。いや、どうやって帰ろうかなって」

 

 

「あーっ、外すごいもんね。あれ?まさかそこの人って一方通行!?」

 

 

一方通行はチラリと彼女の方を見る。彼より少し背の低い少女である。

 

 

「こちらは明智英美、私達はエイミィって呼んでる。で、こっちが一方通行」

 

 

雫が2人にお互いの紹介をしている。一方通行はエイミィの事など興味がなさそうに雫に話しかける。

 

 

「で、どうやって帰るか手段は決まったのか?俺は最終下校時刻まで待っても別に構わねェ」

 

 

「誰か隠密系の魔法使えない?」

 

 

エイミィが提案する。隠密系とはその名の通り意識を逸らしたり姿を隠したりする魔法である。雫はほのかが得意ということを知っておりその案に乗る。対するほのかは魔法を勝手に使うのはルール違反だと言いつつも、その案に乗るしか安全に帰宅する手段がなかったので仕方なくやることにした。

3人はほのかが発動する魔法に隠れて移動する。

 

 

「少し待て」

 

 

一方通行が先を歩く3人の女性に言い止める。彼は掴んでいた収納箱に開くよう命じる。生体電気や特殊な電磁波を記号として用いている銀箱は中からピンセットを排出させ、その箱自体は掌に収まるほどの大きさの板になる。

ピンセットを装着した一方通行はほのかが展開していた魔法で出来た鏡のようなものに触れる。

 

 

「一方通行、そのグローブ何?」

 

 

雫の問いに答えず彼はモニターを眺める。ずらりと並ぶピンセットが掴んだ物質の中にエラーが突如映し出される。ピンセットで測定不可能な物質が混じっているようだ。恐らく学園都市で製造されているためこの世界の値に対応していないらしい。

 

 

(サイオンを感知出来るのか?ありゃァ非物質粒子のはずだぞ。それともアイツらの科学力が心理的現象に干渉できるほどになっちまったのか?)

 

 

一方通行の手元に魔法の基礎となる仮定を覆してしまうような検証結果が表れる。しかし実験を繰り返し確実となるデータが無ければ証明は出来ない。そうであるが彼に証明する必要性は全くない。

不明なデータを放置して掴んだすべての物質の判別が完了した。それが終わると一方通行はほのかに進んでいいことを伝える。

進んでいると前には風紀委員、司波達也が空気弾を避ける様子が垣間見得る。

4人はその光景に興味津々で生徒同士の揉め事を見続ける。その影響かほのかの発動していた魔法がいつの間にか消えており、多くの上級生から彼らが追いかけられたのは言うまでもない。勿論その中には一方通行も含まれている。

足が棒になるほど立っていた一方通行は自室に戻るとピンセットの入っていた箱を机の上に乗せる。そしてある決断をする。

 

 

***

 

 

一方通行の知らない所で闇は渦巻く。

 

 

***

 

 

それからは特に変わらない生活があった。ほのかや雫は一方通行に対し多少の遠慮らしきものがあるが当の本人は気にしていない。

彼女らが気遣う理由は一方通行の悩みとは無縁のところにある。エイミィ、雫、ほのかの3人は風紀委員司波達也に対し不条理な魔法による攻撃をする犯人探しに躍起になっている。そのため一方通行には何も言ってない。

だが彼、一方通行は何となくそのことを知っていた。犯人探しをしていることを知っているのではなく、危なっかしい事態に首を突っ込んでいるという感覚があるだけ。

それでも彼女らを止めることは出来ない。いや、止めようと思えば無理矢理にでも止めることは出来るが、それ以降の彼女らの行動を予測できなくなる。それで一方通行は3人を見守ることにし、非常に危険な時にだけ干渉しようと考えた。

そう思い今日も彼は端末で雫の現在位置を確認しながら図書室で魔法関連の書籍を読み漁る。(断じてストーカーではない)すると彼女の位置が学校外へと移動していた。すると仕方なく読んでいた本を放置し部屋から出る。

外は既に部活勧誘が終わっており平然としている。あれほどの賑わいを懐かしむように端末を利用し歩いて追いかける。

とぼとぼと歩いていると学校の監視システム外に出た。人よりも歩くスピードが遅い一方通行にとって人を追いかけるという作業は割に合わない。ここで雫の移動が収まった。止まっているようである。その間に追いついて何をしようとしているのか尋ねる予定だった一方通行は隣の道路を駆け抜けるバイクで感づいた。

かつて世界、学園都市の暗部を渡り歩いてきた彼にとって裏と表の世界の区別は人一倍自信がある。チンピラ以上組織以下の雰囲気がバイクの周りを包んでいるのがはっきりとわかる。どこの世界でも闇はあるのかとため息をつきバイク集団の進行方向を確認しそちらへ向かう。

