ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

12 / 165
森の家でいつもの様に仲間達が集い、いつもの様に楽しく過ごしていた
はずなのに……そんな中、仲間達が目にした光景は、二人にとっては
いつもの事で……。


【いつもの二人】寝顔編

シャリーン

 

涼やかな音と共に新生アインクラッドの22層にある森の家にログインしたキリトは

リビングのテーブルを囲んでいるメンバーを見て「はて?」と首を傾げた。

と同時に、キリトの存在にいち早く気づいた妹のリーファが人差し指を一本、顔の中心に

立てつつ、もう片方の手でしきりと手招きをしている。

音も声も立てずコッチに来て、という意味だろう。

素直に従って寄ってみれば、テーブルの上にはアスナが用意したと思われるクリームを

たっぷりとデコレートしたケーキがホールで二種類、それぞれ半分以上がなくなっていた。

消えたケーキの行方は推理するまでもなく、テーブルを囲んでいる妖精達三人の(存在しない)

胃の中だ。しかし、アスナ手製のケーキを食べた後とは思えないほど、目の前の妖精達は

萎えていた。

 

「どうしたんだ?」

 

小声で問いかければ、テーブルに突っ伏していたリズが顔をあげ、苦虫を噛み潰したような

形相でキリトを見上げてくる。リズの隣に座っているシリカは口を開けたまま舌を出し、

しきりと手で風を送っていた。

見れば二人の前には先日アスナが手に入れたばかりの、数種類のお茶がpopするカップが

鎮座している。

確か今日は学校の中間考査が終わった事を祝おうという集まりではなかっただろうか?、と思い

状況が飲み込めずにいるキリトは最もここにいるべき姿を求めた。室内に視線を巡らせると

……見た者の表情を思わず優しく緩ませる寝顔でアスナがキリトの指定席と言っていい揺り椅子に

身を丸くしている。

兄の視線がアスナを捕らえた事をその笑みから察したリーファが声を潜めて話しかけてきた。

 

「アスナさん、さっきまで私達にお茶やケーキを振る舞ってくれていたんだけど、いつの間にか

寝ちゃって……」

 

それも無理からぬことだろう。昨日まで自分のテスト勉強に加えて、リズやシリカ、多少はキリト

のテスト勉強も手伝っていたのだ。《かの世界》で最強ギルドのサブリーダーを勤めていた頃も

ギルメンのレベリングに付き合いつつ随分とハイペースで自らのレベルも上げていた事を

思い出し、キリトは「ふむ」と考え込む。

 

あの頃は見るからに無理をしていた風で危うささえ感じたが……。

 

キリトはテープルに片手をつくと、リズとシリカに囁いた。

 

「オレもあまり言えないけど、アスナばかりを頼るなよ」

「……だってアスナじゃないと、まともな味の液体が出てこないのよっ」

 

リズが眉を寄せて「仕方ないでしょ」と言わんばかりに剣呑な目線を返してくる。

食い違いを感じる返答にキリトが「はっ?」と小さく漏らした。

その反応に多少イラついたようにリズが説明を重ねる。

 

「だから、料理スキルのレベルに比例して味も決まるから……」

「いや、そうじゃなくて……何の話だ?」

 

噛み合わない会話の展開に再び苦笑いのリーファが口をはさんだ。

 

「お兄ちゃん、私達、アスナさんが寝ちゃったから自分たちで飲み物のおかわりを何とか

しようとしたんだよ。だけどこのカップはアスナさんでないと、ちゃんとしたお茶が

出てこなくて……」

 

そこで納得したようにキリトが「ああ」と頷く。それはキリト自身にも身に覚えのあることで、

カップを入手した当初はおもしろがって自分でもカップのふちを何回もタップしてみたのだ。

しかし料理スキルゼロの身ではやけに酸っぱい緑色の液体や、コーヒー色なのに口当たりは

トロトロとした無味無臭の葛湯のような液体しか出てこなかったのである。

 

「あまり頼るなって言ったのは勉強のことだよ」

 

キリトはそう言って、視線を一瞬アスナに向けた。それでリズも合点がいったのだろう。

「わ、わかってるわよ」と口ごもりながらも大きく頷く。

察するにシリカは飲んだ液体のせいで舌が痺れているのだろう、舌を出したまま「ひゃい、

しゅみませんれした」と頭を下げてきた。

キリトは微笑みながらも腰に手を当て、ひとつため息をついてからくるりと身体を翻した。

 

「台所に茶葉があるから、それを使ってくれ」

 

スタスタと台所に向かう姿を追うように三人が立ち上がる。

 

「助かったわ、家主じゃないと戸棚とか開かないし。口直ししないとケーキの味も半減だもの」

「まだ食べるんですかっ?、リズさん」

 

驚くリーファにキリトが戸棚に手をかけながら問いかけた。

 

「だいたいリーファは学校が違うんだからテストは昨日で終わってたはずだよな?」

「うん、だから打ち上げは友達と昨日やったよ」

「なんでいるんだよ」

 

ボソリと呟くように声に出せば、リズが割り込むように勢いよく答える。

 

