ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

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大変遅くなりました(いちを5月分です)
そして何十番…いえ、何百番煎じかわからない
『××しないと出られない部屋』ネタ(笑)
大丈夫、健全(?)なやつですから。



出られない部屋

シュンッ、と近未来を連想されるSEと共に扉がスライドし、キリト、アスナ、リズ、シノンの四人は恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた。

どんなクエストもそうだが初めての場所はいつだって緊張と興奮が混在するものだ。

さて、ここは何の部屋だろう?、と四人がキョロキョロと室内を見回す。

と言うのも一見しただけでは何の為の部屋なのか、何が目的なのかがさっぱり分からない……ハッキリ言って何もない部屋だったからだ。

真っ白な天井に真っ白な壁、そして真っ白な床……お陰で部屋の大きさが測りづらいがだいたい学校の教室二部屋分といったところだろうか。

妖精達の頭上に等しくハテナマークが浮かび上がった時、シュワンッと椅子が四つ現れた。

どうやら部屋が入室者の人数を把握すると出現するらしい……と同時にシュンッとさっき聞いたばかりの音が背後から聞こえ、バッと振り返れば入ってきたばかりの扉が姿を消していた。

そう「閉じた」のではなく完全に存在を視認できないレベルで壁と一体化したのである。

見ただけでは扉があった事すら信じられなくなるほどで、当然手で触れてみても境目のような筋は一切感じ取れない。

四人はしばらく扉があったと思われる壁をペタペタと触診していたが何のカラクリも隠されていないと判断して「ふぅっ」と困惑の息を吐いた。

 

「うーん、これは…アレだろうな」

「そうだね」

 

まいったな、と眉間にわずか皺を寄せてキリトが呟くと、すぐさまアスナが同意する。

 

「なに?、どういう事なの?」

 

まだALOでのクエスト慣れしていないシノンが二人の間で視線を往復させた。すぐさまリズが人差し指を指揮棒のようにふんっ、ふんっ、と振る。

 

「あー、つまり、アレよ。何か指示が出てそれをクリアしないとこの部屋からは出られないってこと」

「今までの部屋と何が違うの?」

「これまでのはその部屋にいたモンスターを倒したり、部屋に隠されているアイテムを見つけたりだったけど、こういう部屋はね……うーん、何て言えばいいの?、指示に従って行動してもなかなかクリアできないところが面倒くさいって言うか、正解がハッキリしてないって言うか……」

「なに、それ」

「百聞は一見にしかずよっ。結構えげつないのが出てくるから気をつけて、シノン」

「そんなの気をつけようがないじゃ…」

 

ひとり混乱するシノンを置いて会話を聞いていかのようなタイミングで部屋の中央、天井近くに文字が浮かび上がる。

 

『キスをしないとこの部屋からは出られません』

 

「は?」という戸惑いの声は一体誰のものだったのか。四人全員が目を丸くして唖然とした。

 

「キ、キ、キ…キスって……」

 

一瞬にして頬を染めたアスナの前へ無言で移動したキリトが慣れた手つきで彼女のおとがいを指で支え丁度良い角度に持ち上げて顔を寄せようとすると……「痛ッ!」後頭部に強い衝撃が走る。

ペインアブソーバーの設定数値が十に近い為痛みは感じないはずなのに衝撃による痺れだけでも十分にHPが削られた気がしたキリトが驚いて振り返ると、そこには愛用の片手棍を握っているリズ。もう二、三発お見舞いしてあげましょうか?、と言わんばかりの笑みにキリトはササッとアスナから手を離した。

続いて「なに考えてるのよ」とは腕組みをして呆れ果てているシノンからの声だ。

 

「なに、って、キスすれば出られるんだからオレとアスナが…」

「こっ、ここでキリトくんとキスするのっ?!」

 

遮蔽物が何もない真っ白な空間で、しかも友人達の目の前でキスだなんてとんでもないっ、とアスナがブンッブンッ風を切る勢いで首を振る。

 

「でも実際問題この部屋をクリアする条件はキスだしなぁ」

「だからってなんでアンタ達のキスシーンを拝まなきゃいけないのよ」

「ならリズとシノンは壁の方を向いててもらってだな……」

 

二人が見てなきゃいいんだろ?、と言いたげな目で見られても気持ち的にどうにも踏ん切りがつかないようでアスナは未だ目元を朱に染めたまま盛大に眉根を寄せている。

そこでふと思いついたようにシノンが声を割り込ませた。

 

「ちょっと待ってキリト。これってもしこの部屋に入ったメンバーが同性しかいなかったらどうなるの?」

 

