海上を走る灰色の艦船
提督さんが艦船の護衛だというからどんな船かと思えば、海上自衛隊の補給艦で多くの食料や物資を積んでいるらしい
私達のよく知ってる間宮さんや伊良湖ちゃんの後継艦、と言ってもいい
一応自衛用として少し武装もしている
深海棲艦にはまるで通じない気休め程度のものだけど
そんな補給艦を中心に私達は輪形陣を組んで進む
先頭は旗艦である大淀さんが、
陽はもう西に傾いている
もうすでに物資を届けること自体は終わっていてこれはすでに帰路だ
「七時の方向に敵艦隊を確認。数は六、ヌ級が二体確認出来ます。まだ距離はありますが……あ、気付かれましたね」
「瑞鳳、瑞鶴両名共に急いで航空機を発艦させてください!」
無線から古鷹さんの声が響く
飛ばしていた水偵が敵艦隊を見つけたらしく、具体的な敵艦船の種類まで分かったのはありがたい
距離があり、まだ向こうが気付いていないのであれば戦闘を回避するという手もあったがそうはいかないらしい
護衛船の向こう側から砲撃音が聞こえ、上から黒い何かが一機落ちてくる
敵の偵察機だ
艦隊に緊張が走る
大淀さんは無線の向こうで補給艦に戦闘に入ることを伝えた
私は矢筒から矢を取り出し、弓を引き、矢を放つという行動を三度繰り返す
空中で矢が弾け、多数の艦載機が空へと飛び立っていく
『七時の方向に敵影六。空母がいるから制空権の取り合いになるわ、気を付けて』
私達空母は艦載機を操縦する妖精さんと頭の中でやり取りが出来る
原理は私自身よく分からないし、テレパシーとしか表現しようがないこれは航空機を運用出来る艦娘だけの能力だ
これがあるからこそ規模にもよるけど指示や運用、妖精さんの操縦技術次第では旧式の戦闘機でも最新の物を叩き潰して完勝する場合だってある
先輩達が口を揃えて言う「ただ発艦させればいいというわけじゃない」というやつだ
妖精さんは私の言葉を聞くと意図を直ぐに理解してくれる
艦戦が先陣を切るように陣形が変わった
「瑞鳳、発艦完了しました!」
「私もです」
こっちの位置がバレて、かつ相手に軽空母がいるんだったらまず間違いなく向こうも戦闘機を飛ばしてくる
そうなると艦上戦闘機による制空権の取り合い、ドッグファイトが始まるはずだ
更にその合間を縫って私や瑞鳳の艦攻や艦爆が敵船を潰しにかかる
勿論向こうもそうだろう
私は進路を敵船がいる七時の方へと変える
妖精さんがドッグファイトで勝つには私の指示は欠かせない
相手は戦闘機だけじゃない、下から対空射撃もあるんだから
「古鷹さんと子日ちゃんは二人のサポートを! 私と天龍さんで補給艦の護衛をします!」
「魚雷来るかもしんねぇからな! 上ばっか見んなよ、空母二人!」
大淀さんと天龍さんが補給艦を安全圏へと誘導するために舵を切る
私や瑞鳳よりも早く、サポートに回るよう指示された二人が敵艦船がいる方向へ疾走し、砲塔を上へ向けた
「敵航空機発見、航空戦開始します!」
古鷹さんはそう言って右手の艤装を空へと向ける
轟音と共に黒煙を吹き出し、艤装から放たれた砲弾が敵航空機の一機を貫いて撃ち落とした
それに合わせて瑞鳳の航空戦隊が高高度へと上昇する
本格的な航空戦が幕を上げた合図だ
「だいぶ敵さんも近くに来てるねー。軽母二、重巡と軽巡が一、駆逐が二かなあ」
上空で縦横無尽に航空機が駆け回り、時折敵艦爆が落とす爆弾が降ってくる中、子日の緊張感の欠片も無い普段通りの子どもっぽい声が聞こえる
辺りを見回すと確かに水平線の向こうから六体の深海棲艦がこっちへ向かってるのが見えた
私は矢筒から矢を引き抜いて放ち、飛び立った艦載機に指示を出す
天山が機銃の雨を掻い潜って敵艦隊の方へと向かった
「っ!?」
頭の中に響くSOSの信号音
