ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

23 / 150
《かさなる手、つながる想い》を「お気に入って」くださった皆様、
本当に有り難うございます!!!!!
投稿を始めた頃には予想もしていませんでした「100」という数に嬉しさいっぱい、
恐れ多さいっぱい、今後のプレッシャーいっぱいです(笑)
そこで急遽、感謝とお礼の気持ちをめいっぱい詰め込んで【大感謝編】を用意させて
いただきました。

久々、オリキャラの「茅野 聡」君登場です。
明日奈のクラスメイトで彼女と肩を並べるほどの学力を有しています。「かの城」に
囚われた時には既に高校生で起業しており、《現実世界》に復帰後、卒業と同時に
結婚するはずだった恋人と結ばれ一人娘がおります。
(詳しくは第一話『きみの笑顔が……』をご覧下さい)

その茅野聡を巻き込んで、今回は明日奈を自分の腕の中に捕まえようとする和人という、
少し異色の雰囲気でお届けします。



【「お気に入り」100件突破記念大感謝編】超S級な存在

 『結城 明日奈(ユウキ アスナ)』

   姿・形は非常に愛らしく、食用に限らず愛玩用・観賞用としても一級品である。

   また知能も常に高水準を維持しており、ビジネスパートナーはもちろんプライベート

   パートナーの対象としてもきわめて優秀なレベルにある。

   平時は大変穏やかな気性で周囲に対しハイクオリティな癒やしを提供するが、一旦

   攻撃モードに転化した場合、ミリ単位の正確無比な攻撃力を発揮する。

   日常の生活能力においてはインテリアセンスと調理技術に特筆すべき才を持つ。

   以上のように、全てにおいて最高品質の希有な存在だが残念なことに既に所有者が

   決定しており、その溺愛ぶりから所有権を放棄することは生涯ないものと思われる。

 

 

 

 

 

トテテテテッ、と小刻みに近づいてくる足音に気づいて茅野聡が振り返れば、結城明日奈が

校舎のすぐ前の中庭から小走りにこちらへと向かって来ている。

同じクラスの男子生徒二名と渡り廊下を歩いていた彼は一直線に自分の元へとやってくる

彼女を不思議に思いながらも手をあげて声をかけた。

 

「ああ、結城さん。午後の授業、移動教室に変更になったよ」

 

耳まで届いたであろうその言葉には一切反応せず、そのまま自分の胸に飛び込んでくる勢いの

彼女にますます疑問を抱きながらもその様子を観察すれば、片手にはバスケットを握っている。

その振り加減からいって中身は既に消費済みのようだ。

中庭方面からやってきたことを考慮に入れれば、今の今まで昼食をどこの誰と過ごしていたのかは

明白だった。しかし週に数回しかタイミングが合わないらしい貴重な昼休みを想い人と共にして

いたわりには思いっきり不機嫌そうに表情を歪ませている。まず間違いなく原因はその彼氏

なのだろうが……。

 

なんとかは犬も食わない、って言うからなぁ。

 

彼氏側とも多少の面識を持つ茅野にしてみれば、この二人の諍いに関しては「関わった人間が

バカを見る」という実例をいくつも耳にしていたし、目にもしていた。一度などは自分も該当者に

なったくらいだ。

その言葉を証明するかのように彼女の後方からは焦り顔で当の彼氏である桐ヶ谷和人が懸命に後を

追って来ている。

 

「アスナッ」

 

和人が恋人の名を呼んだ途端、明日奈はピクリと肩をすくませて跳ねるように茅野の背中に

回り込んだ。

その行動に驚いたのは茅野だ。

 

「ええっ!?、なにっ?、どうしたの結城さん!」

 

茅野の背後を陣取った明日奈はバスケットを持っていない方の手を茅野の肩に乗せ、そこから

覗き込むようにしてやってきた和人を睨んでいる。

息を切らしながら茅野と対面する位置で立ち止まった和人は呼吸を整えながら手を差し出した。

 

「ったく、走るなって言ってるのに……ほら、おいで、アスナ」

 

