深淵の異端者   作:Jastice

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第22話 人間にとって一番危険な技は金的に限る

「ホントにすまん! 俺が悪かった!」

「いいよいいよー気にしなくていいさー」

 

 目の前には金髪の男が脂汗を流しつつ、必死に謝っている。

 それも最終形態DO☆GE☆ZAをしてまでもだ。

 

「もう怒ってないから、そんな事しても何の意味ないよー?」

「ぜってぇ嘘だッ! 頼む、この通りだ!」

 

 手遅れになる前にこの男のご機嫌を直さねば! と金髪の男は焦りながら謝り通す。

 何故こうも必死であるのかといえば…。

 

 

「プギュゥゥゥ――――ッ!!!」

 

 

 俺の腕にはこいつの愛しいペット――ブウサギの命運が今まさに握られているからだった。

 ブウサギの身体からは何やら“ミシミシミシッ!”と歪な音が鳴っていた。

 それは俺の米神に浮かぶ無数の青筋から察して頂きたい。

 

「いや本当に勘弁してください可哀そうだからネフリーを解放してあげてくださいお願いしますからッ!!」

「あ、知ってる? 豚肉って肉を良くほぐして血を抜いてから捌くと新鮮で旨みが増すんだって」

 

 瞬間、金髪の男はこう思っただろう。

 

 ――こいつ、ネフリーを喰う気満々だッ!

 

 俺は表面上は穏やかにしているが、右腕に抱えているブウサギを絞め殺すくらいに全身が力んでいた。

 泡を吹き、青い顔となるブウサギが悶絶するくらいだ。滅茶苦茶痛いんだろう。

 でもよぉ、今の俺がどんな状態か分かってくれればこの行動も至極当然だと判断してくれる筈。

 頬から頬にかけて鼻を跨いだ斜め横に広がる痛々しい打撲痕。

 おまけに雪が体温で溶けて一緒に付いていた泥が滲んで泥水として万遍なく汚された顔。

 

「勘違いでいきなり蹴り飛ばしたのは本当に悪かった! この通り反省してます! だから頼む、ネフリーは、ネフリーだけはあぁぁぁ――――ッ!!!」

「ふ~ん…」

 

 なぜこうなったのかは今から数分前に遡る。

 ここから先は第三者の視点でこの男が辿った記憶を探ってみよう。

 

――――――――――

 

「ネフリー! 俺の大事なネフリイィィィ――――ッ!!!」

 

 その日、金髪の男は必至な形相をして辺りをぶちまけながら何かを探していた。

 木箱をひっくり返すのは勿論、雪積もった木に素手で登ったり、地面を所構わず掘ったりと滅茶苦茶だ。

 それだけ男にとって大事な物なのだろう。行動は大げさだが…。

 

「ま、まさか…俺のネフリーが可愛いからって…どこぞやの奴が攫ってあの毛並みの綺麗なネフリーの身体に(以下省略)――な事をッ!? うおぉぉぉネフリー!! 今待ってろおぉぉぉッ!! すぐ助けてやるからなあぁぁぁッ!!!」

 

暴走する金髪男は全力疾走でさらにヒートアップしながらここ――銀世界の街を探し回るのであった。

 彼の愛しのブウサギが見つかるのもそう遠くない未来だろうと思われたが、天というのはどうやら悪戯好きのようである。

 

 

「いない! いない! いったいどこなんだネフリイィィィ――――ッ!!!」

 

 どれ程の時間が過ぎた事か。一向に探しても見つかずにいた。

 やっぱり誘拐か と考える男はそうした犯人を絶対に許さんと言わんばかりの激情を募らせていった。

 

 ――俺のネフリーを怖がらせたらその報いがどんな物かその身に刻んでくれるわッ!!

 

 視覚化する程の真っ赤な炎をその身に燃え上らせる。

 錯覚かもしれないが、周りの雪が溶けてきているような気も…なくない!

 

「うぉ、どうしたお前いきなり!?」

「ブ――――!!」

 

 ――この声は!?

