艦隊これくしょん -Blue submarine- 作:イ401
地下拠点へと向かっていた深海棲艦の艦隊を撃破してから、一週間が経過。
今日もまた、己の身体でもあるイ401と妖精達と共に、戦いの海へと赴く──
「お、きたー!!せーの!!」
「…むぅ」
とはなっていなかった。
イオナは肉体的な疲労は存在しないが、妖精達は違う。その為、イ401が出港しない日も存在する。今日はその日に該当していた。
今は10人の妖精と一緒に、拠点に作った釣り場で、ネットワークの情報と妖精のアドバイスで作ったナノマテリアル製の釣り竿で釣りをしていた。
横にいる5人の妖精達が、懸命に釣り竿を支えながらリールを懸命に巻いているその姿は、見る者を魅力する何かがある。しかし、感情そのものが無いイオナは反応しない。
拗ねたような声を出しているが、それはまだ自分の釣り竿に反応が無い事に対してだ。
「せーの!!せーの!!せーの!!ぬぬぬ…」
「「「「「よいしょー!!」」」」」
「ん」
5人の妖精が目一杯釣り竿を引いた瞬間、一匹の魚が水面から飛び出し、同時にイオナのクラインフィールドによって捕獲。
クラインフィールドが動き、水の入ったバケツの上で消失。ポチャンという音と共に魚はバケツの中に入った。
「いおなはまだつれないのー?」
「残念だが…位置がいけないのか、エサがいけないのか…いや、同じ餌で釣れてるんだ。餌のせいでは無いはず…」
釣りを始めて二時間経過した今もなお、イオナにHitは来ていない。にも関わらず、何故かイオナの左右の位置に陣取ってる妖精達の食いつきが良く、既に11匹釣れていた。
──グゥイ!!
「…いきなりこう来るか」
その時、イオナが持つ釣り竿が大きくしなり、イオナはリールを回し始める。
釣り竿のしなりはかなりのもので、既に折れてもおかしくないのだが、全くその気配は無い。
それもその筈。ナノマテリアルで作られた無機物は超硬度を誇り、小石でさえもダイヤモンド並みの硬度となる。たかが大きなしなり程度で、ナノマテリアル製の釣り竿はビクともしない、
そして、回し続けること20秒。遂に水面下まで獲物を捉える。
「…んー?なんだかどんどんかげがおおきく………ってちょっとまってー!!」
「ん?」
妖精が何かに気付いて叫ぶも、イオナは大きくしなる釣り竿を引いていた。
そしてそれに釣られる形で、影も海面に向かって急上昇し。
──ザパァァァァァァァァン!!
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」」」」」
全長4mもの、巨大なサメを釣り上げた。
空中に飛ばされるサメを見て、妖精達は一斉に逃げ出す。
イオナはというと、釣り竿を放り投げて前屈みになり。
──ドンッ!!
その態勢から繰り出されたとは思えない、強力なジャンプで飛び上がり、そしてそこから流れるように。
──ズドォン!!
強力なパンチをサメに繰り出して、その威力で釣り場へと叩き落とし、ピクリとも動かなくなったサメの横に着地した。
「こういう時に一丁上がり…と言うのか?」
あの後、イオナのサメを最後に釣りは終了。妖精が釣り上げた魚とイオナが釣り上げたサメを拠点の冷凍庫に入れ、イオナは拠点のビーチにてのんびりと海を眺めていた。
このビーチは妖精達が自発的に作り、妖精達とイオナの休息の場の一つとなっている。
砂浜や波際には、何十人かの妖精達が泳いだりビーチバレーをして楽しんでいたり、パラソルの下で休憩していたりする姿が見える。
沖を見れば、妖精サイズのボートを漕いでいる妖精もいれば、ビーチから少し離れた崖に作られた、敢えてボロボロにした仮想船に向かって2本の魚雷が航行している姿も見える。
魚雷は自然に減速を開始し、仮想船のすぐそばに停止。魚雷の上部が開いたかと思うと、その中から出てきた妖精がロープを投げ、仮想船へのルートを確保。
ロープを投げた妖精がロープを登り始めると同時に、更に魚雷一本につき15人の妖精が出て来て、素早く乗船。それぞれが様々な道具を背負っており、最後の一人は消化ホースを持っている。
最後の一人が乗船と同時に、妖精達は走り始め、消化ホースによる放水を開始した。
(《野戦修理魚雷》の調子と訓練は順調みたいだな。果たして使う機会が来るかどうかは別として)
──野戦修理魚雷とは、通常弾頭魚雷から爆薬などを取り除いた《輸送魚雷》に専用器具を積み、高練度の妖精が乗り込んで、他艦艇に対し素早い応急修理を行う事を目的とした魚雷である──
(…ん、何だ?)
