ソードアート・オンライン《かさなる手、つながる想い》 作:ほしな まつり
キリ番感謝編でございますっ
やれ、めでたやっ!、やれ、うれしやっ!
今まで以上のお礼の言葉は語彙力弱め、少なめ、薄めの私にはないので
月並みではありますが…………「お気に入り」にポチっとしてくれた
700人の皆様、ふぉんとぉーっに、有り難うございます!!!!!
今回の「感謝編」、〈OS〉が付いていますが時間軸的には
『劇場版オーディナルスケール』本編前となります。
爪の形や指腹の柔らかさを味わうようにゆっくりとシーツの上にある自分の手に、違う人の手が這っている。
静けさを気遣うような接触に刺激され瞼を動かした明日奈は狭くぼやけた視界に自分が知らないうちに微睡んでいた事に気づいて、ふっ、と息を吐いた。
今、裸身のまま横たわっているこの場所は自室のベッドではないけれど、背中に密着している人からの温もりがあればここがどこだって不安は微塵も湧いてこない。吐息の分を補充する為にそっと吸い込んで、一緒に背後から自分を抱き込んでいる彼の香りも取り入れる。
甘い、とか清々しいとか、芳しいという表現では違う、すっかり慣れ親しんだ「彼の匂い」だ。それが素肌同士で触れ合っているせいでいつも以上に濃く己の内を満たす。
《現実世界》に帰還して二人は二度目の春を迎えた。
少し前に明日奈は大切な友の旅立ちを見送ったせいでどこか笑顔にも無理があり、心ここにあらずの時も少なくなかったから和人を含め周囲の人間達はそんな彼女をゆっくりと見守ってきた。そして表情に不自然さが薄れてきた頃、和人は以前から考えていた明日奈との約束を果たすべく、今度は和人の方がどこか迷うような表情でぎこちない言葉を口にしたのだ。
『えっと……星でも……観に、行か…ないか?』
きっと明日奈でなかったら彼が自分を元気づけようとしてくれている事や《SAO》に囚われていた時の約束を覚えてくれていた事にも気づかなかったかもしれない。そのお誘いに一も二もなく目一杯の笑顔で『うんっ』と即答してからの明日奈は逝ってしまった友への想いを抱きつつもそれまでどおりの彼女に戻っていったのである。
そして今、二人は桐ヶ谷家の和人の部屋にいた。
珍しく午前中で学校が終わり、そのまま明日奈は和人に連れられ電車で埼玉までやって来て彼がいつも通学で利用している駅近くで少し遅めの昼食を済ませた。それから誰も居ない桐ヶ谷家にお邪魔して二階の和人の部屋へと入り、『今日は時間、大丈夫なんだよな?』と聞かれた所までは覚えているが、はっきりと返事をした記憶はない。
そもそも平日の午後、桐ヶ谷家に人が居ることは滅多になく……午前中なら徹夜明けの翠が枕を抱きしめている場合もあるが、それでも昼には出社するのが常で、直葉が兄より早く下校する事も希だから和人は帰宅後、しばらく一人で過ごすのが日常だ。
明日奈もそれを知っていて来たのだから今更彼女の時間の余裕を聞いてくる意味はもはや確認でしかなく、行為の始まりへのきっかけにすぎない。
それまではどことなく明日奈が沈んでいたせいで和人もあえて濃厚な触れ合いは求めずにいたから、久しぶりに身も心も溶け合う時間は深く激しくて、明日奈は和人の全てを受け入れた後、どうやら軽く意識を飛ばしてしまったらしい。
目が覚めてみれば何も纏わないまま和人のベッドに横たわり、背面にはぴったり、と彼が肌をくっつけていて、シーツの上に無造作に置いてある自分の腕にも重なるように彼の腕が伸びている。けれどぼんやりとした視線の先にある自分の指先に触れている和人の手は何かの意図を持って動いているような気がして「ん?」と、明日奈はこっそり眉根を寄せた。それらかパチパチと目を瞬かせ視界を鮮明にして、改めて指に絡みついている自分のより少し大きな手を見つめる。
