ある晴れた初夏を感じさせる、陽気のいい昼下がりお昼ご飯を食べ終えた私こと葛城は久々の休日を与えられ、食後の散歩にと鎮守府の中をなにをするでもなくぶらぶらと歩いていた。
そういえば、新しい艦載機が用意されたという話を昨日、提督の秘書艦をやっていたときに話題に上がったのを思い出しどんなものか見れないかと思い工廠のほうへと歩みを進めた。
その途中、工廠の横に併設されている倉庫の扉が開いていた。中を除いてみると提督が普段見慣れた、白い制服から空色のつなぎへ装いを変えて作業をしているようだ、暇つぶしにちょうどいいと思いかまってもらおうと倉庫の扉をくぐる。
「あなた、こんなところで何してるの?」
「ん・・・?葛城か、今はこいつの相手をしていてな。」
提督がそう言ってこちらに一度向けた視線を移したのは一台のバイクであった。
「相手って、そのバイクとお話でもしてたのかしら?ただのバイクはおしゃべりしないと思うけど?」
バイクに向けた視線が妙に優しい目というか楽しそうな目をしていたのを見てちょっと引っかかりつつ、つい嫌味な言葉が出てしまう。
「まぁ、喋るわけじゃないんだがな。この単車ってのは、まめに整備したり乗り回してやらないと、すぐへそを曲げる・・・というか、調子が悪くなるんだ。バイクが趣味の俺としては整備したり洗車したりは、バイクの相手をしている気分になる。そういうことでさっきの言い回しになるんだ。」
「ふーん、そう・・・。」
なんだか、面白くないなと思ってしまったのは何故だろう?そんな生返事をしていると提督はそのバイクを外へと押して移動させ、倉庫の中から洗車に使うのであろう空のバケツやスポンジに洗剤を持ってきて近くにあった水道からホースを使い水を出して洗車を始めた。
「~~♪」
提督は気分がいいのか鼻唄まじりに洗車をしている。私は工廠に新しい艦載機を確認しにいくのも忘れてその姿を眺めていた。今の提督は本当に子供みたいだ・・・。何がそんなに楽しいのかしら?そんなことを思いながら。
やがて、洗車の仕上げに、先ほどのバケツ等と一緒に持ってきた布巾のようなものでバイクを磨いていく。最後の一拭きを終えて、提督は満足げに言った。
「よし、美人さんになったな。」
葛城にはそんなこと言ってくれたことあったかしら・・・?ちょっとむっとしてしまう。
「そんなに熱心にやってこれからどうするのよ?」
近くに葛城っていう相手がいるんだから・・・と思いながらこっちを向けと念を送りながら言う。
「ん?天気もいいしな、近くの湖あたりまでさくっと行ってくるよ。」
無邪気な本当に楽しそうな子供のような笑顔を向けて返された。
葛城が呆気にとられている間に提督はバイクのエンジンを掛けた。バイクは独特のエンジン音を響かせ始めた。
「中々上機嫌だな。暖気させてる間に着替えてくるよ。」
前半はエンジンの音を響かせているバイクに、後半はまだ茫然としている葛城に向かって。
なによ・・・。楽しそうに乗り物の手入れなんかしちゃって、かっ・・・葛城は・・・空母なんだから!大勢の人を乗せたことだってあるんだからね!そう思うと提督曰く上機嫌なバイクを睨みつけてやる。しばらくの間、にらめっこを続けていると負けるもんかという気持ちが湧いてくる。
バイクの前に毅然と立ちふさがり胸をはって息を吸い込む。
「ふん・・・!熱心に相手してもらったからって調子に乗らないことね!」
葛城はバイクに向かって言ってやる。
「葛城はね、正規空母なんだからね!主力よ、しゅ!りょ!く!あの人の艦隊の旗艦をやったこともあるんだもん!」
「あんたは一体どれくらいの人員を乗せられるっていうのよ!葛城ったら、一度に5000人もの人を乗せれるようにしたこともあるんだからね!」
