魔法のあくせられーた   作:sfilo

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これが本来の投稿ペースです。


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コンクリートの地面に転がっていた少女達は深雪と一方通行の姿を見てやっと立てた。酷かった頭痛が治まり普通に行動できるようになっている。

彼女らは深雪と一方通行に感謝の言葉を述べる。

 

 

「貴女達が無事でよかったわ」

 

 

深雪は3人に癒しの言葉を与える。

その間一方通行は襲撃者の仲間が来ないか表通りを見渡す。

 

 

「実はね、警察に届ける事はしないで欲しいの。ちょっと大事にしたくない事情があって。でも被害者である貴女達が訴えようとするなら私は止めないわ」

 

 

「監視カメラにも撮られてないし必要ない」

 

 

深雪はその後歩いて帰っていく少女らを見送る。見えなくなったのを確認し周囲様子を確認する。

 

 

「貴方はいつまでそこにいるんですか?」

 

 

倒れた男の上に座っていた一方通行に話しかける。

 

 

「オマエこそいつまで居るンだよ。クズ共の処理班でも呼ぶ為にアイツら帰したンだろ。オマエもさっさと帰れ」

 

 

一方通行は杖を利用して立ち上がる。そして中指が消えている男を裏路地の奥の方へと蹴飛ばす。

 

 

「待って下さい、この4人の身柄はこちらで預かることにしました。どこへ連れていくんですか?」

 

 

「どこって、すぐそこだから安心しろ。用事もすぐ終わる。後血が苦手ってンなら俺の方見ンなよ」

 

 

一方通行は蹴飛ばした男の元へ歩いていく。能力を使い男を覚醒させる。覚醒直後はグラグラと頭を揺らしていたが、一方通行の姿を見た途端後ろへ下がる。しかしそこには壁しかなく退路はない。

 

 

「オマエに聞きてェ事があンだよ。全部話すンなら俺は何もしねェ、どうする?」

 

 

「ふ、ふざけるな!誰がお前なんかに話すか!」

 

 

「そうかそうか、ロシアの時みてェに番外個体がいる訳でもねェしやっぱりこっちの方が俺には似合うな」

 

 

病人のような白い腕が男の腕に触れる。その瞬間触れた表皮に一方通行の指が食い込んでいく。

 

 

「やめろおおお!」

 

 

「話す気になったか?それでもヤメル気はねェがな」

 

 

皮を突き破り肉まで到達する指を彼は止めない。そろそろ骨に当たりそうだと思った時ものすごく早い口調で男は叫ぶ。

 

 

「本当に話す!話すからその手をどけてくれええええ!!」

 

 

一方通行はつまらなそうに男の腕から手を離す。自分の腕が辛うじて付いているのを確認しながら男は壁に寄りかかる。顔からは生気が伺えない。なんとか生きている状態である。

 

 

「で、オマエ個人でアイツらを狙ったわけじゃァねェだろ。組織の名前は?」

 

 

「ぶ、ブランシュだ」

 

 

「ブランシュねェ...今回襲った目的は?」

 

 

男はうずくまって顔を上げない。

 

 

「オイ、聞いてンのかクソヤロォ、さっさと話せ」

 

 

「ふひひひ、ふふははははは!」

 

 

突如笑いだした男の様子に一方通行は呆れた。

 

 

「使いもンになんねェな。リーダー格がこンなンじゃァ他の人間も大概だな。つまんねェ」

 

 

笑う男を放置し深雪に引き渡す。杖をつき電極の残量を確認しながら帰ろうとすると彼女が一方通行にことばを投げかける。

 

 

「貴方にはまず感謝します、私の友人達を救ってくれてありがとうございます」

 

 

「感謝される筋合いなンざねェよ。元々アイツらのお守り任されてる身だからな」

 

 

一方通行と潮との契約上やらなければいけないことをしたまでであり一方通行は特に何とも思ってない。

そう、いつもなら。

今の彼は学園都市との関係に障害を持っている。その為雫達にいつも以上気にかけている。この事は本人も自覚している。なるべく早急に自分の立ち位置を確立させ余計な因子を消しておきたい。

そんな思考を頭の片隅に押しやり一方通行は深雪に先程手に入れた情報を照合する。

 

 

「オマエ、ブランシュっつう組織知ってるか?さっきのクズが言ってた組織なンだが」

 

 

深雪は多少の驚きがあったが表情には出さない。彼女の予想では一方通行がここまで事件に食い込むことは無かった。雫達と一緒に帰るのだろうと考えていたのだ。

 

 

「反魔法国際政治団体の事です。魔法師優遇措置や社会的差別を無くそうとしている団体です」

 

 

「そンな事聞いてるわけじゃァねェ。本部と戦闘規模、どれぐらいのランクに位置してンのか聞いてンだよ」

 

 

深雪は一方通行の考えが危険である事はすぐに察した。

しかし自分では何も出来ない。彼女は自身の兄、司波達也に固く言いつけられていた。

 

 

『一方通行との過度な接触は控えるんだ』

 

 

理由はわからない。しかし彼女の兄にも思惑が何かあるのだろう。深雪は何も知らないと言うと一方通行はすぐに帰っていった。

周りの監視カメラの様子を確認し彼女はある師に電話をかける。

 

 