確かに女性のみ、男性のみのパーティーがこのクエストを進めていた場合これはかなり難易度がアップする指示だ。今どきは同性カップルを含むパーティーも存在するが友情オンリーだったらかなり気まずいし、そもそも男女混合の編成でも恋愛感情がないなら同様に短期のクリアは難しいだろう。

となると「キス」と言っても同性同士、または強い恋愛感情が存在しなくてもクリアできる可能性が浮かび上がる。

 

「もしかしてチークキスでもいいんじゃない?」

 

シノンからの提案を聞いてアスナの顔にぱあっ、と安堵が広がった。

 

「じゃあ、アスナとやってみるわね」

「ちょっと待った、シノン」

 

今度はキリトが待ったを掛ける。

 

「なによ」

「なんでオレがいるのにシノンがアスナにキスするんだ?」

「別にいいじゃない。要はキスをしてこの部屋から出られればいいんでしょ?」

「それならオレがアスナにチークキスをしても問題ないだろ」

「だから私がアスナにチークキスしても問題ないわけよね?」

「やめなさーいっ!」

 

ここでまたもやリズがこの場を制する。

 

「まったく。なんなのよ二人ともっ。ちょっと落ち着きなさいっ」

 

完全に立ち位置が保護者か飼育員だ。

「せっかく椅子があるんだから座って考えましょ、ほら、アスナも」と中心に向かい円形に配置されているそれへ三人を促すと一番最初に腰を落ち着けたアスナの両隣にキリトとシノンが陣取る。残りのアスナと向かい合わせの椅子にリズが疲れた顔で収まると、もじもじと細くて白い手が小さく伸びた。

 

「…あのね、ちょっと気になったんだけど……」

 

いつの間にかキス対象者確定となってたアスナは友人の前で恋人との口づけを回避できると安心したのも束の間、今度は友人と恋人がキスの権利を巡って言い争いを始めてしまい、さっきまで目を白黒させていたがここに来てようやく落ち着いて元来の思考能力の高さを取り戻したらしい。遠慮がちな挙手に三人の視線が集中する。

 

「だったらこの部屋に入ったのが一人だったら、どうなるの?」

 

確かに今回のような指示はこの部屋に入ったプレイヤーが複数でないと成立しない。疑問を口にしたアスナの他、リズとシノンは揃って首を傾げている。そして旧SAO時代、上層ゾーンのプレイヤー達にとっての《ソロプレイヤー》と言えば《黒の剣士》だ……と言う事で女性陣は全員一人の闇妖精を見た。

一斉に期待の眼差しを向けられて後ずさりしたくなったキリトだが、今は着座状態……仕方なくゴホンッとわざとらしく声の調子を整えるとおもむろに「えっと、だな」と説明を始める。

 

「こういうやつはだいたい補足説明が付いてるんだ」

「補足?」

「ああ。今回のは時間差で現れるんだろうな」

 

そう伝えると待ってましたとばかりに『キスをしないとこの部屋からは出られません』の文字しか浮かんでいなかった空中のその下に小さく文字列が現れた。

 

『三十分後、扉のロックは自動で解除されます』

 

「……なによ、それ」

「って言うか文字、ちっちゃすぎじゃないの?」

「キリトくんに教えてもらわなかったら、うっかり見落としてたかも……」

「それも狙いのひとつさ。一回読んだ文字をそう何回も見上げないだろ?。既に指示をクリアしていればもう部屋から出ているから捕捉は必要ないし、今のオレ達みたいに意見がまとまらない状態だったら気づかない可能性も高い」

 

少女達がそれぞれに呆れの感情を浮かべる。

 

「うわぁ、いい性格してるじゃない」

「でもこれで無理に指示に従う必要はなくなったわけね」

「そういうわけでもないかも……」

「アスナの言う通り。オレ達が今進めているクエストには達成まで制限時間があっただろ?」

 

キリトに言われてリズとシノンはハッとした。この部屋で三十分も費やしては到底クエストクリアは無理だ。アスナがいつもの癖でおとがいに人差し指を当てて「うーん」と唸る。

 

「三十分後、この部屋から出られたとしてもその時点でほぼクエスト失敗ってことよね」

「ゲームオーバーでロックが解除されたようなもんだな」

「それじゃあ結局ソロの人はこの部屋をクリア出来ないってこと?」

 

問いかける相手……と言うか答えを知っていそうな人物は一人しかいない。

 

「毎回同じ指示が出るとも限らないしなぁ……でもオレが一人でもう一回挑戦するとしたら一か八かこの部屋で三十分を無駄にする覚悟で序盤から時間を計算して飛ばすより迂回ルートを探すな」