「いい?聞いてる?あぁ、あんたはただのバイクだもんね。聞いてるかどうかもわかんないし、喋れもしないものね。葛城は、あの人といっぱい喋ったこともあるし、一緒に鍋焼きうどんや、おにぎりだって食べたこともあるのよ。」
「あの人は、葛城のおにぎりを美味しいって言って食べてくれたんだから!」
「まったく、あの人に、いじってもらえて上機嫌?おかしいんじゃないの?葛城にだってそこは格納庫じゃないって何度も言ってるのにいじってくるんだからセクハラみたいなもんじゃない!ちょっとかまってもらったからっていい気にならないでよね!」
まくしたてていると冷静な思考が少しづつ戻ってくる。
「はぁ、葛城はなにしてるんだろう・・・。」
初めは、提督に相手してもらおうと思ってただけなのになぁ・・・。空とは対照的な雨雲が葛城のこころの中をもやもやと覆い始める。バイクの正面にかがみこんでしまう。
「提督ね・・・。私には美人さんなんて言ってくれたことなんてないのに・・・。やっぱり姉さん達みたいに、出るところが出てたほうがいいのかしら?ねぇ、どう思う?」
答えてくれるわけがない、そんな当然のことわかっていながらも聞いてしまう。相手はただのバイクで葛城は正規空母の艦娘だ。元を辿れば物言わぬ艦だったかもしれないが今は違う。そんなことわかっていたはずなのになぁ。バイクを磨きあげた提督の無邪気に笑う顔が頭の中に思い浮ぶ。それに釣られてかあの人のいろんな顔が次々と浮かんでくる。真剣に艦隊の指揮を執っている顔、お茶を飲みながら執務の間にのんびりとした顔、艦隊が帰投したときに全艦無事に帰ってきたときの安堵した顔、大破した艦を本気で心配する泣きそうな顔、海域を突破し作戦が成功したときの嬉しそうな顔。
あぁ、あの人の笑った顔がもっとみたいな・・・。
「すまんな、そこまで気にしていたとは思わなかった。」
「っっっ!!!」
反射的に振り返ると気まずそうな顔で頬をかく提督がいた。
「なっ!いいいい、いつっ・・・、いつからそこにいたのよ!」
いつから聞かれていたの?どこから?ぇ?ちょっ!うそでしょ!頭は沸騰しきっていた。
「あぁ~、うん、なんか単車の前に仁王立ちしたところくらいかな・・・。」
初めっからじゃないの!
「あう、あ~、えっと、うーー」
もう言葉がろくに出てこない。水たまりでもあればそこで自沈したい。
「いやぁぁぁあああーーーー!!」
葛城には逃げる以外の選択肢が出てこなかった。
あとには気まずそうにしている提督が残されていた。
その後、その光景を遠くから見ていたという、瑞鶴さんにからかわれた。顔が真っ赤だったとかとても可愛かったとか、いろいろ言われたがとても恥ずかしくてほとんど覚えていなかった。あぁ、あこがれの先輩にもみられていたなんて、こうなったのは全部あの提督のせいだと決めつけ、夕飯を自棄食いした。
翌日、提督は執務もあるであろうに葛城のところにちゃんと謝りに来てくれた。初めはへそを曲げてよく聞きもしなかったが、間宮さんのところでおごってもらうことで許してあげることにした。なんだかんだで、葛城達、艦娘のことをないがしろにしない人だということはわかっていたので特別だ。
また秘書艦として一緒に仕事をしているときにいろんな話をした。その時に笑顔を沢山見せてくれた。
あなたの夢はなんなの?聞かせてよ、いいじゃない?
ぇ、そうなんだ・・・へぇー、ふぅ~ん・・・そうなんだ。
うん♪え、上機嫌じゃないかって?そ、そんなことないわ!普通よ!ふ・つ・うっ!!
・・・ぇへへへっ♪
葛城さんにしたのは友人にぱっと思いつく艦娘を挙げろと言うと、葛城といわれたので葛城で書きました。
書きやすかったので気がむけば、また別の子で書きたいと思います。
他のをエタらせたりして、書き直し、してるのに何をやっているんだろう?私は・・・