深淵の異端者   作:Jastice

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第24話 「こなああああああゆきいいいいいい」は現代における冬の風物詩です

 水中にいるかと錯覚する程に濃い殺気と闘気が充満している。

 堅気とは思えず物騒な輩だと誰もが見ても分かる者達、構えをしたままそんな彼らをじぃっと睨み続ける俺。

 傍らで気絶している一人と一匹は考えない方向でよろしくな!

 

 白雪を点々と朱に染めている暗殺者達。

 初めに動きを見せたのはやはり向こう側であった。

 五人での陣形を形作り、俺を囲んでいく。

 それぞれの武器を取り出し、接近戦に挑む意図がありありと見受けられた。

 その通り、譜術使いにとって懐に入られる事は痛手だ。

 先ずは一人、背後に位置していた男が攻撃を仕掛けてきた。

 殺傷能力だけを追求した曲刀を俺の背骨あたりを目掛けて抉り貫く。

 

 男にはスピードに自信があるようだ。

 これまで何度か依頼を手にし、成功させてきたというプライド。

 俺はこれを木端微塵に粉砕するのを前提に『壊す』という行為に拘った。

 

「――――ッ!?」

 

 男の足音に合わせて瞬時に右回転で振り向くや、曲刀を手にしている右手を自身の左手で掴み上げ、力強く捩じり込む。

 

「あがぁッ!」

「背後を取ってしめたと思ったか?」

 

 回転しながらその右腕を俺の背後へと頭の方から潜り抜け、男の後を取って腕を完全にキメる。

 それで終わりとはいかず、次にはそのまま相手の背後から右手で男の肘を掴み、そのまま車輪を押すように思いっきり押し付けた。

 人間には反射という反応が知らず備わっている。

 苦痛から逃れるために腕を元に戻そうとする男の反応、俺の押す力が相乗を起こし、男は大きく前回転をしてから背中を強く打ち付けた。

 

 見事な四方投げである。

 

「――痛いぞ?」

 

 一応言っておく。これはスポーツではないのだ。

 純粋な殺し合い。負けたら終わり、二度はない。

 俺は容赦無く肩関節を思いっきり外してやった。

 

「――――ッ!!」

 

 医療行為として柔らかにやる類とは対照的。

 骨と言う身体の支柱、筋肉の屈伸制御における役割を一気に喪失させる。

 痛覚を直接捩じられるに等しい痛みが男に襲いかかり、悲鳴を上げさせた。

 

「さぁ次だ」

 

 一仕事を終えた俺は軽い挑発を続ける。

 暗殺者達は先ほど俺が何をしたのか分からないという表情のままだ。

 

「ぅ、くッ…調子に、乗るなぁッ!」

 

 今度は一気に二人同時で仕掛けてきた。

 双剣使いと短槍使い。二人は武器という有利を確信してか、こちらに向かって来る。

 まずは双剣使いが前に出た。多数の攻撃パターンを持つ双剣の軌道を読むのは無謀だ。

 

 だけど裏の裏を読み合うのが何もお前達の専売特許という訳じゃない。

 俺は防ぐという行為さえしない。

 

 代わりに爪先で土と砂利ごと雪を蹴り上げ、双剣使いの顔に遠慮なくぶつけた。

 予測できない動作に双剣使いは驚きを隠せぬまま、眼に入った砂利等を空いた片手で擦り落とそうとしてしまう。

 そう、俺の狙いを察せずに…。

 

「敵前で眼を反らすなんて感心しないぞ。そういう場合、下がるのが鉄則ってもんだ」

 

 耳に残る厭な音。

 初め双剣使いは何をされたのか良く分からなかっただろう。

 彼の双剣は俺に掠りもせず、気が付けば自身の肩と胸の間へと吸い込まれるように刺さっていた。

 しかも両方にだ。

 刺された部分から血が滲み出し、ようやく痛みに反応が追い付いたようだ。

 

「ひ…ぁ…う…腕がぁ……」

「そこは上腕の神経が通っているもんだから丁度良く切断させてもらった」

 

 双剣使いは指先一つ動かす事が出来ない身体と化した。

 さっきのトリックは相手の力を跳ね返す『三珍』の姿勢を使った応用だ。

 視界を奪ったその隙に懐まで足を前に出し、そのまま内側から両腕を捩じり、敵自身に剣を向けるよう仕組んだだけ。

 

 三珍とは力のベクトルを最大限に垂直にして安定させる空手特有の防御技術。

 それを使った俺は使用時、体重65kgと同質の鉄塊と化し、相手から衝突させる事で攻撃を加えた。

 双剣使いは言わば棘付きの鉄壁へと突っ込むに等しい事を仕出かしてしまったのだ

 

「借りるぜ?」

「がッ…!」

 

