ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

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大変大変ご無沙汰しております。
皆様、お変わりありませんか?
こんなに長期期間投稿をサボっていたくせに、私も全く
お変わり無しです。
お変わり無いならもっとちゃんと投稿しろよーっ、て
思いますよね。
私だったら思います。
嗚呼、ちゃんとしたヒトになりたい……
(投稿内容とは全く関係の無い前置きとなってしまいました)



アスナと一緒

三連休明けの帰還者学校の教室内には一種独特のダルい空気感が漂っている。

いつもの週末よりほんの少し長く学校に来なくて良い日々を存分に満喫した場合も結局ダラダラ過ごしただけの場合も、さぁ、またこれからいつもの日常が始まるよ、と校舎に招き入れられた時から……いや、もしかしたら今朝、制服に袖を通した時点で強制的に再起動を促されたような見えない圧を感じてよけいにヤル気を削がれてしまうのかもしない。

そんな教室の片隅の席でぼんやりと窓の外を眺めていた和人の前に珍しくも些か乱暴な音を立ててクラスメイトの佐々井が「聞いてくれよぉっ、カズっ」と現れた。

鞄をどさっ、と和人の前席に置くやいなや椅子をまたいで後ろ向きに座り、背もたれを抱え込むようにして不機嫌面を突き出してくる。

朝の挨拶もなしか、と少々面食らうが、ならやら言いたくてうずうずしている口をこれ以上堰き止めておくのは無理そうだな、と諦め「どうしたんだ?」と短く返した。

 

「昨日、家の近くのコンビニで中学ん時同じクラスだったヤツに偶然会ってさ」

 

話始めた佐々井はその時の状況を思い出したのか、うんざり気に眉を歪ませたので、どうやら嬉しい遭遇ではなかったんだな、と推測しつつウンウンと頭を二回振った。そもそも多少の友情めいた関係だったら「中学ん時の友達」あたりの表現になるだろうから、わざわざ「同じクラスだったヤツ」という文字数の多めの言い方が言葉にはこだわりのある佐々井らしい。

そして幸か不幸か公立の小中学校に通っていれば卒業後も近所でばったり、は避けられない。

これが大学や社会人の年齢になれば地元を離れるケースも珍しくないからそんな偶然も頻繁には起こらないだろうが、黙って佐々井の話を聞いている和人も覚えのあるケースである。

 

『まるで現代版浦島太郎だな』

『それで今でもオンラインゲームやってんの?』

『空調の効いた部屋で金の心配もせず二年間ゲーム三昧だったんだろ』

 

強い悪意は感じないが、自分達と同じ公立中学に通っていた同年代の人間が突然ゲームの世界から二年間も戻って来ず、生還したらしたで受験も免除で高校生活を送っていたら色々と複雑な感情を抱くのは仕方ないと思うようにして、和人だったら「そうだな」と受け流す一択なのだが、自分よりよほどコミュ力の高い佐々井がわざわざ報告してくるならよほどの事を言われたのだろうと次の言葉を待っていると……

 

「いきなり彼女を紹介してきたんだ」

「は?」

「だから『久しぶり』とか『元気だったか』もなく、そいつの腕に抱きついてる女の子を見せびらかすみたいに『俺の彼女』って……なんかもうっ、どうせお前にはいないんだろ、って決めつけたようなひん曲がった笑顔でさぁっ。『ああ、いないよっ、いなくて悪かったな。でもなっ、俺の友達の彼女はめっちゃ綺麗で可愛くて頭良くて性格も良くてスタイルも良くて優しくて料理上手で姫って呼ばれるくらい品もあるんだからなっ』て心の中で言い返してやったさ」

「……それってアスナのことか?」

「当たり前だろっ、そんな女子が俺の周りに二人もいるかよっ」

 

うん、オレの周りにもアスナしかいないな、という意味で和人はウンウン頷く。

だが、なぜ、佐々井の元同クラの彼女への対抗にアスナがでてくるのか、そこはよくわからない。

そしてよくわからないまま佐々井の話は続いた。

 

