戦う代行者と小さな聖杯(21)   作:D'

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Out教会

 ある日の事。

 いつもよりも機嫌のいい時臣氏が現れた。

 何事かと思ったが、何とも一つの懸念事項が解決したらしい。

 とりあえずおめでとうございますと適当な事を抜かして、さあ今日も訓練だフハハ、と息巻いていると、目の前に金色の粒子が舞った。

 粒子は整然と形を作り、最初に足を作った。そして、そこから上へ、腰、胸、腕、顔と次第に人の形を作り上げる。

 そこには、私服姿のアーチャーがいた。胸元の黄金ネックレスがなんともハイセンスである。

 Oh、ジーザス。

 今なら、シスター見習いとしてお勤めする今ならこの台詞も様になるだろう。

 目の前にいるのはかの英雄王である。

 私のサーヴァントだ挨拶しなさい、とでも時臣氏は言うのではあるまいな、と思っていたが、英雄王にそんな振る舞いする訳もなく。最初に口を開いたのは当然王だった。

「貴様、中々面白い中身をしているな。小娘かと思えば、その精神は間違う事なき男ではないか。それも、内からでたものですらない。それはお前の趣味か、雑種」

 とのたまった。

「――ふむ。面白い。決めたぞ時臣。これは今より我がペットだ。よくよく可愛がってやるとしようではないか」

 悪がのさばっていた。恐怖を感じながら抗議の一つでもしてみると、

「戯け。これは我が下した采配だ。口答えを許した覚えなどない。不敬であろうが。何より犬が口を利くとは何事か」

 英雄王が手を一度振ると、それにあわせて金色の粒子が舞った。粒子は私の首元に集まり、形を成す。首輪である。そこから伸びる鎖が一本、王の手元へ。

 王が鎖を引く。

「ぐえぇ」

 とつんのめって倒れた。

「何、年を経たなら男の精神とやらにメスの悦を刻んでやろうではないか。んん、何心配するな。ペットにはペットに相応しいつがいを我が与えてやる。ボルゾイなどどうだ?」

 

 

 

「ハアアァァァーーー!」

 

 という奇声と共にベッドから飛び起きたのは悪くない。夢である。

 

 

 いつだか時臣氏に見せられた写真の女の子が三歳となり時臣氏に連れられて教会に遊びに来るようにもなった頃。つまり、あれから二年。

 拳法、魔術、お勤め、そんな日々を続けめでたく六歳を迎え学校にも行く事となり、冬木の小学校に入学する事となった。久しく顔を合わせる事のなかった父、ペドロ・バナトゥ・クリケットとも対面したりなど、案外平和な日々である。

 

 それもそのはず、言峰親子も遠坂時臣氏も、今はいよいよ近くなってきた聖杯戦争へ向けての準備に大忙しである。

 こんな時期に弟子の育成などしている暇など存在しないのだ。

 適当に刃つきの黒鍵を一本渡されて、

 

「投げて遊んでいなさい」

 

 と綺礼に言われた時はさすがに顔が引き攣った。今時黒鍵なんて骨董武器を使う代行者など数えるほどしかおらんやないか、と思っていたが綺礼の元へ送られた段階で黒鍵習得は義務なのやも知れない。おのれ聖堂教会。

 しかし遠坂邸に向かう言峰のお二方に着いていく事は決してない。夢がリアルになる瞬間を迎えそうだからだ。

 

「あの展開は強引であったものの、似た様な別の形になるであろう事は明白。うん」

 

 英雄王がいつ召喚されるのかは知らないが、顔を見せれば、醜悪の一言で宝具投擲、絶命奥義なんて事も考えられる。危うきに近寄らず、だ。

 率先して留守番を任されるという何とも出来た弟子ではないかとくだらない思考に溺れながらオルガンに触る。信徒達がいる間のシスター業務の一つである。パイプオルガンなど、如何に前世もちの転生者といえど、極々一部の人間以外はひける訳もないのだ。楽器など生涯無縁だった。

 プワーと情けない音を響かせながら練習。子どもの手には中々厳しいものがある。

 そう。ピアノみたいなもんだろう、と思っていた時期が私にもありました。ピアノもひける訳ではないが。

 何を隠そうパイプオルガン。楽器というより建造物の一部である。何しろでかい。そして楽器演奏というよりもはや斬新な音ゲーである。

 なぜなら手でひく鍵盤だけに限らず、足元にも足でひく鍵盤があり、そして台の左右にはこれまた左右十五個ずつくらいの謎のバーが存在する。ゲーセンに置いたら少しは流行るのではないだろうか。反射神経が物を言いそうだ。

