ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》 作:ほしな まつり
高校生らしい女子達のおしゃべりから色々と気づかされる事があるのですが……。
放課後……学校の教室に残っている生徒が女子四人だけとなれば、自然と話題は恋バナになる
わけで……。
日直の女生徒が日誌を書いている机の周りにイスを持ち寄った三人は目の前の日誌に几帳面な
文字がスラスラと書き綴られていく光景を見るとはなしに目の端に収めながらも、うち一人の
最近彼氏が出来たという彼女の話を一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてていた。
「それで?……何て言われたの?」
「……俺と、付き合って欲しいって……」
言い放った途端、真っ赤になった頬を両手で隠すように抑えた女生徒は恥ずかしいのと嬉しい
のがごちゃ混ぜになった表情となり、その時の光景を思い出したのか唇をキュッと引き締めた。
「いいなぁ。言われてみたい、その台詞」
「やっぱりちゃんと言葉にしてもらえると嬉しいよね」
「うん。ずっと私からモーションかけてたけど、最後は向こうから言って欲しいもん」
「そうだね。ここ最近はほとんど『付き合ってますー』みたいな雰囲気だったから、私、
とっくに告られてるのかと思ってたよ」
その言葉に照れながらも満面の笑みを浮かべているカップルなりたてホヤホヤの彼女は、ふいに
「あっ」と何かを思い出したように言葉を詰まらせる。
「で、でもね……私が頷いたら、すぐに『キスしていい?』って聞かれて……」
「ええっ」
「うーん、それはまた随分と積極的と言うか、がっついてると言うか」
「へぇぇっ、ちょっと意外。アイツっていきなりそこまで求めてくるヤツだったんだ」
「OKしたの?」
にやつき顔で聞いてきた友人の言葉に今の今まで顔全体を茹で上げさせていた彼女が眉尻を下げ、
力なく首を横に振った。
「だって告白されたのだって初めてなのに……いきなり、そんなの……」
「ああ〜、まあ、そうだよね」
「向こうの気持ちも分からないでもないけどさ。両思いになりました、はいキスしていい
ですか?、はちょっと色々すっ飛ばしてるかも」
「で?、向こうの反応は?」
「すぐに『ごめん』って謝ってくれたんだけど……」
「うん、よかったじゃない。わかってくれたんでしょ?」
「けど、こっちから拒否っちゃったから、次、どうやって……その、キスを……」
「ああ、そっかー。向こうだって、ならいつならいいんだ?、って次のタイミングを図り
かねてるかもね」
「こうなったら、思い切ってこっちから迫っちゃう、とか?」
「えーっ、無理無理……初めてなのにこっちからなんて」
「でも初めてだからこそ、雰囲気でOKを伝えるのとか、かなりハードル高いよ」
「だからね……」
そこで彼女は意を決したように日誌を書き終えようとしている女生徒の名を呼んだ。
「……さんに聞きたいんだけど……」
「えっ?……私!?」
それまで日誌を書く手を止めず、あえて会話に入らず傍聴者を決め込んでいた女生徒は突然
呼びかけられた自分の名前に、驚いて肩を震わせた。
「……さんが告白された時って、どんな感じだったのかなーって」
告白してきた相手の名は言わずともここにいる全員が承知しているらしい。
確かに帰りのHRが終わった後、パラパラと教室から出て行く生徒達を見送って日誌を書き上げて
しまおうと机に座り直した時、同じクラスの女子三人から相談事があると話を持ちかけられた。
日誌を仕上げてからでいい?、と尋ねたら、それまで一緒に雑談をしながら待ってる、と言われて
少しでも早く終わらせようとペンを走らせていたのだが……まさか雑談が本題の導入部分だとは
思ってもみたなかった。
「今までの話、聞いててくれた?」
「うん……聞いてたけど……」
「……さんは《あの世界》からお付き合いが続いてるみたいだから……色々と教えて欲しいなぁ、
って……」
「ええっ!?」
「ああ、確かに。私達より色々知ってそうだもんね」
「うんうん、色々ね……」
色々って……色々って……と、色々な記憶が頭の中を渦巻き始める。
「という事で、まずは最初の告白の言葉から聞きたいな」
「ふぇっ?」
えーっと……えーっと……《アインクラッド》で言ってもらった言葉で『オレと付き合って
下さい』的な意味のよね……えーっと……
『結婚しよう』
ダメダメダメ……それは言えない。