「自分は勝者だと言わんばかりの唇っ、自慢げに膨らんだ鼻の穴っ、腕に絡まった彼女の手から胸元、首、顔までを舐めるように見る下品な目っ。あーっもーっ、思い出しただけでぞわぞわが止まらないねっ。アイツわざわざ見せびらかすために俺に声かけてきたんだぜっ」

 

まぁ、そうだろうな、と和人も思う。

二年ぶりに見かけて接触してくるヤツはだいたい「物珍しさ」が一番にくる。

要するに珍獣発見って感じだ。

そこを一切触れずド直球に隣にいる、と言うよりそこまで密着しているならもう「ひっついている」状態の恋人の紹介から入るヤツなんて……と考えている頭の隅でチカッとある光景が浮かび上がった。

それは連休二日目の日中の出来事だ。

その日はアスナといつものように都内で待ち合わせて新しく出来た商業施設をブラブラしてから遅めのランチ、その後PCパーツの専門店に付き合ってもらい軽く休憩して川越に移動し食材の買い物をして桐ヶ谷家へ、の流れだったのだが地元の駅前ですれ違ったのが中学の同級生だった。

 

『あれ?、桐ヶ谷?』

 

わざわざ足を止めて振り返り軽く投げるように声を掛けてきてくれたのは、ずば抜けて頭が良いとか、超人的に運動神経が優れているとか、いつも話題豊富に皆の輪の中心にいるとか、そういう目立つヤツではなかったが、「おはようっ」と朝の教室に入ってくれば男女問わず数名の生徒達が当たり前に反応する真面目で誠実な印象のヤツだった。

その誠実さは変わらず、和人の方はすぐに相手の名前が出てこなかった為「ああ」と返事をしただけなのを察したらしく自ら名乗り、大げさに喜んだり逆に茶化したりもしない、まるで普通に卒業以来のクラスメイトに遭遇したように「元気そうだな」と自然に笑ったのだ。

そして当然の如く視線は和人の隣へと移動した。

明日奈も警戒すべき人物ではないと判断したようで微笑みながら小さく頭を上下させている。

そこで一拍の間が空いた。

かつてのSAOでいきなりログハウスに連れ帰ったニシダさんに対し「妻のアスナです」と自己紹介をしたアスナも《現実世界》ではまだその肩書きはない。

ここは当然自分が口を開くべきだろうと考えた和人だったが動かすはずの唇が半開きのまま固まる。

「オレの彼女」「お付き合いしてる人」……改めて考えてみると和人は自ら明日奈を紹介した経験がないのだ。

そもそも学校でも《仮想世界》でもアスナは既に有名人で、加えて和人やキリトとの関係性を示す機会も必要性もなかった。

菊岡には平然と「一応(オレにはアスナと言う)彼女もいることだし」とのたまっていたくせに、だ。

しかしここでも元クラスメイトの気遣いは素晴らしく……

 

『なんか調子よさそうで良かった。彼女のおかげなのかな。じゃ、またな』

 

そう言って手を振りながら去って行ったのである。

和人は出会った時と同様に『ああ』しか出てこなくて、自分も手を振り返そうとしたが既に相手の後ろ姿は雑踏に紛れてしまっていた。

アスナからも『中学が一緒だった人?』と聞かれて『うん』と肯定しただけでもうその話題は終わったのだ。

そこまで思い出して和人はふと考えた。

もしかしてオレの姿は佐々井がコンビニで会った「中学ん時同じクラスだったヤツ」みたいだったのか?、と。

ほんの少しの自覚はある……菊岡にも指摘されたが、アスナと一緒にいると周囲の人間が二度見してきたりわざわざ振り返ってきたり視線を固定されたりはしょっちゅうで、それに優越感を得ていないか?、と問われれば、全くないとは言い切れない……かもしれない。

それが勝手に漏れ出ていたとすれば……別れ際の『調子よさそうで』『彼女のおかげ』の真意は「可愛い彼女連れて調子に乗ってるなぁ」だったのかも、と思えてきてしまい佐々井の声など耳に入らず、和人は悶々と悩み続けた結果、その夜、森の家に呼んでもいないのに集まってきた仲間達に相談したのだった。

 

 

 

 

 

