ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

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お久しぶりですっ(すみません)
なんとか三月投稿間に合いました?(すみません)
やった、ギリセーフだっ、とか思ってます(すみません)




譫言(うわごと)

桐ヶ谷家の直葉の私室。ベッド横に敷いているラグに座りパジャマにカーディガンを羽織った姿の直葉は病欠で学校を休んだとは思えないほどの笑顔で「わざわざアリガトっ」と友人からプリントを受け取った。

 

「……元気そうだね」

「うんっ、今朝は熱もほとんど下がってたんだけどね。まだちょっとだるかったし。だからさっきまで寝て、今はすっかり元気っ」

 

別に病気で苦しんでいる姿を見たいわけではないのだが、こうも眩しい笑顔を見せられると「ソウナンダー、ヨカッタネー」とつい平坦な感想になってしまった直葉のクラスメイトは背後に響いたコンッ、コンッという叩扉の音に振り返る。

「どうぞー」とまたもや直葉の軽い応答の声の後、ガチャッとドアを開けて入って来たのは今日初めてその存在を知った直葉の兄だ。

兄と言ってもそれほど歳は離れていないのだろう、未だ少年のような線の細さが残る体格で妹と同じ真っ黒な髪、ただ、その少し長めの前髪から覗く新月の夜のような深く静かな黒瞳に軽く心臓が跳ねる。

先程この友人が桐ヶ谷家を訪れた時、一番最初に応対したのが和人だったが、予めメールで友人の来訪を知っていた直葉がすぐに二階から降りてきたた為「お邪魔します」と頭を下げただけで言葉は交わさぬまま今に至っていた。

 

「お茶でよかったかな?」

 

笑顔……とは言えないが、伺うような表情に『気を遣ってもらってるっ』と気付いた彼女はすぐさま「ありがとうございますっ」と背筋を伸ばして答えた。

 

「スグは昼飯まだだから、けんちんうどん持って来た」

「ありがと、お兄ちゃん。ずっと寝てたからお腹ペコペコだったんだ」

 

和人がスッと腰を落としてテーブルに置いたお盆には来客用と思われる綺麗な絵柄の湯飲み茶碗と丼茶碗が並んで湯気を立てている。

そこで彼女は『あれ?』と思った。

自分達が通う学校は明後日から定期考査に入るので今日から部活動もなく午前授業のみのカリキュラムになっている。

だからこうやって日も高いうちから病欠の友人宅まで届け物をしに来ているわけだが……友人の兄はなぜこの時間に家に居るのだろう?

まさか妹が病気で学校を休んでいるから看病の為に自分も在宅してるとか?……と勝手に想像して『なんていいお兄ちゃんなのっ』と両手を組み合わせて祈りを捧げそうになったところで『待って、待って』とブレーキをかける。

妹の体調に関係なくずっと家に籠もっている十代男子だって珍しくない。

これはデリケートな話題なのかもしれない……安易に聞くわけには……

 

「お兄ちゃんが定期考査で早く帰って来てくれてよかったぁ」

「……スグちゃん、私今色々ぐるぐる考えてたのに……」

「なにを?」

「もういいよっ。お兄さんもテスト期間中だったんだ」

「そうなの。だから熱を出して寝込んだ私のご飯の支度とか当番制の掃除もやってもらってるんだ。でも……明日でおわりだっけ?」

「ああ」

「いいなぁ。こっちも早く終わんないかなぁ」

「私達の学校はまだ始まってもいないけどね」

 

そこで彼女は再び『あれ?』と思った。

それなら直葉の言う通り彼女の兄は帰宅してそれほど経っていないのだろう。それなのに食事を摂っていない妹の為にパパッとけんちんうどんを作れるなんて……『もしかして料理上手なお兄ちゃんなのっ?』と尊敬の眼差しを送ろうとした時、またもや純真無垢な喜びの声が隣から発せられる。

 

「これ、冷凍してあったアスナさんのけんちん汁だよね?、いい匂いー」

 

その発言に合わせたように食欲をそそる出汁と醤油の香りが漂ってきた。

 

