ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》 作:ほしな まつり
短編6本をお届けしたいと思います。
まずはシリカ視点から……。
放課後の学校のカフェテリア……リズさんとアスナさんを待っている私の向かいにはなぜかキリトさんが座っていて、テーブルに片肘をつき、そこに顔を乗せてぼんやりと外を眺めている。
……ま、まるで、放課後デートみたいっ、って意識しちゃうと、途端に心臓がドキドキして顔がポカポカして、私は自分を落ち着かせるために下を向いたままこっそり、すーっ、はーっ、深呼吸を繰り返した。結局あまり効果はない気がして、自分の膝にのっている手ばかり見つめていた顔をほんの少しあげ、上目遣いでキリトさんの様子を盗み見る。そうしたらちょっと物憂げな表情から目が離せなくなってしまった。
うわぁ、睫毛…長い…………髪の毛や瞳の色が真っ黒だからすごく目立つなぁ……肌も色も薄いし……前に本人にそう言ったら「いつも家の中にいるから、日に当たらないせいかもな」って困ったように笑って、そしたら横にいたアスナさんが「じゃあ、今度のお出かけは公園でバドミントンでもしよっか?」って提案してた。
当たり前に二人で出掛ける話をしてるのがすごく羨ましくて、きっと顔に出てたんだと思う。すぐにアスナさんが「どうせなら皆で行く?」って誘ってくれて「行きたいですっ」って返事をしたら優しく頷いてくれたキリトさん。
アインクラッドの三十五層で出会った頃は私の事を妹みたいって言ってたけど、昨日の夜、幼馴染みの女の子達四人で話してたら、その中の一人が部活の先輩とお付き合いする事になったって報告してくれた。その子も最初は先輩から「後輩のお前なんて妹みたいなもんだろ」ってからかわれていたらしいけど、彼女が同じクラスの男子生徒から告白されたって聞いて、自分の本当の気持ちに気付いたみたい。
そんな話を聞いたら、もしかしたら私も、って、諦めきれない想いが胸の中でいっぱいになって、そしたら早速翌日には放課後にキリトさんと二人きりだなんてっ、こんな偶然っ、どうしたらいいのか嬉しいのと困ったのがゴチャゴチャになってる。
キリトさんは相変わらず外を見ながら手にしていた耐熱カップの中身をゴクリ、と一口飲んだ後「アスナ達、遅いな」って私に話しかけてくれた。
「そ、そうですか?」
選択している講義数が違うから今日は一コマ分の差があるのはわかってたし…それに私としては、もっとずっと二人でいたい。
「三人で買い物に行くんだろ?」
買い物を楽しむ時間が短くなる事を心配してくれる言葉も嬉しいけど、やっぱり私にはこっちの時間の方がずっと貴重で、心の中で「もうちょっとだけっ」って祈るように膝の上の両手を握りしめた時、カフェテリアの入り口から「シリカーっ」ってリズさんの声が飛んできた。
パタパタと元気良くこっちにやってくるリズさんの後ろで優しげな微笑みのアスナさんの長い髪がふわり、と揺れている。
私の目の前まで到着した二人はキリトさんの存在に驚いて目を丸くした。
「どーしてアンタまでいんのよ、キリト」
「最後の授業、休講になったんだよ。コーヒーでも飲んでから帰ろうと思ったら、ぽつんとしてるシリカを見つけてさ」
「あのっ、私はいいって言ったんですけど、キリトさんが、リズさん達が来るまで一緒に居てくれるって」
あわあわと説明する私にアスナさんの眉がハの字に下がる。
「校内とは言え中等部の女の子が放課後、カフェテリアに一人は心細かったよね……ごめんね、待たせて」
「そうね、変な男子が声かけてこなかった?」
「大丈夫ですっ、キリトさんが一緒だったし」
「こんなのでも虫除けになったんならよかったわ」
「…こんなのって……、リズ……」
不満げに唇を尖らせているキリトさんには構わず、リズさんは思い出したように「あっ、変な男子って言えば……」と私に顔を近づけてきた。
「この前の告白、返事したの?」
「リズさんっ」
こんな時に聞いてこなくてもっ、って言うか、その話、リズさんに全部報告しなきゃダメなんですかっ?!