 

 その声の方を向いてみると、青髪の男が己の大事な大事な(大切なのでここ復唱)ブウサギを掴んでるではないか!

 しかも、そのブウサギは暴れている…。

 瞬時、男はその場面をこう考えた。

 

 

【このやろう、てめぇ大人しくついてきやがれ!】

【ブ――――(助けてーご主人様あぁぁぁッ!!)!!】

【ぐへへへ…さぁ~て、どう扱ってやろうかな~?】

【ブ――――(うわあぁぁぁん!! 怖いよおぉぉぉッ!!)!!】

 

 

 ――判決、死刑!

 

「てんめえぇぇぇッ!!」

 

 妄想が終わるや、すぐさま男はその場へと勢いよく向かって行った。

 そのまま青髪の男が振り返るのと同時、勢いよく飛び上がって両足を鋭く伸ばしながら迫る。

 早い話がドロップキックだ。

 男のドロップキックは見事、誘拐犯――ではなく、我らがハイル に“めめたぁッ!”な効果音と共に炸裂し、雪の大地へと転がしていった。

 

「うぼぁぁぁぁ――――ッ!!!」

 

 ハイルはどこぞやの別世界にいる皇帝の某叫び声を上げた。

 ベンチから飛ばされた先でぶつかったのは木。それもどっさりと雪の積もったいかにも体積がみっしりとしている代物。

 哀れ、劇的コンボによって今度は上から降り注ぐ雪の山。

 ハイルは生き埋めとなった。

 

「よくも、よくも俺のネフリーを傷物にしようとしてくれたな! その罪、万死に値するから覚悟しやがれ!」

「ぉぅ、ぉ…ぅぉぅ……」

 

 男は叫んでいるが、ハイルはそれどころではない。

 見も知らずの男にいきなり顔を蹴り飛ばされる謂れなどまったくないのだ。

 むしろ、何故にこんな事が起きたのかすら分からない。

 

 実際、この金髪男(馬鹿)による勘違いが全て悪いのだが…。

 

 ハイルは埋もれた小さな雪山からブウサギを抱えながら這い出て、突然の襲撃者に対して怒りを露わにした。

 

「い、いきなり何しやがるお前は!?」

「お前の話なんぞ聞く耳など持たん! とっとと俺のネフリーを放しやがれ!」

 

 そう言って男は再びハイルへと迫っていく。

 この男、ガタイに似合わず結構素早い。

 

「必殺のぉ、イカスヒップウゥゥゥッ!!」

「ちょ、おま――ッ!?」

 

 男の次なる攻撃は上空に空高く飛び上がり、何と『尻』を突き出しながら鋭く降下していくというとんでも技であった。

 ハイルは野郎の尻の下敷きにされるなどとんでもない! と当然の如く考えたので、ローリングで辛うじて避けた。

 元いた場所は雪が衝撃によって小麦粉のように舞い上がる。

 

「おい待て! 何だか勘違いしているようかもしれんが――」

「まだまだぁ、グゥレイトアッパアァァァッ!!」

 

 聞く耳などもたんと言わんばかりに男は攻撃を繰り広げる。

 初撃は『アレ』だったが、意外とやる。

 

「だからぁッ!」

「おあたあぁぁぁッ!!」

 

 皆さん、ご存じだろうか?

 フェレス島におけるハイルは子供達にとってどんな存在であったかを…。

 

 正解は――超危険! 特殊引火物! である。

 

「話を、聞けっつぅ言ってるだろうがあぁぁぁ――――ッ!!!」

 

 男が繰り出した拳を上下から両手で挟むようにして掴む。

 そのまま勢いを利用して飛びかかり、左脚を男の首を刈り取るように引っ掛けロック、右脚を使って下から強烈な膝蹴りを男の顎へとお見舞いした。

 

「ぐべぇッ!?」

 

 まだ終わらない。

 ハイルは予め掴んでいた男の腕を強く引き、まるで梃子を扱う原理で肩を支点として男の全身を腋固めなまま、雪の大地へと深く沈むくらいに倒し込んだ。

 

