ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

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ユージオとアリスの接客をするママナに……


【100話記念】うっかり転移したら、そこは『乙女ゲーム』の世界でした!?・なな

「さっきは本当にありがとう。もう分かっちゃったみたいだけど僕達は隣国の騎士なんだ」

 

『そうですっ、整合騎士ユージオ・ルートですっ。もうこのルートしか残っていませんからねっ』

 

せっついてくるアイの声は聞こえない事にしてママナはいつもよその土地から来た人を接客する時に尋ねる決まり文句を口にした。

 

「ご旅行ですか?」

「そうだね、いちを二人共休暇中ってことになってるから…」

「いちを?」

「私達は『カラス』の行方を追っているのです」

 

話に加わってきたアリスの言葉から、そう言えば数日前から店のお客さんも話題にしていたと思い出して、大きく頷いた。

 

「カラス……ああ『黒の盗賊』のことですね」

「そうです。この国に入国したらしいとの情報を得たので来てみたのですが…」

「休暇中なのにですか?」

 

さっきのユージオの台詞には「いちを」が付いていたが「休暇中」だと明言されていた。ならばわざわざ休暇を利用して『カラス』を追って来たのだろうか?、と軽く首を動かすと今度はそのユージオがやっぱり困ったように笑いながら「休暇のついで、なんだけどね」と説明してくれる。

 

「もともと休暇をとって二人で他国を旅行するつもりだったんだ。だけど寸前まで『カラス』の事件に関わっていたから、どうせなら彼が行方をくらませた先のこの国に行きたい、って…彼女がね」

 

目の前に座っているアリスに向けて笑いかけているユージオは多分『カラス』とは関係ない土地で彼女との旅行を楽しみたかったのだろう。それなのに彼女の希望通り旅行先をこの国にしてしまうとは……。

 

(もう完全にユージオさんはアリスさんの尻に敷かれてる状態ね……)

『そのお尻がママナになるよう頑張ってくださいっ』

(ひょぇっ!?……だいたい私、男の人を尻に敷くって具体的にどうすればいいのかわからないんだけど?)

 

一番身近なカップルと言えば自分の両親だが、父が母の尻に敷かれているか?、と問われれば多分否である……と言うか二人共日々それぞれの仕事に忙殺されていて家で会話をしている姿を見たのはいつが最後だったか思い出そうとしても思い出せない。仲良くしている姿もケンカしている姿も見ていないから自分の親の関係性を表す適切な言葉が見つからない。

ママナの内面によぎった影に気付くはずないユージオは変わらない笑顔を添えてアリスを代弁して問いかけてきた。

 

「それで食事もなんだけど、この食堂で『カラス』について何か話が聞けないかな、と思って」

 

どうやら食堂という場が色々な人達の会話が飛び交う情報の宝庫という認識はどの国でも同じらしい。

尋ねてきたユージオよりも真剣にママナの言葉を待っているアリスからの視線に若干たじろぐが、ママナは「すみません」と素直に頭を下げた。

 

「私、『カラス』が隣の国からやって来たことも知りませんでした」

 

諦めきれない様子のアリスが更に質問を重ねてくる。

 

「そうなのですか。けれど被害が出たから『カラス』の存在に気付いたのでしょう?……盗難被害にあった者や盗まれた品物について何か聞いていませんか?」

 

言われてみればお客さん達の話はいつも『カラス』がでた、というばかりでどこに出たのか、何を盗んでいったのか、といった肝心の部分が抜けていて、なんでかしら?、と逆にこっちが聞きたいと疑問が膨れてしまったママナの顔で何かを察したようにユージオが「やっぱりね」と溜め息をついた。

 

「この国でも、あってはならない物ばかり盗んでるんだな、あいつは」

「あってはならない物?」

「僕達の国でもそうだったんだけど、貴族の屋敷や商人の家に隠してある不当に入手した物ばかりを狙ってるんだよ。だから盗まれても被害を訴えられないんだ」

「それならどうして盗難にあった話が広まるんですか?」

「被害者の当主や店主が口を閉ざしていても、そこで働いているいる使用人が気付いて話を漏らすんだと思うよ、どうやら『カラス』が何かを盗ったらしい、ってね」

 

