深淵の異端者   作:Jastice

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第11話 劇団死期があるゲームといえば?

「正義の、味方…?」

「そ、まぁ詳しく言えばヴァンの知り合い――お宅の守護騎士見習いをしているのな」

 

 無我夢中で行動していて気付かなかったが、この二人良く見ればガルディオス家子息と令嬢だ。

 つまり、今回のホド侵攻戦におけるこちら側(マルクト)の『頭』。

 彼らはその関係者であり、血族。狙われない道理は皆無に等しい。

 

「ヴァン…ひょっとしてヴァンデスデルカの事でしょうか?」

「そうだ、あーとりあえず尋ねておきたいんだが、その当の本人はこの屋敷の何処にいるか知らないか?」

 

 本来ならホド諸島の傘下にあるフェレス島住民で何であれ、一平民である俺が頭を垂れるべきホド領主の正式な次期後継者達。

 だが今は戦場、身分など敵には挙げ首の価値にしか映さない。

 味方ならば話は別だが、俺は彼らに剣を捧げるような騎士としての心構えは生憎携えていない。

 普段通りの口調になるのはごく当然と言えた。

 

「ヴァンは一時間ほど前に外へ行ったよ」

「なにッ?」

 

 おいおいおい! またすれ違いかよ…。

 ここまで廻らない運の悪さが我ながら痛すぎる。

 

「君、ヴァンがどこへ行ったか出来るだけ詳しく教えてくれないか」

「う、うん……」

 

 ガイラルディアが頭に残る記憶を頼りにヴァンの行方を説明しようとした時だった。

 

「探せッ! まだどこかに隠れている筈だ」

 

 複数人の鎧が激しく擦れて出す音がこちらに近づいてくるのを察するや、こうしてる場合ではないと意識的に指示を出した。

 

「ちぃッ! 話は保留だ。すまないが隠れていてくれ二人共。早く暖炉の奥へ」

「御待ちを、あなたはどうなさるおつもりなのですか!?」

「敵を撹乱させて意識を俺に全て向ける。上手く引き付けて誰もいなくなったのを見計らってあんた達は上手くこの屋敷を脱出しろ」

「…何故、なのですか」

「ん?」

「助けて頂いた身でおこがましいとは存じますが、私達とあなたはここで初めて顔を合わせたいわば赤の他人なのですよ? それなのに、何故あなたはそんな私共のために命を張ってくださるというのですか」

「何故かって、そりゃあ簡単な事を――助けたかったから助けた。単にそれだけ、お宅ら貴族が掲げるような誇りや名誉なんて俺からしてみれば犬も食わないもんだし、むしろこんな状況で望む方がどんだけ強欲かって話さ」

「そ、そんな簡単な事で…」

「正直言って誰かを助けるのに一々理由付けてたら却って時間の無駄だ。俺の感じたまま――いわば本能に従う方が割に合ってると思ってるさ。よし、与太話はここまでにしといてと…隠れて隠れて?」

「…あなたのその慈しみ深き精神に感謝を。そして…あなたの御武運をお祈りします」

 

 こうして二人は暖炉の奥へと潜り込んでいった。

 暖炉は構造上、しゃがんで覗き込まない限りは中が見えない筈だしな。

 ある程度は安心出来る、か…。さてと――。

 

「炸裂する力よ、≪エナジーブラスト≫!!」

 

 向こう側の廊下に消耗の少ない小規模の譜術爆発を起こす。

 音に気付いて幾人かがやって来るのは間違いない。

 そこを一気に飛び抜けるッ!

 ドアを抜けると左右の廊下奥からキムラスカ兵が集まって来てるのが目視出来た。

 俺の姿に気付いた途端、声を荒げて捕えようと追いかけてくる。

 

 逃げる中、譜銃を脇に挟んで固定しながら後に向けて撃ったりもする。

 バックショットなんてやってみれば意外と出来るもんだな…。

 とにかく、敵をできるだけ多く誘導してあの二人が逃げる機会と時間を稼ぐ。

 粗方引き付けたらこの屋敷を抜け出そう。

 

 俺は上手く走り続け、辿りついた先は今までの所とは少し違う趣向を凝らした大き目の扉を構える部屋の前。

 ここはまだ調べてない部屋だが…。

 

 ――どうするか。

 

 果たして吉と出るか、凶と出るか――。

 

「南無三ッ!」

 

 意を決して、俺は扉を蹴り破った。

 部屋には二人の男が存在していた。

 そう、存在『していた』。

 一人は鮮血に塗れた身体で佇み、もう一人は冷たくなった身体で床に伏す姿。

 俺はその一方である床に伏した男の姿を見た途端、目を見開いた。

 

