ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》   作:ほしな まつり

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「お気に入り」カウントのキリ番感謝投稿も、はや6回目でございますっ。
1番目のヒトから600番目のヒト、本当にどうも有り難うございます!
今回はいつもより短め軽めの内容となってしまいましたが、「粗品」気分で
受け取っていただけたら幸いです。
読んでいただくにあたり、一作目の「きみの笑顔が……」と
「その先の約束(みらい)」あたりを思い出していただけると、
わかりやすいかと……(苦笑)


【「お気に入り」600件突破記念大大大大大大感謝編】Countdown・10min

『…………ブッ……エ……エマージェンシー、エマージェンシー……部、本部、応答願いっ…す』

 

少々感度の悪い雑音混じりの声だったが、それでも緊迫感は十分に伝わってきて、通信担当の女生徒は素早くマイクのスイッチをオンにした。

 

「こちら本部、どうぞ」

『こ、ちら正門前の……ブッ……一般来……者…………多数……ブッ…………既に……」

「もうっ、ある程度の電波障害は予想してたけどこれ程だなんてっ」

 

苛つきを隠しもせずに吐き出した彼女はそれから、スゥッと息を吸い込むとマイクに向け大音声をぶつけた。

 

「とにかく用件だけ叫んでっ」

 

一瞬の沈黙の後、正門を担当している男子生徒から悲鳴とも取れる声が届く。

 

『「姫」目当ての来校者、多数っ、至急対応せよ!』

 

「校内祭」当日、一般来校者用に設定されている正門の開門時刻まで残りあと十分だった。

 

 

 

 

 

和人や明日奈達が通っている、約二年間を《仮想世界》に囚われていた十代のプレイヤー達の為の通称、帰還者学校……今日はこの学校が『校内祭』と称して一般開放を行う日だ。

和人はクラスの催し物と所属している「ネットワーク研究会」の体験型展示の両方に関わっているが、準備段階ではどちらかと言えば「ネト研」に重きをおいて動いていた。クラスの方は研究会や同好会に属していない生徒が中心でしっかり回っていたし、逆に「ネト研」は今回の『校内祭』において一般客用のデジタルパンフの作成を依頼されていた為、やらなければないない事がてんこ盛りだったからだ。

一方、明日奈の方は半強制的に『校内祭』の実行委員のメンバーとなっていたから準備期間中は一時、和人との仲に亀裂が入りかけるほど多忙を極めていた。

しかしそれも昨日までの話…………既に元の鞘に収まった二人は『校内祭』当日、午前の空き時間を合わせて一緒に校内を回る約束をし、朝から各々の持ち場で準備に追われていたのだが、一般客が来場する時間になって予想外の事態が判明したのだ。

 

「うっわ、拡散スピードがパねーな」

 

実行委員会室にいたスタッフ全員がそれぞれ自分達の携帯端末を取り出して四角い画面を睨みつけている。しかし、その中で一人、今回の『校内祭』用に学校側から支給されたPCを操作している男子生徒が叩きまくっていたキーボードから、ふっ、と両手を離し、諦めたように痺れている十指ごとだらん、と腕を脇に垂らした。

 

「無理だ、このPCと俺の打ち込みじゃ話にならないっ」

「今から『ネト研』に頼んでも……そーだっ、ここにもいたっ」

「佐々っ、お前私物のラップトップ持ち込んでんだろ。この拡散止めろよっ」

「え?、なに、そのムチャぶり。この速度に対応できるヤツなんてカズくらいしかいないっしょ」

「カズって……ああ、桐ヶ谷か」

「今から捕まえて、事情を説明して、対応してもらって…………えぇっ、絶対間に合わない、だって開門まであと八分だよぉ」

 

佐々井を始めとする『校内祭』実行委員会の面々が次々に頭を抱える。

 

「だいたい何で今朝になって爆発的に増殖してるわけっ!?」

「あー、待て待て…、よっしゃーっ、拡散防壁の構築は無理だけど、原因を辿るのは出来たっ」

「えーっと、なになに?……『帰還者学校の開放日、あの「閃光サマ」がバニーガールで登場か!?』だって」

「なんだ、それ」

「どうしてバニーガールなんて単語が出てくんのよっ」

 

旧SAOでアイドル的存在だった「閃光サマ」ことアスナが《現実世界》でも遜色ない容姿を有している事実は入学式直後、瞬く間に生徒達の間に伝わり、そこから更に広範囲に渡って情報が伸びていったわけだが、隠し撮り等の画像に関してはいくらネット上にあげようとも閲覧不可になってしまうという不思議現象が起きていた。結局、数ヶ月経った今ではその現象に抗い、挑戦し続ける者もいなくなり、ようやく落ち着いた現況に安堵の息を吐き出し「お疲れ、ユイ」「はい、パパ」といった会話がこっそりとなされた事は誰も知らない。

それが今回の一般解放でリアルの明日奈との面識や免疫のない来校者が彼女を目当ての一つにする事は容易に想像が出来た。だから明日奈には当日、実行委員室内での仕事が割り振られていたのだが、「バニーガール」などという刺激的な文字がネット上に流れる理由が分からず室内は混乱を極めた。

と、そこで素朴な「あ……」という声がぽとり、と落ちる。

 

「なんだ佐々、なにが『あ』なんだよ」

「なにか妙案でも浮かんだのっ?」

「言えっ、さあ言えっ、すぐに言えっ」

「そう期待されると言いにくいんだけどさ……その『バニーガール』の原因って、もしかしたら…………コレかも」

 

