戦う代行者と小さな聖杯(21)   作:D'

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in教会

 父と共に車で走る事五時間。途中、休憩にレストランに寄り夕飯を食べ、その後また車で移動。一時間したところで目的の場所に到着した。

 時刻はすでに二十時である。ずいぶんな遠出である。感覚的には初めて遊びにいく祖父母の家、と言ったところだ。決して、祖父母ではないが。

 そこは、またもや教会だった。厳格なイメージそのままに、空気すら止まっているような静けさ。中から漏れる明りさえも、一目で蝋燭によるものであると分かる。俗物的なものとは一切切り離された空間が、そこにあった。

 ここに、かの神父がいる。素数を数えるあの人がいる。おそらくDISC抜かれて記憶を見られるのだろうな、どうするべきか、なんて考えてしまった。そのときはそのとき。天国はあるんだよとでも教えて差し上げよう。そして逃げよう。

 

「では、いきますよ」

 

 父が俺の手を引いて、大きな両開きの扉に手を掛けた。ガコンという音と共に扉が開かれると、外から見たように、暖かくも頼りない光が差し込んだ。

 身廊の左右に長椅子が整然と設置され、その間隔に合わせて燭台が置かれている。夜であるのが惜しまれるほど、見事なステンドグラスが右側に見えた。左側は内庭に繋がっているようだ。良く見ると左右の壁に神を描いた色々な絵画が飾られている。

 祭壇の前に、一人の老人が立っていた。老人というにはずいぶんと背筋がぴんしゃんとしている。背が高いと思っていた父と同じくらいだろうか。父と同じ黒い修道服を着ており、首には帯を掛けていた。確かストールだったか、ストラだったか。

 

「ようこそ。お待ちしておりました」

 

 老人の声ははっきりとした、力のある声だった。老化によって白銀となった髪の毛を後ろに撫でつけていた、目の細いご老人だ。胸元には大きなロザリオが下げられている。

 

「お初にお目にかかります言峰神父。此度お世話になる、ニーロットの父、ペドロ・バナトゥ・クリケットと申します」

 

 おお父よ。あなたはペドロだったのか……。いや、洗礼名としてはよくある名であるくらいには知っていますが。俺にも洗礼名はついているのだろうか。記憶にございません。しかし父の名よりも気になるのが老人の名である。父は彼を言峰といわなかっただろうか。いや、言われて気づく。この人、言峰璃正である。八極拳じいさんだ。

 

「こちらがお世話になる、ニーロット・クリケットです。ニーロット、挨拶を」

 

 そしてファインプレイです父よ。それが我が名ということですね。さて、ここは一つ父の台詞を真似る程度にしておこう。

 

「ニーロット・クリケットと申します、神父様」

「うむ。私は言峰璃正という。君を教える言峰綺礼の父だ。よろしく」

 

 そういって、璃正神父が膝を曲げ右手を差し出してきた。お、おお。よく分からないが感動していいのだろうか。教えるのが綺礼と抜かしたことを思考の外へ追いやり握手を返す。うむ。プッチじゃなくてよかった。この世界はジョジョ世界ではなく、型月世界だったのだ……。そしてFateへ。

 しかし綺礼である。一体何を教わるというのか。一体全体何の才能があるというのだ。……愉悦部?

 とアホなことを考えていると、祭壇の右側にある扉が開き、年若い男が姿を現した。黒髪の、背丈の高い暗い顔の男。お分かり頂けただろうか。後の外道神父こと、綺礼である。

 正直ここまでの展開、転生初日に行ってよいものではございません。展開についていけなくなりそうです。

 しかしこれは一つの行幸とでも言うべきか。この言峰、まだ愉悦部への入部を済ませていないのだ! 璃正が生きている事からもそれが伺える。

 

「綺礼。お前も挨拶を。教会より連絡のあった子だ。前もって言った通り、お前が面倒を見る事となる」

「――言峰綺礼です」

 

 如何にもその言葉が、促されたから仕方なく、といった風に見えるのは俺がこの言峰の本質を、これから先、言峰がどうなるかを理解しているからだろうか。父を見ると、満面の笑みでそれに応えている。自分も続いて、名を告げた。

 

「……一つ、質問をしてもよろしいか」

 

 言峰が父に向けて、眼差しを向けた。父が頷く。

 