「…ガルディオス、伯爵」

 

 ここガルディオスの当主にして、俺らフェレス島の住民における統括者として大いに関係する人物――ジグムント・バザン・ガルディオス。

 彼が命を散らしたという事実――今回の侵攻はキムラスカ軍の勝利であり、マルクト軍の敗北という証明。

 政治家としての経験など皆無に等しい俺には国として負けるという意味に大きな実感は湧かないが、目の前に映る光景が事態を一変させるに十分な代物と理解はしていた。

 戦争の終末――歴史は決まって語ってきた。

 

 

 敗残者の粛清、並びに虐殺――。

 

 

 詰まる所、事態は悪い方向へと下へ下へと直行している。

 

「何者だッ!」

 

 ガルディオス伯爵の傍で佇んでいた男が俺に叫ぶ。

 どうやら俺は招かざる客という訳か。

 それにしても――。

 

「…聖なる焔の光?」

 

 気になる、男の身にこびり付く鮮血の如き深紅色の髪。

 あの髪の色はローレライが言っていた…。

 いや待てよ? ルーク――聖なる焔の光はND2000で生まれた存在。

 つまり、まだ五歳にも満たない幼子だ。

 という事は、あの男はもしや…。

 

「貴様、この屋敷の使用人かッ!? いや、そんなことはどうでもいい。先ほど発した言葉、それをどこで聞いたッ!!」

「――――ッ!?」

 

 しまった、迂闊だった。ルークはまだ一般的には知らされていないんだ。

 嘗てキムラスカにおける市井で出回る部類となる王族の告文記録を調べたが、どこにもルークという名の王族について存在を明かす記録は記されてなかった。

 おまけにルークにおける秘預言の惑星譜石はキムラスカ側が所有している物だった筈。

 マルクト側がその内容を知る手段は無しに等しい。

 国絡みで存在を隠している、俺はキムラスカにおける姿勢をそう読んだ。

 知っているのは秘預言を聴許された立場に就く者達、もしくは俺のように図らずも内容を知った人間。

 

 あの男はそこに気付いてしまったな。俺があの預言の内容を知ってるなんて明らかにおかしいと分かってしまった。

 

「答えよッ!」

 

 どうする、なんとかして誤魔化すか…無理だ、良い考えが思いつかない。

 

 ――下手打っちまったな。

 

「さあね、敵に答えろと言われて「はいそうです」と馬鹿正直に答える奴なんていると思うか?」

「貴様…」

「それに、俺としちゃあそんな事どうでもいいんだ。そこを通してもらう、一刻も早く外へ出たいからな」

「それはならん、この屋敷にいる時点で貴様もまた抹殺対象の一人となる。陛下の勅令に従い、貴様もこの場で斬り捨てるッ!」

「…あんたそうやってこの屋敷の罪のない人達を何人殺した?」

 

 戦争では敵国の民など殺すのは当たり前。

 だけどな、それは政治家や軍人の偏った考えなんだよ。

 この人達はただ静かに暮らしていたかった筈なんだ。

 

 敢えて言わせてやる。

 

 ――よくも皆を巻き込んでくれたもんだッ!

 

「だったら、俺はお前を力の限り――壊すッ!」

 

 殺しはしない。

 

 あんたにはちょっとばかし『痛み』ってのを俺が直々に存分思い知らせてやる。

 

「では、ゆくぞ!」

「そっちこそかかって来やがれ!」

 

 覚悟しろ。泣きわめかせてやりたいくらいに今の俺は燃え上っている。

 怒りという感情をギリギリに抑え、持ちうる限りの実力を目の前の男相手に解放した。

 

 お互い飛び込む最中、俺はまず狙撃譜銃を撃ち込む。

 だが、弾の軌道を読んだ男は剣でそれを軽々と弾いた。

 おいおい、衝撃が少ないとはいえ、高速で飛来する譜弾の軌道を見切るなんてどんな動体視力してんだってば…。

 

 続いて接近戦。

 狙撃譜銃を手にしていては柔術を満足に使えないが、代わりに盾にして使う事は出来る。

 だけど行動が遅くなるからこの手段は接近戦に向かない。

 おそらくこのまま戦っていてもこちらが不利なままだ。

 それに、さすが軍人というべきか、この男…相当に戦い慣れている。

 剣撃は剣を握った事が無い俺でも解るくらい荒めの代物だが、剣技は実戦向きに昇華され尽くした猛攻の剣だ。

 ヴァンが扱うような刃筋をしっかり立てて力強く振るタイプとは違った剛剣というべきか。

 