その様子を見ていたイオナだったが、海上に何か黒い物が浮いているのを見つける。
何となく気になり、海へと歩き始め、波際に到着と同時にクラインフィールドを起動。海面近くにクラインフィールドの道を作り、形成と消失を同時に行いながら向かう。
そして、それが浮いている地点に辿り着き、海面から取り出した。
大きさは70cm四方、厚さ約8cmの黒色の装甲だった。
(この装甲の色…まさか)
イオナの身体に青色の紋章が現れ、スキャニングが開始。
(構成因子不明、モース硬度15(※1)…間違い無い、深海棲艦の装甲だ)
更にイオナは、ここ数日で集めた海流データを閲覧。
(…海流と苔の具合からして、恐らくこの島から半径50km以内で船体から取れた…となると、一週間前の艦隊か)
「一応精査してみるか…きっと何も分からないだろうがな」
青色の輪が消え、イオナは拠点の報告へと歩き始めた。
夜、地下拠点の食堂にて。
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
「頂きます」
妖精サイズのテーブルに並べられた料理の前で一斉に号令をし、イオナも自身のサイズに合わせて作った椅子に座って号令をした。
イオナと妖精達の料理は、釣り上げた魚の煮込み、サメ肉のステーキ、そして白米。
白米と煮込みの材料、そしてステーキのソースの原材料に関しては、何処からか妖精が持ってきて、地下拠点の栽培場で採取した材料を使用している。
ワイワイと妖精達が何かしらの話題でそれぞれが盛り上がっている中、イオナは静かに料理を食べ続ける。
イオナは人間や妖精とは違い、機械の一種とも言えるメンタルモデルの為、食事などを取る必要は無いのだが、「食事」という経験取得と妖精達とのコミュニケーションを深める為に、毎日こうして妖精達と共に食事をしている。
「いおなー」
「ん?」
「ひるにたのまれた、しんかいせいかんのそうこうのせいさがさっきおわったよー。けっかはこんなかんじー」
妖精が背中に背負ってたリュックから妖精サイズの書類データをテーブルに置く。そしてそれをイオナが視覚ズームで閲覧した。
「…やはり何も分からず仕舞いか。精査お疲れ様、これはちょっとした報酬」
サメ肉のステーキを妖精サイズに切り取り、ナノマテリアルで妖精サイズの皿とナイフとフォークを生成。そして切り取ったステーキを皿に乗せて妖精に差し出した。
「わーい!!」
受け取った妖精は喜び、その場でパクリと食べ始める。
それを見ていたイオナの口元がほんの少しだけ緩んだが、それは本人も含め、誰も気付くことはなかった。
用語解説
・輸送魚雷
弾頭部分を取り除き、必要最低限の機能のみを搭載した魚雷。主な運用方法は妖精達の輸送。専用器具を搭載することによって、様々なバリエーションへと変化可能。
・野戦修理魚雷
他艦艇への素早い応急修理を行う為の魚雷。
一本につき16人の妖精、乗船用ロープ、消火器具等を搭載し、少数精鋭で素早く修理を施す事を目的としている。
(※1):モース硬度
硬さの表示の一つで、鉱物に対する硬さの尺度。
モース硬度15は、ダイヤモンドよりも硬い。つまり自然には絶対に無い硬度で、現在でも製造は多分不可能。