「教会からの命とはいえ、この辞令は背く事も許されると明記されていたはずです。父親として、このような事に娘を差し出すというのは、どういった心境からなのでしょう」

 

「綺礼、失礼な事を言うな!」

「いえ、構いません。――ニーロットは大切な一人娘ですが、その身に宿る力も、教会からの辞令も、神がこの子へ与えた試練だと考えております。そして、この子と離れる事も、私に対しての試練の一つ。例えこの事がこの子に危機が訪れようとも、主が、亡き妻が、この子の身をお護りくださる事でしょう」

「それが、その子の死を招き、貴方の嘆きとなろうと?」

「……然り」

 

 俺はそれを傍に聞いていた。なんとも、なんともだ。これを聞いて、なんと身勝手な親である、というのはあまりに早計だろう。何せ真にこの人に育てられた子であるのなら、この言葉に力強く頷く事ができるだろうからだ。それを受け入れられないというのは、俺という精神のせいに他ならない。それは子どもへの洗脳である、というのも間違いだろう。何よりこの父は、ニーロットの事を想い、自らの感情を排しているのだから。子を護るという事は、何も子の盾となり手足となり、苦難や障害を排する事ではないのだろう。コレもまた、親の一つの形。

 ならば、ニーロットである俺が、身勝手に拒否する事など許されないのだろう。俺という異物を理由に、否定する事は許されないのだろう。

 ここまで来て一体俺が何をするのか、まったくもって理解していないが、そう心に決めた。

 

 

 ……しかしこの会話怖すぎる。俺を殺して父の嘆きを摘みに酒を呷るなんて事にならないだろうか。部活されてしまいそうである。

 

「分かりました。教会の命により、ニーロット・クリケットへの代行者としての教育、承ります」

 

 だ、だ、代行者ァ?! それは俺に黒鍵投げて吸血鬼を倒せと仰せか! いやまさかこの流れ、聖杯戦争参加とでも言うのだろうか。言峰サイドにおける舞弥ポジ。デッドエンドが目に見える。

 早くも俺の決意が揺らぐ。

 

 

 

 そんな形で呆然としていると、俺はいつの間にやら寝具の整った一室へと通されていた。いつの間にやら会合は終了、挨拶もそこそこに父帰宅。父の別れの言葉を俺は聞き逃していたらしい。なんと親不孝者か。どれだけショックだったのだ聖杯戦争参加フラグ。

 ふと、ここへ案内されたときの言峰綺礼の言葉を思い出す。

 

「ニーロット、お前が代行者となる命を受けたのはお前の身体に眠る初代としては考えられない膨大な魔力に他ならない。明日からはまず、基本的な知識から始める。わが師である魔術師、時臣氏の協力も得ている。案ずる事はない。明日は早いのでよく寝ておくように」

 

 魔力である。それこそがニーロット・クリケットが代行者になる理由。初代としては、という言葉がとても怪しい。そう、魔力である。

 聖杯戦争が何年後かは知らないが、遠坂時臣とすでに師弟関係であることからそう遠くない未来である事は理解できる。そう、魔力なのだ。

 聖杯戦争始まる。そして原作通りに閉幕する。俺は生き残る。ギルガメッシュが生き残る。いい餌あるじゃん。俺餌じゃん。

 デッドエンドである。いや、デッドできないじわじわバッドエンドである。ミイラになりながらも生きながらえてギルガメッシュの栄養となり言峰綺礼に愉悦されるのだ。

 断固拒否する。その結末はダメだ。カットカット。

 その結末こそが『上っ面から出る邪悪』の末なのだろうか。滅び。うむ。死亡フラグが多すぎて何が滅びか分からない。

 

 

 とりあえず、トイレ行って寝るのだ。明日は早い。トイレ行って、寝る。邪まな考えなどない。あるのは学術的な興味だけだ! ……カットカット。

 

 

 

 

 さて。今日より始まるは代行者とは何ぞや、という授業である。綺礼は綺礼で聖杯戦争準備に向けて遠坂時臣より魔術の手ほどきを受けている最中、一体全体どのように俺の面倒を見るのやと考えたが、その答えは至極簡単。代行者としての業務、戒律、心構え、など適当に書かれた書物を渡されただけであった。そしてこれは何語であるのか。

 綺礼曰く、ラテン語くらい読めるようになれ。一緒に渡された辞書から言外の圧力を感じる。前世併せて初めての本格的な語学勉強である。中等高等学校の授業を語学勉強とは俺は認めない。

