お話の矛盾になりそうな場所を修正。
根本は変えていません。
ふと気が付くと、白い壁があるのか、それとも吹き抜けた空間なのかも分からない、遠近感を狂わす広大な場所にいた。
着の身着のまま、だらしない家着のまま、俺はなぜかそんな場所にいた。
現実感のない、夢の中にいるようなふわふわとした感覚。しかし、それとは別に確固たる現実であるというよく分からない確信をもっている。
なぜなら明確に自分の末路とやらを覚えているからだ。
そして地に足ついていない。いや、俺がちゃらんぽらんという意味ではなく、文字通りの意味である。
つまるところ、死後。
……いや、いい。皆まで言わずとも、これがかの有名な神様転生テンプレであるという事は咄嗟に理解した。
恐らく、この次の瞬間には「わしが神様じゃ」なんて爺が現れるか、「私が神様です」なんて言い出す幼女が現れるに違いない。
フッ。なんて安直。もはやそんな安直なことをするのならば三行で済ましても読者(仮にいるとするならば)はもはや怒りもしないだろう。
死んだ
神様現る
チートもらってスイーツ
これでもう本編に入っても良い。
お約束というものは面白いものを繰り返すことであって、つまらない事を繰り返すことではないからだ!
無駄な事は嫌いなんだ。そう、無駄無駄。
なんてネタを使ったのが恐らく、何かの琴線に触れたのだろう。
ピシリという一瞬のノイズ音が響く。
途端に、ある一方向から強烈な光を浴びた。
眩しさにまぶたを閉じて、それでも何とか目を薄めに開くと、そこには一人の少年が立っていた。
逆光でその素顔は見れない。線の細い体躯と、かろうじて認識できるのは前髪が不可思議だという事だけだ。
前髪を三つ、クルクルと巻いている。
……チョココロネと言ったら何故だか怒られそうなので、そう表現しよう。
そしてどこからか、PrinceのGoldが聞こえてくる。
ああ、初めて聞いたときはこんな美しい曲があるのか、という感想をもった名曲だ。
はたして、自分が本当に死んでいるのかどうか知らないが、こんな名曲に送られて死ぬならそれもまた感動するべきものではないのだろうか。
あれが果たして神というモノなのか、それとも別の何かなのか。
自分には判断することが出来ない。彼が口を開いた。
「人は死の瞬間にこそ、その人物の生きた証と、価値を決める」
「その瞬間を与えられなかったキミには、もう一度、その機会を与えようと思う」
……これは、矢を支配するのはこの俺だァ! とでも言えばいいのだろうか。そんな事をした瞬間に終わりのない酷い目に会う気がする。いきなりローグライクゲームが始まってしまう気がする。
とりあえずの疑問を問おうと、口を開こうとした瞬間、目の前の、逆光を背に立つ少年から半透明な人型がふわりと現れ、俺の顎先に強烈な一発を見舞った。
「無駄ァ!」
ドンと重い音を響かせて、拳は振りぬかれた。
ビキビキと、顎を支える両頬の筋肉が音を立てている。ゆっくりだ。ゆっくりと、鋭い痛みがやってくる。こんな忘れ去られた設定まだ生きてたんですかー!
「グホォ!」
ゆっくりとした時間から解放された瞬間に、俺は吹き飛ばされた。そして、起き上がると先ほどの少年が目の前に佇んでいる。
俺を見下ろす視線が何とも冷たい気がする。
「お別れだ。キミはこれからを試される事になる。試されているのはキミだけじゃない。滅びを迎えるのはキミかも知れないし、キミじゃないかも知れない」
「真実からでた、『真の行動』は、決して滅びることはしない」
「そして、キミの行動が真実からでた物なのか……」
「それとも上っ面だけの邪悪から出た物なのか……」
「あんたは滅びずにいられるのかな?」
「キミの終わりは、まだ終わらない。ゴールドエクスペリエンスレクイエム!」
待て、何を言っているか分からないが、とにかく待ってほしい。その出したスタンドで一体何をするつもりだ。顎は筋肉が裂けたのかだらりと力なく垂れ下がっているし、そんな状態だから喋ることも儘ならない。俺は意思を伝える事ができないし、そんな状態でまさか、ラッシュかけるつもりですかー!?
途端、スタンドによる無数の拳を浴びた。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アアアァァーー!」
「キャッサバーーー!」
吹き飛ぶ俺。視界一面に広がっていた白はなくなり、次第に黒に染まる。目に映るものがなくなった辺りで、俺は意識を失った。
次に目にしたのも、一面の黒だった。いや、語弊がある。一面の黒で上がるが、その奥に何かが映っている。映っているのはどこだか分からないご家庭と、大きな顔。
端的に言うと、気が付くと俺は電源の切れたブラウン管のモニターを覗き込んでいた。映っているのは反射した風景だ。この部屋には自分以外は誰もいない。大きな顔は自分の顔。褐色の肌の、ぐりぐりとした目の、年齢が幼いために顔だけで判断するのは難しいが多分女の子だ。うむ。肉体の感覚で分かる。女の子だ。うむ……。パンツに触れる肌の感覚で分かる。うむ…………。
神様?転生(正確にはジョルノ転生)で、TSで、うむ。恐らくこの後最強もつくに違いない。正直転生過程も良く分からないし、本当にこんなんでいいのか分からないが、恐らく。俺は転生したのだ。
試すだとか、滅びだとか、よく分からない事を彼――いやもういい濁すのはやめよう――ジョルノが言っていたのを思い出す。つまり、真の行動を取れば滅びることはない。そういうことだ。
つまりどういうことなのだ?