「……ちょっと、それは、内緒ってことじゃ……ダメ?」
「そう言われるとますます気になっちゃうとこだけど」
「まあまあ、大事な言葉だもんね。自分だけの秘密にしておきたいものわかるよ」
「なら、告白されてからキスするまで、どのくらいデートした?」
「あ……うう……」
言葉より先にキスしました……も……言えない。
「う……ん……割とすぐだったような……気が……」
「そっかー、そうなんだぁ」
「ふぅぅぅん」
「へぇぇぇっ」
「やっぱり最初は『キスしていい?』とか聞いてくるタイプ?」
「うっ……」
いきなり奪われちゃった……かも。
羞恥と困窮が相まって頬を染めながらも瞳には涙が溜まってくる。
もうこれ以上は……と思い始めたちょうどその時、教室のドアを開ける音と共に待ち人の声が
した。
「お待たせ、アスナ。日誌、書き終わったか?」
救世主の登場にホッと明日奈の気が緩む。
かたや周囲の女生徒三名は「きゃぁっ」と悲鳴にも似た喜色を帯びた声を上げると、いそいそと
立ち上がった。
「姫の王子様登場だね。今の話の続きは今度また」
「ありがとね、結城さん」
「じゃあ、また明日ね」
口々に明日奈に声をかけながらイスの位置を戻しカバンを手にした三人はクスクスと含み笑いを
しながら明日奈を迎えに来た和人の横を通り過ぎていく。
その様子を首を傾げつつ見送った和人は未だ立ち上がろうとしない恋人の元へ向かうべく教室に
足を踏み入れた。
近づいてみれば明日奈はうっすらと瞳に涙を湛えて何かを強請るような視線を向けている。
「ごめん、オレなんかタイミング悪かった?」
そう問いかけても返事は返ってこない。
机の上に広げられている日誌に目を落とせば明日奈らしく記入欄は丁寧な文字でほぼ隙間なく
埋めつくされていた。
明日奈の前席のイスの背もたれを掴み、跨がるように腰を降ろして愛しい恋人の顔を覗き込めば
涙を堪えているのか、はたまた言いたい事があるのか、微かに唇を震わせている。
震えを止めてやりたくて、一瞬廊下に視線を巡らせた後、和人は身体を伸ばしてチュッとその
唇を自分のそれで包んだ。
すぐさま離れて再び問うように「ん?」と視線を送れば、それがきっかけとなったのか、明日奈の
唇がゆっくりと開いて今度は震えた声がこぼれ落ちる。
「い……つも、そうやって、いきなり……」
何の事を言っているのか皆目見当がつかず「んん?」と眉間に皺を寄せると、今度は少々
涙まじりの声が弱々しく吐き出された。
「キス……して、いい……かって、聞かれたこと、ない……」
「はっ?」
「だから、いつも、いきなり……で……」
「んなの……今更な……」
いきなり、という単語に少々引っかかりは感じるが、《あの世界》を含めれば今まで何度唇を
重ねてきたのか、と思い和人は明日奈の言葉に唖然とした。しかも唇以外も重ね合わせている
間柄で「何を今更」の言葉しか出てこない。
だいたい嫌がる明日奈の唇を無理矢理に力ずくで、というのは自分の記憶の中では一回もして
いないつもりだし、とそこまで考えて、正真正銘初めての口づけは多少そんな感じだったかも、と
思い至り、知らずに「うーむ」と考え込む。
それでも森の家のデッキチェアで二人並んで座っている時など、自分の傍らでまどろんでいた
彼女が目を覚ましてすぐに未だ夢うつつの表情で請うように顔をあげてくれば自然とその唇に
吸い寄せられてしまうのは仕方のないことだし、と自らを擁護した。
「それは……アスナだから」
和人からの言葉に全く意味がわからない、といった表情で返してくる明日奈を見つめながら、腰を
浮かして片手を机につき、もう片方の手で細いおとがいを捕らえると啄むように何回も桜色の唇の
感触を味わう。
「んっ……」
「そんなの、聞いてられない」
「んんっ……」
「こんなに美味しそうなのに」
「ふっ……ん」
「それに、オレがしたいって思った時は、アスナも同じだってわかってるし」
一旦離れて「だろ?」と当然といった風で薄く笑いかければ、堪えきれずに流れ落ちた涙を手の
甲で拭いながら、それでも納得できないと言いたげに顔を上げて薄く開いた唇から囁きのような
言葉を紡ぐ。
「あと……」
「あと?」
「《アインクラッド》で、付き合って欲しい、とか……言ってもらえなかった……し」
「う゛……それは……」
一転して怯んだように顔を引きつらせた和人は困り笑いをしながら頬をポリポリと掻いた。
「対人スキルの低いオレに、それを求めマスか?」
未だ目を赤くしたままこくん、と頷いてから、顔全体を朱に染め上げて期待に満ちた瞳で見つめ