 つまり手足が届かない。ウボァー。

 

 

 さて、信徒のおばちゃん連中と戯れた後、内庭にて黒鍵練習である。腕力、握力を出来うる限り最大強化。利き腕である左で一本握り、いざ実践。投擲。

 真っ直ぐ一本の矢のように、闇夜を切り裂く白銀の閃光が的に突き刺さった、なんて事は妄想だ。無様にブーメランのごとく回転し、地面に柄がぶつかって落ちた。

 これを綺礼に見られた場合、私の顔が真っ青になるだろう。だが奇遇にも彼はいない。ザマー。

 と、思っていたが結局の所、神父らが帰ってくる頃になっても投げる事はできなかった。一日で成る物ではございませぬ、と至極全うな発言をしたつもりが、元より諦めるその性根がダメなのだ、この馬鹿弟子がぁ! と綺礼でなく璃正神父に怒られた。シショー!

 見ると綺礼が面倒見の悪い師に見えるが、恐らくやる気満々の璃正がいるおかげで自身は不要と考えている節があるのだろう。確かに二人同時にやる気満々になられるのは困る。

 

 ここまでが私の日常として、淡々とこなしていく毎日を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木市の言峰教会にて修行を初めてはや三年。まだまだ早いが来年は実戦を経験してみるか、などと綺礼が呟きだした頃の事である。

 聖杯戦争を二年後に控え、聖堂教会との連絡や魔術協会との連携など、本格的な忙しさを見せ始めた。

 その最中の事である。

 私はふと思い当たり、業務を終えた夜に、言峰綺礼の私室を訪れていた。例の地下室である。

 ノックしてもしもし。綺礼に話があると告げ、部屋の中へ通された。

 中々よさそうなチェアに座る綺礼を正面に、私もソファに腰掛ける。この三年間、訪れる事はあっても綺礼の私室に腰を落とすのは初めてである。

 

「話とは何だ。お前は私を避けていると思ったが、珍しい事もあるものだ」

「いえ、避けている訳では……」

「まあ、どちらでも構わない。用件を聞こう」

「ここへ来る以前に、ある方に問われた事があります。真実から出た真の行動とは何か、と」

「真実から出た真の行動? ふむ……」

 

 そういって、綺礼は少し思案し始めた。

 

「行動を起因するのは感情だ。端的に言えば、己の精神に嘘偽りなく従う事を指しているのだろう。相談事なら父にと、思っていたが……少し興味深い話だ。問われたのはそれだけではないのだろう? その言葉に起因する何かが、まだあるはずだ」

 

 真剣な眼差しを向けられてしまった。しまった地雷だったか。しかしこいつも、英雄王と同じように嘘偽りを容易く見抜く。愉悦部の入部に必須なスキルなのだろうか……。仕方がないので正直に話す事にする。

 

「真実から出た真の行動は、決して滅びる事はしない、お前の行動は真実から出たものなのか、上っ面だけの邪悪から出たものなのか。お前は滅びずにいられるか、と問われました」

「まるでお前に滅びが訪れると言っている様だな。……父であるならば、邪悪を祓う意思を持て、とでも言うのだろうが――」

「――これは違う。そういう類の話ではない。その言葉には、邪悪という言葉が抽象的な意味ではなく、明確な用途で用いられている。一般に悪と言われる行動を取るから滅びるのではない。」

「これは自らを誑かす事こそを邪悪と定義している。しかしそれは、己が内より出でる悪徳を肯定しうる悪魔の囁きだ……!」

「一体それを言ったのは何者だ。どういった人物なのだ!」

 

 ハッスルさせてしまった。そしてこの台詞、今の綺礼にはあまりに危険なものだった。あと二年早い!

 

「あー、一度お会いしただけなので。外国人の、金髪の少年でした。なんとも、不思議な雰囲気の」

 

 嘘は言っていない。

 

「……私は自らが望むモノが、一体何なのか、理解した事がない。お前は自らの精神が望むモノを、理解しているか」

「いえ。一時的な満足感を得られるものなら、いくらでもありますが。そういった物の事ですか?」

「……いや、いい。忘れてくれ。もう自室に戻りなさい。すまないが、一人でいたい気分だ」

「はい。ありがとうございました。神父」

 

 立ち上がり、頭を下げて部屋をでた。……これはセーフ? ぎりぎりセーフセーフ!