「ぬぅんッ!!」

「うくッ!?」

 

 休む間も与えない猛攻の剣撃が俺を苦しめる。

 狙撃譜銃を盾にこれを防ぐのが精いっぱい。

 

 強い――さすがガルディオス伯爵と一騎打ちの決闘で勝利した男だ。

 ガルディオス伯爵もまた、アルバート流剣術シグムント派を修めた達人だった。

 並外れた剣士だったのは事実、そんな剣士を相手に目前の男は勝利を掴み取った。

 

 ぐぅっ…駄目、だ…腕が…耐え、きれ――。

 

 その時、数十回目となる剣撃を叩き付けられた所で狙撃譜銃から“ピキッ!”と嫌な音が響いた。

 

「――――ッ!?」

 

 なッ――譜銃がッ!!

 

 壊れ欠かっているのか!?

 

 盾として使ってきた衝撃がもう耐えきれなかったんだ!

 

「や、ば……」

「その首、もらおう!」

 

 しまったッ! 油断した!?

 

 男の切り上げと見せかけて隠されていた本命の突きが俺を襲う。

 

 

 ――間に、合わ、ねえ――ッ!!

 

 

 

 

 

「――ッつ……!!!」

 

 熱した焼きごてを押し付けられているかのような熱が俺を苦しめる。

 右手で握るように押さえ、少しでも激痛から気を紛らわせようとするが、焼け石に水だ。

 その間にも傷口から滲み出る血液は俺の顔を伝って床を点々と染めていく。

 

「…運の良い男だ、とっさに身を引き右目を掠るだけで済ませたか」

 

 男から放たれた上向きの突きは俺の右目に縦一文字の傷を付ける結果となった。

 痛みに耐え、強引に瞼をこじ開けてみるが、よかった…眼球は傷つけてない。

 皮膚を切り裂かれただけか。

 だが危なかった、もし避けなかったらその剣が俺の喉を貫く所だった。

 代償として右目を開けられなくなってしまったが、死ぬよりかはマシだ。

 

 う、く…血が一々目に入って邪魔で仕方がない。

 これじゃあ右目は使えない。

 

「元帥、よくぞ御無事でッ!」

「閣下をお守りしろ」

 

 しかも、向こう側は援軍多数。

 対してこちらは狙撃譜銃を壊され欠け、右目は使えず視野が狭い。

 

 おまけに体力もそろそろ限界だ。

 ここまで来るのに譜術を使いすぎたツケが今やって来たか。

 

 ――ははは…本気(マジ)でやべぇ……。

 

 ――俺、死ぬかも…。

 

 

「手を出すな」

「閣下!?」

「これは私とこの男の戦いだ。我が軍における本来の任務目的が達成された以上、貴殿らが野暮図に加担するべき物ではない」

「ですがしかし――ッ!?」

「私の命令に背くと言うのか。一人相手に多勢でなければ戦えぬという醜聞でファブレの名を、布いてはキムラスカを貶めるつもりか貴様ッ!」

「――――ッ!! ……分かりました」

 

 なるほど、戦士、いや――武士(もののふ)だ。

 あんたもあんたの誇りと大義を懸けて一軍人として戦ってるという訳か。

 

「…悪いな、少しあんたの事を誤解してたよ。血も涙もない殺人者だと単純に考えていた」

「戦場において、侵略される側から見た我々軍人に抱かれる認識は常に覚悟し受け止めている。貴様がそう思うのはごく当然だ。では、再開するようとしよう…少しは休めたであろう?」

「は、ほざいてろ。何が何でも俺の勝ちは譲らねえ」

「その威勢…中々気に入ったぞ、小僧」

「褒めてもなにも出せねぇぞ、おっさん?」

「はっはっはッ!! おっさんか、これはいい! 生まれてこの方そのような呼び方などされた事もなかったものでな! …今更ながら尋ねよう。貴様、名は?」

「――ハイルだ…」

「では改めて私もここで名乗ろう、小僧――いや、ハイルよ。私の名はクリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ。キムラスカ公爵にして白光騎士団元帥ッ!!」

「大層な肩書だな。だけど、戦いにはんな堅苦しいもん必なんざ必要ないだろ?」

「何かとふざけた物言いをしよって…まるで道化師の振る舞いではあるまいか」

「…道化か、それもいい」

 

 道化で結構、異端者で結構…ッ!

 俺は俺が成すべき事をするだけだ。

 

 

 ――さぁ、始めよう。

 

 敵の御大将と戦う事が出来るとは――。

 

 なんて素晴らしい『幸運』だ!

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