られると、求められているものとは違うところでゴクリと喉が鳴る。
思わず立ち上がり、机を回り込んで明日奈の目の前までやってくると後頭部と顎を同時に
捕らえて、すぐさま腰を屈めた。
「ああ、ホントにもう……」
「んんっ」
「我慢とか、無理だろ」
「んぅっ……」
「オレを困らせて、そんなに楽しい?」
「んーっ」
「声、抑えてアスナ」
「はぁっ、はぁっ……キリトくんが……キスするから……だよぅ……っ……」
「……だって、まだキスして欲しいって、顔、してる」
「してなっ……んんーっ」
噛みつかれるように強く唇を押し付けられ、拒む間さえ与えてもらえず咥内に侵入してきた
和人の舌が歯列をねぶるように巡ってから更に奥へと明日奈を求める。為す術もなく怯えるように
息を潜めていた彼女の舌を探り当てると嵐のような勢いは急速に鎮まり、一転してそっと優しく
撫で始めた。
何度も……何度も……あやされるようにゆっくりと触れられると縮こまっていた舌の緊張も解け、
同時にキツく瞑っていた瞼をこっそりと開いてみれば、目の前には愛しさを湛えた漆黒の瞳が薄く
自分を見つめている。その眼差しにほっと力が抜け、再びゆっくりと瞼を閉じると和人の目は
満足そうに弧を描いた。
と同時に単調だった舌の動きに変化が現れる。
誘うようにツンツンと舌先をつつかれ、それに戸惑っていると少し強引に舌が絡みつきキュッと
吸われた。解放された後のジンジンとした痺れが身体のすみずみにまで徐々に伝染していき、
ふるり、と身を震わせると、それを鎮める仕草でおとがいを捕らえていた二本の指が首筋を這う。
再び舐めるように舌先を刺激されれば、先刻の快感を受けた身は抗うすべを知らず、今度は
すぐさま明日奈の舌がそれに応えた。
咥内をぴちゃ、ぴちゃ、と音を立てて互いの舌が絡み合い、堪えきれないのか縋るように彼女の
手が支えを求めて彷徨う。
片方の手は和人のブレザーを掴んだが、もう片方の手はそこにたどり着く前に首筋を伝っていた
和人の手に絡め取られてしまった。
いつもベッドの上で抑え込まれる時と同じように交互に指が絡み合い、痛いほどにグッと
握られる。
「……っ、アスナがすぐ傍にいてくれるだけで、オレがどんな気持ちになるか、知らないくせに」
「っン……ぁっ……」
「姿を見て、声を聴いて、匂いを嗅いだら……」
息苦しさと羞恥で既に明日奈の理性はとんでいた。酸素を求めているのか、はたまた愛しい存在を
求めているのか、瞳を薄く開け蕩けた表情でふらり、と力を失って上気しきった顔が倒れ込めば
当然の如く和人がそれを受け止める。
「言葉にしている時間なんてない」
「ふぅ……んんっ」
「抑えられない……あふれてきて……」
最後に後頭部にあてた手に力を込めて殊更きつく唇を押し付け彼女の内(なか)の弱い部分を
何度も何度も擦りあげた。ブレザーを掴んでいる手も絡ませている指もふるふると震え、それが
腕を伝わり両肩にまで及ぶと強すぎる刺激に一瞬、意識が飛んだようでくらり、と明日奈が和人の
腕の中に崩れ落ちる。
それを優しく抱き止めて腕の中の彼女の瞳から流れ落ちた涙に口づけを落とし、そっと耳元で
囁いた。
「だから、こぼれてしまう前に……こうやって口伝え……するしかないだろ」
意識のない彼女に言っても伝わらない言葉を仕方なさそうに笑いながら口にする和人は、明日奈が
目覚めた時の顔を想像してくすり、と笑う。
意識を飛ばした自分を恥じて涙を湛えながら俯くだろうか、それとも恥ずかしさから顔を真っ赤に
して口をばくぱくさせるか、教室という場所を気にして怒るかもしれない……もしかしたら返事を
聞きそびれたと言ってもう一度同じお願いをしてくるかもしれないな……しかしどのパターンでも
返す行動はいつもと同じ、ひとつしかないのだと思い、再び溢れそうな想いを胸に押しとどめ
彼女を抱きしめている腕に力をこめた。
お読みいただき、有り難うございました。
この二人のなれそめ、あの環境下だったから、という部分を差し引いても色々と
ぶっ飛ばしてますよね?……と常々思っていたので(笑)
キリトに至っては言葉によるコミュニケーションは多少苦手なのかもしれませんが、
それを補って余りある行動力が十分、備わっていますし。
この人、疼いたら即行動でしょ、と(なんせ反則級の反応速度の持ち主ですからね)
とにかくアスナに触れたがる、堪え性のない一面を持つキリトでした。
では、次はまた5日後の定期投稿で。