ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》 作:ほしな まつり
休日の午後、都内の大型ショッピングセンター内は人で溢れかえっていた。
コートが必需品となってきた季節柄、普通の買い物目的とは別に親密な人への贈り物を探して
いる様子の客も少なくなく、店側もそういったニーズに合わせた品揃えとディスプレイを前面に
押し出している。
服飾関係のテナントが充実している階層で、高校生とおぼしき男女のカップルが女性物の小物
コーナーの前で肩を並べ、何やら思案顔となっていた。
「悪いな、リズ。付き合ってもらって」
「別にいいわよ。ここのスイーツをリクエストしたのは私なんだし。奢ってもらったついで
だから」
常日頃、私服と言えば黒ベースでコーディネートしてくる和人の隣は毎回その彼氏の目は
もちろん、周囲の視線さえ眼福だと思わせる容姿を持った明日奈がセンスの良い出で立ちで
寄り添っているはずなのに、今日に限り、その位置には里香がいる。
とは言っても明日奈と一緒の時のように肩をぴたりと寄せ合って、手を握っているわけでは
ない。現実空間のほどよい距離感は同様に心の距離感を表しているかのようだ。
それでも里香と一緒でなければ踏み入れる勇気は出なかっただろう店内は和人以外ほぼ
客層は若い女性が占めている。
少し離れた場所に恋人と思われる女性の買い物に付き合っている男性が一人いるだけで、
和人にとってあまり居心地の良い環境とは言いがたかった。
これ以上、女性客が増えるようなら店を変えようか、と思っていたところで隣から里香が
話しかけてくる。
「さっきのお店も混んでたわね」
やはり里香も人の多さが気になっていたのだろう。
益々申し訳なくなって和人が一旦店を出る提案をしようとした時だ、更に里香が言葉を
続ける。
「でも、お客さんが多いって事はお店の品揃えや品質が良い証拠だもの」
なるほど《かの世界》でも店主をしていた里香らしい発想だと思い、和人は柔らかく
微笑んだ。
「確かにな。さっきの店も並んだかいはあったし」
和人の同意に里香は嬉しそうに瞳を輝かせ「見た目も味も評判通りだったわ。今度は明日奈と
来て、今日食べられなかった個数限定のを注文しなくちゃ」と早速次回の来店を決意している。
そう、今日は里香からのリクエストで今いる場所より上階にあるスイーツ専門店に二人で
やって来ていたのだ。
「こうやって奢ってもらえるなら、あんた達二人の痴話喧嘩もたまにはいいわね」
「……あの時は助かりました」
「でしょー。お弁当をわざわざ届けてあげたり、空のお弁当箱をアスナに受け取りに行く
ように言ったり、ほんと、ごねるアスナを説得するの大変だったのよ」
「感謝してます」
「うんうん、アスナからもこの前、お弁当作ってきてもらったしね」
「ええっ!?」
寝耳に水の話に場所も考えず声を上げてしまった和人はいそいで口を閉じ、さらに手の平を
被せた。里香は隣にいる親友の彼氏とは真逆の表情で話を進める。
「だって、喧嘩両成敗って言うじゃない」
「それ、なんか違う気がするけどな」
「それに、お弁当はアスナから言い出したのよ」
「まあ……リズなら、いっか」
「……他の男だったら黙ってないって感じね」
「当たり前だろ」
なんともまあ心の狭い事を、と思いつつ再び商品に視線を戻した和人の顔を里香は
こっそりと観察した。
《仮想世界》に閉じ込められていた二年間、自分と同様に見た目の変化がなかった
「キリト」は《現実世界》に生還した後、数ヶ月で外見も中身も成長を遂げ、「桐ヶ谷
和人」として自分の前に現れた。更に数ヶ月経った今は背も伸び、顔つきも精悍になった
気がする。
何より《あの城》で「攻略」を軸に行動していた彼からその重圧が消えた時、彼の心に
残ったのは同じ重圧を担っていた一人の少女の存在だった。
結果、今、和人の心を支える一番太い軸となっているのは《あの世界》から恋人であり続けて
いる自分の親友なのだ。
