ここに着任して随分と経った
一人で過去の記憶に怯えて人と関わるのを避けてたのが遠い昔に感じる
結局鳳翔さんの指導から加賀さんは逃げられずに私と仲良く一緒にボコボコにされた
加賀さんのあんな姿はたぶんあの時しか見てないし、龍驤もいるなんて聞いてないといつもの五倍は大きい声で騒いでたのもあれ以来見てない
ついでに私は結局空母が近接戦なんてするべきじゃないんだと学んだ
あれはそれこそ超弩級の無茶を繰り返さないと身に付かない
そしてまず間違いなくそんなことしたら大半は沈む
鳳翔さんはどれだけ身を削り、無茶を繰り返し、色んな人に迷惑かけた末にあんな戦い方を習得したのか
考えただけでゾッとする
提督さんが龍驤が泣いて止めても止まらなかったと言ってたけど、つまりそういうことなんだろう
いつもはあんなに穏やかな笑顔を浮かべてて、私だって可愛がってもらってるのに
人は見かけによらないんだなって思った
今日は私は出撃も何もない
日本全国に点在する鎮守府が総力を挙げて多方面に大規模作戦を打って出て日本近海と海上輸送のルート上にあった敵泊地を一掃したのが一週間前
戦争勃発から六年の月日をかけてようやく事実上の勝利をもぎ取ったわけだ
深海棲艦はまだ現れるし、なんで現れるのかも分かってないから戦いはまだ続くわけだけど、これでひとまず一段落はついた
ということで散々だった私の初出撃以降ずっと出撃や訓練を繰り返してたサイクルが崩れ、ここ一週間は暇してる
提督さんが言うには先の作戦で貯めに貯めてた資源資材がぶっ飛んだから空母と戦艦は頼むから寝ててくれ、とのことだ
そしてそのせいで暇を持て余した結果、工廠で今週でもう何回目かも分からない艦載機の整備を済まし、操縦士たる妖精さん達にお菓子をあげた後鎮守府内をブラブラ歩く
艦娘は基本鎮守府から出ない、というか出てはいけない
外出する場合は提督さんが随伴しないといけないというルールがあるからだ
これは『提督』と『艦娘』のルールから出来た規律らしく、規律無視に定評のあるうちの提督さんが守ってる数少ない規律の一つ
その代り鎮守府内にはわりと色々な暇を潰す場所がある
道場、弓道場、ジム、ホームシアターのある部屋、カラオケルーム
提督さんが給与だけはいいという提督業で稼いだお金を注いだ結果だ
ただ悲しいことに一段落ついたし部隊を再編するという話があり、ここから別の鎮守府に全員で引っ越す可能性があるらしい
そうしたら提督さんの給料を注いで作った各施設は新しくここに配属される子達への寄付になるわけで、そのことに気が付いて移動が無いように必死に提督さんが雪風に祈ってたのが三日前
でもどうやらその祈りは天には届かなかったらしく、吹雪が多分移動するから引っ越し見据えて持ち物の整理をしてねと昨日皆に言っていた
「ずっいかっくさーん、今日は何の日でしょー?」
埠頭で釣りでもしようかな
そんなことを考えながら歩いてたら不意に暢気な声が飛んできた
このやり取りも何回しただろう
振り向くと子日が笑顔で立っていた
「……えっと、子日かしら?」
いつかの工廠の裏でのやり取り以外、この質問をこの子がするときは世間は祝日だったり誰かの進水日だったりするんだけど今日は本当に何もない
忘れてるだけ、でもないと思う
だって誰かが進水した日なら間宮さん辺りが何かしらの行動を起こしてるし
だからもう答えは名前ネタしかない
「……はぁ、瑞鶴さんダメダメだね」
「ちょっと何よその顔は? 初めて見たわよそんな顔」
子日はあからさまにはぁ、と大きなため息をついて左右に頭を振る
結構長い付き合いだけどこいつのこんな顔初めて見たわ
「もー、何も成長してないー! この鳥頭ー! 三歩歩いたら忘れるー!」
「なっ!? いい度胸ね子日! あ、こら待て!」
べーッと舌を出し、翻って駆け出す
確かに昔は世話になったけど、なんなのよ
駆け出した子日を追う
駆逐艦は機動力が売りかもしれないけど、高速空母舐めんじゃないわよ
鎮守府本館に入り、大淀さん辺りに見られたら廊下は歩けと文句を言われそうだけど全速力で走る
でも追いつけない
あの子はっや!