 

 勉強だけしていればいい、なんて考えていた時期が俺にもありました。両手にあるのは紙とペンではなく、バケツと雑巾。

 聖堂の掃除も、見習いである俺の仕事でございます。なぜなら代行者見習いと言えど、形はシスター見習いであるからだ。当然ミサを手伝い、信徒の相手をし、俺自身も祈りを捧げ、そして食事は質素だ。魔術の魔の字もまだ知らず、そしていつかやってくるだろう脳筋な日々もまだ遠い。いや、早朝に璃正と綺礼二人して拳法の訓練と見受けられる光景を目撃しているので、もしかしたら近いのやも知れない。今の自分がやった所で有間都古にしかならないだろうと思う。すっごい究極奥義をいつか放つ日がくるかも知れない。

 

 日はどんどん過ぎていく。聖地巡礼をしていたどころかイタリア在住であった言峰親子からしたら、黒人だろうがハーフだろうが珍しいものではないのかも知れないが、やはりここは冬木――ちょっと違うかと期待もしたがやっぱりいつかは戦場となる冬木でした――といえど、日本である。さも珍しいとばかりに日本人の信徒たちは自分をよく相手にする。小学生にもならない子どもであるというのも理由の一つであるが、やはり異人というのも理由であろう。自分の肌は褐色である。母が日本人であったようで、俗にいるハーフだ。髪は黒くしっとりした直毛であるものの、中々目立つ。そう。何が言いたいかと、おばちゃん達である。

 よく構うのだ。教会にやってくる奴らは、よく話しかけてくるのだ。無論、善意である。子を見ての善意である。が、だ。うっかり俺とか言おうものなら、おばちゃんに御叱りを受ける。周囲のおばちゃんも御叱りにやってくる。そして璃正神父に伝わる。綺礼神父にも伝わる。二人にシスターとしての自覚をと怒られる。父にも伝わる。嘆きの手紙が送られてくる。まさに負の連鎖だった。七連鎖だ。ばよえ~ん。

 

 教会のシスターがそんな事ではと、徹底した教育という暴力を伴わない体罰を受ける。暴力ないのに体罰とはこれ如何に。心も体の一部です。

 言葉遣いを疑われると次に仕草を疑われ、そして次には精神の中身まで疑われた。まだだ綺礼神父。精神解体を趣味にするのは聊か早すぎる。

 

 結果として、アニムスの肥大化を示唆された。女性の心の中に潜む男性的自己のことである。その男の場合はアニマ。

 綺礼はともかく、璃正神父がそれを知った時、ものすごいやる気を示していた。そういった者を救う事こそ本懐であると。よくも悪くも教会とはジェンダーフリーとはいかないのである。

 

 さすがにあまりの迫力にびびった俺は、その日より見えない所だろうと俺を俺と言うのを辞めた。璃正神父の顔を伺いながら一人称を自分と言ってみた所、まだやる気を損なわないので私に変えた。別に俺から私に変えた所で何が変わる訳でもないというのに、私も神父も現金な事である。ですわ、等とよく分からない言語を使う必要性など皆無なのだ。うむ。私だ。時々自己暗示のように確認するのは長年のものを変える為なので仕方がない。

 

 朝を掃除と祈りで過ごし昼を信徒との交流に使い、夜に自室で勉学に励む。充実しすぎである。そんな生活を六ヵ月。ついに、本格的に始まってしまったのだ。

 

「ニーロット、もうこの生活も慣れた頃合だろう。お前も見ていたと思うが、早朝の鍛錬、お前も参加するように」

「分かりました、璃正神父様」

 そういったのは私の事を綺礼に任すと言った筈の璃正神父であった。俺事件より何事も、やる気満々である。

 綺礼に八極拳を教えた璃正神父であるからして、八極拳への熱意は相当なもののようである。指導に熱が自然と入る。誰にといったら、璃正神父にである。

 不甲斐ない動きでもするようなら口角泡を飛ばすといった勢いで指導が入る。特技説法と中国拳法は伊達ではない。

 そんな中、正統な師である言峰綺礼氏は、興味がないようでこちらを見もせず自らの体の動きを確認しているのであった。

 早朝訓練の後に掃除。信徒との交流。夜の勉学。そんな生活が早い事二ヵ月。そしてまた、生活サイクルに新たな項目が増えた。魔術である。

 