「お前がアスナといる時、ってもなぁ……言わせてもらうのが旧SAO時代からお前らほとんど一緒にいるじゃねぇか。もう見慣れちまってどうも思わねえよ」

「んなっ、ほとんど一緒って事はないだろ」

「二層じゃもうコンビ組んでただろ?」

「暫定的に、な」

「その暫定的がずっと続いてたよな。まぁ、しばらくして別々にはなったが結局攻略会議とかボス部屋攻略で一緒にいたし」

「それは…他のプレイヤーも大勢いたわけだし」

「お前らは気付いてなかったもしれねえけどよ、フロアボス攻略の指揮を執る少数精鋭ギルドのサブリーダーに正面切って意見を衝突させてるヤツなんてお前くらいだったし、そんな水と油みたいなくせに、いざ本番となると二人の動きの連携がハンパねえし、不思議な二人だって首傾げてた奴は何人かいたな」

「そ、それは、互いの戦い方や考え方のクセを知ってたからで……じゃなくてっ、オレが知りたいのはオレの隣にアスナが居る時といない時の違いだって」

 

いい加減キリトで遊ぶのはやめにしないと後でアスナに怒られるわよ、とクラインに目で合図を送ったリズが選手交代とばかりに軽く挙手をして「じゃあさ」とひとつの提案を口にした。

 

 

 

 

 

場所はイグドラシルシティのメインストリート。

NPCを含めもっとも人通りが多く活気に溢れている場所でキリトとアスナから距離を取った仲間達はその様子を露店で物色するふりをしながら観察する。

店員がNPCなので取り敢えず手に取った品物など全く見ずにこちらへ歩いてくる二人ばかり気にしていても怒られないのが幸いだ。

店先で横一列に並んでいるクライン、リズ、リーファの三人は、いちを何気ない風を装ってアスナの隣にいるキリトとその周囲に目を配った。

三人にとっては見慣れた光景だが、通りを歩いている者はアスナに気付くと皆一様に「おっ!」「うわぁ」「はわっ!?」と感情の揺らぎを見せ一定時間視線を固定させている。けれど当の彼女は気にする素振りもなくキリトと共に雑貨屋の店頭にあるポップ看板や軒先に並んでいる品々を楽しそうに眺めていた。

これは今回の趣旨をアスナには一切説明していないので当然なのだが、多少は意識してぎこちなくなるだろうと思っていたキリトも自然体なのが予想外で三人の眉間に皺が寄る。

 

「俺達は一体何を見せられてるんだ?」

「ホントよね。これじゃただののぞきじゃないの」

「《現実世界》でも思いましたけど、お兄ちゃんとアスナさんてよく手をつないでますよね」

 

羨ましさ半分、あとは妹としてずっと見て来た兄である和人のイメージからすこし意外な気がしてリーファの視線は当たり前に繋がれている二人の手に集中していた。

 

「あっ、それね。前にアスナが顔を赤くしながら『最初はね、バフあげたり、もらったりしたんだけど』って言ってたわよ」

「そんなバフの交換方法あったか?」

「私もそう思ったんだけど、それ以上はもにょもにょごにょごにょで誤魔化されたわ」

 

リズもその時は疑問に思ったがキリトとアスナの二人を近くで見続けてきたが故に養われた勘がこれ以上は深追いしても聞かなきゃよかったと後悔する案件であると告げていたので『ふーん』で終わらせたのである。

 

「とにかくっ、キリトに頼まれてこうやって二人を見てるけど、別に自慢げな感じはしないわよねぇ?」

「アスナだってよ、自分を見せびらかすような男の隣なんて歩かねえだろ」

「そうですね。そもそもお兄ちゃん、周りの人達なんてあんまり見てないし……」

 

いちを周囲に気を配ってはいるらしいが、基本アスナと微笑み合い、アスナとのお喋りを楽しみ、アスナに何か言われればウンウンと頷いて、その同意にアスナが喜べば更に口元を緩めている。

数多の羨望の眼に、ふふんっ、と気持ち良さげに優位性をひけらかすような目を細める兆しなど微塵もありはしなかった。

その時、リーファが小さく「あっ!!」と何かに気付いたように目を見開いた。

 