「残念、その先は会議室で行き止まりよ!」
階段を駆け上がり、右に曲がる
先にあるのは会議室で行き止まり
案の定子日は部屋の中に飛び込んでいくしかない
これで追いついた
一発デコピンくらいお見舞いしてやろう
「ねーのーひー! 覚悟しなさ――」
「瑞鶴、おめでとう!」
「うぇっ!?」
ドアを開ける
と、そんな言葉と共にパンッとクラッカーの鳴る音が幾つか聞こえる
「瑞鶴せんぱーい!」
「何!? 何!? えっ!?」
いきなり長い黒髪を靡かせて葛城が胸に飛び込んでくる
それを受け止めながら部屋の中を見る
テーブルにはケーキ
クラッカーを持った翔鶴姉と赤城さんが笑ってる
加賀さんもいつも通りの表情だけどクラッカーを持ってた
「今日はねー、瑞鶴さんがうちに着任して丁度二年の日だよー!」
おめでとーございますー!
私の胸に顔を押し付けながらフガフガと葛城が言っている
戸惑う私に横からひょっこり顔を出して子日がそう言った
「本当は一年目に祝うんだけどな、去年はこの前の大規模作戦の下準備が始まって忙しくて何も出来なかったろ? だから二年目に持ち越しちまったんだわ」
部屋の端にいた天龍がそう言ってケーキを持って見せてくる
『祝・二年!』なんて言葉がチョコで書いてた
チョコでも分かる間宮さんの字だ
「あ……ありがとう」
完全なサプライズだった
何か感極まって目から涙が出てくる
二年前
今となっては龍驤さん辺りに弄られる黒歴史みたいになってるけど、私としては結構な問題だった
かつての大戦の記憶が多く頭に残ってて、その記憶が繰り返されるんじゃないかと怯えてた
何も信じず、繋がりを断って、小さなことでも震えてた
周りを見るとこの部屋には同じ空母の皆や懐かしい、私の初めての出撃の時のメンバーがいる
あれだけ初めに迷惑かけたのに今は私のことを祝ってくれる
「ふふ、私より早かったからここだと瑞鶴がお姉さんかしら? 慕ってる後輩もいるし」
「冗談はやめてよ翔鶴姉」
私が皆と打ち解けたあとに着任した翔鶴姉がクスクス笑う
確かに翔鶴姉が着任したのは私の後だし、練度だって私の方が少し高いと思うんだけど、やっぱり実の姉だからか日常では敵わない
「あのひよっ子が今では先輩面ですか、癪ですね」
「人は成長しますからねーだ」
葛城を引き離してそう言った加賀さんに胸を張る
昔は昔、今は今
今では加賀さんの隣に立って出撃することだってあるんだから
「さて、ではケーキを食べましょうか」
赤城さんがパンッと両手を打つ
いつまでも話しててもしょうがない、ということだけど多分本音はケーキ食べたいだけだ
「……そうですね、ではまず主役の口に運びましょう、かっ」
「へぶっ!?」
「せんぱーーーい!?」
「やりました」
加賀さんが天龍からケーキを受け取って、私の顔に叩き込んだ
直撃
クリームが目に入って沁みる
「あはははっ! 傑作じゃねえか瑞鶴! 舞妓か!?」
「……っ! 天龍さん、笑っちゃいけませんよ……っ!」
天龍が爆笑してる声が聞こえる
それを咎める大淀さんだって笑ってるし!
「ちょ、ケーキが!」
「こんだけ部屋に人いてあのサイズで足りるわけねえだろ! ありゃお前の顔用だ!」
せっかくのケーキが
アホっぽいけど思わず出た言葉がそれだった
天龍が相変わらず爆笑しながら答える
……初めからこうするつもりだったのか
「せんぱーい! 大丈夫ですか!?」
「タオルどうぞ」
また葛城が飛びついてくる
古鷹さんからタオルをもらい、とりあえず顔を拭く
ようやく前が見えるようになり、加賀さんを睨む
加賀さんは私の視線なんてどこ吹く風で、いつのまにか出ていた正真正銘の皆で食べる用のケーキを切り分けていた
「わりぃ遅れた! おー瑞鶴、白いな!」
提督さんが部屋に入ってくる
そして私の顔を見るなりそう言って笑う
「なっ!? どーせこれ提督さんのアイデアでしょ!」
もう一度葛城を引きはがして跳びかかる
どーせこれはこの人の企画だ
悪戯好きなこの人らしい
それにノリノリで付き合うのはこの鎮守府らしい
大好きだけど、だからと言って乙女の顔面にケーキぶつけるのはどうなの?
