桜色に輝きを放つ巨大な妖怪樹の下で1人の化け物が白玉楼の主、西行寺幽々子に取り憑いた西行妖に近づいて行く
「貴様も妖怪か。貴様も八雲紫の様に妖力を奪って我が封印を解く糧にしてくれる!」
「・・・」ピキッメキッ
西行妖の言葉に何も答えず鈍い音を立てながらただゆっくりと近づく小夜
「ふっふっふ、我が妖気を見て言葉も出ないか?恐れてなを向かってくる度胸は認め・・・」
ブンッ!バキッ!
「ッ!ごッ!?」
「・・・」
瞬時に近づき、獣人化した小夜の強烈な右ストレートが腹部に入る
ブンッ!ガシッ!ドゴッ!バキッ!ガッ!
「がっ!き、きさ、ぶっ!ばっ!」
「・・・」
話など聞く気も無くただひたすらに殴り、蹴り、掴み、叩きを繰り返す小夜
彼からすれば何を戯言を話しているのかと思うばかりだ。殺す気で霊夢たちと戦っていながらこんな攻撃の好機(チャンス)を与えてくれるとは愚かとしか言いようが無い
むしろ、西行妖自身が弾幕ごっこという決闘法を放棄したのだ。殺しに掛かってくるぐらい分かっているはずだ
博麗の巫女を殺す寸前まで行った事によりたかが妖怪1人だという油断がここまで攻撃を許している
「調子に乗るなぁ!!貴様如き、妖力を奪ってすぐに・・・ッ?」
「・・・」ブンッ!
「ごばッ!」
何か不審に思いまた隙を見せた西行妖、今度は裏拳が顔面に入る
「な、何故だ?!なぜ妖力が吸収出来ない!?」
「・・・」
八雲紫や八雲藍、2人の大妖怪の妖力を吸収出来た筈なのに何故か小夜の妖力を吸収出来ずに叫び出す西行妖
敵に語る口も無い為、また殴り倒す
「おい、今西行妖の奴、小夜の兄ちゃんの妖力が吸収出来ないって言ってなかったか?」
「確かに聞いたわ。でも何故?」
「・・・そうか。能力を」
「どういう事、お母さん?」
「小夜をよく見てみろ。何が見える?」
霊香の言葉に従うように皆じっと小夜を見る
攻撃の最中である為、じっくりとは見えないが小夜の全身を白い靄の様なものが覆っていた
「何か白っぽい、靄か?」
「・・・そうか。能力で」
「あぁ、自身の存在を曖昧にする霧になる程度の能力。小夜は肉体的存在にでは無く妖力の存在を霧にして曖昧にしているんだ。しかも、小夜の場合は妖力よりも自身の肉体の鍛錬によってあそこまで高い力を出せる、肉体の存在を霧に変えてない分物理的な力はあいつの方が上だ」
「しかし、曖昧にしているだけで完全に隠せていないのでは吸収される可能性はあるのでは?」
「だからこそ、奴は攻撃し続けているんだ。確かに西行妖なら今の状態でも吸収できるだろうがその為には常に小夜の妖力に集中しなければならない・・・霊夢、攻撃の準備をしろ」
「え?」
体の呪縛から何とか開放されゆっくりと立ち上がる霊香
霊夢も母の手を借りながら起き上がる
「あいつは自分では西行妖を倒せないことは分かっているんだ。あいつがやっているのは囮であり西行妖を疲弊させる事、今のうちに私たちが霊力を高め、強力な一撃を与えようとする為の時間稼ぎをしているんだ・・・霊夢、お前は万が一私ので倒せなかった事を考えて無想天生の準備をしていろ」
「・・・分かった」
無想天生
博麗の巫女のみが持つ最後の切り札
どのような妖怪であろうと構わず倒すことの出来るスペルだが、その使用に使う霊力の消費は半端なく1度使えば戦闘に加わる事は出来ないだろう
霊香もそのスペルを持っているが既にかなりの霊力を消費しており、打てても夢想封印が限度だ
霊夢は意識を集中しもしもの為にと霊力を溜め始める
「・・・紫」
「なに?」
「これが終わった時、あいつが言った言葉の意味。全て話してもらうからな」スッ
「・・・」
霊香も残りの霊力を溜めるために意識を集中させる
魔理沙たちはまだ体を動かす事が出来ず、シュレディンガーと共に見ているしかなかった
「クソが!クソが!クソがーーー!!!調子に乗るなぁー!!」
扇を乱暴に振るい、弾幕を放つ西行妖
妖力のみの霧化によって弾幕を無傷に回避する事は出来ない、だが霧化していない残りの妖力で獣人化していることにより通常よりも力と身体能力が向上しているため、回避はそう難しくはない
全ての弾幕を避けきり、また殴り飛ばす小夜
しかし、いくら続けても西行妖を倒すまでは至らない。霊香か霊夢の強力なスペルを当て、何とか紫たちが再度封印出来ればそれでいいと彼は考えている
「?・・・そうか、貴様は囮という訳か。ならば!!」
「ッ!」
霊夢たちの霊力に気づき西行妖は小夜を無視し、霊夢たちの方へ向かって行った
小夜は走り西行妖を追った、霊力を溜めている状態は何も出来ない。何としても止めなければならない
「ふっ、掛かったな!」
「ッ!?」
急に振り返り、扇を振るって多量の弾幕が小夜に直撃した
「ごぷッ・・・」
吐血し、右肩、左脚、アバラの骨が砕ける感覚が小夜を襲う
そして止めを刺そうと霊夢に放とうとした桜色の巨大な弾幕を放とうする
「ふははは!死ねぇ!」
「・・・ヴゥ!」クワッ!