ただその二人に何かあった時こそ、離れそうになる二人の手を繋ぎ止める役回りは自分で
ある、と思っている……思ってはいるけれど、本当に自分がいなければ目の前の少年と自分の
親友たる少女の手が完全に離れるなんて事がありえるのだろうか、の疑問もないわけではない。
自分などいなくても二人の問題は二人で解決してしまうのではないか……と思っていた矢先に
事件は起きた。
まあ、一時は周囲も騒然となったがたった一日で、いや正確には放課後に二人で話し合いの
場を設ける手はずまで整えた後、夜には明日奈から仲直りの報告を受けている。
暴言を吐いてしまった後悔と下級生の女子に腕を貸していた和人の姿を思い出す度に
授業中ですら唇を噛んでいた親友が報告をしてくるモニター越しの表情は、それはもう打って
変わって嬉しさと恥じらいを滲ませたもので、要件だけを聞いてさっさと通信を切ったのは
致し方ないことだ。
そんな明日奈が自らお詫びと御礼を兼ねて里香の為にお手製の弁当を持って来てくれたのは
つい先日のこと。
たまに覗き見る和人の弁当とは違って、洋風のメニュー中心で少量ずつのおかずがたくさん
可愛らしく詰め込まれているのを見た時は心の底から面倒を見てよかったと思ったものだ。
そして今日はもう一人の当事者であった和人に「あの時の謝礼はまだなの?」と言って前から
狙っていたスイーツをご馳走になった里香はそのまま和人の買い物に同行している。
「何を買うのか決めてるの?」
目当てのスイーツを食べ終わろうかという頃、時間があればこの後、明日奈へのプレゼント
選びを手伝って欲しいと和人に言われた里香は二つ返事で引き受け、カジュアルファッ
ションのフロアーに移動してきたのだ。
「うん、手袋がいいかな、と」
確かにさっきから和人は手袋の並んでいる棚ばかりを見ている。
これから冬本番という今の時期、素材も色も形も多種多様の商品が並んでいた。
「ふーん、それってクリスマスプレゼント?」
準備をするには少し早い気もするが、最近は購買意欲を煽るためか、本番の一ヶ月半以上も
前から街のあちらこちらでは雰囲気を盛り上げている。
「いや、今年のクリスマスはオレもアスナも、欲しい物は同じなんだ……まあ正確には
クリスマスイブに手に入れる予定になってる物、なんだけど……」
そう言って顔を里香に向けた和人の照れた笑顔は本当に幸せそうで、その表情だけで言わんと
している内容が思い当たり「ああ、そっか」と納得で頷いた。
「《新生アインクラッド》にもあるといいわね」
「ああ、アスナはあるって信じてるからな」
再び《あの城》の二十二層のログハウスを購入する、その為に二人が凄く頑張ってユルドを
貯めている姿を里香はずっと応援してきたのだ。
ならば今回の買い物は……と疑問の表情を浮かべている里香に和人は少し言葉を詰まらせて
応じた。
「て……手……が……最近寒くなってきただろ、アスナの手が冷たいなって思って……で、まあ
日頃、弁当とかの御礼の意味を込めてさ……」
なるほど、と里香の口がへの字に曲がる。
明日奈の手が冷たい、と……どうして知っているかなんて聞くだけ野暮な話だ。
確かにクリスマスまで待ってはいられない、そういう理由ならすぐにでも和人は明日奈に
プレゼントするだろう。
しかしそれなら明日奈の手を握っていればいいではないか、いつものように……と思った時、
更に追い打ちがかかった。
「オレと手を繋いでいる時はいいんだけどな」
曲がった口にくわえて眉間に皺が寄る。
里香の表情など気にも止めず再び視線を手袋に戻した和人の表情は彼女の手の冷たさを思い
出しているのか、手袋を選ぶ瞳に気遣いの色を帯びていた。
言外に和人が手を握ってやれない時用の手袋なのだとわかってしまい、せっかく美味しい
スイーツを食べた後のご機嫌な気分がぼすぼすとヘコまされていいく。
隣の里香の心中を察することなく和人は自分の彼女の親友ならば、と軽く問いを投げかけて
きた。
「リズ、アスナってさ、何色の手袋持ってるんだ?」
