ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

149 / 165
本年も気長によろしくお願い申し上げます。
新年一本目なので短くとも定期投稿を死守してみましたっ
(それってどうなんだろ…)
先週《オーディナル・スケール》がTV放映されたので……
まぁノーカットとはいかなかったので色々思う所はあるでしょうが……
《0S》後の《アリシゼーション》前の二人です。


まあるくなる

キリトは閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。

《現実世界》ではありえない大きさのキノコのような……正直に初めて見た時の印象に従って言えば巨大エリンギを思わせるような形の植物の、そして地上から二十メートルはあるだろうか、その上部の平面部分は短草が一面生い茂っており昼寝をするにはもってこいの場所だ。

時折、眼下の地上でポップしている食虫植物型モンスターを狩る妖精達や頭上の空を飛び去っていく妖精達の気配を感じるが絶対的な安心感に包まれているキリトは易々と警戒心を手放す。

その理由は自分のステイタスの高さも然る事ながら己の守護者とも言える女神の如き慈愛とかつて「攻略の鬼」とも呼ばれた苛烈な戦闘センスを有する存在がすぐ近くにいるからだ。

自分と彼女がいて不覚を取る事はまずありえない。

その証拠に僅かな身じろぎを敏感に気付いたのだろう、キリトの顔面に影が落ちる。

 

「…キリトくん?、起きた?」

 

どんな世界でも唯一キリトの事を「キリトくん」と呼ぶ少女、アスナのしなやかな髪が頬をくすぐった。たったそれだけの事に多幸感が胸に広がって自然と口元が緩む。

 

「どうしたの?、もしかして、寝ぼけてる?」

 

もう少し案じてくれる声を聞いていたかったが、それよりも悪戯心が芽生えてアスナのはしばみ色の瞳を見上げた。

 

「そうじゃなくて……旧SAOでは外で昼寝してたら副団長さんに怒られたっけ、って思い出してた」

「もうっ」

 

アスナにとっては恥ずかしい思い出なのか、キリトを覗き込んでいる口元が小さくすぼまる様を下から眺めて更に口角が上がる。

思い出は次から次へと浮かんできて……低層では眠っている間に互いの顔が近づきすぎ、アスナが目覚めた途端キリトを「黒鉄宮」に送りそうになった事もあるが……それまで持ち出すと本格的にご機嫌を悪くされそうなので半年ほど前、同じようにここで横になっていた時の事を思い浮かべた。

あの時は寝ていたわけではなく、メガネの役人からの依頼に応えるかどうかを考えて……いや、本当はもう心の中で意思は固まっておりそれをどう彼女に伝えたらいいかを考えていたわけだが……アスナは薄々気付いていてその時をひたすら傍に座って待ってくれてたんだよなぁ、と今になって理解する。

大事な決断をした時は一番にアスナに伝えるキリトだが、その内容はともかく何かに悩んでいると勘の良い彼女にはバレバレで、それでも黙っていつも通りにしてくれているのだから、もう一生隠し事は無理だろうな、というのは自他共に認めている事実だ。きっと頑張って、頑張って精一杯の虚栄を張ってみてもアスナはほわんほわんと笑って「えへへ、気付いてたよ」と言うに違いない。

だから、今現在、何も思い悩むことなくこうやって《仮想世界》に二人でダイブして暖かな陽光を浴び、時折吹いてくる爽やかな風を感じつつ恋人の膝枕で昼寝ができる至福の時をキリトは思う存分満喫していた。

少なくともキリトとアスナにとって《仮想世界》はゲームをするだけの空間ではなく、その時を生きている場所だから周囲の何やら言いたげな生暖かい視線には気付かないふりをし、こんな風にただ二人きりの時間をゆっくりと過ごすのは久しぶりで……。

 

「なぁ、アスナ。今度の休み、どこ行く?」

 

そして二人きりで過ごすのは《仮想世界》だけでではなく……春先には、共に過ごしたした時間は短くともアスナにとってとても大事な存在となった妹のような友が逝くのを見送り、その約一ヶ月後には新たに開発された「ARデヴァイス」《オーグマー》によって大勢の旧SAOプレイヤーを巻き込んだ大事件によりアスナは記憶障害を起こし……などなどで純粋に甘くて楽しいがたくさん詰まった世に言うデートと言うものを随分していなかったから、次の週末は絶対に何があってもアスナと出掛けるっ、を固く誓っていたキリトはちょっと浮かれ気分で相談を持ちかけた。

キリトの顔を上から覗き込んでいたアスナはその問いかけに上体を戻して「うーん」と人差し指でおとがいに触れながら思考をフル回転させる。そしてすぐにパッと弾けるような笑顔になると再び己の膝上へ視線を落とした。

 