空を見上げると私の艦戦が敵艦戦に追い回されていた
ギリギリのところで躱すのが精一杯で反撃なんて無理
躱すのも限界に近そうだ
急いで矢を取り出して構え、射る
「あ、やばっ!」
狙った場所に矢が行かない
新たに発艦した艦戦は狙いとはズレた場所へと飛び立った
ここにきて加賀さんの言う粗さを痛感した
航空戦では一秒でも早く動くことが大切だ
狙った場所に艦載機を発艦させてあげれなくてはコンマ数秒の世界だと命取りになる
だからこそ私達空母は視野を広く持って常に周りの情報を確認しとかないといけない
私は遅すぎたし、粗すぎた
実際これじゃいくら妖精さんが頑張っても間に合わない
撃墜されても妖精さんは死なないから命は心配いらないはず
ただやっぱり心象的にいい気はしないし、制空権的にも出来る限り操縦している子を守りたい
「!」
私がどうすべきか迷う中、艦戦を追い回している敵艦戦を真下からけたたましい機銃の音を響かせて別の艦戦が突撃して撃ち落とす
瑞鳳の艦戦だ
「制空権取りました!」
力強い瑞鳳の声が聞こえる
その声と同時に高高度から多数の艦爆機、彗星や九九式艦爆が接近する相手艦隊へと急降下して爆撃を開始した
艦娘はそれぞれ戦い方に好みがあるらしく、瑞鳳は艦爆で辺り一面に絨毯爆撃を行う戦法が好みらしい
可愛い顔して中々過激なことをする
降り注ぐ爆弾とそれが爆発する度に巻き上がる水柱の合間を縫って、私の天山が海面スレスレを駆け抜ける
『らいげきをかいしします』
頭の中で声音は違うけど子日のようなあどけない声がした
それと同時に私から発艦した天山十機が魚雷を発射
迫る敵艦隊の駆逐一体をぶっ飛ばし、軽巡一体も煙を上げて歩みを止めた
「瑞鶴さんと瑞鳳さんの航空隊の攻撃で駆逐二体撃沈、軽巡一体中破です!」
「敵空母を優先的に叩いてください! 敵機の発艦を止めるのが最重要です!」
こちらの艦隊で最も相手に接近している古鷹さんが私達の爆撃、雷撃の結果を大淀さんに伝える
残すと結構厄介と言われる駆逐を沈め、軽巡も中破
開幕戦にしては中々の戦果だと思う
ただだからと言ってこれで終わりじゃない
私は妖精さん達の中で天山を操縦している子達には戻ってくるように指示を出す
まだ敵空母は健在なわけで、空中戦は終わっていない
次に臨むためにも一旦航空隊の隊列を立て直すべきだ
大淀さんから空母を優先的にと指示が来る
当たり前だ、空母が生きてたらここで私達がくい止めても護衛対象に攻撃される可能性は消えないから
「重巡はねのひが引き付けるね! 皆はヌ級二つお願いですー!」
子日はそう言うと速力を上げて重巡リ級に突撃した
私は戸惑う
普通に考えて駆逐が重巡と真正面から殴り合って勝てる見込みは少ない
引き付ける、それだけかもしれないが、それでも子日は相手から一撃もらえば中破以上にもっていかれる可能性が高く、逆に子日の攻撃が相手に対して有効打になる可能性は薄い
分が悪すぎる
なのに誰も子日を止めない
「瑞鳳さんは子日ちゃん、瑞鶴さんは私のサポートお願いします! まだ相手の艦載機はいくつか健在なので制空も気にしながらお願いします! あと天龍さんが言っていた通り魚雷もまだありますので気を付けてください! ヌ級は私が落とします!」
無線から凛々しい古鷹さんの声が飛んでくる
普段はおとなしくて色んな子の面倒を見ている姿をよく見ていたけど、こんな声も出すんだ
二人はそれぞれ獲物と定めた相手に向かって突撃する
……おかしい
私達は艦娘、艦船だ
砲雷撃戦が基本の戦闘方法なのに、二人は近すぎる
「瑞鶴さん! 敵機が来ます! 艦戦をお願いします!」
「!」
急いで発艦している全艦載機に古鷹さんのサポートに向かわせる