「ちょ、資料にクリーム付くだろ! おい!」
「どーせ碌なもんじゃないでしょ!」
手に持った紙を庇うけどそんなん知らない
とりあえず一発叩いておこう
「アホ言え、ほら、プレゼントだ!」
「!?」
持ってた紙を私に突きつける
「……改装? え、改二?」
「そーいうこった、おめでとう。更なる活躍を期待とかなんたらかんたら的な?」
改装計画と書かれた紙が顔の前でヒラヒラ揺れる
提督さんがすっかり勢いの萎んだ私の頭に手をポンと乗せた
「うん!?」
嬉しんだけど、なんか殺気がして思わず振り向く
鬼の形相の加賀さんがいた
「私や赤城さんより先に改二とはいい度胸ですね五航戦」
「いやお前ら素の性能がぶっ飛んでるだろ」
「提督は黙っててください」
「げえっ!?」
切り分けたケーキの一切れが飛んでくる
咄嗟に避けると後ろにいた提督さんの胸に直撃してクリームが弾けた
あーあ、軍服の洗濯大変なのに
「てめ、よくも軍服汚してくれたな加賀ぁ! 吹雪に怒られるじゃねえか! いい度胸だ、かつて甲子園を騒がせたこの俺の火の玉ストレートの餌食になるがいい!」
「一航戦加賀を舐めてもらっては困るわ。鎧袖一触よ」
甲子園の件はウソだ
提督さんのこのシリーズは神宮だったり国立だったり花園だったりウィンブルトンだったりカンプ・ノウだったりするから
部屋が一層騒がしくなる
「ちょ、提督! どさくさに紛れて格納庫まさぐるのやめて!」
「ごふっ!?」
ギャーギャーとコメディ映画みたい
なぜか瑞鳳の体を探ってた提督さんがぶっ飛ばされる
あ、鳳翔さんがキレそう
提督さん終わったな
改めて部屋の中を見る
皆笑ってる
加賀さんでさえ口元が綻んでて、微笑みを浮かべてる
提督さんとくだらない言い争いしてるけど
ホント、私はあれだけ皆を拒んでたのに
今やこんなんだ
「許さん! 天龍、刀貸せ! 示現なんとか流で切り裂いてくれるわ!」
「はいはい! 私のために二人で争うのはやめてー!」
「何言ってるのかしら五航戦?」
「そうだぞこの甲板胸!」
「あ゛?」
冗談を言いながら笑顔を浮かべてこの騒動の真ん中に飛び込む
辛い記憶から明るい記憶へ
かつて提督さんに言われた通り、記憶を塗り替えていくんだ
艦これは史実に絡めた編成が任務にあったりして人気ですよね
第六とか西村艦隊とか
でも同時にせっかく色んな子いるんだから史実では全然絡みない子達でやり取りさせたらどうなるのか、そういうのを妄想するのも楽しいですよね
ということで、この謎メンツ
もともと「今日は何の日? 子日だよー!」という台詞と、どこかで見た「瑞鶴ってグレててもおかしくねえよな境遇的に」というどっかの書き込みが何故か頭の中で繋がった結果が今作です
荒んだ心の瑞鶴にも容赦なく突っ込んでいけるのは子日だわ、そう思ったんです
戦闘描写はほら、フィクションだし、人の形してるんだからそれ活かそうぜ!
って思ってたらいつの間にか子日が敵機蹴り飛ばしたり、天龍が刀投げてたけどまあいいかなって
長門だって敵殴ってたし、金剛だって砲弾殴って逸らしたし
同様に矢を放つ時だって飛んだり跳ねたりしててもいいと思います
いいじゃん、かっこいいし
そして瑞鶴改二(おそらく決定)おめでとう
あと子日可愛いからどうか育ててあげてください
どうでもいいですが、別に投稿した作品と舞台は同じです
時系列は
瑞鶴着任から出撃→前作→瑞鶴着任二周年です
ちなみに前作には瑞鶴は影も形も出てません