 しかし収穫は得た。自らが邪悪であったとしても、それを否定せず望むままに行動する事。まあ、邪悪であるつもりなど殊更ないので問題ないだろう。大事なのは感情の赴くままに行動する事、である。まさか外道神父、言峰綺礼がこの言葉の体現者など夢にも思わなかった。恐ろしい。

 

 

 

 代行者見習いとして着実と歩みを進める中、私の聖堂教会での所属が正式に第八秘蹟会所属となった。力量的にようやく見習いの域に達したらしい。

 祝就職、と思った当初を呪いたい。

 私は八歳の誕生日をとある場所で迎える事となった。祝ってくれる――本当に祝福してくれている訳ではない――周囲の人間は武装したカソック姿の屈強な男達が六人。そのうちの一人は言峰綺礼である。

 何でも、とある人物が持つ書物の回収が今回の任務らしい。誕生日プレゼントだ、と渡された子供用のカソック(神秘による防御術式の編み込まれた物。代行者の戦闘衣)を纏い、私はここに立っている。

 とある人物。吸血鬼である。

 死都となった町を、グールを駆逐しながら駆け抜け、対象を殲滅し書物の回収が任務の流れである。おのれ綺礼、計ったな。

 

「お前は私と共にグールの駆逐を担当する。せいぜい死なぬようにな」

 

 なんて優しくない事だ。八歳にこんな仕事をさせるなど常軌を逸している。いや、知ってたけど。聖堂教会はどこの部署もマトモじゃねえの知ってたよ。

 しかし、こんな大規模な荒事、聖堂教会一武闘派、エリートな戦闘屋、埋葬機関にでも任せておけばよいのだ。と、言ったら少なくとも自力で戦力を持つ第八秘蹟会だからこそ、わざわざ借りを作る真似はしないのだそうだ。第八秘蹟会って聖遺物の管理、回収が主な業務な筈なんですが……。思ったよりも武闘派だったようです。

 本来聖杯戦争に向けてこのような雑事に関わる事のない綺礼がこの場にいるのは、実戦訓練に丁度よいと璃正神父がもってきた話だからだ。嫌な顔一つせずついてきてくれるのは面倒見が実はいいのか。こと戦闘に関しては頼りになりすぎるのでありがたい。実にありがたい。

 

 さて、気を抜けばあっさり死ぬので気合を入れる。

 敵はグールである。動く死体である。任務は殲滅。今までの訓練の成果で黒鍵投げて楽勝楽勝、と思いきやである。

 グールとは基本的に知能のない動く死体のはずなのだが、時たま欠損した体を食事で補い、死徒として覚醒する個体が存在する。何とも面倒な話である。

 知能を持ってこちらを狩りにくるのだから始末に終えない。力量の程は親である吸血鬼ほどでないにしろ、しかしそれは力を蓄えられていないだけで、しっかりとそいつも吸血鬼なのだ。つまり。

 生存者のフリをして近寄る存在も大いに考えられる。からこその、この町における活動している物体全ての殲滅。

 ようは人間だろうが死徒であろうが疑わしいので殺します、という事である。

 神父様優しくないです、とお思いだろうが、本来人間に許されるのは悪魔などを祓う、神の力を借りて退けるのみで対象の殺害、または消滅は許されていないらしい。悪魔を屠っていいのは神のみ。故の、神に変わって殺します、と用意された役職が神の代行、我々代行者なのだ。

 そんな事を言い出す奴らがマトモであって良い訳がなく。神の敵を殺す為にあらゆる行動を許されるのが代行者なのである。その最たるが埋葬機関。もはや彼らは聖堂教会の一部門のはずが、埋葬機関の人間は聖堂教会の命令など歯牙にもかけず、神の敵であるなら教皇様だろうが聖堂教会の幹部だろうが問答無用で滅殺するのが埋葬機関である。彼らの行動が事後承諾でなかった事などないらしい。

 

 本来ならば上級の黒鍵使いが行うであろう、柄だけを携帯し必要に応じて魔術により刀身を編み上げるという戦闘法を徹底して綺礼に叩き込まれた私はカソックの下にじゃらじゃらと柄を仕込んで死都に向かった。