 その日の昼、信徒以外に客が訪れた。朱のスーツに碧眼と顎ヒゲ。お分かりだろう。うっかり紳士こと遠坂時臣である。

 なんでも弟子の弟子の顔を見に来た事と、綺礼に初歩的な手解きを頼まれていたらしい。私が来てから八ヵ月。おっとりすぎる気もしないが綺礼も時臣を時期を見計らったのだろう。

 

 魔力を感じ、魔術基盤を理解し、魔術回路を覚醒させ、魔術へ至る。

 

 ちんぷんかんぷんでござる。

 魔術基盤とは魔術を使う際のプログラムのようなもので、聖堂教会はこの世でもっとも強い基盤を持つ組織なのだという。魔術協会形無しだな。

 時臣氏にそれを言うと、信仰という形で基盤を強固なものにした恩恵だ、と怖い顔をして言われた。

 仲が悪い、と簡単に言えぬほど険悪な関係であるはずの聖堂教会と魔術協会。にもかかわらず魔術師である時臣氏が私の世話を焼く理由は、なんとなく、考えて見れば分かることである。

 

 代行者(予定)の若い人材に恩を売るのは非常に旨みがあるからだ。透けて見える分、底の浅い男である。そう考えた途端、紳士の視線が鋭くこちらを向いているような気がするのは気のせいである。

 魔術の勉強は毎日行うが、時臣氏は本当に偶にしか現れない。付きっ切りでやる必要など皆無だからである。書物を読み、質問は綺礼に問いかけ、それで済む。最初の魔術の授業に彼がやってきたのは、本当に恩を売る為だったのかも知れない。

 

 しばらくして。ようやく魔術回路を開発する段階へ差し掛かった頃。本格的に時臣氏の手を借りる事となった。

 魔術回路とは。魔術を使う上での魔力を通す回路であり、魔力を生成する機関であり、己と魔術基盤を繋ぐ回路である。生涯に本数が決まっており、減る事はあっても増える事はない。

「魔術回路を開く手段は千差万別だ。開き方などは手段はあるが、その反応までは予想できない。魔術回路を起動させるイメージの作成にも影響する。そこまではいいかね」

「はい、師父」

「ではこれを。魔力をこめた宝石だ。それを飲み込むといい。外部の魔力を回路に流す事で、直接蜂起させる。感覚をよく掴むように。飲み込む時は心せよ。どんな反応が起こるかは分からないからな。自傷作用であったり、興奮作用であったり、錯乱や酩酊感であったりもする」

 

 渡された小粒の宝石を見る。青色の宝石だ。透明感はなく、石をペンキで塗りたくったような光沢のある石である。名前が想像つかない。

 石を眺めながら訝しむ私を見てか、時臣氏が注釈を入れた。

 

「即席で作ったもので申し訳ないがね。効力は確かだ。アズライトは潜在能力を引き出すのはうってつけだ。石を飲み込むのにも抵抗があるかもしれないが、害はない。どれ、水を用意しようか」

 

 自ら水道へ向かう時臣氏。いつかの底が浅いと思ったのを根に持っているのか……。アズライト。ふーむ。高いのだろうか。

 水の入ったコップを時臣氏から受け取り、気合をいれる。いざ実食。お味の程は!

 

「……無味ですね」

「飴ではないからね」

 

 飲み込むと、子どもの喉には大きいのか喉奥に圧迫するような異物感が残る。慌てて水を飲み、ようやく嚥下。

 苦しさが消えた頃に、異変は起きる。

 

「お、おお」

 

 体がぽかぽかと温まっていく。胃の辺りに熱を感じ、次第に胸の辺りが暖まる。

 

「どういった状態だ?」

「胃の辺りと胸が温かいです。左手と、左足も。ああ、右足と右手も来ました。温まるだけとはちょっと拍子抜けですね」

 