待て、そう。ジョルノに飛ばされた、という事は、きっとここはジョジョ世界で間違いない。ふとスタンドが発現し、勝手にスタンドバトルに巻き込まれ、吐き気を催す邪悪と戦うに違いない。つまり、主人公サイドに協力するのならば、上っ面だけの邪悪判定はされないのではないだろうか……!
しかし敵側も強力。うっかり死亡なんで目に遭う可能性も捨て切れない。どころか濃厚である。
敵に殺される事なく、主人公に味方し、そこそこに主人公を助けて敵を倒す。これで決定だ。俺の能力が何になるかは分からないが、これでいこう。そうすれば、『上っ面だけの邪悪』判定はされないだろう。何せ、悪を倒すのだから!
…………この思考に上っ面以外の何があると言うのだッ!
いや待て、打算を上っ面というのならば、転生という形で成人男性の精神を持った子ども(恐らく四歳程度)になった俺は、如何にして『真実からでた行動』とやらを起こせるというのかッ! 子どもが打算なしに行動するのは良く分かる。が、大人が打算思考なしに行動するというのは、不利益が発生しないであろうと予想できるからこそ行える行動に他ならない。つまり……。
全てが上っ面に見えてしまうのも、仕方のない事ではなかろうか。
なんて事だ。先行き不安どころの騒ぎじゃないだろう。
そんな思考に覚えれているとき、玄関が開く音が聞こえた。
ふと、恐らくいるであろう両親とどう接すればいいのかを考えて、焦りが生まれた。
これは転生における、無視されているであろうポイントの一つだ。
生まれたときから子どもが成熟した精神を持っている、または精神が生まれる。または精神を持っている、というのはだ。
親から子を育てるという尊い経験を奪い去ることに他ならない。
というよりカッコウの托卵と何が違うのか。元ある卵を巣から蹴落とす様すら同じではないのか。
ぐぬぬ……。と未だテレビの前で唸る俺の後ろから、視線を感じる。テレビの反射で、そこに一人の男が立っているのが見えた。高身長の黒人男性だ。黒いスータン(神父服)を着ている。どことなく、彼が父親であると理解できる。思い出すといったほうが正しいか。
「ニーロット。テレビの前で何をしている。そんな近くでテレビを見てはいけない。目を悪くするからね」
父は日本語で、優しい口調でそういった。何ともいい人そうである。というより、格好から神父であるからして、悪い人ではないのだろう。いや、創作においては愉悦する神父などもいるけども。
さて。不思議な事であるが、なんとなく自分と父の関係性を表す記憶が脳に溢れてくる。なんと呼べばいいのか、という事からどんな人柄なのか、という事まで色々と。
「さてニーロット。以前話したように今日は一緒にお出かけだ。ある方に会いに行く。出かける準備をしなさい。これに着替えてね」
と、父は小さな修道服を取り出した。
「妻が君のために生前作った修道服だ。サイズは合うかな」
おもむろに上着とスカートを脱がされてしまった。すっぽんぽんである。そして頭から修道服を被せられる。ワンピースのような構造だ。
「うん、ぴったりだ」
父は屈託のない笑顔を浮かべて、俺の姿をマジマジと見ている。頭にベールを被せられると、少し首元がきつかったが、それも父が調整してくれた。
だが待ってほしい。修道服を着せられている現状を、よく考えるべきだ。つまるところシスターとなるべく教育、というのが目下の目的な気がする。
ということは、恋人を作らず結婚せず、旅をして、貧しさに絶え、断食しなくてはならないのではないだろうか。これが修道士、修道女の自分のイメージであるが、間違っているだろうか……。
正直勘弁して欲しい。
仮に修道院に入る、などという事にでもなれば、閉鎖的な場所であり、尚且つそういったところでも人間であるかぎりくだらないいざこざも考えられる。
つまり確固たる意思でもない限り無宗教からいきなり改宗してシスターなんてなれる訳がないのである。ちなみに意思など一欠片もござらぬ。
しかし……しかし!
目の前で笑顔を浮かべる父の表情が俺の心に鞭を打つ! いや、そんな事を言ってしまうのはあまりにも失礼であるが。
「どうしたんだいニーロット。今日は静かだね」
「え、ああ、いえ、何でもないです。父様」
父様。父をそう呼んでいたのは何となく覚えていた。
「そうか。少し緊張していたのかな。でも大丈夫だ。これから会うのは、とても立派な神父様だからね。ニーロットの眠れる才能を見抜き、ある役職に付くための修行を見てくれる。私としては娘がそうなるのはとても辛い事だが、これも神の啓示なのだろう」
修行。才能。なんとも不穏な響きである。断食か。断食させられるのか。又は太ももに肉に食い込み出血するほどきついリングでもつけられるのか!
「では……行こうか」
父が俺の手を取り、二人で家をでた。振り返り家を見ると、そこは教会に隣接した小さな家だった。ふむ、さすが神父。教会に住み込みとは中々。
しかしあれだろうか。神父。神父だ。俺は嫌な予感がぬぐえない。才能という言葉もそれを引き立たせる。まさかと思うがあの神父ではなかろうか。その名を……。
エンリコ・プッチ。
才能を見抜き(スタンドDISCを埋め込む気)ある役職に付くため(天国を至る為の便利な駒、囚人にでもされるのだろうか……)修行(スタンドの訓練)を行う。
父よ、子をリンボへと落とす気ですか。
未来の地獄絵図に戦々恐々とした自分の表情を緊張と捉えたのか、父親は手を引いて車の後部座席へと俺を押し込み、意気揚々と車を発信させた。
達観という諦めの表情で車の窓から過ぎ行く風景を見る。教会の敷地から出たところで、教会の看板が目に留まった。
海鳴第一教会。
――海鳴?