 袖口から三本ずつ、右手と左手に黒鍵を取り出し、動くものあらば投擲。飛び掛ってくるものにも投擲。効果はバツグンである。

 黒鍵とは吸血鬼になったものに人間だった頃の自然法則を無理やり叩き込み洗礼してしまう対死徒用ともいえる投擲剣である。つまり弱いグールであるのなら刺してしまえば灰となる。ashes to ashes、dust to dustという奴である。本来は灰は灰に、の前に土は土に、という言葉があるのだが、なぜいたる所で見るこの言葉は省略されてしまったのか。ちなみに埋葬儀式の一節である。

 グールといえど死者である。そんなもの相手に適当な事は許されない。真面目に。大真面目に勤めよう。それこそ最初はゲーム感覚とでもいうような倒し方であったが、それも次第に熱が入る。黒鍵を確実に叩き込む為に、確実に死者を浄化する為に。マトモではないと言いつつも、この行いは限りなく善行である。グールに黒鍵を突き立てる事は葬式を挙げる事と同義なのだ。

 

 最初は下手くそだった投擲も、自在とは行かずとも慣れたものである。矢のように直線で飛ばす直射や、最初の下手な投擲とは違いしっかりと回転を掛け標的に喰らいつかせる曲射撃ち、などなど中々大したものではないだろうか。徹甲作用? あれは代行者が使う秘術ではなく、埋葬機関の内にのみ存在するただの代行者じゃ触れもしない秘術である。出来る訳がなかろうなのだ。どこぞのEMIYAでもあるまいに。同時に火葬式典も似た様な物である。秘術という訳ではないが、そんな術式習得するほどの余裕はない。これでも十分詰め込み教育なのだから。そして私の属性地だから。一番早いの土葬式典ではなかろうか。突き刺した対象の石化である。難易度高そうだ。

 

 手足は避け、なるべく胴体か頭部を狙って黒鍵を投擲する。魔力量だけは潤沢な分、身体強化は十二分に行っているが、それでもまだ未熟。突き刺さるが限界なのが口惜しい。ふと綺礼の周囲を陣取り動きを見ていると、さすがというかなんというか。黒鍵投げれば貫通し尚且つ縫いつけ、近づくものなら素手で死体を引きちぎり、殴打で肉と骨を叩き割る様はもはや暴力の嵐か台風である。しかし、敵を前にした戦闘態勢における一瞬に間合い詰める歩法の数々は見事なものだが、周囲に敵がいない準戦闘態勢の移動手段はいただけない。そのランニングフォームで敵を探す様はまったくいただけない。

 

 

 私も不甲斐ない成果であるのなら後が怖いので熱心に駆逐に参加する。悲鳴を上げないただの死体も、悲鳴を上げるちょっと頭の良い死体も、十途一絡げに始末する。

 しかし醜い光景である。助けてくれとでも声が聞こえたならば、そこにいたのか可愛い子ちゃんとでも言うように代行者たちが迅速に向かい、およそ声を上げたグールであろう存在を始末していく。

 なまじ人型である分、それが本当にグールでなかろうが、そうであろうが良い光景ではない。まさにここはリンボである。

 

 周囲にグールが見えなくなった頃、いざ次の戦場へという所で、綺礼に声をかけられた。

 

「ほぼ全てを黒鍵で対処したようだが残りの数は把握しているのか?」

 

 言われて気づく。おっといけねえ。つま先立ちになり、踵で地面を二回叩く。柄だけとは言えかなりの数をカソックに収納していたので、強化なしにいられないほどに重かったのだが今は軽々としていた。

 

「何のために父の教えを受けたのやら。その矮小な身では不安だろうが、時には懐に飛び込む必要もあるぞ」

 

 御叱りを受けてしまった。しかし、綺礼や璃正神父と違いまだ子どもの身。腕は短く足もいわんや、おまけに強化しても十分な出力は得られないと来たものだ。格闘戦などごめんである……が、もっともな話なのでやらない訳にもいくまいて。身軽となった事だし本邦初公開マジカル八極拳バージョン私を見せてやろう。

 まだ動くグールを一体発見。ロックオンです。

 体術に関して、八極拳の動きは璃正神父に教わり、代行者の経験から変形していった技などを綺礼に教わった。そして、綺礼からはもう一つ、教わった一連の動作がある。

 