周囲には気を遣ってくれたみたいだけど、すぐそばのキリトさんとアスナさんにはしっかり聞こえちゃって、アスナさんは口から飛び出しそうになった驚きを咄嗟に手で抑え込んでいる。けど意外にもキリトさんは「えっ」と眉を跳ねかせてから真剣な目で「シリカ」と私のキャラネームを呼んだ。
「そいつ、うちの学校のヤツなのか?」
「は、はい……」
「どんなヤツだ?、クラスは?」
「……キリト、さん……」
熱心に聞いてくるキリトさんの表情は真剣そのもので、その真っ直ぐな瞳に私の心臓がまたドキドキと反応を始める。
え?、なんでキリトさん、そんなに告白してきた人のこと気にしてくれるんですか?……もしかして他の男子が告白したのを知って、私のこと…………。
その時、携帯のデフォルト着信音が聞こえて、アスナさんが慌てて鞄の中から端末機を取り出した。
「はい……えっ、今日はこれから約束があるから……でも…………」
アスナさんは端末に手を被せて一旦会話を中断させると「リズ、シリカちゃん」と私達の方に顔を向け「ごめんね」と弱々しい声で謝ってくる。
「もうちょっとだけここで待っていてくれる?」
「あー、アスナもなのね。いいわよ。ねっ?、シリカ」
「はい」
きっとアスナさんは私達との約束を優先してくれようとしたんだと思う。けど、それを受け入れられない事情が相手にはあるみたいで、私は今日、少しくらい帰りが遅くなっても平気だからアスナさんにそんな申し訳なさそうな顔をしてもらわなくても大丈夫。
アスナさんは繰り返し「ホントにゴメンね」と言ってから、チラッ、とキリトさんの表情を覗った後「すぐに行きます」と通話相手に返事をして端末を鞄にしまい、カフェテリアから出て行った。姿が見えなくなるまで見送っていたリズさんが私の隣の椅子に腰掛けてくる。
「じゃっ、私達はアスナを待つ間、シリカの告白話でも聞こうじゃないのっ」
「リ、リズさんっ、私が告白したわけじゃありませんっ」
「それにしてもキリト、やけに質問してきたけど、やっぱり気になるの?、相手の事」
きゃぁぁっ、リズさんってば、なんでそんな事、ずばっ、と聞いちゃうんですかぁっ。
キリトさんの返事、聞きたいけど、ここで「気になる」って言われたらどうしよぅ、と頭の中であたふたしている私を見ながらキリトさんは「そりゃあ、気になるだろ」ってあっさりと、と答えた。
「シリカはオレにとって妹みたいなもんだし。付き合うならちゃんとしたヤツじゃないと」
「アンタの言う、ちゃんとした、ってどういうのなのよ」
「それよりアスナの用事って……」
リズさんと話ながら携帯を取り出したキリトさんはジッと画面を見つめている。
「どうせ察しは付いてるんでしょ?」
「ちょっとオレも行ってくる」
何の事かわからない私をそのままにリズさんが「はぁっ!?」と声を荒げたが、キリトさんは持っていたカップをグシャリと握りつぶしながら既にテーブルに手をついて腰を浮かせていた。
「別に割って入るような真似はしないし」
「当たり前でしょっ。そんな事したらアスナにめちゃめちゃ怒られるに決まってるんだから……あのねぇ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。私も知ってるヤツだし……」
「そういう問題じゃない」
リズさんの言葉を低い声で遮ったキリトさんは私達二人を置いてきぼりにして足早にカフェテリアから立ち去ってしまった。
「あーもーっ、アスナならすぐ戻って来るのにっ。アイツはアスナの事となると堪え性がないってゆーかっ」
「リズさん、アスナさんはどこへ行ったんですか?」
アスナさんさえ予定外の事みたいなのに、端末の短いやり取りで事情が把握できてるらしいキリトさんは珍しくリズさんの意見も禄に聞かず、ほとんど振り切るようにして行ってしまって、事情のわからない私はただポカンとするばかりだ。
「私も場所までは知らないわよ。でも、多分だけどこの前告白された相手に返事をせがまれたんでしょ。普段から温厚って言うか、ちょっと気の弱い男子でね、告白は携帯端末でしてきたけど、アスナからの答えは『どうせフラれるんだから二人きりで会って聞きたい』って言われたらしいわ」
「へぇ。もう断られるの前提で告白してきたんですか」
「そりゃあ、あの子、今までの告白も全部キレイに断ってるし、それにアイツがいるでしょ」
確かに校内でも二人でいる姿は中等部の私でさえ度々目撃してるし、その様子が二人にとっては「いつも通り」なんだろうけど周りの人間からしたらどう見ても、リズさんがよく言う「イチャイチャする」って感じで、私は見るたびに羨ましさでいっぱいになっている。けど、今はそれよりもリズさんの言った「今までの告白」という言葉で、アスナさん、一体今までどれだけ告白されてきたんだろう、って若干顔が引きつった。
「キリトさん、アスナさんに告白したお相手がどんな人か気になるんでしょうね」
私の時だってあんなに気に掛けてくれたんだから、と思って言ったら、なぜかリズさんには小馬鹿にしたような冷めた笑顔を返される。
「はっ、アイツが今更そんなの気にするわけないじゃない。いい?、シリカ。アイツはね、アスナに告るヤツはどんな人間でも気に入らないのよ」
お読みいただき、有り難うございました。
さんざん使わせていただいている原作設定ですが、アスナの位置情報は
キリトの端末に表示されてます。