裏路地に入る。一方通行の様々な思い出が蘇る。このような裏路地は悪事を行うのに格好の場所である。それは彼自身身に染みている。

奥へ進んでいく途中爆音が彼の耳に刺さる。先程のバイクのエンジンかと彼は思い少し危機意識を持つ。

 

 

***

 

 

雫、ほのか、エイミィの3人は剣道部主将、司甲を追いこの裏路地にやって来てまんまと彼の誘導に陥れられた。周りにはライダースーツとヘルメットを着用した数名の大人。

 

 

(合図したら走るよ、いいね)

 

 

雫は冷静気味にエイミィとほのかに伝える。囲んでいるライダーには聞こえていない。

 

 

「我々の計画を邪魔する奴には消えてもらおう」

 

 

雫が彼らの隙をついて2人の手を引く。途端に追って来るがエイミィの攻撃性のある魔法とほのかの閃光魔法が炸裂する。しかしこのまま逃げ切れるわけではなかった。

男の一人が手袋を外し指輪の効力を発動する。

 

 

「ふふ、苦しいだろう?これが司様からお借りしたアンティナイトによるキャスト・ジャミングだ。これが存在する限りお前達は魔法を使うことは出来ない」

 

 

3人は地面に伏し立ち上がる気力が湧かない。そんなことより頭が割るような振動に耐えるのに精一杯であった。

 

 

「よし、手筈通り我々の計画を邪魔するものには消えてもらおう」

 

 

アンティナイトの指輪を手にした男がナイフを取り出す。

 

 

「オイオイ、俺が到着するまでトドメ刺さなかったのは褒めてやるよ、クズ共。まァ逃げるのが最適だとは思うがなァ」

 

 

杖をついて歩いてくる一方通行は現場の惨状に目を張る。そこまでではない。彼がこれまで経験してきた裏路地の戦闘ではとても可愛い部類に入る。

 

 

「なんだ貴様、コイツらと一緒に始末してやろう」

 

 

男が指輪の出力を上げる。地面に倒れている少女達は耳を塞ぎアンティナイトの効果をなるべく受けないようにする。対して一方通行は気に触る事でもないのか何もせず歩いてくる。

 

 

「ふん威勢だけの愚か者め、やれ」

 

 

男の周りにいた仲間達もナイフを取り出し一方通行に迫っていく。そしてその内の一人が彼にナイフを突き立てる。

悲鳴が裏路地に鳴り響く。これは決して一方通行のものではない。ナイフを突き立てた1人の男の腕の骨が2本とも折れており、あらぬ方向へと腕が曲がっていた。筋肉だけでは腕を支えられない。

 

 

「そういや言ってなかったな、実は俺も魔法師なンだよ」

 

 

目の前の仲間の腕の異常な曲がりを確認するリーダー格の人間はアンティナイトの指輪の出力を最大にする。

 

 

「これでどうだ!貴様も魔法は使えまい!」

 

 

指輪を突き出し一方通行に向けて発射するが目標はそこにはいない。

 

 

「これがアイツらの魔法を使えなくしてる奴なのか。貰ってくぞ」

 

 

標的は既に男の背後に立っていた。そして指輪に手をかける。一方通行はそのまま外そうなどとは最初から思っていない。指輪の付いていた中指に触れそのまま引きちぎる。音などしなかった。

 

 

「あああああ!!」

 

 

「うるせェな、騒ぐンじゃねェよ。オマエも裏の人間なら指の一本位詰めてみろ」

 

 

そう言うと一方通行は男の顔の筋肉を操り口を塞ぐ。悲鳴を上げたくても出来ない状況に男の精神がついていかず気絶してしまう。

一方通行は魔法が使えない根源の指輪を粉々に砕く。その直後ナイフが飛んできた。恐らく直接的な攻撃は危険だと判断した仲間が飛び道具ではどうだと思ったのだろう。しかし飛んできたナイフは投げた本人にそのまま返ってその腕を傷つける。

そんなことを気にせず一方通行は飛んできたナイフの方向に突き進み2人の男に軽く触れる。そのベクトルを操作しトラックが突っ込んだ様な衝撃を与える。これにより裏路地の壁にクレーターを作り気絶させた。

腕を折られた最後の1人は逃げ出そうとしたが一方通行ではなく裏路地に入って来た一校の生徒、司波深雪に止められる。彼女の魔法によりノックダウン状態になり事件現場は整然としている。

不審者の行動不能を確認した一方通行は首元のチョーカー型電極のスイッチを切る。




アクセラさんはフェミニストじゃないよ!!

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