「あそこは?、前にキリトくんが見たいって言ってた展示会場。まだ開催期間中だよね?」

 

その提案にキリトの真っ黒な瞳が大きく見開かれる。

確かに言った、その展示を見てみたいと。でもそれは開催前にチラリと見たネットニュースの話で興味を示した自分さえちゃんと展示期間までは覚えていなかったのに、久しぶりのデートの目的地候補にあげられて「ああ、やっぱり敵わないな」とキリトは白旗を揚げるように緩く微笑んだ。

旧SAOの低層で出会った頃は彼女が生き残る為に自分の存在が必要だと思っていたが、今はもしアスナが傍からいなくなったらどう生きていけばいいのかさっぱり見当もつかない。

それでもキリトが興味を引かれる分野はどうしてもフルダイブ関連になってしまうから大学の公開講座や企業イベントなどは一人で行くのだが、あの展示をアスナが見たいとは思えなくて返事を渋っていると、そんな葛藤さえもお見通しと言いたげにクスッと小さな笑い声が降ってくる。

 

「キリトくんが時々参加してるようなレクチャーは流石に専門知識が足りなくて理解が追いつかないけど、展示だったらわからない時は君に聞けるでしょ?」

 

なるほど、と軽く頷いた。小声で会話をするならそれ程周囲の迷惑にはならないだろうし、これまで何度もアスナの鋭い質問に驚かされているキリトである。自分では気付かない視点からの意見もあるだろう。

とは言えやっぱりアスナに付き合わせる形になるのは申し訳ない気がして決断を下せずにいるキリトは展示会場の場所を脳裏に思い浮かべて、突然ガバッと起き上がり「そうだっ」とほぼゼロ距離まで顔を近づけた。

 

「この前アスナが話してたカフェがあの会場の近くだから展示会の後に寄ってみようぜ」

 

これなら自分の見たかった展示とアスナの食べたかったケーキ、両方行けて互いに満足できそうなデートプランになるのでは?、と瞳を輝かせていると、喜んでくれると確信していた彼女の顔が不自然な笑みに変化する。

 

「アスナ?」

「えっと……そうだね。飲み物も色々な種類がありそうだったから……そこでお茶するのもいいね」

 

そこでキリトは「おや?」と首を傾げた。

いつもなら一も二もなく「うんっ」と満面に笑みを浮かべてくれるはずなのに、どうにも歯切れの悪い返事になっているのはナゼだ?……話題に出たカフェはナポレオンパイが評判と紹介されていた店でイチゴがふんだんに使われている商品画像はキリトも思わず唾を飲み込んだほどなのに、アスナの返答だとまるで飲み物しか注文しないように聞こえる。

 

「どうしたんだ?、そこのカフェのナポレオンパイ、食べたかったんじゃないのか?」

「うーん、そうだけど……」

 

口にするのを迷っているそぶりにキリトはアスナの正面の位置へ座り直して揃いの指輪がある左手を取った。

 

「アスナ」

 

真っ直ぐにじっと見つめて話してくれるのを待つ。

自分は彼女と違って察するスキルのレベルは低いから、アスナに限ってだが、何かに思い悩んでいる時はこうやって正面から切り込むと決めているのだ。

短気な者ならじれったさに眉根がよりそうな程の時間が過ぎた頃、真剣なキリトの眼差しに降参するようにアスナが軽く息を吐き出し、少し上目遣いになって「あのね」と思いを打ち明け始める。

 

「《オーディナル・スケール》をプレイし始めた頃、ノーチラスくん…エイジくんって言ったほうがいいのかな…とにかく彼に言われたんだもん。『随分と角がとれたようで』って」

「はっ!?……アスナ、あいつとそんな話したのか?」

「うん。結局UDXの次のイベントで私から声を掛けたの。そしたら『角がとれた』って……ねぇキリトくん、私、旧SAOでそんなにツンツンして嫌な感じだった?」

 

自称コミュ障のキリトでもわかる、これは否定を期待している目だ。

ただここで「全然ツンツンなんてしていなかったぞ」と言ったところでつきなれないウソは簡単に見破られそうで、キリトはこっそりと「エイジのやつ」と知り合いとさえ呼べないわりに激しい関わり方をしたかの人間の名を恨みがましい声で呟く。

もごもごとした声しか聞こえなかったアスナは更に言葉を重ねてきた。

 

「そりゃあ彼とは《血盟騎士団》で一緒だったんだから私はサブリーダーとして多少は厳しく接してたと思うけど、ノーチラスくんは……って、キリトくんも知ってたよね?」

「へ!?」

「ほら、第七十二層主街区《オズモルト》のカフェで会った時言ってたじゃない。加入したばかりの彼のこと、『腕はなかなかよさそうだ』って」

「あー…そっか、そうだったなぁ」

「そうだよ。ボス戦で一緒だったわけでもないのに、キリトくんが知ってるの珍しいなぁ、って思ったし」

「ああぁ、うん、まぁ、KoBの新人は話題になるしなぁ…オレも狩り場でちらっ、と見かけただけだったけどさ」

 