 敵は残り三人、まだ俺の手は止まらない。

 先ほど戦闘不能と化した男の外套をフード部分から剥ぐようにして奪い取る。

 その途中、若干差をつけて迫ってきた短槍使いへと蹴り飛ばして、だ。

 短槍使いはいきなり飛ばされてきた事に若干驚きつつも、横移動で回避して再び視線を俺に戻した。

 

「何を…」

「言うと思うのか?」

 

 俺が今何をしているのかと言うと、左腕に先ほど奪った外套を巻き付けていた。

 まるでけが人がギブスを付けるかのような感覚で幾重にもしっかりと…。

 

「ほら、お前も来いよ。それとも臆病風に吹かれたか?」

「…………」

 

 何を考えているか分からないが、短槍使いには攻撃の手を緩める理由はないだろう。

 彼らにとって、おそらくフランツの暗殺として下された依頼を達成出来ない事こそ何よりも避けなくてはならない。

 しかし、こっちもちょいと厳しい。息が乱れてきた。

 フェレスでは良く走り回って自然と鍛えられてきたが、疲労は着実に蓄積しつつある。

 それにこの寒さ、元々防寒着を着ていない俺には身体が段々と異変をきたしている。

 

「はぁッ!」

「むッ!」

 

 短槍が腕を掠める。

 いかんいかん、気を逸らせば一瞬に抉り取られる。

 俺は大幅に避けて距離を取った。

 だが、短槍使いは逃がすまいと積極的に攻めてくる。

 

「うおぉぉぉぉ――――ッ!!」

 

 まずいな…。

 俺の柔術は相手に触れてこそ使える技だ。

 こいつはどうやら俺を近づかせぬまま仕留めようと猛攻が続く。

 

「死ねッ!」

「…………ッ!?」

 

 石突で足を絡めとられかけたが、どうにか回避。

 だがそれが相手の狙いという訳だ。

 俺は知らず短槍の制空圏に捕えられていた。

 鋭い突きが俺の顔面目掛けて迫って来る。

 

 そのまま短槍は俺の脳髄ごと貫く――。

 

「ふんッ!」

 

 

 ――かに思われた。

 

「なッ!?」

「知ってるか、刃物ってのは切っ先で当てるからこそ斬れるんだ」

 

 だが、外套を巻いた左腕で短槍を弾き飛ばした。

 分厚く巻かれた外套が斬り千切られるが、俺の左腕からは血を流していない。

 

「槍ってのは扱いが意外と難しい。長い距離間(リーチ)による優位が恐怖心を和らげる仕様な分だけ、より考えが必要とされるから――」

 

 そのまま短槍使いの襟を掴み上げる。

 

「――覚えておきな!」

「うおおぁぁぁッ!!」

 

 両腕を上手く使って短槍使いに体重を乗せて自分の後ろへと引っ張り、そこから巴投げを掛けた。

 ルール無用の代物、実戦向きな巴投げは受け身無し。

 短槍使いは明後日の方向へと飛ばされて地面を転がる羽目になった。

 受け身を取れず、苦痛に悶絶している

 

 俺はここで失敗を犯す。

 フランツを背に立ち振る舞っていた戦闘。

 気づかぬ内に距離が離れつつあった事にふと気が付いた。

 今まで様子見に徹していた残りの人員から音素反応を感知する。

 

「焔の王よ、地の底より舞い戻れ」

「――譜術使い!?」

 

 切り札は何も自分だけの物じゃない。

 暗にそういう風な対応だ。

 譜陣の方向は気絶したフランツ。

 

 ――まずいッ!

 

「荒れ狂いし濁流よ」

 

 

「≪フレイムバースト≫!!」

「≪スプラッシュ≫!!」

 

 

 第四音素と第五音素。

 二つの相反する属性の中級譜術が俺達の間で衝突し合う。

 だが詠唱の出だしが結果を決めた。

 

 スプラッシュが発生した隙間を縫ってフレイムバーストが迫り来る。

 咄嗟に俺はフランツを上から覆い被さるようにして隠した。

 相殺しきれなかった分の火炎が容赦なく俺を焼いた。

 

「ぐ…ぎぃぃッ!」

 

 背中に伝わる高熱。熱いというよりむしろ痛い。

 身体から一気に水分が蒸発していく感覚が激しく伝わって来る。

 雪による冷却を求めて倒れ込み、少しでも火傷の症状を和らげようとした。

 

「かはッ! ぜぇ、ぜぇ、いっづぅッ!」

 

 衣服を焦がした際に出た煙と焦げたタンパク質の臭い。

 意識が一瞬持っていかれそうになるのを何とか歯を食いしばって耐え抜き、霞む視界で敵を見据える。

 

 ――なりふり構っていられない。

 

 一か八か勝負を決めるしかあるまい。

 まだ不安要素が沢山あるものの、成功すればメリットが大きい方法を取る。

 俺は激痛を呼吸で多少鎮めながらも、フォンスロットをフル稼働して集中を始めた。

 

「清浄なる光よ…」

 

 詠唱中、暗殺者残り二人が投擲ナイフを放ち、同時に駆け出していた。

 俺は投擲ナイフを外套を巻いた左腕で防ぐも、穿つを目的としたナイフは難なく防御を看破して刃先を皮膚へと食い込ませた。

 流れる血にも目をくれず、ひたすら譜術に集中する。

 

「邪悪を滅ぼす槍と化せ――」

 

 左右から鋭い鉤爪と短剣が迫りかかる。

 

 俺の…勝ちだ――ッ!