「人数が多い方が楽しいに決まってるからでしょっ、ちなみに来週、シノンが中間考査終わった

後もまた集まるわよ」

 

「やったーっ」とガッツポーズを作るリーファの隣で、口がまともに動かないシリカも笑顔で

何度も頷いていた。

やれやれといったキリトは茶葉の入った容器をリズに手渡すと「後はまかせた、オレはアスナを

寝室に運ぶから」と告げ、リビングに引き返す。

赤子のように身体を丸めて眠り込んでいるアスナの元にひざまずくと、キリトはそっと彼女の

左手を持ち上げた。人差し指と中指を立て、スッと上から下に線を引く。「このへんかな」と

呟きながら握っているアスナの指で何回か宙を突っつくと……「シュワンッ」という微かな

音と共にアスナのほっそりとした両足からブーツが消散した。

それをキッチンから目撃した三人はあんぐりと口を開け固まる。

一番最初に立ち直ったのはリズだ。

 

「ちょっ、ちょっとキリト!……アンタ、今、何したのよっ」

「何って……アスナ、ブーツ履いたままベッドに上がるの嫌がるんだ」

「そういう事じゃなくてっ……ああっ、今日はとことんアンタと噛み合わないわね。アスナの

ウインドウが視えてるのかって事!」

「視えるわけないだろ」

「じゃあ、どうやって……」

「んー……たまにだけどあるんだよ。《こっち》でアスナが寝入っちゃうこと。だから

そういう時はこうして目算でウインドウを操作して、ブーツを解除してからベッドに

運んでるんだ」

「……ありえないよ、お兄ちゃん」

 

妹の呟きに残る二人もコクコクと首を縦に振る。

説明しながらもキリトは軽々とアスナを揺り椅子から横抱きにかかえ、立ち上がった。

ほんの少し揺すって、安定を良くする為にアスナの顔を自分の胸元へ寄せる。

その間、リズが何を想像したのか赤らめた頬を両手で包み、わたわたと挙動不審に陥った。

 

「なに?、じゃあ、うっかりキリトの近くで寝ちゃったら、勝手に装備を解除されるかも

しれないってこと!?」

 

え゛っ!?……その発言でシリカとリーファが一様に、ぽっ、と頬を染める。

 

「……いや、お前達にはしないし」

 

寸刻の照れも迷いも見せずに冷ややかな一瞥を浴びせられ、一同は「ああ、そうですか」と

表情は一気にふて腐れた。

リズが先ほどとはうってかわって険のある目つきでキリトを呼び止める。

 

「別にわざわざ寝室に運ばなくても、そのまま寝かせておいてあげればいいじゃない」

「んー、でもなぁ……オレ達がここに集まってるとクラインとか来そうだし」

 

複雑な表情を浮かべるキリトにリーファが問う。

 

「来ちゃダメなの?」

「ダメじゃないけど……アスナの寝顔は……」

 

傍観するしかないシリカは、隣にいるリズの(あるはずのない)頭の血管がプチッと切れる音を

聞いた気がした。

 

「んーっな事言って!、アンタ達、学校の昼休みに丸見えの中庭で寄り添ってグースカ

寝てるじゃないっ」

「別にあれは寝てるってゆーか、まどろんでる程度で熟睡してるわけじゃないぞっ」

 

今のこんなにあどけない表情のアスナを他のヤローに見せられるかよ、とケットシーの耳だけが

拾えるくらいのボソボソ声でキリトがこぼしたのをシリカは苦笑いで受け流す。

 

「お兄ちゃんもリズさんも、そんな言い合いしてたらアスナさん、起きちゃいますよ」

 

その間合いもバッチリで、アスナがキリトの腕の中でもぞもぞと頭や肩を動かしながら

「う、うん……」と吐息のような声を漏らす。安心しきった甘い寝顔にそぐうその仕草も

愛らしく、その場の全員が「ほぅっ」と見惚れるほどだ。

確かにこんな状態のアスナは万年金欠ならぬ彼女欠のクラインには目の毒だろう。

 

「だから、そういう事で……」

 

気のせいだろうか、若干頬を染めたように見える表情をフイッと隠すように台所から背を向け、

いまいち意味不明な言葉を口にしながらこの場を結んだキリトが寝室へと足を踏み出した時だ。

リーファが先刻から思っていた疑問を口にした。

 

「ベッドに寝かせるのに、上衣やニーハイはそのままでいいの?」

 

妹からの声かけだったせいか、キリトは振り向きざま自然に返答を口にする。

 

「ああ、それは寝かせてから解除するから」

 

リズの頭部からプチッ、プチッと複数音が聞こえた気がしたシリカだった。

 

 




お読みいただき、有り難うございました。
短くて軽い話が書きたい、という想いで【いつもの二人】と称し、何本かお届け
する予定です。
私の場合、ストーリーを考えるとシリアスになる傾向が多いので、時折、息抜き気分で
あえて気軽に書ける内容をひねり出し、バランスをとっています。
次回は、迷って今回見送った方の二本を投稿しますが、その前に『SAOP』第四巻の
発売を祝して10日頃、一本投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。