そうしていると「初めてこの手を意識したのはいつだったっけ?」とつい記憶を探ろうとして、けれどすぐに諦めた。
多分、意識するよりもずっと早く《向こうの世界》で彼が剣を握る度に、自分を導いてくれる度に、その手を見て自然とあるはずのない心臓を跳ねかせていたからだ。そして今では唯一、明日奈の全てに触れる事を許されている手でもある。
少し前まで彼女の柔肌をその手掌で堪能し、ふたつの蕾や敏感な花芽を指先で弄び、果てにはその内までも押し拓いて散々悪戯を仕掛けていた和人の手は、今はなぜか執拗という表現すら過剰ではないくらい明日奈の指に固執していた。
明日奈の中のハテナマークは増えるばかりだ。
眉間の皺をそのままに「んん??」とその手を見つめていると、特定の指が丹念に触れられている事に気づいて、ようやく一つの仮説が浮かんでくる。
しかしその仮説が正しいとしたら……多分いつまで経っても目的には達せないであろうし、普通に考えれば無意味な行動と言わざるを得ない。それでも明日奈には自分の指を見つめているだろう背後にある和人の真剣な顔を想像して「ホントに、もう」と自然、眉の角度は変わり口元には嬉しさの笑みが浮かぶのだ。
まさか明日奈の眉がハの字に下がり唇が小さな弧を描いているなどと思ってもいない和人の触れ方は彼女の眠りを妨げまいととても慎重で、それでもどこか戸惑っているようなたどたどしさが彼の心情を表している。いつの間にか背丈と同じように《仮想世界》での慣れ親しんだ黒のアバターより成長した手は無骨とまでは言わないがそれでも着実に青年のそれへと変化を遂げていて、張りのある弾力と少し太くなった関節など多分和人本人よりも明日奈の肌の方が如実に感じ取っているだろう。
そんな指の動きにずっと視線を注いでいた明日奈だったが「一体いつまで触り続けるつもりなのかしら???」と再びもこもことハテナマークが膨れ出す。
すると和人の方もようやくこのままでは問題は解決しないと悟ったのか、静かに彼女の指を開放して今度はその隣で自分の手をパッ、と広げてみせた。
それを見た瞬間、さすがの明日奈も目をぱちくりと瞬かせ、続いて噴き出しそうになる口元にキュッと力を込める。少しだけ両肩が震えてしまったが自分と明日奈の手を見比べる事に夢中の和人には気付かれなかったようだ。二、三度、手の甲と平をくるくる回転させて自分の指を観察しているらしいが、やっぱり納得のいく答えは得られなかったのかピタリ、と動きが止まる。
けれど自分の目の前に大きく広げられた手を見て今度は明日奈が何かに気付いたようにそれを凝視し始めた。
実は今、丁度和人への贈り物を探しているのだ。
一番の候補はバイクグローブなのである。
デザインは和人のカラーでもある黒がメインの物と決めているが、サイズを迷っていて、それでも出来るなら彼には打ち明けずに用意したいと考えていた。「だいたいでもいいからキリトくんの手の大きさを確かめられないかな」と明日奈はさっきまでの和人に負けず劣らずの真剣な眼差しでその手に見入っていたが、ただ見ているだけではどうにも判断がつかない。
だが、明日奈の唇がじれったさにむずむずしていると力尽きたように和人の手が明日奈の手の上にパタリ、と被さってきた。
どうやら寝ている(と思い込んでいる)指をいじったり自分の指と比べてみても無理だとようやく諦めがついたのだろう。
明日奈にとっては絶好のチャンスだ。
自分の手を基準に和人の手の幅や指の長さをそっと目算で計って記憶する。