そこで古鷹さんがわざわざ艦戦と指定していたのに焦って天山なんかも向かわせたのに気づく
慌てて私は天山達には様子見させるように指示を出した
ついでに一本矢を取っていつでも増援を出せるようにする
ヌ級に向かって一直線に向かう古鷹さん
既に相手は射程に入っているのに一向に撃たない
敵艦載機が飛んでくる
勿論古鷹さん狙いだ
「良いサポートですね! 流石は期待の新人さんです」
爆撃に雷撃
敵機がそれぞれの手段で古鷹さんを沈めようと動く
が、私の艦戦、52型が許さない
急降下して機銃を斉射、ハチの巣にして撃墜していく
多くの空母は接近戦には極端に弱い
だからこそ艦隊決戦では駆逐艦のような艦船が護衛につくことが多いし、接近されないためにあらゆる手を尽くす
ヌ級だってそうだ
頭上で護衛として複数の機体が旋回している
そこに真正面から突っ込むのはリスキーとしか言えない
なのに古鷹さんはなんの躊躇いもなく進む
「瑞鶴さん、妖精さん達に私の砲撃が終わった瞬間にヌ級へ強襲するようにお願いしておいてください」
「え!? わ、分かった! ……です」
護衛機として飛んでいた敵機が動く
早さも小回りも私達艦娘よりずっと優れている
私の艦載機達が古鷹さんの周りを飛んでいるとはいえ、完璧に敵機の攻撃を防ぐのは無理だ
増援を飛ばすか……でも間に合わない
何をすべきか判断しかねる私の耳に古鷹さんの優しい声が届く
支援が遅いとかじゃなくてホッとした
とりあえず言われた通りの指示を出す
「主砲狙って……撃てぇ!」
敵機が迫り、魚雷や爆弾を放つその瞬間、古鷹さんが動きを変えた
すなわち、今までただひたすら前に進んでいたのに突然ブレーキをかけて思いっきり真横、右に跳ぶ
真正面から突撃してたわけだから敵機もそれにぶつかる形で彼女を沈めようとしてたわけで、魚雷も爆弾も右に跳ばれては当たらない
しかも思いっきり引き付けてたわけだから漏れなく全弾発射している
まさか避けられるとは向こうも思っては無かっただろうし
……無茶苦茶だ
体にかなりの負担が掛かるだろうし、そもそもの発想もおかしい
そして何より、横にすっ飛んだ状態で右腕を相手に向かって掲げてちゃんと照準を定めているのがおかしい
二度、轟音が辺りに響く
まさかの連撃
しかもばっちりヌ級二体に直撃し、黒煙を上げて動きが止まった
中破は間違いないと思う
空中で意味不明な二連撃を放った古鷹さんは発砲の衝撃でグルンと一回転
ただそれも折り込み済みだったようで、その回転を利用して体を捻って見事に着水
ただやっぱり勢いは殺せないらしくド派手に水飛沫を巻き上げながら後ろ向きに水面を滑る
そしてその光景に呆気に取られた私とは違い、私の艦載機達はちゃんと指示通り古鷹さんの斉射と共にヌ級を強襲
結果的に海へ沈めたのはこの子達だった
「まだ敵機は残ってますよ!」
まだ完璧に止まっていないまま左肩の上にある副砲が火を吹く
母艦が沈んだからと言って敵機が消滅するわけじゃない
せめて道連れに
そう思ったのかそれともただの追撃だったのかは分からない
ただその副砲の砲撃で先ほど雷撃や爆撃を外しながらも急旋回し古鷹さんを追っていた残りの敵機も撃ち落とされていく
「あ!」
のだけど、流石に大勢もあまり良くないからか全部は落ちない
数機、砲撃を掻い潜って殺到する
私は急いで艦載機に撃墜するように命じたがちょっと遅い
「無駄無駄無駄ぁー!」
間の抜けた明るい声と共に残機が水底に沈んだ
子日だった
「……ありがとう、子日ちゃん。そっちも終わったの?」
「重巡一体と中破した軽巡だからすぐ終わりましたー。瑞鳳さんもいたし!」
子日は水上を跳ねるようにヒョコヒョコと移動し、古鷹さんの隣で笑う