「耳っ、お兄ちゃんの耳がっ!」

 

言われてクラインとリズが顔を突き出し目を凝らす。よくよく見れば真っ黒な短髪の間からのぞいている影妖精のちょっぴりとんがった耳がちいさくピコピコと揺れているではないか。

 

「あれはっ!」

 

クラインが大げさな驚きの表情から転じて真剣味を帯びた顔で「キリの字のやろう……」と口元に手をやり独り言の音量でつぶやく。

 

「本当は無意識に周りの奴らの反応を喜んでやがったのか。あいつはそんなヤツじゃないと思って…」

「バカ言ってないで、よーく見てごらんなさいよ」

 

ペシッとリズに頭をはたかれたクラインが改めてキリトを見るが、やっぱり耳は微かだがご機嫌に揺れ続けている。

 

「耳じゃなくてっ、アスナとキリトの様子を見るのっ」

 

言われたとおり視界を耳からズームアップさせて二人の顔を収めてみれば……

 

商品を見ていたアスナがくるっとキリトを見る……ぴこぴこ

アスナが輝くような笑顔をキリトに向ける……ぴこぴこぴこ

内緒話をするようにアスナが顔を寄せてきて何かを伝える……ぴこぴこぴこぴこ

 

「喜んでるのは間違ってないけど、あれはアスナに対してよ」

「お兄ちゃん絶対自分で気付いてないですよ。アスナさんも多分距離が近すぎて見えてないんだと思います」

 

当然周りにいる妖精達もスプリガンの耳先などに興味を持つ者はおらず、よってこの現象を目撃したのはリズ達だけだった。

ALO内では人気種族でないせいかスプリガンの耳が感情によって動くという情報は聞いたことがないがキャラクター制御に長けているキリトだからこそかもしれない。とにかく本人の懸念事項だった「彼女持ちゆえの無自覚な高慢な態度」というのは杞憂に終わったわけだが……

 

「耳が動いてた、ってお兄ちゃんに伝えます?」

「わざわざ言わなくてもいいわよ」

 

どうせ告げたところでキリトとアスナが二人揃って照れ笑いするのを見せつけられるだけだ。

 

「それよりいつになったらこっちに合流すんだよ」

 

じっくり見たい物があるから先に行ってるので二人でゆっくり来てくれ、と言ったには言ったが「じっくり見たい物」はもう十分見せてもらったし二人きりでのんびりしすぎだろう、とクラインが痺れを切らす。

 

「まさか俺達の存在、忘れてねぇか?」

「クラインさん、さすがにそれはないですよー、ね?、リズさんっ」

 

リーファから軽い苦笑いで「ね?」と振られたリズだったが全く急ぐ気配のない後方の二人をジト目で睨み「ありえるわね」と呟いた。

今回の話を切り出したのはキリトだがイグシティの大通りでの検証を提案したのはリズだ。

アスナに関しては目的すら知らされていないので、ただただ純粋にキリトとのウィンドウショッピングを楽しんでいるし、事の発端であるキリトも完全に通常運転、アスナとのデートモードに入っている。

ここであの二人に割って入るなりこっちに呼び寄せるのは簡単だが、まず確実にキリトが不機嫌になるだろう。

自分から持ちかけてきた事案ではあるが、それはそれ。

それこそ本人に自覚はないようだがいつものメンバーは知っている、アスナの意識が自分以外の者に切り替わった途端見せる一気に温度の下がった表情を。

 

「ここは、各々キリトに『貸しひとつ』ってことにしましょ」

 

そう言いながら自らのウィンドウを出したリズは三人を代表して素早くキーボード入力を行ったのだった。

そして数秒後、キリトの視界の端にインスタントメッセージの着信を知らせるアイコンが点滅する。

アスナに断りを入れ開いてみれば、そこには簡潔に

 

『クラインンはエギルの店で一杯、リーファはいつものファミレスの限定パフェ、私は学食でお昼ご飯デザート付きで一回。検証結果は問題なし。私達は先にログアウトするから後は二人でどうぞごゆっくり!』




お読みいただき有り難うございました。
今更なんですがキリアス話のはずなのにアスナさんの台詞がっ!

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