サイズ選択の悩みが解決したスッキリ感で「うんうん」と満足していると「アスナ?」とすぐそばから吐息のような和人の声が空気を震わせた。位置を合わせる為にこそっ、と動かした手の動きで意識があるとバレてしまったようだ。こうなっては仕方ない、と潔く認めて肩をすくませ、クスッ、と笑い声で返事をした明日奈は首を捻って顔を和人の方へ向ける。
「サイズは7号かな」
和人もまた少し起き上がって覗き込むように彼女の顔を見つめつつ言われた言葉に「は?」と今は純朴な黒い瞳を見開くが、明日奈は微笑むばかりだ。そこで少ししてからようやく合点がいって「ああ」と軽く頷いた後、今までの自分の行為の意味がすっかり相手にバレていた事に気付いて、決まりが悪そうに視線を泳がせる。
それでも明日奈からの嬉しそうな笑顔はどこまでも付いて来て、居たたまれなくなった和人はボソリと白旗を揚げた。
「自分のサイズだって気にした事ないのに、アスナのなんて全然わかんなくてさ……」
「うん、普通はそうだと思うよ」
一般的に男子高校生が自分の指輪のサイズを把握している割合などかなり低いだろうし、たとえ自分のを知っていたとしても、見比べた程度で相手のサイズがわかるわけもなく、直接触れてみたところでやはり判断は難しいだろう。
二十二層の湖畔で《現実世界》に戻ったら今日と同じように一緒に星を観ようと約束した時、指輪を贈ると言った事を和人もちゃんと覚えていてくれた喜びで明日奈がふわり、と微笑むと、重なっていた和人の手が明日奈の手を包みその体温を分け与えた。
「……やっぱり女子は指輪のサイズとか、知ってるんだな……」
少し感心したように呟く和人に今度はスッ、と明日奈が視線を逸らす。こと明日奈の挙動に関しては目聡い和人が再び問いかけるように「明日奈?」と呼び、捕捉するように身を起こして彼女の手に僅かな体重をかけ、指を交互に絡ませてシーツに押し付けた。さっきまでは素色だった黒に艶が混じり始めている。
どうやら誤魔化せないと観念した明日奈は「ううっ」と唸ってから「あのね」と語り始めた。
「私も自分のサイズ、つい最近測ったの」
という事は薬指への指輪を用意する為にサイズを聞かれた事もないし、強請った事もないのだ。だったらなぜ最近になってそれを知る事となったのか……疑問が顔に現れていたのだろう、真上から落とされる追求の視線に耐えきれなくなった明日奈がぷいっ、と横を向きながら答えを口にした。
「……この前、星を観に行く日を決めた時……キリトくん、覚えててくれてるかな、って考えたら、知りたくなっちゃって……」
《仮想世界》では衣類や防具、服飾品の類いは装備すればフィットするので関係ないが《現実世界》ではそうはいかない。明日奈もまさに同じ問題に突き当たり、奇しくも先程解決したばかりだ。
さっきの和人と同じように出来れば明かしたくなかった胸の内を吐露した明日奈の頬は恥ずかしさですっかり美味しそうに色づいている。それを見てコクリ、と喉を鳴らした和人まもた自分からの贈り物に期待を膨らませたらしい明日奈の様子を想像して思わず相好を崩した。そして心の中で数年後、彼女と指輪を交換する未来を固く誓って上体を降ろす。
「時間、まだ大丈夫だろ?」
横を向いたままの明日奈の耳に和人の唇がかすった。
そして今日、二度目の同じ質問に彼女が答える声はやはり聞こえなかった。
お読みいただき、有り難うございました。
そしてついに「感謝編」で投入してしまいました……「確信犯シリーズ」(苦笑)
苦手な方があまり多くないと良いのですが。
そして「劇場版」を観てない方もあまり多くないと良いのですが。
とりあえず男性陣のみなさん、目分量(?)で贈る指輪のサイズを決めるのは
やめておきましょう。
サイズが合ってない……を笑って許してくれるパートナーさんならOKですけど。