私は急いで辺りを見ると確かにもう深海棲艦はいなかった
「こちら古鷹、敵艦隊の殲滅完了しました」
「了解しました。合流しましょう」
あれほどの無茶苦茶な戦闘をしたというのに全く呼吸は乱れていない
落ち着いた声で無線で連絡を取る
私がサポートしていたと言ってもそれは本当に些細なもので、結局あのヌ級二体は古鷹さん一人によって沈められたと言っていい
……その練度に至るまでにどれほどの海戦を越えて、どれほどの死を見てきたのだろう
「お疲れ様です皆さん。輸送艦は無事です、帰りましょう」
艦載機を着艦させ矢に戻し、護衛に回っていた二人と合流する
大淀さんは私達の状態、無傷ということにホッと胸をなで下ろしていた
旗艦である自分の判断で敵の殲滅に向かわしたのだから、何かあればその責任は彼女が背負う
皆が無事である、そのことに安心したらしい
「……いや、まだだな」
天龍さんが腕を組み、ため息をついた
砲撃音が鳴る
子日が右手に嵌めた砲を空に向けて撃っていた
さっきも見た黒い物体が落ちてくる
「増援だねー」
「大淀か古鷹、水偵飛ばしてるか? 俺の電探じゃ数は分かっても艦種は分かんねえからな。ちなみに数は五で二時の方向だ」
大淀さんの表情が一気にまた固くなる
天龍の電探で数が分かるということは、もうそこそこ接近されているということになる
古鷹さんが右耳に手を当てた
「ヲ級が一、リ級が二、駆逐ロ級のエリートが二です」
「増援が遅すぎない?」
「増援って言うよりはこっちを連戦に持ち込んで疲労させて一人でも多く沈めたいんだろうよ」
哨戒させていた偵察機をすぐさま向かわせたらしく、すぐに敵艦隊の編成が分かった
流石としか言いようがない速さだ
ただ一つ納得いかない
仮にさっきの艦隊が深海棲艦特有の信号か何かで近くの仲間に連絡を取っていたとしても、間に合うか間に合わないかくらい分かるはず
そして、間に合わないと分かったら諦めないの? 僅かな可能性にかけて助けにくるほど仲間想いなの?
私の疑問に天龍が何とも言えない笑顔を浮かべて答えてくれた
これは連携でもなんでもない
向こうはただ私達を沈めたいから来ただけだと
「弾薬や艦載機の残機の確認お願いします」
「瑞鳳、十機未帰還で残り二十です」
「えっと……五十二機です」
急いで矢を数える
思ったより減っていてなんとも言えない気持ちになった
「それでは私と瑞鶴さん、古鷹さんで相手を……」
「待ちな、電探に別の反応がある。また七時から三だ」
「……挟撃ですか、ややこしいですね」
大淀さんが作戦指揮を行おうとするけどその前に天龍が遮った
……挟撃
今度は向こうもちゃんとした戦略を練ってきたのか
大淀さんの表情が曇る
当たり前だ、初めての旗艦でこんな状況になるなんて不運というか試練というか、歓迎出来ない事態だ
一隻とはいえ補給艦を守りながら二つの艦隊と戦うのは難しい
まして旗艦の大淀さん自身を含め半分は大した戦闘経験すらない
こうなるともう誰かが沈む可能性さえある
ふと、記憶が浮かぶ
別に突然今になって思い出したわけじゃなくて、今までも頭にあった記憶の中の一つのページがなんとなしに開いた感じ
思えば私は昔、多くのものを、死を見てきた
「……私が囮になります」
「は?」
「私が二時の五体を引き付けます。皆さんで残りの三体を殲滅してその後加勢お願いします」
「あなた何言って……あ! こらっ、待って! 瑞鶴さん!」
こういう時一番有効なのは誰かが片方を引き付ける、囮作戦だ
そしてそれに一番向いてるのは多分私
練度が一番低くて、失っても最も鎮守府にダメージが少ないから
囮になるのは慣れている
なぜなら私、空母瑞鶴が沈んだ理由は囮作戦の囮になったから
全ては戦いに勝って仲間を守るために