まるで野生の小動物を手なずけようとしている仕草に茅野も先刻の驚きを忘れて顔を

引きつらせる。一緒にいた友人達は明日奈が茅野にひっついた時点で無関係を装う英断を

下したようで、事の成り行きを見守ろうと数歩離れた場所で静観を決め込んでいた。

安地に避難した友人達はアテにならないと覚悟を決めたのか、茅野は殊更穏やかに自分の

背中にしがみついている明日奈に声をかける。

 

「えっ……と、結城さん?、桐ヶ谷くんが呼んでるよ」

 

事を穏便に済ませたく、刺激しないように誘ったつもりだが、彼女は「うう〜っ」と唸る

ばかりだ。

だが、自分の後ろに身を隠している彼女は確かに怯える小動物のようだった。

よく見れば不機嫌に寄せた眉の下ではゆらゆらと瞳が揺れている。

 

「どうしたの?、桐ヶ谷くんとケンカでもした?」

 

やっと言葉が通じたのか、明日奈が上目遣いに茅野を見上げ、無言でゆっくりと首を横に

振った。

 

「……なら、何があったの?」

 

とにかく落ち着かせようと優しく声をかけたのだが、その思いは通じず明日奈は一気に声を

荒げる。

 

「だってっ、キリトくんが明日のお出かけ、行かないって!」

「大声を出すなっ、アスナ!」

 

彼女の状態の何を危惧しているのか、和人が再び焦ったように言葉を被せた。しかし自分までも

興奮してはマズイと判断したようで、一気にトーンを落とすと笑みまで浮かべて

幼子(おさなご)に言い聞かせるような口調に変わる。

 

「誰も行かない、とは言ってないよ。明日じゃなくて明後日の日曜にしようって言ってるだけだ」

「お昼ご飯食べるまでは、ちゃんと明日行こうって言ってたのに……」

 

なるほど、それで彼女のご機嫌を損ねたと……そこでようやくひとつ納得してから茅野は考えた。

 

それにしてもこの違和感は何だ?

 

内にたゆたう疑問符をつかもうと思考に意識が集中ている間も明日奈は「理由聞いても教えて

くれないし……」と色々な不満を漏らしている。

その言葉にだんだんと和人の拳が震えだし、ついにはリミッターが切れたのか苛立った声を

発した。

 

「とにかくっ、茅野さんの後ろが出てくるんだ、アスナ」

「やっ!」

 

あまりの即答に和人が固まった。それからジロリと明日奈の盾となっている人物を睨み付ける。

その殺気を伴うような視線に茅野は胸から背中までを細く冷たいものが突き抜けた気がした。

 

「ええっと……久々に命の危機を感じるなぁ。あるはずのない自分のHPバーが急速に目減りして

いくようだよ……確認しておくけど、この件に関して僕は部外者だよね?。たまたまここで

結城さんを見かけただけで、もっと言えば僕は被害者と言っても……」

「茅野さん、アスナを渡してください」

「だから僕が引き留めているわけではないから……結城さんも、お願いだから僕の肩をギュッと

掴むのはやめてくれ。彼の視線で心臓に穴が空きそうだ」

 

その頃には騒ぎを聞きつけた野次馬達が渡り廊下を中心に続々と集まってきている。

「姫をめぐって争う茅野と桐ヶ谷」を期待していたギャラリーは「茅野の背にしがみつきながら

桐ヶ谷を威嚇している小動物のような姫」という構図に戸惑いを見せてはいたものの、普段は

余裕の笑みで何事もこなす茅野と、飄々とした態度で特定の人物以外には無愛想な桐ヶ谷の

二人が明日奈に振り回されて困り切っている姿の新鮮さに加え、何より凛とした佇まいを

封印した保護欲をかき立てる彼女のいとけなさに夢中になっていた。

さすがにギャラリーの多さが気になってきたのか、なんとかこの事態の収拾を計ろうと茅野が

リザインを示すように両手をあげる。

 

「とにかく、前にも言ったけど僕は君達の仲をどうこうする気は全くない……という事を理解して

もらってから、桐ヶ谷くん、僕の肩を掴んでいる結城さんの手に触れてもいいだろうか?」

 