そっか、だから具体的に何が盗まれたのかはわからないまま話が広まっていくのね、と納得したママナは続けて、話の出所を雇用主に探り当てられるとマズいから被害者の名前も伝わってこいないのだろう、と推測する。しかし、ユージオはさっき休暇の寸前まで『カラス』の事件に関わっていた、と言っていた。やはり騎士として引き続きここでも『黒の盗賊』を探すつもりなのかと思ったが、この国にはこの国の騎士団がいる。

やはり縄張り的なものがあるのでは?、と昨日出会ったこの国の騎士団長を思い出しつつママナが「『カラス』を捕まえるんですか?」と尋ねるとユージオは「ああ、そうじゃなくて」と自分達の仕事を話してくれた。

 

「ごめん、少し誤解させたみたいだね。『カラス』の事件に関わっていた、と言っても『黒の盗賊』を追っていたわけじゃなくて……いや、結果的には追っていた感じになるけど……」

「盗難にあった者を探していたのです」

 

アリスが端的に言い放つ。

 

「被害者さんのほうですか?」

「被害者……私に言わせれば善良な人達から嘘や暴力で強引に金品を巻き上げていた彼らの方が加害者という認識です」

 

柳眉を逆立てて怒りを露わにしているアリスの手を「まあまあ」と落ち着かせるようにユージオが触れる。

 

「『カラス』が盗みに入ったという事は不正を行っていたわけだから、どちらかと言うと僕達はそっちの悪事を暴くために動いてたんだ。まあ、向こうも隠していた物が盗まれたんだからその存在自体を認めないし、色々大変だったけど……だから元々この国にいるらしい『カラス』を捕らえる指令は受けてなくて……単に興味があるだけだよ」

「興味……」

 

(盗賊に興味を抱く騎士さんってちょっと変わってるかも)

『心の広い攻略対象者ってことですねっ。探究心が強いとも言いますっ』

(アイちゃん……なんだか良い方、良い方に解釈してない?)

『だってもうこの人しか残ってないんですから、ママナには絶対この人を攻略してもらわないとっ』

 

確かに今まで攻略対象者に会う度「この人は無理」と言い続けてきてしまったし、昨日はハッキリと「最後の一人に掛けてみる」と宣言したばかりだ。しかしこのユージオという騎士はどう見ても向かいに座っているアリスという女性に片想いをしており、そのアリスもどうやらユージオの事が……と、恋愛ゲームの経験すらないママナでさえ分かるほど分かりやすい、例えるなら穴埋め問題の回答欄にうっすら答えが書いてあるみたいに互いの気持ちが透けて見える二人の間に割って入るというのは、ユージオに恋愛感情を抱くより先に罪悪感が湧く。

 

『今までの攻略対象者の中では一番ママナと歳も近いですっ』

(それは…そうなんだけど……)

 

エギルに始まり、クライン、クリスハイト、ヒースクリフ……確かにこれまで出会った攻略対象者はママナより随分と年齢が離れていた。

 

『ユージオは亜麻色の髪に緑色の瞳の温厚で誠実な好青年ですっ、恋愛対象としてとてもオススメだと思いますっ』

(別にユージオさんの容姿や内面がどうこう言うわけじゃなくてね、アイちゃん)

 

少し会話をしただけで優しい笑顔を浮かべながら親しみやすい口調で話す彼はきっと周囲からの人望も厚い騎士だというのがわかる。

どちらかと言えばさっきから食い入るような目でママナからの情報を期待しているアリスという女性騎士の方が、ユージオへの恋慕には無自覚のまま『カラス』の方に強いこだわりを持っているようで、それに振り回され気味のユージオにちょっと憐れみすら感じてしまい、ママナの心境的には「がんばって、ユージオさんっ」と応援したい気分だ。

 

「私は可能ならば『カラス』に直接聞きたいのです……」

 

話し方ひとつとっても彼女がとても真面目な性格なのはわかるが、憎からず想っている男性と二人きりでの休暇旅行中に『盗賊』の行方を探すのはいかがなものか、とユージオに同情したママナは小声で「『カラス』って男性なんですか?」と尋ねた。これまた情けない笑顔でこくり、と頷くユージオにママナが代わりに大きな溜め息をつく。

ユージオとママナの小さなやり取りに気付いていないのか、アリスはきゅっ、と表情を引き締めて己の考えを語り続けていた。

 

