ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》 作:ほしな まつり
先に短編を投下させていただきます。
キリト、アスナ、ユージオ、アリスが元気な世界線としてお読み下さい。
「これが…ウミ、なのですね……」
「うっわー、ヒトがいっぱいだね」
初めて見るウミ(海)に感動して光る海面に魅入っているアリス、そして彼女の隣には砂浜にいるヒト(海水浴客)の多さに驚きで見入っているアスナ……全く別方向に視線を釘付けにしながらもその表情はどこか似通っている。
その二人の後方で「そりゃそうか」と苦笑にも近い笑みを浮かべたキリトはユージオが広げてくれた大きなビーチマットに腰を下ろした。
一人は幼少期の記憶を封印されて覚えているのは白亜の塔での生活がほとんどの整合騎士アリスともう一人は父親は大企業のトップ、母親は大学教授のまさにザ・お嬢様育ちのアスナ。アスナの方は海自体珍しくも何ともないだろうが何しろここは海外のプライベートビーチでもなければクルーズ船から眺める大海原でもない、ごくごく一般的な海水浴場なので砂浜は大勢の人間でごった返している。
互いに驚きの対象は違うものの「初めて見る」ものには目を奪われてしまうものらしい、立ったまま全く動く気配のない二人にビーチパラソルを立て終えたユージオが呆れを混ぜた声で二人を呼んだ。
「アリスもアスナも、ちょっとこっちに来て日影に入りなよ」
その呼びかけに同時にくるり、と振り返った二人はこれまた初めて見る砂上の陣地を形成した敷物と巨大パラソルにわかりやすく唇で喜びを表し、すぐさま、さきゅっ、さきゅっ、と砂を鳴らしながら向かってくる。ただその間も人間離れした容姿のうら若き乙女二人が移動すれば歩速に合わせて周囲の男性達の目線も動いているわけで……キリトはもう一度「そりゃそうだよな」と諦めに近い思いで近づいてくる二人を眺めた。
アリスがこの日の為に用意したと言っていたオーシャンブルーのビキニは胸元のリボンが潮風に揺れている。方やアスナは白地に赤のラインで縁取りされたホルターネックのビキニで「これ、なんとなくキズメルと一緒にお風呂に入った時のに似てるね」と言って購入を決めた物だ。どちらも余すところなく着用者の見事なボディラインを引き立てている。
それでも四人で座ってもまだ余裕のある広めのビーチマットとそこに十分な影を落とす巨大パラソルのお陰で傘下に入ってしまえば周りの視界から二人の姿は消えるので自然と「ふぅ」と息が漏れた。
「二人とも、いきなり砂浜に出ちゃダメじゃないか」
ユージオからのお小言にキリトもまた目を閉じてうんうんと頷く。ビーチにいる飢えた狼達の目の前に兎を二匹を差し出すようなものだ。もうちょっとこう上着を羽織るとか、帽子を被るとか、とにかく色々な部分をギラついた男共の目に触れない対策をして欲しいよな、と思っているとユージオが荷物の中からゴソゴソと何かを取りだした。
「ちゃんと日焼け止めを塗らないと後で大変なことになるよ」
手にはしっかりとスプレー式のUVケアボトルが握られていて、それを見たキリトがカクッ、と片方の肩を落とす。
「おい、ユージオ。そっちなのかよ」
「そっちって?」
「いや、だから、その……」
「あっ、私、乳液タイプの日焼け止め持って来たよ」
今度はアスナがバックの中から違うUVケア商品を取り出した。
オレが言いたかった「そっち」は日焼け止めがスプレータイプなのか乳液タイプなのかって問題じゃないんだけどなぁ、と中途半端な笑顔のキリトを置いてきぼりにして、これまた日焼け経験のないアリスが「おおぉ」と感心して二つの商品を見比べている。興味津々に顔を近づけてくる様子にお姉さん心を刺激されたアスナが優しく微笑みパカッ、と蓋を開けた。
「さ、アリス、腕をだして。塗ってあげるから」
「ならボクは背中の方をスプレーするよ」
しっかり者の世話好きが二人いるとこうなるのか、とされるがままに前後をアスナとユージオに挟まれたアリスが日焼け止めをコーティングされていく様を眺めながら半分感心するもののなんだか優等生同士、息の合う二人に知らずキリトの口がへの字に歪む。だがキリトからの複雑な視線に気付いていないアスナとユージオはせっせとアリスの肌に日焼け止めを塗布していった。
「うわぁ、アリスの肌すべすべ。無駄な脂肪はないのに程よくもちもちしてて…」
「なっ、ア、アスナだってそうでしょうっ」
その事実をアリスはいつ、どうやって知ったんだ?、とキリトの目がうんざり気に澱み総じて顔全体が「オモシロクナイ」を体現している。