あの時私はもうほぼ艦載機は無くて、艦載機の無い空母などそれはもはや刃の無い刀だ
私は正に
だから私は囮となってその役目を全うした
そういえばその時彼女、大淀さんにはお世話になった
今こそその借りを返すべきだ
鎮守府で読んだ資料によると艦娘は全て工廠で建造されて生まれるらしい
私もそうだったし、きっと他の子もそうだ
そしてその建造には幾つかルールがある
一つ、ある艦娘が鎮守府にいる場合、同一の艦娘はいかなる場合でも建造されない
一つ、ただし在籍していた艦娘が轟沈した場合、後日同じ名を持つ艦娘が建造されることはある
だから私がここで沈んでも、資源資材を用意さえすれば後日艦娘・瑞鶴は再び建造される可能性はゼロではない
今度はもっと愛想の良い瑞鶴が来れば皆も、加賀さんも、提督さんも嬉しいだろう
大淀さんの静止を無視して水面を滑る
立て続けに弓を引き絞り、矢を放ってありったけの艦載機を発艦させた
「ちっ、こんな状況どうとでもなるのに勝手に生き急ぎやがって! しかもペーペーにありがちな自己満足的な発想だ。大淀、俺があいつを」
「いえ、私が行きます! 戦歴の長い三人で七時の増援三体を可能な限り早く殲滅してください! 瑞鳳さんは護衛お願いします!」
「……お、おぅ」
「わ、分かりました!」
無線から皆の声が聞こえる
自己満足的だと天龍がバッサリ私の行動を斬り捨てた
確かにそうかもしれない
でもだからと言って引き返すつもりはない
七時の方向にいる敵艦隊がどんな編成かも分からないんだ
偵察機で確認するにしても時間がいるし、そんな時間はもう一方にも敵がいるんだから無い
だったらなるべく大人数で仕掛けた方が安全だ、それは間違いない
そして向こうを皆で叩いてる間にもう一方が補給艦に到達しないように私が盾となるのも正しいはずだ
相手に空母がいるんだったらこっちも空母で航空戦力が盾を飛び越えないようにしないと意味がないから
「止まりなさい瑞鶴! 返事しなさい!」
無線から大淀さんの声がする
初めて呼び捨てにされた
『全機爆装、標的は空母ヲ級。……ごめんね私の無茶に付き合ってもらって』
いの一番に空母を潰す
それが海戦のセオリーだ
発艦した艦載機達が隊列を組んで水平線の先にいる集団へ飛んでいく
勿論向こうも何もしないわけはない
黒の群れが私の艦載機達を迎え撃った
私は操縦する妖精さん達に一言謝ってから空戦の指示を飛ばす
数も妖精さんの操縦の練度も負けてはいない
加賀さんを筆頭に空母の先輩達にはまだまだ粗いと言われるけど、ヲ級一体程度に後手に回るほどの甘ちゃんじゃない
心の中で鍛えてくれた加賀さんにもお礼を言っておく
「瑞鶴! あなた向こうの決着つくの待つ気無いでしょう! 空母が突撃とかどこの冗談ですか!?」
大淀さんの悲鳴染みた叫び声が耳をつく
彼女の言うことはもっともだ
空母は接近戦が苦手で、開幕の航空戦以降は後列で戦うのがセオリー
さっきの戦闘もそうだったし、私の指導をしている加賀さんもそうだ
でも知ってる
うちの鎮守府にはイレギュラーなのが一人いる
たまたま一度見ただけだけど、確かに接近戦をものともしないどころか、状況によっては自ら突っ込んで殲滅する戦い方をする人が一人だけいるんだ
私が今ここでそれをしても付け焼刃ですらない酷いものだろう
でも頭の中にイメージはある
アウトレンジで決めれないならいっそ近付いて潰す
「大馬鹿よ! 神風にでもなったつもり!?」
もうはっきりとそれぞれの敵の顔が見える
上空では機銃の音や爆発音が聞こえ、時たま落ちてくる爆弾や魚雷を、相手の砲撃を避けながら接近していく
狙うはヲ級
どっかの誰かさんみたいなその冷めた顔を今すぐ焦りで歪ませてあげる!