「どうやってターゲットが不法な金品を所持していると知ったのか、そして、目撃者の一人も出てこない完璧な侵入ルートの情報や手段……」

 

そこまで聞いて再びママナはユージオにこっそり話しかける。

 

「目撃者、いないんですね」

「うん、いつも夜の闇に紛れて窃盗を行っているから『黒の盗賊』とか『カラス』って呼ばれてて、目撃者はもちろん、これまで犯行中の現場に鉢合わせた人間すらいないから負傷者も出てないんだ」

 

怪我人も出さずに悪い人から悪事で得た物を盗んでいるならそれはちょっと義賊みたいで、一方的に『カラス』が悪い犯罪者とは思えなくなっていたママナはさっきのユージオの言葉に疑問を持った

 

「えっ!?、それじゃあ、なんでユージオさんは『カラス』が男性だって…?」

 

ちらり、と未だ『黒の盗賊』について熱弁をふるっているアリスを確認したユージオは一層声を潜めて「アリスには内緒なんだけど」と前置きをしてから教えてくれる。

 

「一度だけ『カラス』と思しき人物に遭遇した事があってね」

 

そんな重大な事、私に話しちゃっていいんですかっ、と大きく目を見開いたママナにユージオが相変わらず優しく笑った。

 

「多分、だから……騎士の勘、って言うのかな?」

 

ただ、犯行現場で見たわけじゃないから上には報告していないんだ、と打ち明けてくれたユージオの顔がなんだか随分と楽しそうで、嬉しそうで、それでママナはもしかしたら彼が『黒の盗賊』に興味があると言うのは好意に近い感情なのかも、と直感で思い至る。

思わず「ユージオさん、て……」と、その先の言葉を考えないまま名前を口にした所でアリスがそれを遮った。

 

「ちゃんと聞いているのですかっ?」

「は?!、はいっ……えっと、ごめんなさい…何のお話ですか?」

 

勢いよく返事はしたもののユージオとの会話に夢中になっていてアリスの話を全く聞いていなかったママナがトレイを両手で抱え込んで恐る恐る問い返すと、ぷくっ、と頬を膨らませたアリスは「だから」と声を一段と大きくする。

 

「『黒の盗賊』が賞金首になっているのですっ」

「アリス、声を落として」

 

滑らかな声に諭されて、ハッとした様子のアリスが肩をすぼめモショモショと続きを話し始めた。

 

「私達の国で『カラス』の被害にあった者がなんとか自力で取り返そうと懸賞金を掛けたらしく……」

「既に何人か賞金稼ぎが来てるはずなんだ。この食堂にも僕達みたいに『カラス』の事を聞きに来たり、もう少し漠然と隣国から入国してきた者がいないかどうか尋ねられたりしてない?」

 

それを聞かれるとママナの心当たりは一人しかいない。

 

(でもクリスハイトさんが諜報部の人だって言うわけにはいかないのよね。だけど、あの人が探してるのは『黒の盗賊』なのかしら?、それとも賞金稼ぎ?)

『だからあの時もっと好感度を上げておけばよかったんですっ』

(きっと好感度を上げても教えてくれない気がするけど……それに両方って可能性もあるし)

 

彼以外で今の所『カラス』について聞いてきた客はいないので「いません」と答えると、ユージオがほっとした顔になった。

 

「賞金稼ぎをしている連中は荒事が得意だから普段から粗暴なヤツも多いし、君も気をつけてね」

 

(食堂の給仕係にも気を配ってくれるユージオさんて本当にいい人ねっ)

『ママナ……いい人、じゃなくて、愛しい人にしてくださいっ』

(早くアリスさんと恋人同士になれるといいのにっ)

『私はママナに恋人になって欲しいんですっ』

(さっ、お喋りしすぎちゃったから働かないとっ)

 

もうユージオとアリスの恋路を応援したい気持ちでいっぱいのママナは『もうっ、どうするんですかーっ』と頭の中で鳴り響くアイの叫び声より大きな声で厨房に向かい二人のオーダーを告げたのだった。




お読みいただき、有り難うございました。
当然《整合騎士ユージオ・ルート》は選ばない、と言うより
《整合騎士アリス・ツーベルク・ルート》を攻略中のユージオを
心の中で応援すると決めた回でした。
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