 

そこでリズが腕組みをする。

 

「だったら私達も今回この部屋のクリアは諦めて……って言うのも何か納得いかないわね」

 

既にクエストは終盤なのだ。ここまできて断念する気にもならないし、何よりここにいるのはソロでもなければ同性のみでもない。そして悩んでいる間も時間は刻刻と過ぎている。

それはキリトも同じだったようで、ガタッと椅子から腰を上げアスナの方へ移動しながら「簡単なやつからドンドン試してみようぜ」と提案すると真正面に立ち彼女のほっそりとした手を持ち上げた。

チュッ、と軽く手の甲に唇を落とす。

パッ、と全員が扉のあったと思われる壁を見るが何の変化もない。

「やっぱりこれじゃダメか」と言うなり座ったままの小さな頭部を抱きかかえるようにして水色の頭頂部に唇を押し付ける。アスナはキリトの胸元に顔をすり寄せるように動かして横目で壁を確認するが何も起こらない。

次に低く「アスナ」と呼ばれたので、いつものように目を瞑って少し角度を上げると前髪を払われて剥き出しになった額に、続いて瞼に目尻にキリトの唇の感触が移動する。

既にキリトが行動を起こしてしまったので見守るしかないリズとシノンの眉間に段々と皺が出現し始めた。

あれだけ抵抗感を見せていたアスナが素直にキリトのキスを受け入れていると言う事は、この程度は羞恥すら芽生えない日常茶飯事ということで、なんだか口の中に大量の甘味が広がっていく幻味覚に「うげ」とリズが舌を出せば、シノンの方はピクピクと頬を痙攣させている。

その間もキリトの「ドンドンお試し作戦」は続いていて既にさっき論争の種になったチークキスは終わっているがやはり壁に変化は見られない。

 

「ぴゃっ」

「!?」

「!?」

 

扉の方向を気にしていたリズとシノンの耳に突然、仔猫のような鳴き声が飛び込んできて、咄嗟に目をやるとアスナが肩をすくめていた。

 

「ちょっ、キリトくんっ、それ、キスじゃ…」

「あ、わるい。つい…」

 

リズとシノンの耳には「いつもの癖で」と言っていないはずのキリトの声が聞こえた気がして、うんざり感がマシマシになる。

うっかり視線をやってしまったのでアスナの耳たぶをキリトの唇が咥えている光景をばっちり目撃してしまい二人は見た時と同じかそれ以上の早さで目を逸らした。

そして逸らした為に互いのしかめっ面がぶつかる。

リズの顔が『もう絶対見ちゃダメよシノン』と語りかけ、シノンは無言で頷いた。

 

『いい加減、扉開きなさいよっ』

 

二人は八つ当たりのように扉があった場所を睨み付け、早く、早くと念じ続けるがその願いも空しく壁は沈黙を守るばかりだ。一体どんなキスならキス認定されるのか、運営を殴りたい衝動を抱えつつ悶々としていると吐息のようなキリトの声が室内に溶ける。

 

「もう、いいよな」

 

リズとシノンが壁同様に黙り込んでいたせいでアスナにだけ向けられた、自分達は聞いたこともない急き焦がれるキリトの囁きを耳が拾ってしまい、ぶわりと全身の毛が逆立った。

 

「っんふぁッ」

 

これまた初めて耳にするアスナが甘く受け入れる声。

部外者二人はもの凄い早さで己の耳を塞ぐ。それはもう渾身の力で。

ただ……分かっていたことだが《現実世界》ならまだしもこの世界では手で耳を押さえつけたところで遮音効果はほとんどない。頭で理解していても悲しいかな、これは本能的な護身行動で……それでも懸命にケットシーの特徴的な耳をなんとかしようと奮闘しているシノンに憐れみを感じてこの時ばかりは妖精種族にレプラコーンを選んで良かった、とリズはちょっとだけ現実逃避をした。

一方シノンの方は自分の耳の処理に大わらわである。

ALOでも飛び道具を主武器に所持したかったからアバターを作る時は九種族の中で最も視力が高く俊敏性に長けているケットシーのほぼ一択だった。猫耳と尻尾はオマケのようなものだが初めてログインした時、全身を見てゆらりと尻尾をなびかせ、ぴこぴこと耳を振って思わず口元を緩めてしまったのは誰にも見られていないはず。

なのに今はその大きな耳のせいで恨めしい状況に陥っていてシノンは何度も閉じようとしてはぴこんっと跳ね返ってくる元気な耳の始末に途方に暮れていた。

結果、普段は二つも年下とは思えないほど落ち着いた物言いのシノンがあたふたとしている姿に同情の笑みを送りながら眺め続けているリズと耳をどうにかしたくて果てなき挑戦を続けているシノン。