 

 

「――≪ホーリーランス≫!!」

 

 六つの光槍。

 第六音素の上級譜術――ホーリーランス。

 対象となる敵を聖なる槍で貫くという破壊力を込めた必殺の六撃。

 

 暗殺者にとっては裁きの槍として降り注いだ。

 

 

 

 

 

「おーい、起きろ」

 

 全てを終えた後、俺はフランツを起こそうとしていた。

 頭を軽くひっぱたいたりして意識を覚醒させようとしているんだが…。

 

「…………」

 

 これが中々目を覚まさない。

 あちゃあ…鳩尾強く叩き過ぎたかな?

 

「しょうがない、こう言う場合はあれをやるか」

 

 最終手段を選ぶ。俺はフランツを先ず上半身だげ起き上がらせた。

 それから後に立ち、左手で首元を抑えて、

 

「いっせーの…」

 

 右手を構え、力を込めて、

 

「せいッ!!」

 

 背骨の痛覚が集中する箇所へと一角打ちを叩き込んだ。

 こいつは杭を背中に打ち込むに等しい衝撃だ。

 よって――。

 

「いぎゃあぁぁぁ――――ッ!!!」

 

 ――めちゃくちゃ痛いのである。

 

「痛ッ! な、なんだ! 何が起きたんだ!?」

「やーっと起きたか…」

「んっ? あぁ、お前はッ!?」

 

 フランツはしばらく混乱していたが、俺を見るやようやく現状を認識したようだ。

 

「おい、あいつらはどうしたんだ!?」

「安心しときな、全員死んじゃいない。まぁ半殺しにはしたが…」

「半殺しって逆に恐ろしいなおい!?」

 

 その言葉で辺りをフランツは見回していた。

 

 

 無造作に横に倒れ込み、唸り声を上げてる者――。

 

 肩を抑え、苦痛に顔を歪ませながら座り込んでる者――。

 

 丸くなるようにしてグッダリとしている者――。

 

 黒焦げになって硬直している者――。

 

 

 たしかに良く見てみると、呼吸をしてるのでどうやら生きている。

 

「…念のため治癒譜術を軽く掛けてやってある」

「そ、そうか…」

 

 ――自分が気絶している間にここでいったい何が起きたのだろうか。

 

 そんな事をフランツが考えている中、俺は事のあらましを話していく。

 

「お前のブウサギ――ネフリーだっけ? あいつだよ…俺をここまで連れて来させたのは」

「ネフリーがか!?」

「まったくやっぱり面倒事に巻き込んでくれたもんだ、あのブウサギは…」

「ネフリーが俺を…」

 

 俺は立とうとしたが、上手く足に力が入らずふらついた。

 

「お、おい!?」

「わりぃ…俺もう限界だわ…正直言うと、もう歩く事もままなないんだ」

「限界って、お前…」

「肩借りてもいいか?」

 

 立てればなんとかなる。

 

「これで何とか、歩ける…」

「ほ、本当に大丈夫なのかお前!」

「…ハイルだ」

「あ?」

「一々お前なんて呼ぶな。俺の名前はハイルだ…覚えとけ」

「…じゃあハイル、礼を言うぜ、ありがとな…」

「あぁ、でも一番の功績はあそこのネフリーって奴に言っておけ」

「そうだな、ネフリー! こっちこ――」

 

 絶賛気絶中(笑)。

 

「あああああ!!」

「あーそういや忘れてたな」

「てめえ、さっきの言葉無しだ! むしろ返しやがれこんちくしょおッ!」

「叫ぶなよ…それに、ね…む…い……」

 

 またしても膝がぐらついて地面に付いてしまう。

 

「うおぉぉッ!? お前――いやハイル、しっかりしろ!」

「あははは…上級、譜術、使ったのが…まずった、かな……?」

「まずった、じゃねぇだろ! ――ええぃしょうがねえ!」

 

 フランツが俺を背負う。

 俺はおんぶの状態でフランツの上に乗っていた。

 

「フラ…ンツ……?」

「よぉし、しっかり捕まってろ!」

 

 重度な火傷、裂傷、打撲――etc。

 蓄積したダメージは容易に俺の意識を徐々に刈り取っていった。

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