平時ならば何をわざとらしくまどろっこしい言い方を、と反感を買うところだが、今の和人の

表情を見てそれを思う生徒はひとりもいなかった。

誰の目にも明かなほど、和人は自分以外の男に明日奈が密着しているという今の状況に爆発寸前の

形相となっているからだ。

恋人が頼り切っている男に他意がないことを自身になんとか納得させたらしく、ゆっくりと

一回頷くのを確認してから茅野はそっと明日奈の手に触れる。

触れたと同時に「おや?」と思い、すぐさま「なるほど」と納得した。

 

それで、あの違和感だったのか……。

 

違和感の正体と原因に気づけば明日奈と和人のそれぞれの言動理由は氷の溶けるがごとく

すんなりと解せる。

 

「大丈夫だよ桐ヶ谷くん、こういう時の姫君の扱いには多少の心得がある」

 

少し余裕を取り戻してこっそりと和人に頷いた。

それからポンポンと二度明日奈の手を叩いて注意を自分に向けさせると、得意の穏やかな笑みで

彼女に話しかける。

 

「結城さん、最近ちゃんと睡眠とれてる?」

 

突然の問いかけに意表を突かれた明日奈は瞳をパチパチとしばたたかせてから「んんぅー」と

言葉にならない声をだして首を傾げた。

返答を聞く前に今度は明日奈の手の甲を優しく撫でる。

 

「少しだるくない?、さっき走ってたよね。立ってるの、辛いから僕に寄りかかってるんじゃ

ないかな?」

「うー……わかんない」

「考えるの大変?……なら保健室でちょっと休もうか?」

「……いや(嫌)」

「大丈夫。ちゃんと桐ヶ谷くんも一緒だから」

「キリトくんも?」

「そう、結城さんが眠るまで手を握っていてくれると思うよ」

「その通りだよ、アスナ」

 

明日奈が会話に気を取られている間に茅野に手招きされた和人が、いつの間にか彼女のすぐ隣

まで移動していた。茅野の肩にあった明日奈の手を掴むと同時に自分へと引き寄せ、もう

片方の手を彼女の腰に回してから「やっと、つかまえた」と心底安心したように大きく息を

吐き出す。

ぼんやりとした表情で和人を見上げた明日奈は抵抗も見せず、困ったように眉をハの字にして

「少し眠くなっちゃった」と打ち明けた。

それを聞いた和人は掴んでいる彼女の手の甲を自分の頬にぴたりと当て「さっきより上がってる

かも」と呟くと、うまく力の入らない明日奈の身体を気遣いながら「ほら、保健室行こう」と

促した。

それを見た茅野が明日奈のバスケットを見て申し出る。

 

「どうせ教室に戻るところだから、彼女の荷物、持って行ってあげるよ」

「すみません、お願いします……でも、よくわかりましたね。アスナに微熱があるって」

 

すると茅野は和人に顔を近づけて声を潜めた。

 

「娘がね、同じなんだよ。ちょっとの熱でもすぐに手があったかくなるんだ。それに言葉遣いが

いつもの結城さんと違ってただろ。ぼーっとすると頭も舌も回らずにグズりだすトコも

ホント一緒」

 

娘を思い出したのか、少し可笑しそうに笑う茅野を見て、和人も僅かだが表情を和らげる。

 

「昼飯を食べ終わってから手を握ったら暖かかったんでオレもそうだと思ったんです。でも当の

本人は無自覚だし、発熱を教えて明日の外出を取りやめようと言えば絶対アスナは平気だって

言い張ると思ったんで……」

「それで理由を告げずに行かれないと言ったら怒り出したと……」

「まあ、そうです。微熱だったから明日一日休めば明後日は行かれるかもしれないと思ったん

ですが……」

 

そこまで言うと和人は惚けたように焦点の合っていない瞳の明日奈を見つめてから両手で彼女を

支えている為、唯一自由になる頭を寄せておでこで同じく彼女のおでこをグリグリとこすった。

 

「とにかく熱があるくせに走るは、騒ぐは、でもう。挙げ句にオレ以外の男にしがみつくし……

こっちがどれだけ大変な思いをしたかわかってるのか?」

「ふぇっ、痛い、痛い……んっ、んんー、噛んだら痛い……よぅ」

 