二人は気付いていないがお陰ですぐそばで続行されているキスはいつの間にか意識外に追いやられている。

だからさっきまでキリトとのキスに断固拒否を示していたアスナの手が縋るように真っ黒なコートを掴んでいる事やキリトがアスナの両頬をすくい上げるように支え唇を塞いでからかなりの時間が経過している事など不幸中の幸いと言うべきか、二人は全く認識していない。

逆に完全には友人二人の存在を無いものとできずにいるアスナはどうしても漏れ出てしまう声や音を懸命に堪えようとして苦しげに眉根を寄せていて、それに気付いたキリトはちょっと不満げな仄暗い黒を瞳に溶かして更に彼女の咥内を攻めている。

もうこれ以上は……、とコートに縋っている手にすら力が入らなくなってきて、椅子に腰掛けていなければその場に崩れ落ちていただろうアスナが限界を迎えそうになった時、全く何事もなかったかのようにシュンッと涼しげなSEが響いた。

 

「開いた!」

「開いた!」

 

バッと立ち上がったリズとシノンの声が完全に重なる。

キリトは「おっと」と力尽きて落ちるアスナの両手を掴んだ。見下ろせば《仮想世界》ではほぼあり得ない酸欠状態と脱力感から薄桃色の唇は誘うように開いたまま浅い呼吸を繰り返しているし、はしばみ色の瞳には今にも零れんばかりの涙が溜まっている。当然、小さな顔全体は美味しそうに熟れていてキリトは自分が暴走した自覚を蹴飛ばして未だ収まらない飢えにゴクリと喉を鳴らした。

 

「あー…、ごめん、アスナ」

 

何に対しての謝罪なのか、ぼんやりと聞き取った言葉の意味を咀嚼する前にアスナの手を離したキリトはそのまま彼女の頭ごと腹に抱え込む。

ちょうどその時、出口の扉に向かっていたリズとシノンが振り返った。

 

「ほらっ、アスナもキリトも、早く来なさいよっ」

 

待ちに待った扉の出現にこれまでの不機嫌など、終わりよければすべてよしの笑顔でリズが手招きする。

ところが椅子に座ったまま目の前のキリトに頭から寄りかかっているアスナは無防備ともとれるほどクタクタで、その表情すらキリトの腕に阻まれて見ることは叶わない。

すぐに足を止めたシノンは鋭い視線をキリトに放った。

 

「どうしたの?」

「悪いけど先に行っててくれ。アスナは、その、今、…動けないから」

「えっ?!、ちょっと、大丈夫なの?!」

 

慌てて引き返そうとしてくる二人にキリトはまるで宝物を取られまいとするようにぎゅっ、と腕の中に閉じ込め、もう一度「先に行ってくれ、すぐに追いつく」と少し早口で声を投げる。

クエストクリアに時間がないのは事実。それでもアスナを置いて行くなんて、と抵抗感に益々表情を固くするシノンの腕をリズがそっと掴んだ。

 

「わかったわ、キリト……行きましょ、シノン」

「リズ」

「出来るだけ早く追いついてよねっ」

 

終盤とは言えクリアまで気は抜けない。ここで戦力が半分になれば折角扉が開いたのにクエスト失敗も十分にあり得るのだ。キリトも、そして当然アスナも分かっているはずだから今は言い合いを続けるより自分達だけでも先を目指した方がいい、とキリトとアスナに関してはシノンより扱いを心得ているリズが少々強引に腕を引っ張り向きを変えさせる。そして「無駄よ、シノン」と前に足を進めながら小声で諭した。

 

「どういう事?」

「多分、今のアスナ、私達が見た事ない顔になってるから」

「そ、そ、それって…」

 

察しの良いシノンの頬がほんのり赤らむ。

 

「そ、キリトのやつが他の誰にも見せたくないって目でこっちを威嚇してたでしょ?」

「同性の私達にまで?!……それってどうなの?!」

「全くよね。でもアスナが動けないってのもホントでしょうから今回は仕方ないわ」

 

でなければアスナなら意地でも「大丈夫よっ」とキリトの抱擁を振り切ったはずだ。

ずんずん、とシノンの腕を離さないまま部屋を出たリズは、ふぅっ、と安堵と言うよりやるせない溜め息をつく。旧SAOでは《閃光》、ALOでは《バーサクヒーラー》の二つ名を持つ親友が動けなくなるって一体どんなっ……と、荒ぶりそうになる感情をその息と一緒に吐き出した。これは考えたり想像したりしちゃいけないやつだ。