『せいくうけん、とりました』
妖精さんの声が聞こえる
私が空を獲った
だからといって勝ったわけじゃないけど、これで一応第一段階は良いだろう
前に進みながら残りの矢も全て放ち、艦載機をヲ級に殺到させる
他は牽制程度でいい
とりあえず、何よりも、あの空母を沈めることが重要なんだ
「っ!」
左右に蛇行しながら砲撃を掻い潜り、空母以外の艦の攻撃を誘う
対空砲火で艦載機の皆を落とされたら困るから
矢はもう無いし、ということはもう攻撃手段を私は持っていないということだ
新しい生を受けても結局は囮という生き様なのは笑えるけど、これがこの名の性なのかもしれない
左足に敵重巡の砲撃が当たった
痛みが体を駆け抜けて動きが止まる
そういえばこの体で実弾を受けたのは初めてだ
まだ中破にもなってないけど予想以上に痛い
「ヲ級は!?」
動きを止めたのが不味かった
痛みを堪えて走り続けるべきだったんだ
所詮牽制しかしていなかった空母の取り巻き達は見る限り大したダメージは受けてない
それぞれ私に照準を合わせていた
ここまでかあ
せめてヲ級を潰せてればいい
ていうか、潰れてろ
そう願ってヲ級の方を見るが、健在だった
向こうも向こうで動き回り、私の艦載機の猛攻をなんとか躱し続けてる
「ちっくしょう……」
結局ヲ級の補給艦への攻撃を封じている点くらいしか仕事という仕事が出来ていない
命張って所詮この程度とは
やっぱり戦いは非情だ
「なに小破程度で死を覚悟した顔してるんですか、馬鹿も大概にしてくださいこの鳥頭!」
私に狙いを定めていた四体のうち三体が水面下から飛んできた何かに当たって爆発した
水柱が上がる
……魚雷だ
突然の雷撃に唯一魚雷が当たらなかった重巡リ級も真横で水柱が上がったからか砲撃を結局行わなかった
「ほら、掴まってください! 私雷撃はダメなんです、派手に爆発しましたけど絶対大したダメージ入ってませんから!」
大淀さんがヌッと後ろから現れて私の左腕を掴んで引っ張る
口調は厳しいが表情はそこまで険しくない
「だいたいヲ級を狙うのは良いですが敵の艦載機普通に補給船の方に飛んで行ってましたから! 制空権取ったって敵機が全滅したわけじゃないでしょう! 撃ち落としてたせいで追いつくのに遅れましたよ! 本当は私の方が足早いのに!」
一度敵艦隊と距離を取りながら怒られた
……決死の覚悟で突っ込んだのに結局本当に仕事と言う仕事が出来てなかった
「……どうして来たんですか」
勿論無線から声は聞こえていたから来ていたのは知っていた
自分のことながら我儘で最低だけどポツリと口から出たのはそんな言葉
「仲間だからですよ、なに勝手に一人だと勘違いしてるんですか! それよりも敵艦隊を……あれ、リ級とロ級が一体ずつ沈んでる? まあいいです、運が回ってきましたね。残りも叩きますよ!」
魚雷の爆発で立ち昇った水が細かい雨のように降る中、無傷のリ級と小破にすらなっていないロ級が一体ずつしか現れた
当たった三体のうち二体は細かい雨の奥で沈んでいくのが見える
無傷のリ級は魚雷が当たってないから健在なのは分かるが、大淀さん自身が大したことないと言っていた雷撃がまさか二体も沈めるとは
本人も少し驚いている
だけどそこでただ喜ぶのではなくすぐさま切り替えて残りに目を配るのは流石だ
「大淀! 真上に来てんぞ! 視野せめぇぞ!」
無線から天龍の怒声が聞こえる
ハッとして上を見上げるとヲ級の艦爆が爆弾を投下したところだった
これは間に合わない
「しまっ……!?」
私は咄嗟に腕を頭の上に組んで少しでもダメージを軽減するようにする大淀さんの体を抱き寄せ、私が上になるように体を乗せる