ゴソゴソと机の下に置いてあった段ボール箱から取り出したのはフワフワで真っ白なウサギ耳の付いたカチューシャだ。

 

「それ、って……」

「昨日、納品されたんだよなー、後夜祭で実行委員が付けるウサ耳カチューシャ」

 

今日の『校内祭』最後のイベントである「後夜祭」はグラウンドでの仮装フォークダンスだった。判別しやすいように、と実行委員は全員同じ仮装にする事までは決まっていたが、担当の佐々井がどんな物を用意するのか今の今まで他のスタッフは知らなかったのである。

 

「そのカチューシャがなんでバニーガールに変換されんだよっ」

「俺さ、放課後にこの段ボールを一階の搬入口からここに運ぶまでウキウキで『明日の姫のウサ耳姿、可愛いだろうなあー』って呟き続けちゃったんだよね」

「まさか……?」

「その呟きで……?」

「どっかのアホが結城さんがバニーガール姿になるって勘違いしたってゆーの!?」

「なんて妄想の激しい迷惑人間っ」

「そんで、その迷惑人間が流した妄想を信じた奴らが今、続々と正門前に集まってきてるって事か……」

「とりあえず正門のスタッフを増員してっ。それとバニーガール云々はデマだって説明も……」

「うわっ、あと五分しかないっ」

「えーっ」

「あ、そろそろ校内の最終点検してた茅野君や結城さん、戻って来るんじゃない?」

「じゃあ結城さんにはほとぼりが冷めるまで、この委員会室に隠れていてもらうしかないか……」

「彼女、午前中は折角の自由時間なのに」

「あ、私、代わってもいいよ」

 

実行委員会室にいるメンバー達の話し合いで、とりあえず明日奈は一般来校者が入室禁止のこの部屋への避難が妥当と判断された時だ、それぞれ別行動で校内を見回っていた二人が途中で合流したらしく、すぐそばの廊下から茅野と明日奈の会話が近づいてきた。

 

「やっぱり飲食系の模擬店は衣装が凝ってたなぁ」

「そうだね、同じウェイトレスやウェイターでもクラスによって随分違ってたし」

「僕が見たクラスでは男子もウェイトレス姿に扮してたよ……ああ、アレは『メイド姿』って言うのかな」

 

苦笑を浮かべながらドアを開けた茅野がさりげなく明日奈に先を譲る。

さらり、と髪を揺らしながら入ってきた明日奈に続き茅野が実行委員会室に収まると二人は全員の視線が集中している事に気づいて歩みを止めた。

実行委員長である茅野の「どうしたんだい?」と問う声と重なって、待ち構えていたメンバー達の声が飛んでくる。

 

「はっ、早くっ」

「とにかく結城さんはここに隠れててっ」

「絶対この部屋から出ちゃダメだからねっ」

「あと三分っ」

「ふえぇっっ!?」

 

わけもわからず女子スタッフにグイグイと部屋の奥へ引っ張り込まれる明日奈はすぐ隣にいた佐々井に「どういう事?」と説明を求めた。尋ねられた佐々井は言いづらそうに視線を逸らした後「今、正門前に猟師どもが集まってるんだよ。目当てのウサギが見つからないと暴徒化しそうに興奮状態らしいんだ」とかなり遠回しな言い方で答えると、隠しても無駄と思ったのか混乱の原因を見せる為に携帯端末を取り出し、ふと自分も画面に目をやって「え?」と驚きの声を出す。

 

「拡散が……止まってる」

「ほんとっ!?」

「あ、ホントだっ」

「スゲ……誰がどーやったんだ?」

「しかも別の噂が急速に侵食してるっ」

「なんだって?、『「閃光サマ」がメイド服姿でおもてなし!?』って、こっちもデタラメじゃねーかっ」

「でもさ……」

「うん、メイド姿の生徒だったら……」

「そうだよっ、今日はこの校内に何人もいるんだからすぐにウソだってバレないっ」

 

ワッと喜びに湧いた実行委員の面々を見て今ひとつ事態の全体を把握できていない委員長の茅野だったが時刻を確認して、パンッ、と手を打ち、場を仕切り直した。

 

「なんだかよくわからないけど、問題は解決したみたいだね。さっ、開門の時間だ、みんな『校内祭』スタートだよ」

 

茅野が実行委員会室で号令をかけているまさにその時、「ネト研」が使うパソコンルームの片隅で二つの口元から、ほっ、と息が吐き出されていた。

 

『間に合いました、パパっ。これでママと自由時間を過ごせますねっ』

「ユイのサポートのお陰だよ。それにアスナの噂にも気付いてくれて助かった」

『はい、画像はもちろん、パパとママに関する幾つかの単語も定期的にチェックしてますからっ』

 

耳に装着しているワイヤレスイヤフォンごしでもわかるほど、その声は愛らしく誇らしげだった。




お読みいただき、有り難うございました。
和人はパソコンルームの片隅で取り憑かれたように高速タイピングを
繰り出していたことでしょう……殺気漂うオーラにネト研の仲間も
声がかけられなかったようです。
午前の自由時間、アスナの周囲はSPよろしくファンクラブメンバーが
こっそりガードしますから(苦笑)。
気付いてるキリトは半眼モノでしょうが。
「ウラ話」は今日更新する「活動報告」の「投稿予告」と合併させて
いただきます。
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