しかし冷静さを取り戻しかけたリズのすぐ隣から怒気を孕んだような低い声がする。

 

「で、結局この部屋の指示のキスってチークキスなんかじゃ全然ダメって事よね」

「……そうね」

「しかも軽い口づけ程度でもダメで……」

「……ね、えげつない内容だったでしょ」

 

多分、だが、濃厚なやつを一分以上は続けないと認定されなかったのだろう。

 

「こんなのクリアできるパーティーやプレイヤーがどれだけいると思ってるのよっ!!」

 

シノンが両手を振り上げた拍子に手を離したリズはそのまま、どうどう、と宥めるように手の平を彼女に向けて……

 

シュンッ

 

「えっ?!」

「はっ?!」

 

振り返って今出てきたばかりの扉が閉まった事に茫然とする。

 

「ウソでしょ……」

「これじゃあ中にいる二人は……」

 

きっとキリトも驚いているに違いない。アスナはあの様子では気付いていないかもしれないが。

でも……とリズは考えた。あの二人なら何の問題もなく指示をクリアできるわけだし……とフムフム頷いてピタリ、と止まる。

それでまたアスナが動けなくなったら?

扉が開いても二人が出る前に再び閉じてしまったら?

ああ、でもこの手の部屋はお題が毎回ランダム生成されるケースが多いっていうし……うん、あの二人ならどうにかするでしょっ、と気持ちを切り替えたリズは決意を胸にシノンへ至極真面目な顔で宣言する。

 

「このクエスト、残りは私達二人で踏破するつもりで行くわよ」

 

その言葉にシノンが珍しくも「ええぇぇ…」と戸惑いで一杯になった頃、奇しくも扉の内側でもアスナが同じような顔になっていた。

それは無情にも扉が閉まったほんの後、キリトに寄りかかっていた顔をなんとか上げて「もうっ」とお小言モードに入ったアスナはぷんすかと訴えた。「なんで……」「どうして……」と。ちなみにその間もずっとキリトはアスナの頭と背に腕をまわしたまま支え続けていたわけだが、そのあたりは全く気にならないらしい。

 

「でもさアスナ、結局あれくらい本気でやらないと扉、開かなかっただろ?」

 

それを言われてしまっては口を噤むしかない。

多分手加減をしたら合格認定はでないシステムなのだろう。と言う事は、だ……普段の自分達の触れ合い度合いを見透かされているようで、それはそれで居たたまれないものがある。

 

「でもでも、リズ達が傍にいたんだよっ」

「なら、今は二人きりなわけだし、今度は…いいよな?」

 

そう、扉は再び閉まってしまったのだ。ただし今度は室内にはキリトとアスナの二人しかいないし初めから正解が分かっているからさっきみたいな手探りの手順は踏まなくていいはず、とキリトが確認と取ろうとした時、やはり前回と同じ場所に文字が浮かび上がる。

 

『デュエルをしないとこの部屋からは出られません』

 

支援回復職や生産職がメインのパーティーなら泥仕合と化しそうな指示に面食らった二人だが、それも一瞬でアスナの瞳にきらりんっ、とヤル気が宿った。どうやらこの部屋の指示はランダム生成、デュエルなら今まで何度もキリトと行っている。いくら二人きりとは言えキスよりはよほどハードルが低いお題だ。

いつもは《初撃決着モード》をチョイスするが、自分達だとなかなか最初の一撃がヒットせず結局HPが半減するまで続くので……と、そこまで思い出したアスナが「ええぇぇ……」と絶望的な声をだした。

どちらかのHPが半減するにはいつも優に三十分以上はかかっているからだ。かと言って手加減をすれば認定されない可能性が高い。

指示を受諾しない方が早く部屋から出られると気付いたアスナが項垂れていると、そのおとがいをキリトの手がくっ、と持ち上げる。

てっきり同じ指示が提示されると思っていたのかキリトの瞳の熱はいまだ冷めておらず、それが非捕食者を捕らえたように三日月形に細まっていた。

 

「じゃあこの部屋であと三十分……」

 

キリトと二人きり……きっと時間なんて気にする余裕はなくなるだろうことだけはわかっていて、アスナはさっきの続きを請われるままいつものように目を閉じたのだった。




お読みいただき有り難うございました。
「ウラ話」は後日まとめます。
だってもうあと数日で《ユナイタル・リングⅦ》発売ですからっ
記念投稿したいっ……ちょっと遅れても(!?汗)
別枠(別世界観)の短編の続きを投稿しますっ
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