「アスナにスグが風邪で学校休んで寝てるって言ったら、めんつゆを少し足して解凍したうどん入れるといいって」

 

察するにお兄さんは冷凍のけんちん汁とうどんを温め、めんつゆちょい足しして丼に入れただけですね、と友人からの眼差しは幾分温度の下がったものになってしまったが、それでもテスト中にも関わらず世話を焼いてくれるのだから妹思いの兄には違いない。

 

「アスナさんにもお礼言っといてね」

「実は今、端末繋がってる。話すか?」

 

机にお茶と丼が乗ったお盆を置くと和人はポケットから自身の携帯端末を取り出した。

オープン通話モードにして直葉に渡せばすぐに『直葉ちゃん、大丈夫?』と気遣いの声がスピーカーから飛び出してくる。

 

「ありがとうございます、アスナさん。熱も落ち着いたので明日は学校行かれそうです」

『よかった。食欲はどう?、キリトくんにけんちん汁をアレンジしてもらったけど…』

「はいっ。とっても美味しそうな具だくさんうどんになってます」

 

ゴボウに大根、人参、ネギ、キノコに里芋、油揚げの入ったこのうどんも、どうやら器に入れて完成するまでアスナの監修が入っていたようだ。

 

『ゆっくり食べてね』

「アスナさんも定期考査中なのにすみませんでした」

『気にしないで。直葉ちゃんも早く風邪を治してテストがんばって』

 

「あははー、それじゃあ、また今度ALOで……」とわざとらしい笑いと心なしか気落ちした声で尻つぼみに会話を終えた直葉から端末を受け取った和人は「ちょっと待っててくれ」と小声で明日奈に伝えてから立ち上がる。

 

「そじゃあ…スグがこんなだから、ごゆっくり、とは言えないけど……」

 

またもや申し訳なさそうな表情に再び『気を遣ってもらってるっ』と直葉の友人の背筋がピンッと伸びた。

 

「はいっ。プリントを届けに来ただけですからっ。この教科、未だに紙で課題を出す先生なんでっ」

「そうなんだ。悪かったな、わざわざ……スグ、今度ちゃんとお礼しろよ」

「わかってるよ。私はお兄ちゃんと違って『精神的に』じゃなくて、ちゃんとケーキとか奢るもん」

 

「まじ?、やった!」と小さくガッツポーズをしている姿を見てほんの少し和人の口角があがったのに気付いた友人の目が見開かれる。

そのまま部屋を出て行こうとしていた和人は「あ、そうだ。食べ終わったら薬飲むんだぞ」と念を押して扉を閉めた。

 

「はあぁっ、ちょっと緊張した。なんか雰囲気のあるお兄さんだね」

「そう?、人付き合いが得意な方じゃないから初対面のヒトには無愛想なだけだよ」

「そうかなぁ、ちゃんと私にも話しかけてくれたしお茶だって…」

「それくらいはね」

「それにさ、スグちゃんの為にうどんだって作ってくれて……いいお兄さんだぁ」

「ウチは家に両親が不在なの当たり前だからご飯も自分達で作ること多いんだ……でもよかった、アスナさんのアドバイスなかったら、きっとあったかいうどんに卵落としただけになってたかも」

 

まぁ、それでも有り難く食べるけど……と呟いている直葉の隣で友人は先程和人が手渡した携帯を思い出しつつ、持って来てもらったお茶を一口啜る。

 

「あのさ、さっき、ちらっ、と見えたんだけどさ……いや、ごめんっ、正直に言うわ。好奇心に負けてお兄さんの端末画面、めっちゃ頑張って目で追ったっ。んでこれは本当で、一瞬しか覗けなかったんだけど、そのアスナさん?、てヒト?、リアルの通話画面でもアバター使うの?、随分親密そうだったけど…」

「え?、あれ、アバターじゃないよ」

「は?」

「だから、見たまんま。リアルの姿。アバターって勘違いしちゃうくらい綺麗だけどちゃんと実在してるの。それにお料理好きだから時々ウチに来て沢山作り置きしてってくれるんだ。お兄ちゃんと同じ学校に通ってて頭もすごく良いんだよ」

