深淵の異端者   作:Jastice

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第23話 サッカーしようぜ! お前ボールな!

「おい、どこまで行くんだよ?」

 

 宿屋からずいぶん離れてしまったな。

 ネフリーは変わらず駆けてばかりで止まろうとする素振りが見当たらないし…。

 

「…ったく、あのフランツって野郎。次に会ったら唯じゃおかねぇぞ」

 

 正直、俺は休む筈だったのにまたどこかへと他人の都合で駆り立てられる羽目にされた事に苛立ちを募らせていた。

 普通なら見知らぬ人間が飼うペットの願望なんざ聞いてやる義理はない。

 だけど、ペットでありながら俺を頼ってここまで来たという飼い主に対する忠義に敬意を払い、仕方なしに渋々と後を着いていく。

 

「くっ、こんのッ! 放しやがれ!!」

 

 んっ? この声――フランツの声だ。

 声の聞こえた方へと路地裏を通って行く。

 するとフランツが何者かに拘束され、今にも剣を胸へと突き刺されようとしているではないか!?

 

 ――まずい、このままだとあいつはッ!?

 

 危機を瞬時に感じ取った俺はすぐさま打開策を考える。

 そこへ、突発的に自分の足元にいるネフリーが眼に入った。

 この現状から判断した行動は――。

 

 ――ネフリー、鳥になってこい!

 

「ネフリーシュートッ!!」

「プギイィィィ――――ッ!!!」

 

 ネフリーをサッカーボールのように蹴り上げ、敵にぶつける事であった。

 某少年探偵も驚きの発想である。

 だが、そんな奇行とは裏腹に効果はあった。

 回転しながら勢いよく飛んでいったネフリーは見事、剣を持った男へ顔面直撃し、フランツが殺されるのをなんとか阻止する事が出来た。

 

「ネフリイィィィ――――ッ!!?」

 

 悲惨なペットの扱いに絶叫を上げたフランツ。

 そのまま自身を拘束していた二人を弾き飛ばし、ネフリーの元へと閃光の如く走り寄った。

 

「おーあれが火事場の馬鹿力ならぬ…雪場の馬鹿力」

 

 んな事、関係ないんだがな。

 とにかく、結果オーライってことで良し!

 

「何してやがんだてめぇぇぇッ!!!」

 

 あれ、何かこれってデジャヴ?

 それにしてもフランツ、めちゃくちゃ怒ってるわ。当然だろうがな。

 しかも拳を振りかぶって今度こそ俺を殴ろうと勇敢に向かって来ている。

 

 ――だが、まだまだ甘いなフランツ。

 

「でりゃあぁぁぁッ!!」

 

 激情に身を任せた大振りな拳など、鈍いビームのように避けやすいもんだ。

 

「そおいッ!」

「あいだあぁぁぁッ!?」

 

 俺は殴ろうとしたフランツの腕を左腕でまず絡ませ、身動きを一瞬封じた後、右腕の肘でフランツの肩の急所――付け根に打ち込むというカウンター技を返した。

 最期には絡ませた左腕を引き、フランツをうつ伏せにさせて制圧完了。

 

「おいお前! 俺のネフリーを蹴るとは何て事しやがるんだ!」

「仕方ねぇだろうが、咄嗟の事だったからこうするしかなかったんだからよ」

「今度ばかりは殴る! 絶対殴る! ――ってあだだだだッ!?」

「喧しい! 一々ペットの事で喧嘩腰になるな。おかげで死ななかったんだから別に良いだろう」

「一々だと…俺のネフリーへの愛を『一々』だと!」

「お前の愛など知るか」

「こ…この、腕を放しやがれ!」

「…放したら暴れるだろうが」

 

 先ほどまでの緊迫感はどこへ行ったのやら。

 もはやこれはどこかで見る様な子供同士の喧嘩であった。

 フランツの命を狙いに来てたであろう五人組は自分達の使命を忘れて唯眺めていた。

 

「お前にはブウサギの可愛らしさが分からないのか!?」

「安い! 旨い! デカい! 食用でしか素晴らしさは見出せるか、こんな奴らなんぞ」

「食用だと!? お前…あの可愛いブウサギを食用だとおぉぉぉッ!!」

「えぇぃ、もううざったいわ、このブウサギ馬鹿! しばらく眠ってろ!」

「が……ッ!?」

 

 俺はフランツの鳩尾にキツめの一発を喰らわせて意識を強制的に刈り取った。

 さすがに内臓は効いたのか、すぐさま静かになった。

 

「さてと…」

 

 一仕事終えたかのように溜息を吐き出しながらフランツを地面に寝かせる。

 