聞かれて里香はピクッと眉を跳ね上げる。
和人は明日奈が持っている手袋の色を知らない……それは彼がそういった事に関心が薄い
せいもあるだろうが、何よりは明日奈が和人と一緒にいる時は手袋をしないからだ。
少なくとも片方の手だけは和人から暖を取っている。
明日奈なら繋いでいない方の手だけ手袋をするなんてことはしない。
ええ、ええ、私は知っていますともっ、と勢いをつけて里香は覚えている限りの親友の手袋の
色を並べた。
「一番よく使っているのはファーの付いた落ち着いたブルーグレーね。これは制服と色と
合わせてるんだと思うけど。それ以外は結構濃い色のが多いわよ。コートの色と同系色に
したり、ポイント的に反対色にしてみたり、私が知ってるのはざっくり編んだニットの白と
ノルディック柄の茶、レザーの赤、カシミア生地の緑に黄色と紺のチェック……そんなとこ
かしら」
里香の口から飛び出した色の多さに気圧され気味の和人は「な、なるほど」と言ってから
「さすがアスナだな。ほとんどの色を抑えてるか……」と思案顔に転じる。
そこは「さすが、リズ、よく知ってるな」じゃないのかしら?、と半眼で睨み付けていると
「なら、やっぱりコレかな」と和人がひとつの手袋を手に取った。
その口ぶりからすると既に自身の中ではほぼそれに決めていたらしい。
里香の視線が和人の手へと移る。
そこにあったのは……羊毛100%のタグの付いた温かそうな黒い手袋だった。
黒……それは《あの世界》で二年間を過ごした「キリト」の代名詞とも言える色だ。
明日奈の手を握れない時にと選んだ手袋の色が黒って……これは単に持っていない手袋の色、
というだけの選択ではないだろう。
そうと決まれば長居をしたくないのか、「買ってくる」と言ってレジへと向かう和人の背中を
ぼんやりと見つめながら、残された里香は人目を気にする余裕もなく、大きな溜め息を
ついたのだった。
レジ前で会計をする客の列に並びながら和人はホッと息を吐き出した。
無事にプレゼントの品を決められたからではない、先程の里香とのやりとりを思い出して
いたからだ。
里香からクリスマスプレゼントなのか?、と聞かれ、否定をしたところまでは普通の会話
だったのに理由を説明する段階になって、うっかり言いそうになってしまった……アスナの
手足が冷たいな、と思っていた事を。
ここで「手」だけに言い留まった自分はなかなかの反応処理速度だったと思う。
万が一口を滑らせて「手足」と言ってしまった事が明日奈に知られたら大目玉を食らうことは
必然だったし、当分手足を触れ合わせてくれないかもしれない。
しかし、数日前に触れた明日奈の手足は本当に冷たくて、本人はのんきにも「キリトくん、
あったかい」などと言いつつ下からしがみついてきたが、眉をひそめると寒い時期はいつも
こうなのだと聞いて思わず自分の足を彼女にすり寄せた。
それまで唇や指先で散々明日奈の身体のラインをトレースした為、顔はもちろん上気して
いる全身から彼女の素肌の色香が濃く匂い立っていて、くらくらと酔いそうになっていた
和人だったが、その足先の冷たさに意識は気遣いへと変化する。
「大丈夫なのか?」と聞けば、少し息を荒げたまま「女性は冷え性の人、多いんだよ」と
苦笑気味に告げる明日奈を見て安心できるはずもなく、身近な女性と言えば一つ下の妹だが、
真冬でも離れの道場に行き、裸足で竹刀を振る姿を当たり前に目にしていても和人としては
心配が消える事はなかった。
だからと言ってそれまでの行為を止めることも出来ず、自分の足で彼女の足を挟みこみ
温めながらもその付け根に指を這わす。
優しく刺激を繰り返せば、段々と明日奈の腰が揺らめき、鳴き声も一層高くなって、豊かな
ふたつの膨らみもふるんっ、と震えた。
それを抑え込むように唇で、舌で愛撫をしばらく続けた後、ようやく暖まってきた彼女の
両足の間に自身を割り込ませ、さらなる深みへと押し入ったのである。
あの時までは、繋いでいる手が冷たいな、と時折思うだけだった和人が、気にしてみれば