 ハハハ余裕だ、と笑みを浮かべた時、両足から力が抜けてうつ伏せに倒れこんでしまった。

 体が温かいから熱いに変わる。手足の指先が心臓の鼓動に合わせて脈動しているような感覚がする。頭にまで熱が回り、脳みそがふやけたかのように意識が朦朧としだした。

 そして最大の異変は腹に来た。体のどこより腹が熱いのだ。次第に腰が浮いていつの間にか足がピンと伸びていた。

 ここまで来て、この感覚が何なのか良く理解した。してしまったので、手の指で庭の土を握りこむように地面にしがみ付く。膝を折ってさも土下座しているような格好へ移す。

 これはあれである。まだ子どもの身には早すぎる感覚だ。詳しくは口にしない。

 そんな様子を見下ろす周囲の大人どものなんてシュールな事か。ご近所に通報されてしまえ、と思ったが、魔術訓練時は結界を張っていると言っていたのを思い出す。

 ロリコン歓喜な光景だろうとか一瞬思ったが、ロリコンでない人間からしたら子どもの発情など発情期の猫を見るのと同じくらいさぞ滑稽なものであろう。

 顔を上げると璃正神父の機嫌があからさまに悪くなっている。子どもにこんな事をさせるから、ではない。快楽主義者が嫌いなのだ。快楽の味を知る、という事態が唾棄すべき、といった所だろう。

 知らぬがな! 私のせいではない!

 時臣氏は動揺も嫌悪もせず一言二言、魔力を制御すれば作用も消える、と制御を促す発言をしていた。

 綺礼に至ってはいつものぶっちょう面だろうと思っていたが、こいつ、口元にやけていないだろうか。このロリコンめ、とは思わない。そんな次元でなく、堕ちるのを耐える私を背後から突き落としたいのだろう。なんせ耐えている理由が人間としてのしがらみだ。例えば理性だったり、例えば体裁だったり、例えばプライドだったり。そんなものは捨て去って獣にでも堕ちろと綺礼の目が言っている、ような気がする。おのれ綺礼、貴様に部活動はまだ早い!

 堕ちるということは三人がいるこの場でおっぱじめるという事で、そんな事をしたらここにいるお三方に将来一ミリたりとも逆らえなくなってしまう。耐えろ!

 

 

 と、念じていたらいつの間にか私は気絶していた。目が覚めたときには自室のベッドに寝かされていた。回路を確認するとスイッチもいつの間にやら出来ていた。魔術回路を発現させた事よりも耐え凌いだ達成感のほうが圧倒的に大きい。

 スイッチはコードについたジャックに同じくコード付きのプラグを差し込む事だった。スイッチのイメージは、作る際の作用によって左右される……。深く考えるのはよそう。カットカット。

 

 その後、目覚めたとしった璃正神父に説法を聞かされ、尚且つ耐え凌いだ事を褒められた。この教会に来てから最大につらい説法であった。

 

 回路の測定結果は三十本。魔術師の家系でもない子である事を鑑みると異常とも言えるレベル、らしい。突然変異と言われたが嬉しくないだろう。

 何よりその後の時臣氏の発言のほうが嬉しくない。

「回路の生成魔力が生成されて実際に増している魔力量よりも明らかに少ない。せいぜいが半分だ。……どうなっている? 別の何かが魔力を生成している、或いは大気から取り込んでいるとでもいうのか」

 と、言い出し終いには解剖なんて言葉が飛び出したので真顔で逃げ出したのは悪くないはずだ。時計搭に似たようなレポートがあったような、と言い出し、時臣氏帰宅。あるのなら最初からそっちを当たれと言いたい。そして、似たようなレポート=恐らく自分と似たような症状を持つ標本、がある事に思いつき、この世界の恐ろしさを思い出す。ちなみに属性は地だった。普通すぎである。

 

 地属性のできる事。下級で物質強化 中級で肉体強化、肉体の再生、高レベルで言えば大地への干渉等々。

 中々ではないかと思わなくもないが、実際の所もっともポピュラーな属性らしい。人の肉体自体が地属性に含まれるとか。

 というわけでレッスンワン。物の強化。Fate本編でぱりぱりランプを破壊している士郎くんを思い出す。

 ところがどっこい才能のない彼とは一緒にしないで頂きたい。軽く成功でございます。

 と、子どもさながらに強化されたランプを持って時臣氏のところへ言った所、反復を命令された。とぼとぼと作業を続ける。

 

 作業の最中、時臣氏より赤子の写真を見せられた。娘らしい。まだ一歳で、その妹がもうすぐ生まれるとの事。家族自慢か。

 

 しばらくして肉体強化の方法を教わる。朝の拳法鍛錬時、決められた時間に強化を使いながら鍛錬する事を命じられる。

 

 

 その方法を初めて試した翌日、筋肉痛によりベッドから動く事ができなくなった私であった。

 


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