全艦載機を発艦した私はもう盾になるしか存在理由がないから
背中の上で爆発が起きる
視界が一瞬真っ白に染まり、刺すような痛みが体の中を駆け回り意識が飛びそうになる
たまに中破や大破して帰ってくる子を鎮守府で見たけどこんなに痛いものなんだ
「瑞鶴さん!?」
「くっ……かすり傷よ。それよりも深海棲艦を!」
バレバレのウソだ
でも大丈夫だと言って無理矢理前を見る
私の心配よりも先にやることがあるんだ、構ってもらわなくていい
相手がこの私達の明らかな隙を見逃すはずない
案の定こっちに二体共に主砲を向けていた
「ったく、無茶しやがって! 最近の新人はなんでこうもじゃじゃ馬ばっかなんだよ、おい!」
突如後ろから刀が飛んできて、主砲を構えるリ級の首元に突き刺さる
更に複数の砲撃音と共に隣のロ級も煙を上げた
「子日ぃ! 刀くれ!」
「はーい!」
私の横をピンク色の風が駆け抜けた
刀と砲撃を受けて体勢が崩れ動きもしないリ級とロ級の方へと肉薄し、まずはロ級に一発トドメを刺して水底へと送る
さらにリ級の後ろへ回り、その背中越しから連続して砲撃を行ったらしく、砲撃音が何度も聞こえた
背後で、しかも多分至近距離から連続で砲撃を受けたリ級はその衝撃で私達の方へと回転しながら飛んでくる
そこに天龍が追いつき、飛んできたリ級を拳で一発殴って海面に叩きつける
そして水面に浮かぶリ級から突き刺さった刀を引き抜き、腹にもう一度突き刺した
これがトドメになったんだろう、断末魔も上げずに水底へと消えて行った
「さぁて、後はあれか」
天龍の眼帯で隠れていない方の目がギラリと光る
「……向こうは片付いたんですか?」
「おぅ、雑魚だったよ」
私を抱きかかえながら大淀さんが尋ねる
眼鏡の奥の瞳は驚きの色に染まっていた
……確かにこっちに来るのが私の、そして多分大淀さんの予想より遥かに早いから
「見た感じヲ級は小破してるかしてないくらいか。あんだけ攻められてるのにやるじゃねえか」
手に持った刀を左肩に乗せ、天龍は笑う
視線の先にはヲ級が私の艦載機の猛攻を器用に躱しながら応戦していた
しかもチラリとこっちを見ると数機私達の方へ飛ばしてくる
「といあえず古鷹が瑞鳳と一緒に護衛に付いたし向こうは大丈夫だろうよ。あとはあいつだ」
飛んでくる敵機が私達に到達する前に黒煙を上げて落ちていく
子日の対空砲火だ
「まあもう詰みだ。見とけよ!」
そう言って天龍が一気に加速した
狙うはヲ級
背中の艤装にある砲がヲ級の方を向き発砲した
が、砲撃音が聞こえたからかヲ級はこっちを見ずに進行方向を変えて上手く避ける
「ちぃ、子日! あいつの動きを止めてくれ!」
「子日アターック!」
天龍の指示に素早く反応した子日は落ちてくる敵機の方へと行く
そして思い切りよく水面を蹴飛ばし、跳んだ
右足を真横に一閃、墜落してきた敵機のうち一機を蹴飛ばす
古鷹さんといい子日といい、なんでここの人達はこんな突拍子もない動きが出来るのか分からない
「良いシュートじゃねえか! 提督とサッカーでも見てたか!?」
蹴り飛ばしただけだから当たり前だけど砲撃音なんて無い
どちらかと言うと私の艦載機の攻撃を避けるのに神経を割いているヲ級にはこのイレギュラーすぎる攻撃なんて頭に無いだろう
だから、黒い部品か何かを撒き散らしながら飛んでくる自らの艦載機を避けることなんて出来なかった
頭の上にある黒い傘のような部分に直撃し、ぐらつく
そしてその瞬間を天龍が見逃すはずなんてない
子日の艦載機シュートを褒めながら主砲を斉射、砲弾の雨をヲ級にぶつける