 すでに魔術回路は稼働中。全身の強化も完了、手足の保護も完璧。いざ参る。

 

 綺礼ほど洗練されてはいない歩法で接近、まずは震脚。地面を強く踏み締めて、その力を拳打に乗せてグールの腹部へ放つ。本来は腹部へのダメージで一瞬、動きを止めるのが目的であるが痛みなど感じる機能などないのでこれは意味がなく、綺礼ほどのフィジカルもないので急ぎ次の動作へ。グールの手や血みどろの口が襲ってくる前に、相手の膝、又は脛に足裏で踏みつけるような折に行く蹴りを放つ。名を斧刃脚。折るまではいかずとも体勢を崩す事には成功。ここから自身の強化を耐久面よりも筋力面へシフトし、落ちて来た頭部を蹴り上げるような回し蹴り、旋風脚で打ち上げ、かの有名な技である鉄山靠を放ち体で少し持ち上げ落下速度を緩和して、敵が地面に倒れる、又は地に足付く前にトドメの一撃、寸剄を放つ。本来、骨や筋肉から生まれる運動エネルギーをゼロ距離から寸分の狂いなく全てぶつけるのが寸剄という技であるが無論、習得難度の高い技なので完璧な習得が出来た訳ではない。ここで一手、マジカルを発動させる。

 

 寸剄の動作に重ね、ついでのごとく魔力放出。潤沢な魔力に任せて放った寸剄もどきは、それでも腐りかけの死体が胴体から真っ二つになり吹っ飛ぶほどの威力を持っていた。

 

 ふむ完璧。綺礼から教えられた一連の動作、絶拳である。しかしこれでも綺礼の寸剄の威力に届かないとは恐ろしい。

 

 

 以降も背後からグールの接近を許し、振り向いたら近い位置にあったグールの大口めがけ慌てて連環腿――自分の頭を超えるほど大きく振り上げる蹴り上げ――を放ち難を逃れるなど、肝を冷やす場面もありながら任務完了。生きて日の目を見れた事を神に感謝しつつ帰路につく。

 

 途中、不甲斐ない場面を指摘されて説教を受ける。無念。

 

 

 

 

 

 

 三月。言峰教会に来て五年目の事である。ああ、来年の今頃はもう聖杯戦争終わってないか、と思い至り、生き残るぜと気合を入れていると、想定していた未来とは違った未来が待っていた。

 

「お前は今月の末までに、実家のある海鳴へ帰りなさい。すでに、お前の父君へは連絡はすんでいる以降一年、そちらで生活するように」

 

 と、言われた。なんですと?

 すでに聖杯戦争の事は聞き及んでいたので、その手伝いが必要では、と聞くと、能力不足により不採用通知を頂いた。

 

 喜ぶべきであろう事に少し憤りを感じている自分が解せぬ。が、ありがたく避難させていただこう。

 聖杯戦争が近くなるにつれて姿を見せなくなった時臣氏に別れと感謝を告げにいく。

 恐らくもういるかもしれない恐怖の時臣邸に足を踏み入れ、挨拶を済ませる。三つ年下のツインテール少女に別れを惜しまれながら喧嘩を売られるという珍事に見舞われたものの、金色の人には遭わなかった事を神に感謝。すでにシスターとして板についてきているような気がする。そんな自分に驚きを感じるが恐らく生涯教会関係者なので慣れていなくては困る。うむ。

 

 

 三月半ば、父が車で迎えにやってきた。いよいよ五年過ごしたこの教会を去る事となる。璃正神父と、綺礼神父に別れと感謝を告げる。なんとも、もはやここは自分の家に近い感覚であったようだ。涙も一入に、父の車の後部座席に乗り込む。

 久方ぶりに会う父も最後に会ったときと代わりがないようで安心。運転する父に申し訳ないと思いながらも寝入ってしまった。

 

 起きたときにはすでに夜。そして、実家である海鳴教会にたどり着いていた。そこまでいって初めて気づく。璃正神父と時臣氏とは今生の別れとなるのではないか、と。

 

 ……毎日彼らの為に祈ろう、と考えていよいよ帰宅。とりあえず、聖堂へ向かうのだった。

 

 彼らの無事を祈りながらふと、余計な思考が生まれる。

 聖杯戦争終わった後、もしかして私はあの教会へ戻るのでしょうか?

 

 ――死亡フラグが止まらない!


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