明日奈の手はいつも冷えているのだとわかって、普段、靴下や靴で覆われている足先よりも、
と手袋を贈ることを思いついたのだ。
レジをすませた和人が急ぎ足で里香の元へと戻ってくる。
のんびりと店内の商品を眺めていた里香はその様子に僅かな疑問を感じたが、目の前まで
やってきた和人の放った第一声に仰天した。
「ごめん、大丈夫だったか?、ラッピングに時間がかかっちゃってさ」
「は?」
言わんとしている事が理解できずに素っ頓狂な声を上げた里香はしげしげと和人を見つめる。
「なに?、大丈夫って……」
「え?、だからさ……あっ……ああ、うん、いいんだ……気にしないでくれ」
逆に己の発言の意味を問われた和人は途中から何かに思い至ったようで、途端に場を誤魔化す
ような言葉で里香から視線を外した。
しかしその思惑を敏感に察知した里香が逃すものか、と詰め寄る。
「すっごく気になるわ」
「いや、何でもないって」
「いきなり『ごめん』っ謝って、『大丈夫だったか』なんて聞いてきたくせに、何でもない
わけないでしょ」
里香の不機嫌な声色と自分の弱気な声のやりとりに周囲の客の目と耳が集まり始めたのを
感じた和人は声を潜めて「とりあえず出よう」と促した。
渋々といった足取りで隣を歩く里香の様子をチラチラ、と確認しながらショッピングモールの
外の広場までやってきた二人は、空いているベンチに腰を降ろす。
陽が落ちればグッと気温が下がる時期だが、今日は天気も良く、陽当たりのいい広場は
のんびりと休日のひとときを家族や友達、恋人と過ごす人達の笑顔で満ちていた。
そこにしかめっ面の少女と弱り切った様子の少年が並んで座っている様はどこか笑いを誘う
ものがあり、どう見ても互いを愛おしむ恋人同士には見えないだろうな、と里香は溜め息を
つく。
すると目の前にスッと温かい缶コーヒーが登場した。
どうやらぼーっ、と広場を見渡している間に和人が買ってきてくれたらしい。
とりあえず「ありがと」と礼を言ってコーヒーを受け取り、両手で包み込むと缶の温かさに
自然と息が抜ける。その姿を横で見ていた和人が話の糸口を探るようにそっと声をかけて
きた。
「その……やっぱり、リズも、手とか冷たいのか?」
すでに過敏になっている聴覚は和人の「手とか」の部分に素早く反応し「とか、って何よ。
手以外のどこを聞きたいわけ」と心中穏やかではなかったが、コーヒーも買ってもらったこと
だし、とそこは胸に納めて素直に言葉を返す。
「そうね。普通だと思うけど……ああ、アスナは私から見ても冷たいわよね」
それこそ学校の休み時間にアスナの手袋コレクションを話のネタにしている時だ、「だって、
手、冷たいんだもん」と可愛くも不満げに言った親友は「ほらっ」と言っていきなり里香の
頬にぺたり、と両手を押し当ててきたのだ。
その冷たさは突然さも加わって「うきゃーっ」と悲鳴をあげるには十分なほどで、目の前で
クスクスと笑う明日奈と目を丸くして自分を見ている教室内のクラスメイトからの視線が
やけに痛かったことを思い出す。
更に今より寒くなれば使い捨てのカイロは必需品になるんでしょうね、と考えていると、
隣から和人がボソリ、と呟いた。
「オレさ……今までアスナ以外とこんな風に出掛けた事ってあんまないから……」
その後、付け足すように「スグとは買い物に行ったりするけど、アイツは、まあ、あんな
感じだろ?」と同意を求めるような視線を送りつつ、またもや何が言いたいのかよく
分からない言葉をつらつらと綴る和人に、今度は里香も辛抱強く付き合う。
「それでさ、アスナと二人で人の多い場所に行った時は、さっきみたいに傍を離れたり
すると……」
そこまで言っておきながら、これ以上を躊躇うように言葉を切った和人へ里香が先を促した。
「離れると?」
「……いつの間にか知らない男に声を掛けられてたり、複数の男に囲まれてたり……」
ああ、なるほど、と里香は納得する。
自分が離れると「連れ」が見知らぬヤローからちょっかいをかけられる、というのが和人の