『もしもし、深雪くんかな?それにしても珍しいね、何かあったのかい?』

 

 

電話声の主は九重八雲という坊主の男。彼は九重寺の住職であり司波兄弟の師匠であり古式魔法の伝承者であるといういろいろな経歴を持っている。深雪は彼に雫達を襲った男達の身柄の確保を頼んだ。何故なら一瞬だけアンティナイトを使用した形跡を確認出来たため、普通の暴漢ではないと判断したからである。

 

 

「ありがとうございます、先生。それともう一つ調べて欲しいことがあるんですけれど」

 

 

『なんだい?言ってごらん』

 

 

深雪は兄からの言いつけを申し訳ないと思いながら心の中で無視する。

 

 

「一方通行という一高の生徒なんですが詳しい情報を調べて欲しいんです」

 

 

電話の向こうで一瞬の間が空く。

 

 

『ははっ、君達兄弟は本当に似ているんだねぇ』

 

 

「どういうことですか?」

 

 

深雪は兄のことを話題にされ少し顔を赤らめる。

 

 

『実は達也くんからもその一方通行っていう生徒を調べて欲しいって連絡が少し前にあったんだ。今日連絡する予定だったけどまずは君に話しておこうか』

 

 

兄と同じことを考えていた。彼女の頭の中では嬉しさ半分不安半分混じり混じっている。不安の原因は自分が感じた不気味な一方通行の能力。嬉しさの原因は兄と思考が同じであること。

 

 

『本名、本籍は存在してたけど改竄されてたから意味は無いね。中学3年の時に転校してそれから一高に進学している。ここで不思議だったのが転校前の学校が不明な点だった。いくら調べても何も出てこない』

 

 

「それはおかしいんじゃありませんか?いくらランクの高いセキュリティで守られた人間の情報でも最低限は出てくるはずです。中学までの記録が無いなんて」

 

 

『そうなんだよ。そこが怪しすぎる。そう思って調べていったらね、ある噂に辿りついたんだ』

 

 

ある噂?と深雪は一方通行に関する情報を頭の中で整理してみる。彼に関するものといったら最近の1科生の間のものが浮かぶ。

一方通行は翼を用いて空を飛ぶことが出来る。

新入生を部活に勧誘する際、窓ガラスを変形させ飛び降りたと思ったら空を飛んでいた。これを目撃していたAクラスの生徒は証言している。

 

 

『去年の夏、深雪くんは覚えているかな?』

 

 

「夏、ですか?申し訳ありません、世間事情は疎いもので」

 

 

『隕石騒ぎ、覚えてない?』

 

 

深雪は昨年の出来事を思い出した。日本付近に落下した隕石のこと。政府による詳しい調査が行われたが、落下時に粉砕してしまったと言われた。

 

 

『そう、彼の本籍が登録されたのもその時期だし全てがそこから始まっているんだ』

 

 

「それでは一方通行というのは宇宙人という事なんでしょうか?」

 

 

宙からやってきた人間にソックリな生物、一方通行。彼女にはそう思えている。

 

 

『ーん、それはわからないなあ。噂程度の情報源だし一つの仮説って感じかな。こんなところかな、暴漢達を回収する手筈は整えたし彼に関する情報も終わり。それじゃあ達也くんにもよろしく伝えといてね』

 

 

深雪はその場でお辞儀をする。電話でも相手に見えない礼を払うのは日本人の特徴だろうか。

 

 

***

 

 

翌日には襲われた少女らは何ともないように生活出来ていた。彼女らは一方通行が助けたことには感謝しているが、使った魔法には詳しく聞こうとはしなかった。他人の魔法に関して踏み込んだ聞き込みは現代においてマナーの善し悪しを問われる。

対する一方通行は学校で昨日砕いた指輪の破片を眺める。どういう理屈で魔法を妨害していたのかわからない。学校にある様々な論文ではサイオンジャミングを作り出すと言われているが、彼はそれを信じようとしない。なぜならジャミングを発生させていたならば、彼自身の演算領域に多少なりとも影響が出るはずである。

昼、突如学校内に大きな声が響いた。その原因は校内放送の音量を調節し忘れたらしい。

放送の内容は2科生への差別撤廃らしい。

馬鹿らしい。

一方通行は単純に思う。差別など本人が気にしなければなんとも無い問題である。彼の人生において差別など常にある。(差別よりも区別ではあるが)人が集まればそこに優劣は必ず存在する。仕方の無いことである。

放課後、彼の端末に一つのメールが入っていた。差出人は統括理事会で内容は以下のものだった。

 

 

『ピンセットの情報によるレポートをこちらで確認。明日の16:00にグループを送り込むので帰還してください』

 

 

頭をガツンと殴られたような衝撃に襲われた。彼が思っていた報告書は正式な文書であるが、統括理事会当人はピンセットを使うだけで良い判断していた。彼が本当に感じたのはそこではない。

明日帰還ということだった。悩み悩んでいた彼の気持ちを全く汲まない上層部の判断は彼をバッサリと切っていく。

今の彼の周りには誰もいない。雫もほのかも彼が守りたい人間は部活に行ってしまっている。

たった一人の教室でエリザリーナ独立国同盟で打ち止めを救えなかった気持ちに似たものを味わっていた。


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