 奇しくも、ハイルの咄嗟に繰り出した打撃と関節技が複合されたカウンター技は前世において、有名な某格闘漫画の中で出てくる意外と因縁深い技であった。

 その様はさながら、獲物の喉笛へと喰らい付こうと飛びかかる猛獣の王。

 

 名を『虎王(こおう)』と呼んだ。

 

「いだだだッ! ちょ、タンマタンマ! 腕が、腕がもげる!」

「知るかこの<ピ――>がッ!」

 

 ハイルは怒りの限り、名も知らぬこの男を痛めつけるのであった。

 

 そんなこんなで色々とあった後、誤解が解けるのは数分後。

 

 ここで物語は冒頭へと戻る。

 

――――――――――

 

 この誤解の結末は自分でもなんか拍子抜けするくらい呆気ない物だった。

 けど、仮にも蹴り飛ばされた分としてこの男にはお仕置きをしている。

 どうやらこいつ、ブウサギ命って感じだな。

 

「この街にブウサギ料理の専門店ってあるか? 子供のブウサギは確か串焼きが一番美味って聞いてるんだが…?」

「やめて! ホントやめてくださいッ!!」

 

 ブウサギ――ネフリーを抱えたまま俺は街中を歩いていく。

 その後ろには何とか止めようと地面に身体を引きずらせながら俺の足元にしがみ付く男が…。

 

 ――やべぇ、めちゃくちゃ楽しい。

 

 こほん…今のは無しだ!

 そろそろ許してやるとするか。

 

「まったく…ほらよ、今度は見失ったりするなよ?」

 

 そう言って俺はネフリーを男に差し出した。

 すると目に見えぬ程の挙動で男はネフリーを受け取った。

 

「うおーネフリー! 俺は寂しかったぞおぉぉぉッ!!」

 

 そのまま感激と言わんばかりにネフリーへと頬ずりをかましていた。

 おい、ネフリー嫌がってんぞ。頬が変形するくらいって痛いだけだろう。

 

 って言うか、こいつさっきの事本気で反省してねえな。

 …まぁいいか、そこまで気にするほど器の小さい人間じゃねえし…。

 

「いやー本当に悪かった! お詫びと言っちゃあなんだが…お前まだ飯は食ってないか?」

「…確かにここに来るまで食事はしてないけど」

「じゃあよ、うまい飯食える所知ってるからそこでお詫びだお詫び!」

「いや、ちょっと何するんだ」

 

 いつの間にか手を握られてどこかへ連れていかれようとする。

 なんともマイペースな男だな。

 

「そういや名前聞いてなかったな。教えてくれねえか?」

「…………」

「あり? 俺なんかまずい事を聞いちまった系?」

「…いや、別に……」

「なら良かった! じゃあ俺から先に名乗るぞ。俺はフランツっていうんだ、よろしくな!」

 

 どんどん話を進める気かこいつは。

 

「んで歳は22のお兄さんって訳だ」

「…18だ」

「ほぉー俺より4歳年下か。なら十分だな!」

 

 何が十分なんだ、何が!

 俺としてはそろそろこいつから離れたいんだが…。

 面倒事に付き合わされそうな予感がしてならない。

 

「さっきの事ならとにかく俺はもう何も気にしちゃいない。お詫びなんていい、だからお互いさよならで締め括ったらどうだ」

「おいおいおい、そうつれない事言うなよ。人の親切は素直に受け取っておくもんだぞ?」

「…それ、お前が言うか?」

 

 呆れて物が言えない。本気で自分がした事忘れてんじゃないかって疑わしくなってくる。

 さっきから離れようとしてるが、歩くと共にフランツも着いてくるのが何度も続く。

 

 ――あぁもう、埒が明かん!