デフォルトになっているのだ。
だから、レジで時間を食ってしまった和人は足早に里香の元に戻り、自分の不在中の心配を
してくれたというわけなのだが……残念ながら、その気遣いは里香にとって無用の長物で
あるし、逆に引きつった笑いしかでてこない。
多分、和人もそれに気づいたのだろう、だから途中で言葉を変えて、自分の発言をなかった
ものにしたかったに違いない。こと女性に関する考え方や行動において、和人はすっかり
明日奈仕様になってしまっているのだ。
これは辛い……うっかり二人きりで出掛けた日には、常にそこに居ない明日奈の存在を感じ
続ける羽目になってしまうのだから……。
今回の和人との外出は当然明日奈公認とは言え、かなり浮かれていた里香の気分が今は
すっかり萎えてしまっていた。
「……なんか、もう、アンタも明日奈も、色々と大変ね」
「えっ?……そうか?」
心底意外そうな顔を向けられて、里香は「ああ、余計な事を言ったわ」とすぐさま自分の
発言を後悔する。これは外野の感想であって、当の本人達はいつもの事、なのだから。
きっとこれからも和人は明日奈の隣に寄り添い、離れても常に彼女の身を案じ、傍にいられ
ない時は自分の想いで彼女を温めていくのだろう。
和人にもらった缶コーヒーで両手を温めつつ喉を潤していると、同じように隣で缶に口を
つけていた和人が「んっ?」と言うなり飲むのを止めて携帯端末を取り出した。
バイブにしていたのだろう、呼び出し音は聞こえなかったが、画面に表示された発信者の
名を見て途端に相好を崩す。
その反応を見ただけで発信者の見当をつけた里香が確認するように「アスナ?」と聞けば、
端末を操作しながらも和人が嬉しそうに頷いた。
「どうしたんだ?」
明日奈の声は聞こえなかったが、和人の受け答えを聞く限り、火急の用件ではなさそうだ。
「ああ、まだ一緒にいるよ。ちょっと待って」
そう返すなりすぐに音声をスピーカーモードに切り替え、自分と里香の間に端末を持ってくる。
里香が端末に向かって呼びかけた。
「アスナ?」
「リズ、ちゃんとキリトくんにエスコートしてもらってる?」
「あー、今は屋外の広場のベンチに座って缶コーヒーをご馳走になってるわ」
「えっ!、ちょっとキリトくんてば……寒くないの!?」
「えーと、そのぉ……」
「大丈夫よ、日差しが当たって気持ち良いくらい」
「なら、いいけど……とにかくっ、リズの事よろしくね、キリトくん」
「こっちはアンタが心配するような事は何もないから安心して。週明けに学校で詳しく
報告するから」
「ん、わかった」
それから音声を通常モードに戻した和人は二言、三言会話を交わすと通話を切って、困った
ように笑った。
「結局、なんだったんだ?」
「あの子もなんだかんだと心配性なのよね」
「そう……かもな」
何を思いだしたのか、困り笑いが本当の笑顔に変わっている。
それを横目で見ながら缶の中身を飲み干した里香は勢いよく立ち上がり、「じゃ、そろそろ
帰りますか」と言いながら腕を広げて思いっきりのびをした。
数秒遅れて和人が「ああ」と同意を示してベンチから腰を上げる。
夕焼けにはまだ早い陽の光を背に浴びて、二人は駅に向かって歩き出した。
その数日後から明日奈が黒の手袋ばかりを着用するようになった事に気づいた学校の男子
生徒達がグッ、と唇を噛みしめた事など、もちろん和人が知るはずもなく、あてつける
ように男子達が揃って黒い手袋を使い始めた意味にも気づく事はなかった。
お読みいただき、有り難うございました。
はい、すみませんっ、わかってますっ……厳密には「別枠(R−18)」的内容が含まれて
いることは……ですが、ほんの数行なので……見なかったことに……
いえ、読まなかったことに……?
ですがココがないと、イチャ度があまりに低い気がして(苦笑)
キリトとリズのお出かけ話でも私的にはキリアス話なのですが……読んで下さった
皆様はいかがでしょうか?
次回は『贈り物(明日奈編)』をお届けする予定です。