まさか偶然見かけたKoBの新人が同年代の男子だとわかって、ついまじまじと観察してしまった理由なんて今なら分かりすぎるほど分かってしまうのだが当時はなんで気になるのか理解出来ず、しかも彼の事を直接アスナに聞いてしまうほど意識していたのだから……あの頃のオレ、単純で鈍感だったなぁ、と密かに悶えながらもそんなヤツの言葉でアスナの笑顔の純度が下がるのが面白くなくてキリトはもう片方の右手も包み込んだ。

 

「それがなんでケーキを食べないにつながるんだ?」

「角がとれる、って普通は人柄がまるくなるみたいな意味で使うでしょ?…でもこの前…『性格が丸くなると体型も丸みを帯びてくるんですね』って言われてる人がいて……ねぇっ、キリトくん、私、丸くなってきてない?」

 

キリトはアスナの両手を握りしめたまま、パチクリ、と瞬きを二回ほど高速で繰り返した。それからゆっくりと頭を上から下に動かし、くまなく彼女の全体を眺める。それから握っていた左右の手をそれぞれむぎゅむぎゅと揉み、次に手をずいずいと移動させて腕を掴み、もみもみ。そのままグイッと引き寄せて「きゃっ」と倒れ込んできた身体を、ぎゅうぅっ、と抱きしめた。

 

「ちょっとっ、キリトくんっ。アバターの体型は変わらないでしょっ」

 

ジタバタしているアスナには構わずキリトは心地よい弾力に滑らかな肌を腕の中に収めたまま「でもさ」とウンディーネの大きな耳元に唇を近づける。

 

「このアバター。ステイタスは引き継いでても体型はALOを始めた時に作成したんだろ?」

「それは…そうだけど」

「だから今のリアルのアスナとの違いがわかるわけで…」

「うっ…そっか……」

 

とんでもなく恥ずかしい事を言われいる自覚はあるがキリトの返答はもっともで、自分の身体を全方位から知られている理由に顔を茹でながらも「…それで、どう?、キリトくん」と結果を問う。ところが……

 

「うーん、もうちょっと触ってみないと…」

 

そう言ってキリトはアスナの頬に自分の頬をくっつけた。

すりすり、と少し押すように擦り合わせ、続いて手をすすーっ、と這わせてふにゅふにゅ、と…「って、どこ触ってるのよっ!」と怒られる。

けれどキリトにしてみればそんなお叱りも日常茶飯事、なんのそのだ。むしろ「あ、この感じ、ちょっとだけ懐かしいな」とさえ思えてきて「そう言えば、旧SAOではたくさん、それはもうたくさんアスナさんからプリプリ、プンプンされて……」とアスナの『おこモード』表情集が浮かび上がってくるが、あれが『ツンツン』だと言うなら、キリトにとってそれは『かわいい』に分類されるので眉根か寄るどころか眉尻が自然と下がってくる。

だいたい《血盟騎士団》時代のアスナはいつもギルメンの為、攻略の為と頑張っていたのだから、その時より『角がとれた』のならそれは彼女が穏やかに明るく過ごせているという意味で、MMORPGを純粋に楽しんで欲しいと思っているキリトには嬉しい言葉なのだ。

 

「オレはあの鋼鉄の城に囚われていた時でも《トレンブル・ショートケーキ》や《ブルーブルーベリータルト》を美味しそう食べてるアスナを見られるのが嬉しかったよ」

 

それにもっと言えばツンツンしてても丸くなってもアスナはアスナだし、色んな彼女を知った上で抱いているこの気持ちが揺らぐ事はないし、今後見たことのない面を知ったとしてももっと好きになる自信しかないキリトは再び耳たぶに触れそうな距離で言葉を紡ぐ。

 

「今度の休みの日、一緒にナポレオンパイを食べたいけど……どうしても気になるなら…」

 

なんだか妙に悪戯ッ子のような声で囁かれた誘い文句に、つられたようにアスナが「気になるなら?」と繰り返した。

 

「ログハウスに移動して体型が変化しているかいないか、もっと念入りに確認しようか?」

 

それがどういう状況を指すのか察したアスナの頬が桃色に染まるのと同時にキリトの口の端がニヤリと上がったのだった。




お読みいただき有り難うございました。
キリトがノーチラスくんの事を知っていたという設定、映画では
当然知らない事になってましたが、知っていた方を採用しました。
エイジに「貴女も随分と角がとれたようで」と言われて「そうかしら?」と
突っぱねるアスナさん、久々のツンモードでしたね(好)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。