 

「いい加減にしろよ! 俺とあんたは赤の他人だ! それ以外の何でもない…もうほっといてくれよ……」

「…………」

 

 フランツに睨みを利かせた眼を向ける。

 その直後、男は今まで浮かべていた笑みを消した。

 

「…そうか、じゃあ仕方ないか。悪かったな、しつこくしちまって」

 

 さすがに続ける訳にはいかないと感じ取ったのだろう。

 藪をつついて蛇を出す真似まではしない。

 

「その、まぁ…なんだ。誘ってくれたのはありがとう。気持ちだけは受け取っておくよ」

 

 俺は気まずくなったのか、なるべく傷付かない言葉を一応選んで伝えてやった。

 その言葉が嬉しかったのか、フランツはまた笑みを取り戻す。

 

「そうか! じゃあ次会う時は必ずだぞ。そん時は今回のように逃がさねえかんな!」

「…考えとくさ」

 

 俺はその場から離れて行った。

 後から男が何か追記で述べているものの、あまり気にせずにした。

 今日はもう宿を取ろう。

 

 次をどうするかなんて別に後で良い…。

 

 

 

「ふぅ…久々のベッドだな」

 

 街の中心部にあった宿を見つけ、今日はそこで寝泊まりとした。

 少し安物のベッドで毛布が圧縮されてそこから空気の音が鳴る。

 

「…そうだよな、ウジウジ悩んでても仕方がないよな」

 

 過去は戻らない。なら未来の事を考えろ。

 だけど、そんなの簡単に切り替えられる訳が無いんだよな。

 俺はそんなに出来た人間なんかじゃない。

 

「ND2018までに何をするかを考えなきゃいけない、か…たとえ嫌でもやるしかないな」

 

 契約を結ぶ時、俺はあの時何を考えたんだろうか。

 もうおぼろげになりつつある記憶を今再び思い出そうとしていた。

 だが、肝心な所がどうしても思い出せない。

 

「…ひょっとすると…あの時、俺は『楽しもう』としたのかもな」

 

 思えば嘗めていたのかもしれない。

 ちっぽけに見ていた物が余りにも大きな物だとようやく気付かされた。

 本来の流れならば背負う事も無かった俺のみに託された責任の重さ――。

 

 がんじら固めに縛られ、潰れかけている。

 

「俺がやろうとしてる事って実質、世界に喧嘩を売るのと同等だよな。良く考えてみると」

 

 預言はオールドラントを支配尽くさんばかりに覆われている。

 数値にすれば如何ほどになるかも分からない。

 

「なら、今度は間違えない…」

 

 本当の意味で『強く』なろう。

 何者にも縛られる事のない力を手に入れる。

 これが俺に課せるべき目標だ。

 

 熟考を重ねている最中、暖炉の火だけが揺らめく部屋に音が聞こえてくる。

 

「ん? 何の音だ?」

 

 どうやら窓からその音がする。耳を澄ましてみると“カリカリッ!”と固い物を爪か何かで引っ掻くような音が聞こえてくる。

 ここは一階だ。となると、窓の外か?

 

 不思議に思って窓の外へ目を凝らしてみると――。

 

「あれ、ネフリー?」

 

 何と、さっきまで会っていた筈のフランツのブウサギ――ネフリーが窓を引っ掻いていた

のだ。

 それこそが引っ掻き音の正体。

 俺は靴を履いてベッドから降り、窓の鍵を開いた。

 覗き込むタイプの窓は段差があり、座高分の差が開けた下からネフリーが俺の事を見上げていた。

 

「お前、なんでここにいるんだ?」

「ブ――!! ブ――!!」

「どうした、慌てているのか?」

「ブ――!!」

「あ、おい! どこに行くんだ?」

 

 何度か鳴き声を上げた後、ネフリーは駆け出した。

 しばらく様子を見ていると、遠くでこちらへと振り返ってまた鳴き出した。

 

「…俺に着いて来いと言ってるのか?」

 

 大体としてネフリーが伝えようとしている事を読み取った所、これに該当した。

 こいつは何か重要な事を俺に伝えようとしている。

 とにかく、俺はネフリーへと着いていく事にした。

 

「本当にまーた面倒な事に巻き込まれそうだな…」

 

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