屋内
先手を取り、右拳を振るう小夜だが
「速いな、流石人狼だ・・・私から見たら少し速い程度だがな」
「・・・ッ」ガンッ!
弾幕を使い、小夜の拳を防ぐ
弾幕を破壊し後に下がりビリビリと震える右手を押さえる。恐怖しているのではない弾幕に込められた妖気があまりに強く硬さが尋常でない
数が制限されているが故に一つの弾幕に込める妖気の量を増やせ、破壊力を高められる
あんな物が直撃すれば人間を殺す事も出来るし、如何に人狼である小夜でもひとたまりもない。力の出し惜しみは即敗北に繋がる、八雲藍の言う通りだ
「どうした?どこから来ても構わないぞ?」
自らまだ攻めないのはそれだけ負けないという自信があるのか、それとも実力を見るためにあえて攻撃に出ないのか、仮に自信があったとしてもこの八雲藍からは油断も無く常にこちらに集中している
強い力を持つ者は心の奥に余裕が持てる、そしていつしかそれが油断となる。かつての経験から言えばそんな輩は何度も見てきたがこの女は確実に違う
強い力を持ったとしても余裕を持たせず、油断を作ろうとは絶対にしない戦いに慣れた“本物”だ
「・・・・・・」
「来ないなら、次はこちらの番だ」
「式神『前鬼後鬼の守護』」
スペルカードを宣言し、左右に黄色と緑の大弾の弾幕が打ち出された
小夜は軌道を読み、弾幕を避けるがそれぞれの弾幕からさらに小弾の弾幕をばら撒き始め小弾はそれぞれ時間差を置いてから小夜に向かって追尾し始めた
小夜が持つ弾幕を防ぐ手は哨戒白狼天狗の剣で弾くか盾で防ぐか、確実に回避出来る霧になる方法がある
体を霧に変え、追尾する弾幕を回避しそのまま八雲藍を囲み一気に叩く手にでた
「これが君の能力か。弾幕はすり抜けるし追尾型は君を見失ってしまう厄介な能力だ」スッ
「ッ・・・」
視線を動かすどころか、死角を狙ったにも関わらず放った拳を簡単に回避された
その後も様々な角度から腕や脚を戻しては攻撃を繰り返すがその全てを回避されてしてしまう
「体の一部を戻した時に一瞬ではあるが君の妖気がわずかに伝わり次に何処から来るかが分かる。ですが、それだけ高い妖気を持っていて戻した時に感じる妖気の小ささはよく抑え込めていると感心します・・・しかし、まだまだ未熟です」
バキッ!
「ッ!・・・かッ」
上半身を戻し、両拳を放つが反撃の弾幕をもろ腹部に当たり襖を破って行きながら吹っ飛ばされ中庭に叩き出される
「私で無くとも古参の妖怪ならばこれくらいの妖気の探知は当たり前に出来る。私の事を稗田家の当主は最強の妖獣などど語るが、私如きが最強を名乗るなど恐れ多い」
「・・・ペッ」
血を吐き出し、口元を手で拭う
強い。今まで出会った敵の中でアーカード程とはいかないにしてもその強さは本物だ
きっと、銀など使わずともかつての俺を簡単に殺していたかもしれない
さて、どうする?能力を使っても次の手は先読みされる、八雲藍自身はそこまで接近戦が得意ではなさそうだが弾幕を的確に当てて相殺してくる
完全な獣化をしたところで勝てるかどうかもわからない
「おやおや、いくら大尉であっても倒すのは難しいみたいですね」
「ッ!!」
首を左右に振り、声の本人を探し出す小夜
彼はその声の人物をよく知っていた。かつて同じミレニアムに所属し、対アーカードの最終兵器として創り出されたヴェアヴォルフの一人
シュレディンガー准尉の声だと確信したのだ
「大尉、上ですよー。上、上」
「・・・シュレディンガー・・・准尉」
見上げると木の枝から自分を見下ろすシュレディンガー准尉がいた
なぜ彼が此処にいるのか、アーカードに取り込まれる任務はどうなったのか、尽きぬ疑問ばかりが浮かぶが今はそんな事はどうでもよかった
「博麗小夜の知り合いか?その服装を見る限り外来人・・・いや、ミレニアムにいる者はほとんどが人工吸血鬼ならばまさか彼も?」
「さっすが八雲藍さん。傾国の美女とか言われる九尾の狐に憑いた式神だけあって頭の回転も速い速い、その通り僕もミレニアムの幹部『ヴェアヴォルフ』の一人シュレディンガー准尉でーす。猫耳ついてるけど立派な特殊能力を持った人工吸血鬼でっす♪」
いつも通りのお気楽な喋り方で自身の紹介をするシュレディンガーは木の上から飛び降りる
「大尉!キャッチ!」
「・・・」スッ ドサッ
「よっと、ありがとうございます大尉」ビシッ
落ちてきたシュレディンガーを受け止め、腕から離れ俺に向かって感謝の言葉と敬礼をする
「それでミレニアムの者がどうやってマヨヒガに入ってきた?結界がある限り見つける事も入ることも出来ない筈だ」
「いや、普通に入って来たよ」
「・・・まぁいい。では別の質問をしよう、私の前に立ちはだかりどうする気だ?」
「それはもう戦友の大尉が危ない目にあってるんだから助けなきゃ駄目でしょう。常識的に?」
「やめておけ、彼ならともかくとして君では勝負にならない」
「やってみなくちゃわからないじゃん」パシッ
懐から大振りのナイフを取り出し、藍に向かって突撃する
「どうなって知らんぞ!」
弾幕を放ち迎え撃つが、シュレディンガーは避ける動作もせず突っ込んでいき、そして・・・
グシャ!