「うそぉ……」

「嘘じゃないって。あっ、持って来てもらったプリント、見てもらえばよかった。あの先生、直前に出した課題の中にテスト問題と同じのいつも一問だけ混ぜてるからアスナさんに山張ってもらいたかったな。前もね、ずばり当ててくれたんだ」

「ええっ、それホント?……ってごめん、お腹空いてるのに、温かいうちに食べて食べて」

 

友に促されて「それじゃ遠慮なく、いただきまーす」と箸を手にした直葉はズルズルッ、とうどんを啜りながら明日奈のスゴさを語ったのだった。

 

 

 

 

 

一方、直葉の部屋から階下に降りてきた和人はリビングに入るやいなや「お待たせ、アスナ」と言いながら端末画面に笑顔を向けソファに腰掛けた。

中学の時の定期考査より実施期間が長いせいで少々気が緩んでいる自覚はあるが、どうせあと一日、明日には終わる。完全にモウオベンキョウシタクナーイモードに突入していて今日は昼からずっと回線を繋いだままだ。

昼食を準備する時に、実は直葉が体調不良で学校を休んで二階で寝てるからアイツの分も用意するんだけど……と打ち明けアドバイスをもらったお陰で病人に食べやすく栄養価の高い一品も提供できた。

 

『直葉ちゃん、声や話し方もしっかりしてて安心したよ』

「本人も言ってたけど、あれなら明日は登校できそうだな」

『私達は明日でテスト終わりだけど、直葉ちゃんはこれからだもんね』

「長かったー」

『……まだ終わってないよ、キリトくん』

「わかってるよ、わかってるけどさ……」

 

優等生気質の明日奈としてはそろそろ通話を終えて明日のテスト対策をしないと、と言いいたいのだろうが、和人の方は「はぁっ」と辛気くさい顔になる。

 

『どうしたの?』

 

端末画面の中で不思議そうに小首をかしげてくる恋人に向かい、無意識に手を伸ばしそうになって、慌ててそれをギュッと握り込んだ。画面を触ったところで無機質で冷たい感触に余計気分は落ち込むだけだ。

今回のテスト期間は週末を挟んでいるせいでほぼ一週間まともに明日奈と触れ合えいない。

同じ選択教科なら教室で会えるものの通常授業の時と違いギリギリまで足掻いている生徒からの質問などで休み時間の彼女はいつも人に囲まれている。唯一確実に二人きりになれるのは昼休みだが、さすがに定期考査期間中、早起きして弁当を作ってもらうのは気が引けるのでテストが終わるまでそれもおあずけだ。

時間割もいつもとは違う為、今日のように二人揃って午前中で終わる日もあるが、校内では一度も顔を合わせていない。

 

「なあ、アスナ。今晩ALOにログインしたりは……」

『お勉強会?』

「じゃなくて……その…」

『今晩はいてあげて』

 

言い回しに理解が追いつかなくてフリーズしていると明日奈から軽い困り笑いで「直葉ちゃん。また熱がぶり返すかもしれないでしょう?」と補足され、そうか、と数回頷きを繰り返した。

これは別に彼女の気遣いに感心したからでもなく、妹の体調を思いやったからでもない。

和人とていつもの様な長時間のログインを想定していたわけではなかったし……ただ「夜中の体調不良」で思い出した声があったからだ。

 

『ごめん…なさい……早く…治して…勉強の遅れ……取り戻すから』

 

端末機越しにかろうじて耳に届いた細い細い消えそうな声。

数ヶ月前の弱々しい明日奈の譫言だ。

熱はないけれど倦怠感があって頭痛がする、と言う彼女にその夜は早めの就寝を促し、そんな日に限って結城家の家人は誰も居ない状況だったので眠るまで互いの携帯端末を音声のみオンにしてそれぞれ自室のベッドに横になったのだが、会話が途切れ小さく「アスナ?」と呼びかけても応答がない事から無事眠りに落ちたんだなと安心した和人が念の為自分が寝落ちするまで端末をそのままの状態にして数分後……最初は少し苦しそうな寝息に起こすべきかこのまま様子を見るべきかと悩んでいた時に携帯端末のマイクが拾ったのが彼女の寝言と言うにはあまりにもいじましい言葉だった。

