-side 龍聖-
翌朝、俺は早起きして2人分の朝食と弁当を作っていた。食卓に配膳し終わると、ちょうどいいタイミングで烏間さんが着替えてリビングにやって来た。
「いつもすまないな」
「人には得手不得手がありますから。こうやって食事にありつけるのも烏間さんのおかげです。では……」
「「いただきます」」
今日は白ご飯に白菜の浅漬け、アジの開きにワカメの味噌汁。ありふれた日本の朝食と言ったところか。
「今日から体育教師ですね」
「まあな、まさか興味本意で取った教員免許がこんな形で役に立つとは……」
「まあ、授業内容はナイフ捌きの基礎動作とか、普通の体育じゃないですからね。手が空けば俺も手伝いますよ」
「そうしてもらえると助かるな。人手はある方がいい」
俺の言葉に満足そうに味噌汁をすする烏間さん。手早く食事を終えると登校の支度を整える。
「俺は後から出るんで。食器は片付けときますよ」
「何から何まですまないな。では、先に行くぞ」
弁当を渡して烏間さんが出た後、食器を片付けた俺は簡単な夕食の仕込みをしてから家を出た。
昼休み、特に何事もなく4限まで終了した。1つわかったことは、殺せんせーの授業はかなり分かりやすい。このE組の生徒にも受けは良いようだ。
教科書をしまい、おもむろに弁当を広げる。
「あれ、葵君弁当なんだね。」
俺が弁当なのが意外だったのか、隣の矢田さんと渚がジーっと中を見ている。
「ああ、朝早起きして作った。烏間さんの分もまとめてな」
「そういや、保護者って烏間先生だったね」
「ねえねえ、何か1つ味見してもいいかな?」
欲しいおかずがあったのか、矢田さんが聞いてきた。
「いいよ。今日は少し作りすぎたかなって思ってたし」
矢田さんは俺の言葉を受けて、唐揚げを1つ取って食べる。
「!? すごい美味しい!!今まで食べた唐揚げの中で一番かも」
そんな大袈裟な……
そう思っていた俺だが、渚も釣られて唐揚げを食べたら同じ反応をしていた。何故か今度、家で料理を食べさせてあげる約束をすることになり、5時限目の体育の授業を迎えるとことなった。
-side 桃花-
あ、皆さん初めまして。私は矢田 桃花。椚ヶ丘中学3年E組の生徒です。
「今日から体育の授業は俺が受け持つことになった。授業は暗殺の実践に必要な知識と技術を磨いてもらう予定だ」
今日から体育の授業は烏間先生が担当になりました。まあ、この間の殺せんせーのマッハの反復横跳びを見たらそうなっちゃうよね……
「それから、俺一人ではカバーしきれないところは、葵君にも見てもらうので彼のアドバイスも是非参考にしてもらいたい」
えっ?葵君も教える側に回るんだ。それにしても、さっきの唐揚げ美味しかったなぁ♪週末のお食事会も楽しみだな~。
「まずは、ナイフの8方向の素振りからだ。葵君に手本をしてもらうので、彼の動きをよく見るように」
葵君が前に立ち、8方向の素振りをやって見せた。教室の時の優しい顔立ちは今はなく、真剣な凛々しい顔でカッコよかった。何より素人の私が見てもわかるほど、彼の素振りは綺麗だった。
「では、今から一人一人動作の確認をしていく。葵君、すまないが女子の方を見てもらえるか?」
「あ、はい。わかりました」
男女別で動作確認をすることになって、葵君がこっちにやって来た。
「えっと、じゃあ岡野さんから出席番号順に見ていくね。呼ばれるまで各自個々に練習をしててください」
私は最後なので、少しの間陽菜乃ちゃんたちと話ながら素振りをしていた。
「おまたせ、最後に矢田さんだね」
私は、彼の先程の動きを頭に浮かべながら、今の全力を出してみた。
「うん、形としてはいい感じだね。ただ、ちょっと力み過ぎかな?もう少し肩の力抜いて、ね。後1つ挙げるとしたら、左腕を有効に使ってみようか。ちょっとごめんね」
突然、彼が私の後ろに回って、左腕に触れた。
「ひゃっ!?」
「ご、ごめん。大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。ちょっとビックリしちゃっただけだから」
その後も、葵君に後ろから支えられるような密着した体勢で指導を受けた。正直に言うと、ドキドキしっぱなしであんまり集中出来なかった。
授業を終えると、陽菜乃ちゃんと速水さんが私のところに来た。
「桃花ちゃん。何だか顔が赤いよ~?」
「風邪?」
「う、ううん。大丈夫大丈夫!!」
葵君にドキドキしてたなんて言えない……
「それにしても、烏間先生と葵君カッコよかったね」
「これからあの二人にナイフを当てれるようにならないと、だもんね」
「当たったら、よしよしして褒めてくれるかな?」
「さあ、どうだろうね」
まあ、少なくとも褒めてはくれるだろうなぁ……
そんな淡い期待を持ちつつ、私たちは教室に戻るのだった。
この後の一騒動が起きるとも知らずに……
女の子の純情な気持ちはちゃんと描けているんでしょうか?そこだけが心配です(汗)
次話は、ついにカルマ君の登場です。