「なっ!?」
「・・・」ドサッ
小夜に対して放っていた弾幕と同じ妖気を込められた物を頭からもろに喰らい、口から上が消し飛び血の池が出来上がる
あまりに酷い光景だ
「しまった!私とした事が力加減を間違えて先程までの弾幕を・・・くッ」
自ら犯してしまった失敗に悔いるように、彼の死体を見る八雲藍
そんな時だ
「・・・シュレ君?」
複数の猫たちと共に現れたのは前までシュレディンガーと一緒にいた橙だ
「ッ、橙!駄目だ、お前は見ちゃ」
「藍様が殺したの、シュレ君を・・・」
「なに?どういう事だ橙?」
「う、うぅ・・・ら、らんしゃまが、う、うわぁぁぁん!!」
「あーちぇ、橙、泣かないで。その彼の事は・・・本当にすまない」
泣き出してしまった橙を泣き止ませようとする。まさかの出来事に彼女は混乱してしまっている
「はい、ハンカチ」
「あぁ、すまない。ほら橙、これで涙を拭いて・・・ん?」
突然背後から渡されたハンカチに八雲藍は一瞬だけ思考停止したが、すぐに状況を整理した
博麗小夜は今も木の下で立ち尽くしてこちらを見ている。そして目の前には橙がいる、では誰がこのハンカチを渡したのか
彼女はゆっくりと背後を振り返るとそこにはありえない人物が立っていた
「どうも♪」
「な?!き、貴様どうして!?」
そこにはピンピンとしているシュレディンガー准尉の姿があった
「シュ、シュレ君?あれ?でもさっき」
「またまた引っ掛かったー。どう?びっくりした?まさか僕が君の主さまに殺されちゃったと思った?ねぇねぇ今どんな気持ち?www」
「・・・」プルプル
自分は騙されたのだと気づいた橙はプルプルと震えながらシュレディンガーの前にまで歩く、そして
「シュレ君のバカーーー!!!」ブンッ!
「おぶっ!!」バチッーン!!
強烈な平手を喰らうシュレディンガー、橙はその後屋敷奥に泣きながら走って行ってしまった
「酷いよね。ちょっとからかっただけでこんな仕打ち」
倒れたまま自業自得だと思わせる台詞をほざくシュレディンガー
そしてゆっくりと立ち上がり雪を払った後、ニヤリと笑みを見せながら八雲藍を見る
「・・・どういうわけだ?確かにあの時、私はお前を殺してしまったのだぞ」
「うん、死んだよ確かに。でも僕は気分屋だから死にたいときは自分で決めるから死なないんだ。さて、大尉この人倒すの手伝うけどいいかな」
「・・・」
大尉は何も答えず八雲藍を見る
そもそもこの戦いを起こしたのは彼女だ。2対1の戦いを許すかは彼女が決める事だ
「・・・いいだろう(奴の言っていた特殊能力、それが死んだはずなのに生き返った理由に関するならその能力の正体も把握しておきたい。あと橙が来れないように結界を張っておくか)」
許可が出された後、シュレディンガーは大尉の下に行き、またナイフを手に持つ
「大尉、僕が隙作りますんで1発で決めちゃってくださいね」
「・・・あぁ」
2人は一気に駆け出し、八雲藍の下へ向かう
「1人増えたところで勝てると思うなよ!」
弾幕を放ち応戦する。量はシュレディンガーの方が多く、小夜の方は少なめだった
シュレディンガーは当然避ける事が出来ず、弾幕の餌食になり小夜は藍の懐に入り蹴りを放つが当然避けられる
「どーん!」
「ッ!チッ!」
避けた後、不意に背後からシュレディンガーが現れナイフを刺そうとするが弾幕に撃たれまたやられる
そしてまた小夜の攻撃が始まり、また死角からシュレディンガーが現れ不意打ちをする
「くッ、こしゃくな。ならばこれでどうだ!」
「行符『八千万枚護摩』」
2枚目のスペルカード宣告
高密度の札状の弾を180度以上の開きを持つ扇型に射出された。そして同時に全方位へまばらに光弾も発射される
広範囲殲滅型のスペルカードのようだ
しかも扇の型が徐々に徐々にと大きくなり始め、衰えは一切感じられない。このままでは2人は追い詰められるだけだがシュレディンガーも小夜も顔色を一切変えずに居た
「ふーん、広範囲の技だね。でも、それは失敗じゃないかな?」
また札弾の中に突っ込みやられるシュレディンガーだが、一気に背後に回り込みナイフを逆手に持ち替え向かっていく
「貴様のやり方は既に見切ってる!」
通常の弾幕を作り出し、背後へ振り返り放とうとしたが
「だと、思うじゃーん」バシュ!