鋼鉄の城に囚われるまでの明日奈は都内の有名進学校に通う生徒だったわけで、気を緩めてはいけない、努力を怠ってはいけない、現状に甘んじてはいけない、と周囲の期待と自身の為にも常に成績の上位キープを意識していたのだろう。多分、体調管理が出来なかったという当時の類似した記憶の混濁によって漏れた譫言だろうが、病気の時くらい甘えたり弱音を吐いたり出来る存在が身近に必要だと強く感じた出来事でもある。

和人としては、自分の妹は病気になっても勉学の進捗を気にする事は絶対にありえないと思っているが……

 

「そうだな。今晩は部屋にいるよ」

 

だから明日の定期考査が終わって直葉の体調も良くなったら、と続けるのはちょっと余裕なさすぎか、と自重するように意識して口を閉じると、入れ替わって明日奈がモジモジと言葉を零し始める。

 

『でも…ね、あの…テストも、明日で終わり、でしょ…もっ、もちろん直葉ちゃんが元気になったら、なんだけどっ。やっぱり病気の時ってなんとなく不安になるし、そんな時、近くに誰か居てくれるとやっぱり心強いし…』

 

だったらあの時だって端末で繋がってるだけじゃなくてちゃんとアスナの傍に居てやりたかったな、と和人が考えているなど知る由もなく彼女は続けた。

 

『テスト期間なんだから仕方ないの、わかってるけど……もうずっとお弁当も作ってないし……そもそもお昼休みだってキリトくんと一緒にならないし』

「うん」

『でも…直葉ちゃんの具合を優先して欲しいのは絶対なの』

「うん」

 

さすがにここまでじれったい前置きをされれば鈍い自覚のある和人でもぼんやりわかってきて、次第に期待と嬉しさが徐々に膨らんでくる。

 

『明後日から通常授業だから昼食は一緒に食べられるのに……あっ、おかずのリクエトあったら言って。明日の放課後、買い物するから』

「うん」

『ふふっ、あと一日頑張らないとだね』

 

「おぉぅ」とヤル気を微塵も感じさせない返事をしながら頭の中では、スグはこれから定期考査が始まるから帰宅時間も早くなるし、となるとアスナをウチに呼ぶより森の家で会う方が邪魔が入らないか……でも同様にテストが終わったリズやシリカが訪ねてくる可能性も……と、いかに二人きりになれる空間と時間を確保するかに思考は占められている。

 

『だけど…』

「ん?」

『やっぱり、もっと近くで、時間を気にせず…………キリトくんに会いたいなぁ、って』

「うん、オレも会いたいよ、アスナ」

 

本音を言えば今すぐにでも世田谷までバイクを走らせたいくらいだ。

ただ、これで言質はとったのでテスト終了後のスグの体調復活後は……

 

「だからその時は朝までログアウトさせないし、寝かさないなら、覚悟しておいてくれ」

 

その言葉が意味するものを理解した途端、息を呑み顔を真っ赤に茹で上げたのは明日奈だけではなく、直葉の体調を気遣って薬を飲むための水を貰いに来た友人が「すみません、お水もらえますか」と声を掛けるタイミングを完全に見失い、あまつさえ恋人同士の会話を盗み聞くというスリリングな体験をした後、リビングから逃げるようにして、けれど細心の注意を払って無音で階段をあがると「スグちゃんっ、お兄さんが彼女さんと大人な会話してるー」と直葉の部屋へ駆け込むまであとちょっと……。




お読みいただき有り難うございました。
来月は『ユナイタル・リングⅧ』が出るので
その辺りでif世界観設定でUPできるよう
鋭意創作中です……(あと10日の頑張りしだいかと)
なので《かさ、つな》の投稿はありません。
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