「よぉ、良い感じに焦げてんじゃねえか。硝煙の匂いが最っ高だなぁおい!」
凶暴な笑みを浮かべながら天龍は撃ち終えた後も終わらない
ヲ級の傍まで近づき、手に持った刀を上段から振り下ろした
右肩口から縦に一本線が入る
そのまま後ろに倒れ、結局立ち上がることなく沈んでいった
「さぁて、ようやく終わりだ。帰んぞ! おら大淀、旗艦だろシャキッとしろ!」
刀を鞘に納めて天龍がニヤリと笑う
隣の大淀さんを見ると呆けた顔で固まっていた
……まああんな無茶苦茶な戦闘で、しかもあっさり倒したんだからこんな顔になる気持ちは分かる
というか私も多分似たような顔だろう
「……」
謝らないといけない
皆私を助けるために来てくれたんだから
なのに、言葉が喉に詰まって出てくれない
なんで
出撃前の加賀さんの時と同じだ
「まあなんだ、お前が今思って、困ってることは分かるぜ。俺もそうだったからな。だからそうだな、お前が言葉に出来るまで急かさずに待っといてやるよ」
大淀さんが先導するために私から離れる
合流前にもしかしたらまた何かあるかもしれないから単縦陣を敷いて警戒はする
殿に移動するためか私とすれ違った時に天龍が耳元でそう言った
前にいる子日がチラチラ私を心配そうな顔で見る
どうしてこの人達は無茶苦茶な行動をとった私を叱らないんだろう
どうして責めないんだろう
補給艦と合流した時に私が生きてることに安心したのか瑞鳳が良かったと言って抱きついてきた
この子もなんで心配はしても嫌な顔はしないんだろう
結局私は帰投するまでに謝罪の言葉は言えなかった
そして誰もそれを責めなかったし、指摘もしなかった
世界観解説?
空母・軽空母のスロットとかの今作での仕組み
建造時に艦娘、艤装と共に妖精さんがスロット数と同じ分だけ来る
今の瑞鶴は改ではないためこの場合ゲーム通り75人? の妖精さんが瑞鶴と共に鎮守府にやって来ました
この妖精さん達が艦載機を操縦します
また装備を変更したら、例として天山から流星に変えた場合、機体だけを変えるので操縦する妖精さんは変わりません
また艦娘の練度と共に妖精さんの操縦技術も上がり、なんかすげえ頑張ったらいわゆる熟練のアレになる感じです
決して二航戦牧場によって増えるわけではございません、世界観的に
したがって江草隊のようなネーム付きは彼女達固有の妖精さんです
加賀さんとかは装備出来ません
ちなみに矢一本にどれだけの艦載機が入ってるか、とかはそれぞれ艦娘が調整します
最低は共通で三機くらいということにしときます
だって、瑞鶴とか明らかに75本も矢持ってないんだもん……
あと妖精さんは矢を、もしくは式神を飛ばして発艦した際に工廠あたりからワープして搭乗、操縦します
撃墜されたら工廠あたりにワープして戻っていきます
理論は不明です
可愛いからね、死んでほしくないんですあの子達
建造について
全ての艦娘は建造によって誕生します
酒匂も野分も初風もローマも建造で来ます
羨ましい
用意する資源などを調整してある程度艦種を狙うことは可能ですがやっぱりそこは運です
あと作中で瑞鶴の言う通り同一の艦娘かぶりは起きません
ただし資材用意したからはい建造! てのは出来ない感じです
要は建造は資材を用意したら理論上全ての艦娘は建造可能ですが、提督の任意のタイミングで建造開始出来ない、工廠の妖精さんの気分次第という羅針盤スタイルとなってます
なので敵が来た! 建造! バーナー! 行けえ戦艦! とかは無理です
そんな感じです
てか補給艦じゃなくて輸送艦な気がしてきました