「な、なに!?く、クソ犬がー!」
弾幕を放つ前に鋭く生えた牙で西行妖の肩に噛み付く小夜
弾幕を放ち、引き離そうと試みる。避ける事もせず全て直撃し身体中から血が吹きだそうとも決して離そうとはしない
「・・・よし。行くか」
霊力を溜め終え右拳を握り締める霊香
「ッ!?クソ!離せ!離せーーー!!」
「・・・」
霊香から感じる霊力に危機を感じ、早く小夜を引き離そうと躍起になるがもはや遅い
「これで終わりにするぞ西行妖・・・霊符」
「ま、待て!これが見えないか!?今それを放てばこの人狼も!」
「『夢想封印・突』!」
霊力を右拳に集中し、放たれた一撃が西行妖へと放たれる。このまま行けば小夜ともどもやられると思っていた西行妖だったが彼は小夜の能力が何か結局分かっていない
「・・・」フワッ
自身を霧に変える力。それはいかなる打撃や斬撃も回避出来る
バキッ!!
「ーーーー〜〜〜〜〜!!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
拳が直撃し、声にならない叫び声を上げながら後の西行妖本体である桜の木へとぶっ飛んでいった
「カ・・・・・ッ・・・・・」ドサッ!
木に背中を強打し、そのまま落下して倒れた
「・・・はぁ、はぁ、はぁ」
「や、やったぜ・・・勝ったぜー!!」
魔理沙の言葉から皆が安堵し、霊香は息を荒らげながら座り込むように崩れた
西行妖から放たれた強い妖力は感じられず、完全に倒した事を告げていた
「まだ、喜んでいられないわ・・・霊夢」
「分かってるわ。春も解放して博麗の巫女としてすぐに封印するわ」
紫の言葉に従って西行妖の下へと向かい春の解放と封印の準備を始める霊夢
「・・・」
「いやー大尉。お疲れ様です」
「・・・」
「良かったですね。これで寒い冬は終わって春が戻って全部解決ですねー」
「・・・」
「どうしました大尉?嬉しくないんですかー?」
「・・・」フルフル
首を左右に振り否定する小夜
確かにこれで異変は終わるのだろうと喜ぶべきなのだろうが何故か喜ぶ事が出来ないでいた
別に自分の力のみで解決出来なかったとか、そんな単純な事ではない
終わったにも関わらず胸騒ぎが止まらないのだ
(さて、回収された春を全て解放したから後は勝手に幻想郷中に行くでしょう。後はコイツを)
「・・・は」ピクッ
「ッ?!」
「はぐれぇいのみぃぃぃごぉぉぉぉぉ!!!」
「し、しまっ!!」
誰もが倒したと思われた西行妖が僅かに残った最後の力を振り絞り、霊夢へと牙を向く
全員気が緩み、油断していた。助けに行こうにも、もう間に合わない
「じぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!!」
(だ、だめ・・・よけきれ、ない・・・)
恐怖のあまり目を瞑る霊夢、西行妖の放った手刀が霊夢に振り下ろされた
バシュ!
肉を貫き、赤い鮮血が辺りに飛び散りやったと確信した西行妖はニヤつく様に口を歪ませ、霊夢を見ようと顔を上げる
「・・・ッ?あれ?」
しかし、西行妖が見た霊夢はどこにも傷は無く、巫女服に少々血がついているだけで平然としている
では、辺りに飛び散った血は誰の物なのか?腕に刺さった人物を西行妖は見た
「・・・」ポタッポタッ
「あ・・・・・・・・あぁ・・・・・・」
口から血が更に流れ、腹は手刀によって完全に貫かれていながらも表情変えることなく自分を見下ろす人狼の姿
「に・・・兄さ、ん?」
小夜は何とか霊夢の元へとたどり着いたが体中がボロボロの状態で西行妖の攻撃を止めることが出来ず、自らを盾として霊夢を守ったのだ
「・・・Ende」グッ!バキッ!
「ッ・・・」ブツンッ
最後の拳を放ち、腹から手が抜けて吹っ飛ぶ西行妖。そしてついに幽々子の霊体から意識を手離した
幽々子からは完全に西行妖の妖気が消えた
「・・・」ドサッ
「兄さん!」
地面に背を付け仰向けで倒れた小夜
貫かれた腹や口から更に血が流れ出て、出血が止まらない
あぁ・・・地面が冷たい
あの時と同じ様にあの吸血鬼、セラス・ヴィクトリアにやられた時も仰向けて天を見上げるように倒れた時を思い出す
今回は船では無く、冥界の何も無いが僅かに明るく綺麗な夜空を見上げている
「兄さん!イヤッイヤッー!死なないで!!誰か!誰かー!!」
必死に泣き叫びながら誰かを呼ぶ霊夢の声が聞こえた様な気がした
血を失い過ぎたのか、目を開いていても景色が徐々に暗くなり始めているようだった。目を細めても見えない
あの子がいない・・・あの子が見えない・・・泣き叫んでいたようだったが守れていなかったのだろうか?
分からない・・・あの子は無事なのだろうか?
小夜は左腕を動かして手探りで霊夢がいるであろう場所に手を伸ばし、彼女の頬に手を添えるように触れた
「ッ!・・・・!」
居た・・・声まで聞こえないが確かにそこにいる
何度も触れた事のある髪と柔肌の頬、そして目から零れ落ちる涙の感触
そして、生きているのだと実感させる体温の温かさと呼吸の息
あぁ、守れた・・・あの子は、生きているんだ
ただ、それだけが分かっただけでも内心からあの時の様に嬉しかったという感情が湧き出てきて、口が自然に笑みを浮かべる
そしてそのままゆっくりと言葉を霊夢に告げた
よかった・・・ぶじで