「ッ!目、目に何か?!」
藍に向けられたと思われたナイフは自らの首の動脈を切り裂き、吹き出した血が藍の目に入り視界を塞いだ
「今ですよ大尉」
「・・・」バッ!
「くッ!」
霧になり弾幕を抜け、手刀の構えをとり藍に向かってはなたれた。藍は突然の視界封じによって混乱しておりうまく妖気を探知出来ず、ただ腕をクロスして防御に入った
「・・・?」
しかし、一向に何もこず疑問に思った藍は目に付いた血を拭いゆっくりと開く
最初にみえたのはまっすぐ自分に向けられた手刀、そして表情を変えずに自分を見る小夜の姿が見えた
「あーあ、大尉。せっかくのチャンスだったのにどうしたんですか?」
「・・・俺は・・・お前に勝つ為に倒す為に、挑んだんじゃない・・・お前を認めさせて、羅針盤を手に入れ霊夢たちと異変を終わらす・・・・・何より霊香の友人、紫の身内でもあるお前を傷つけたくない・・・霊香たちが悲しむ」
「なっ・・・」
八雲藍は驚愕した。あれだけ容赦のない攻撃を何度も行った相手に対して最初から勝つ気も倒す気も無くただ認めさせたいだけと小夜が告げた事に
藍自身も小夜の実力をずっと見定めていた。だが彼がそんな思いで挑んでいた事は全く知らなかったのだ
「大尉、変わりましたね。喋ったのもそうですがかつてより甘くなりましたね?」
「・・・」
シュレディンガーは知っていた。かつての彼が自身より実力の無い者に対する慈悲の心を僅かながら持っていることを、ゼーレヴァ作戦でもイスカリオテの2丁銃使いに対して発砲はしておきながら殺しはしなかった
そして幻想郷に来てからもできる限りの不殺を貫いてきた。約束でもあり、それがこの世界でのルールだからだ
「・・・行くぞ」
「行くって何処に?」
「・・・やる事がある・・・お前の力を借りたい」
「いいですけど、此処から出るの大尉では無理ですよ。なんかバリバリする壁が張られてますから」
「・・・」
手を口元に置き、どうするかを考慮する小夜
「・・・私が出してやる。それと小夜くん、これを君に渡すよ」
小夜の手のひらに羅針盤を置く藍。小夜は疑問に思い首を傾げた、なぜこれを渡してくれたのか
「確かに私の様な古参の妖怪と渡り合うには君の今の実力ではまだまだだ。だが、君の異変を早期に解決したいとゆう思いに負けたよ。それだけこの幻想郷を思ってくれているのだろう?」
「・・・俺の居場所・・・霊夢、霊香の故郷・・・壊させは、しない」
「そうか、ありがとう小夜くん。では、一時的に結界を解く、外に向かって歩いて行けば此処に来る前に君が居た場所に出るだろ」
「・・・ありがとう」コクッ
「・・・あぁ」
小夜は羅針盤を懐にしまいシュレディンガーと共にマヨヒガから出た
そんな彼らを見送る藍。姿が見えなくなってからふと自身の胸に手を添えながら先程の小夜の言葉が蘇る
『何より霊香の友人、紫の身内でもある“お前を傷つけたくない”』
「ッ・・・どうしてしまったのだろうか」
自身を指す言葉が何より強調して聞こえて来るのを感じ、頬をほのかに赤く染めていた
外は未だに寒いと言うのに今の自分の内側から春を越えて夏と思わせるくらいに熱い胸の高鳴りを感じていた
五、五千文字を・・・超えた(唖然)
新記録だー
とゆうわけでシュレディンガー准尉追加です。完全な肉壁になることが多くなる予感、では
「次回もお楽しみに〜♪」ノシ
・・・あれ?