「アリス、ムラ無くスプレーしたいから髪の毛を前で持っててくれるかい?」
背に垂らしていた黄金色の三つ編みをユージオに言われるがまま両手で祈るように持てば今度はアスナが「そのままちょっと腕をあげててね」と言って新たに手の平に落とした日焼け止め液を彼女の首元に優しく塗り込んだ。
「アスナっ、そこは自分で塗りますっ」
「いいじゃない。ついでだし女の子同士なんだから…このへんもちゃんと塗っておかないと」
「ひぅっ、ひゃぁぁっ」
かなり際どい胸元の谷間まで手を伸ばしたアスナはどこか楽しげにぺたぺた、ぬりぬり、を繰り返しており身動きが取れないアリスはピンッ、と背筋を伸ばしたまま持ち上げている自分の髪をぎゅぅぅっ、と握りしめて羞恥に堪えている。
その後、全てを諦めたのか借りてきた猫のように大人しくアスナに両足まで入念に日焼け止めを塗られたアリスは「はい、できあがり」と満足げに微笑むはしばみ色を合図のように瞳にキラーンと生気を戻した。
「次は私が塗りましょう」
「え?」
「だから、今度は私がアスナの肌に日焼け止めをくまなく塗りますっ」
さぁっ、とアスナの持つ日焼け止めを要求する手が真っ直ぐ伸びてきたかと思うと、横からひょいっ、と違う手がその容器を掠め取る。
「アスナにはオレが塗る」
日焼け止めボトルを巡って睨み合う二人にアスナは「もうっ」と困り笑顔で割って入った。
「ふたりとも……私は家を出る時に塗ってきたから軽く重ね塗りすればいいだけなの。背中の方だけ…ユージオくん、お願いできる?」
「もちろん」と柔和な笑顔で応じるユージオがスプレーの構えようとする前にキリトが素早く割り込み、アスナの背後から耳元に顔を寄せる。
「いいのか?、アリスの時みたいにうなじを見せると昨晩の痕がユージオにバレるけど」
「?、痕って……キっ、キリトくん!?」
何の事かと首を傾げそうになったアスナがキリトの言わんとする意味を悟った途端、発火したように頬を赤らめ振り返って興奮気味の口調ではあるものの声は潜めて鼻がくっつきそうな距離で眉を吊り上げた。
「っ私、ちゃんと言ったじゃないっ。水着を着るから考えてね、ってっっ」
「だからちゃんと考えたさ。どうすればアスナの水着姿に寄ってくる虫を追い払えるかなーって」
その返事を聞いて、くうぅっ、と奥歯を噛みしめ、声にならない息を漏らしているアスナの目に映っているキリトは至極純粋に真面目ぶった顔をしているが確信犯なのは間違いない。それならいっそアリスにスプレーしてもらおうか、とも思ったがアリスだと本当に純朴な気持ちで赤い痕を心配しそうな気がして「これは、どうしたのですか?」と問われればユージオもその声に反応するだろう。正直に答える事も出来ないし結局恥ずかしい思いをするのなら、とアスナは敗北を認めた。
「ごめんね、アリス。背中はキリトくんに塗ってもらうから、アリスはユージオくんの背中にスプレーしてあげたら?」
少々不満げな碧眼だったがユージオの「じゃあお願いしようかな」という声と共にカラカラと振られるスプレー缶が視界に入り、好奇心が宿る。初めてのオモチャを触る子供のようにワクワクソワソワしながら日焼け止めスプレーを受け取ったアリスは座っているユージオの背後に膝立ちになると「では、いきます」と神妙な声を出し噴射目標である背中を真剣に見つめた。
一方、素直にユージオの元へ移動してくれたアリスに、ホッと息を緩めているアスナの背の上は撫でるようにキリトの手が這っている。まるで昨晩の房事ような手つきに思わずふるり、と肩を震わせれば耳たぶを咥えそうな至近距離でキリトが「水着、前でおさえてて」と囁いてきた。
アリスと似た体勢で髪を前にしていたアスナが意味を問う間もなくうなじと背中で結んであった水着の紐がシュルリと解かれる。
背中全体をキリトの眼前に剥き出しにされたアスナは咄嗟に悲鳴を飲み込んだ。
幸いにもユージオは完全にアスナ達に背を向けた位置に座っているからこちらは見えないし、彼の背中に日焼け止めをスプレーするという任務に邁進しているアリスも気付いた様子はない。
そして白い柔肌に乳液を塗布している手が段々と両脇から前身へ移動をし始めている事に気づいているアスナが「これ以上調子に乗ったら思いっきりつねってやるんだから」と強い決意を抱いているのをキリトが思い知るまであとほんの少しである……。
お読みいただき、有り難うございました。
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