されるがままの明日奈だが、おでこから離れた和人が次にほっぺたに甘噛みをし始めると、

さすがにそれは嫌なのか必死に顔をよじっている。

 

「本気で噛んでないだろ……それより、アスナ、オレと出かけたい?」

 

優しく問われれば、明日奈は和人の肩にこてんと頭を預けてたどたどしく返事を口にした。

 

「うん、お出かけ、したい」

「なら今晩は早く寝て、明日は大人しく休むって約束、できるな」

「うう〜」

「アスナ、約束」

「……する」

「ん」

 

満足げに微笑むと和人は熱で淡いバラ色染まっている明日奈の頬へ今度はそっと唇を押し付けた。

一部始終を間近で見ていた茅野が肩をすくめる。

 

「熱のせいでグズって幼児返りしたような結城さんは可愛いね。それにしても桐ヶ谷くんは随分と

大胆になったもんだな」

「こうでもしておかないと、週明けから大変なんですよ」

 

その返答に首を傾げることで内を表せば和人はすぐさま言葉を続けた。

 

「走って逃げるアスナをオレが追いかけているのを目撃されただけで『不仲説』はあっという間に

広まります。こうやって関係が修復した事を見せつけておかないと、アスナを手に入れようとする

男が後を絶たないので」

「なるほど。君も苦労するね。結城さんはS級食材のように希少だから、一口でも囓ってみたいと

思うのが男ってもんだよね」

「……一口だって分け与える気はありません」

「うーん、S級食材を独り占めかぁ。羨ましい気もするけど……一回でもいいから食べてみたいと

思う不埒なバカ共には十分気をつけて」

「わかってます。味見だってさせませんから」

 

和人の肩の上の明日奈は既に目をとじてすっかり身を任せている。熱のせいなのか無防備に開いて

いる口からは微かに荒い息が漏れていた。誘うように開いている僅かな隙間に差し入れたい衝動を

どうにか堪え、入り口の桜色の唇をゆっくりと周囲に知らしめるように味わうだけで収める。

だが、その行為だけでも周囲をどよめかすには十分だった。やりすぎ感をいなめない茅野が和人を

促す。

 

「桐ヶ谷くん、もう十分だろう?……そろそろ保健室に行きなよ」

 

そこまで言ってから思い出したように言葉を足した。

 

「そうだ、ちゃんと結城さんが眠るまで傍に居て手を握ってるんだよ」

 

お節介を承知で告げれば意外そうな目で返される。

 

「まさか、アスナが起きるまでずっと一緒にいます」

 

さも当然の如く口にする言葉に今度は茅野が驚く。

 

「だって、桐ヶ谷くん、授業は?」

「今までの会話、一体何人の人間に知られていると思ってるんですか?、こんな状態のアスナを

一人で保健室に寝かせておいたら保健室に男共が殺到します」

「あー……そっかぁ……そうだね……でも一番結城さんを食べたそうにしてるのはキミだよね、

桐ヶ谷くん」

「食べませんよ、少なくとも熱が下がるまでは」

「……うん、そうしてあげて」

 

疲れたように笑う茅野は明日奈が手にしてたバスケットを受け取ると「じゃあね」と言って

友人達と合流してその場を去った。

やっぱり、あの二人に関わるとロクな事にならない……まさになんとかは犬も食わない、だな

……いや既に彼女自身は桐ヶ谷くんに美味しく食べられちゃってるか……と思いながら。




お読みいただき、有り難うございました。
「お気に入り」に加えてくださった皆さんに捧げます、の気持ちで書き始めたのですが
書き終わってみれば、折角「お気に入り」に加えて下さったのに、皆さんに怒られるのでは
ないだろうか?(冷汗)、という気持ちしかありません(苦笑)
ごめんなさい、少し崩壊させすぎました。
あまりに浮かれてて足を踏み外してしまったかのような内容で……ですが個人的には
ずっと腕の中に閉じ込めておきたいのにチョロチョロと勝手に動き回るアスナに振り回される
キリト、という関係性も美味しいな、と思っています。
次の定期投稿ではちゃんと元に戻っておりますのでご安心ください。
そして全くの偶然ですが、次回も茅野くん登場です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。