「――んで、お宅らはこれからどうするつもりだ?」

 

 次には後を向いて、フランツに変わって暗殺者達と対峙する。

 俺の声で我を取り戻したのか、敵意をこちらへと向けてくる。

 

「何者かは知らないが、我々に用があるのはそこの男でね。貴様はその場から速やかにどいてもらおうか」

「だが、敢えて死にたいというのならば話は別だが?」

 

 暗殺者達は己の獲物をそれぞれ構え出す。

 殺気を纏うのもそう遅くは無かった。

 

「死にたいのならば、か…確かにさっき知り合ったばかりのこんな男に命を掛けるのは俺にとっちゃ秤に乗せてもつり合わない行動だな」

「…何?」

「だけどな、後味が悪くなんだよ。数分の付き合いとはいえ、顔見知りが死にそうって場面をそのまま見過ごすってのはな」

 

 指を鳴らして準備を整えていく。

 

「それに、どうやら俺は頼まれたようだからな」

 

 そう言って向こう側に目を回して倒れるネフリーに視線を移した。

 

「では、貴様も排除せねばならないようだな」

「出来ると思ってるのか?」

「…何?」

「悪いが、俺はこういう場合は力をセーブする真似は無しにしている」

 

 足の踏み込みを強め、姿勢を中段半身に構える。

 普通とは違って腕を構えようとはしていない。

 一見不利になりそうな姿勢だが、そうでもない。

 これは守の構えとしての完成図、後出しの構え。

 

「全力で来いよ、そうするほど俺は強くなる」

 

 おそらく、その言葉の意味が解るのは俺から反撃を受けた場合に限る。

 

「ならばそのまま死んでゆけ!」

 

 暗殺者達が是非も無しと言わんばかりに懐から取り出したのは数本の投擲ナイフ。

 まさに暗殺者を顕現しているかの歪な刃を携えた代物。

 刃物傷というのはぐちゃぐちゃになればなるほど縫合が出来なくなり、厄介となる。

 そう考えると、この者達が選ぶ武器は『殺す』という点において実に合理性が適っていた。

 

 そんな物が五人全員で計数十本。

 如何なる達人であろうと、こんな障害物がまったく見受けられない場所では無傷とはいくまい。

 だがそれは武術のみを扱う者に限った話。

 

 俺はフォンスロットを瞬間的に全開させて音素を自身における限界値まで取り込む。

 足元に譜陣が浮かび上がり、俺にとって基本であり、最も使い慣れた譜術――エナジーブラストが手元から放たれた。

 

【譜術完全無詠唱】

 

 本来、譜術は音素を材料とし、詠唱という名の設計図を用いて完成させる物。

 だが熟練者には特殊な譜術の扱い――無詠唱を可能とさせる。

 これは己の身体そのものを設計図として、譜術を放つという謂わば『自動砲台』。

 この工程における違いはさながら『鍛造』と『鋳造』。

 もちろん、無詠唱な分だけ本来の譜術と比べて威力はガクッと下がるものの、その反面、連射性に優れている。

 

 俺には基本であるエナジーブラストでそれが何とか出来るくらいだ。

 他の属性譜術では初級でさえ、更にそれぞれの音素における理解を入れて練らなければ成功しない。

 左手と右手で筆を使って別々の文字を書く所では済まない。

 むしろそこに口に筆を咥えて書くという動作を加えるくらい難度は飛躍的に上がるからだ。

 

 エナジーブラストによって弾かれた無数のナイフ。

 雪の絨毯へと無造作に突き刺さっていく。

 

「気を付けろ、この男譜術を使うぞ!」

 

 俺への対抗策を瞬時に判断する所は流石プロと言えるだろう。

 だがもう遅い、勝負は一瞬のスキが勝敗を決める。

 無造作に突き刺さったナイフ。

 偶然かは知らず、それらは『円』を描くようにして陣を形成していた。

 俺はこれを機転として大地の力――第二音素によって自然発生した譜陣へと入り込み、これを補助具として譜術を詠唱。

 

「舞い踊る氷の刃、降り注げ――」

 

 本来、この詠唱の型はスプラッシュ。

 俺は譜陣による力を取り込んで性質を変化させた。

 技が一段階進化する。

 

「――≪アイシクルレイン≫!!」

 

 絶え間ない氷の刃が頭上に発生した中型の譜陣から降り注ぐ。

 暗殺者達が纏う黒い外套が鮮血と共に切り刻まれていった。

 

 これこそ、オールドラントにおける極意――『FOF』(フィールド・オブ・フォニムス)。

 

 ヴァンとの長年に渡る鍛錬は着実に実を結んでいた。

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